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6・想い想われ
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「ああ。昨日、東都から連絡が来て、今年のコンペの審査員、打診されたんだよ。そしたら電話をくれた事務の人、卒業生で俺たちの1年後輩でさ。ぜひ久保さんもご一緒にって」
「24日か……」
クリスマス・イブ。
まだ、予定は立てていなかったけど、開けとくべきだろうな。
「うーん、イブだし、ちょっと保留にしといて」
都築はニヤッとして言った。
「何、カッコつけてんだよ。どうせ予定なんかないだろ?」
「なんで決めつけんのよ。そんなことないし」
都築はわたしと千隼さんが付き合っていることをまだ知らない。
彼だけでなく、会社ではまだ知っている人はいない。
言わないでおこうと、わたしが頼んだ。
千隼さんファンに何を言われるかわからないからと。
そのとき、千隼さんは一瞬、寂しそうな目を見せたけれど「わかったよ」と、それ以上、何も言わなかった。
「とにかく考えといて。一緒に行こうや。俺も久しぶりにお前とゆっくり話もしたいしさ。じゃ」と言い残して去っていった。
どうしよう。
行けないことはないけど……
コンペ、そして24日……
嫌でも気持ちはまた、7年前のあの夜に引き戻されるに決まってるではないか。
これ以上思い出に振り回されたくない、というのが正直な今の気持ちだった。
断ろう。そのほうがいい。
返事をしないまま、3日経った。
その日は忘年会だった。
うちの社屋の1階はワンフロアになっていて、小学校の体育館の半分ほどの広さがある。
普段はショールームとして使っているけれど、年に3、4回は、パーティー会場と化す。
部屋の真ん中には高さ2メートルほどのクリスマス・ツリーが飾られ、忘年会というよりは早目のクリスマス・パーティーといった雰囲気だ。
食事とセッティングはケータリング・サービスを頼み、本社のメンバーが30名ほど参加し、各販売店の店長も招かれ、総勢5~60名のにぎやかな会となった。
そして、今年の特別な趣向は〝仮装〟。
ハロウィーンの時期が新ブランド立ち上げの超多忙な時期とかぶっていたので、その代わりにと会社の若手が企画した。
アパレルだけあって、仮装はみんなお手の物。
仕事が立て込んでいるなどの理由で、衣装を自前調達できない人は、デザイナーとパタンナー有志が用意してくれることになった。
わたしも頼んだのだが、渡されたのは、執事風の黒の三揃い。
なるべく動きやすいものがいいと頼んだら、なぜかこうなった。
服だけでなく、片目が隠れるほど長い前髪の、紫のカツラを被され、メイクもされて、トイレの鏡に映った姿はまさにコスプレーヤー。
「うわー、朱利先輩、最高。惚れちゃいます」
「いや、遠慮しとく」
そう言う麻央は、ディズニー映画のマレフィセント風。
これは自前だそうだ。
こんな衣装、他にどこに着ていくんだか。
「キャーっ、佐藤室長、素敵すぎます!」
入り口のほうで歓声が上がる。
うわ。千隼さん、ドラキュラだ。
マント姿があまりにも様になっていて、思わずのけぞった。
彼はわたしたちの姿を認め、こちらにやってきた。
「気恥ずかしいもんだな。仮装というのも」
「いえ、すごく似合ってます」
「そうかな。そういう久保もなかなか」
ふたりで話していると、麻央が横やりを入れてきた。
「そうやっておふたりが並んでると、倒錯味が強すぎてツラいっす。先輩、執事というよりドラキュラ伯爵が可愛がっている、ご寵愛の従僕みたいで」
「可愛がるって、こんな感じで?」
「24日か……」
クリスマス・イブ。
まだ、予定は立てていなかったけど、開けとくべきだろうな。
「うーん、イブだし、ちょっと保留にしといて」
都築はニヤッとして言った。
「何、カッコつけてんだよ。どうせ予定なんかないだろ?」
「なんで決めつけんのよ。そんなことないし」
都築はわたしと千隼さんが付き合っていることをまだ知らない。
彼だけでなく、会社ではまだ知っている人はいない。
言わないでおこうと、わたしが頼んだ。
千隼さんファンに何を言われるかわからないからと。
そのとき、千隼さんは一瞬、寂しそうな目を見せたけれど「わかったよ」と、それ以上、何も言わなかった。
「とにかく考えといて。一緒に行こうや。俺も久しぶりにお前とゆっくり話もしたいしさ。じゃ」と言い残して去っていった。
どうしよう。
行けないことはないけど……
コンペ、そして24日……
嫌でも気持ちはまた、7年前のあの夜に引き戻されるに決まってるではないか。
これ以上思い出に振り回されたくない、というのが正直な今の気持ちだった。
断ろう。そのほうがいい。
返事をしないまま、3日経った。
その日は忘年会だった。
うちの社屋の1階はワンフロアになっていて、小学校の体育館の半分ほどの広さがある。
普段はショールームとして使っているけれど、年に3、4回は、パーティー会場と化す。
部屋の真ん中には高さ2メートルほどのクリスマス・ツリーが飾られ、忘年会というよりは早目のクリスマス・パーティーといった雰囲気だ。
食事とセッティングはケータリング・サービスを頼み、本社のメンバーが30名ほど参加し、各販売店の店長も招かれ、総勢5~60名のにぎやかな会となった。
そして、今年の特別な趣向は〝仮装〟。
ハロウィーンの時期が新ブランド立ち上げの超多忙な時期とかぶっていたので、その代わりにと会社の若手が企画した。
アパレルだけあって、仮装はみんなお手の物。
仕事が立て込んでいるなどの理由で、衣装を自前調達できない人は、デザイナーとパタンナー有志が用意してくれることになった。
わたしも頼んだのだが、渡されたのは、執事風の黒の三揃い。
なるべく動きやすいものがいいと頼んだら、なぜかこうなった。
服だけでなく、片目が隠れるほど長い前髪の、紫のカツラを被され、メイクもされて、トイレの鏡に映った姿はまさにコスプレーヤー。
「うわー、朱利先輩、最高。惚れちゃいます」
「いや、遠慮しとく」
そう言う麻央は、ディズニー映画のマレフィセント風。
これは自前だそうだ。
こんな衣装、他にどこに着ていくんだか。
「キャーっ、佐藤室長、素敵すぎます!」
入り口のほうで歓声が上がる。
うわ。千隼さん、ドラキュラだ。
マント姿があまりにも様になっていて、思わずのけぞった。
彼はわたしたちの姿を認め、こちらにやってきた。
「気恥ずかしいもんだな。仮装というのも」
「いえ、すごく似合ってます」
「そうかな。そういう久保もなかなか」
ふたりで話していると、麻央が横やりを入れてきた。
「そうやっておふたりが並んでると、倒錯味が強すぎてツラいっす。先輩、執事というよりドラキュラ伯爵が可愛がっている、ご寵愛の従僕みたいで」
「可愛がるって、こんな感じで?」
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