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7・決心
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コンペの審査員は、学校側のたっての希望もあり、結局、引き受けることになった。
断るつもりで電話を入れたのだけれど、今年のテーマが「リアル・クローズ」ということで、デザイナーだけでなく、プランナーとしての視点も審査に加味したいと懇願され、結局押し切られた。
終了はだいたい18時ごろということなので、そのあとで千隼さんと会う約束をした。
もちろん、コンペの後、都築と過ごそうなんて、つゆほども考えていなかったけれど、それでも何か、自分の心の歯止めになるものが必要だった。
24日当日、窓を叩く雨音で起こされた。
雨は1時間ほどで止み、出かけるころには晴れ間も見え始めた。
学校を訪れるのは実に5年ぶりだ。
最寄り駅で都築と待ち合わせて、一緒に向かった。
校舎に一歩に足を踏み入れると、懐かしさがこみあげてくる。
まだ将来が見通せなくて、暗中模索していた日々。
そして……
毎日が、都築一色で埋め尽くされていたあのころ。
「懐かしいな」
「うん」
「学校ってところは時が止まってるみたいだな」
都築もいつになく神妙な様子で、感慨に耽っている。
事務室に向かう途中、在学生が近づいてきて「都築さんですよね、『Change the living』のデザイナーさんの」と声をかけてきた。
「ああ」
「あの、握手してください! ファンです!」
「どうも」
都築は照れ臭そうに応じた。
握手を終えると、その女の子は顔を真っ赤に紅潮させて足早に校舎に向かっていった。
「相変わらずモテるね。都築」
「なに、妬いてんの?」
「んな訳ないでしょ」
都築はチラッとわたしを見ると、聞こえるか聞こえないかという声音で「素直じゃねえな。相変わらず」と呟いた。
「なんか言った?」
聞き返そうと見上げると、都築は「別に」と言って、事務室のドアに手をかけた。
中に入ると、電話をくれた担当の斎藤さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、ご足労いただきまして。憧れの先輩方においでいただけてもう感無量です。おふたりの作品、いまだに語り草なんですよ」
校長室前のケースにわたしたちの作品が展示されていると聞き、行ってみる。
審査員全員一致でグランプリを獲得したのは、開校以来2組だけだったそうだ。
そのうちの1組が、このわたしたちの作品だった。
「今見ると、あんまりぱっとしねえな。もうちょっとマシだと思ってたけど」
金糸をふんだんに用いたウェディング・ドレス。
1年目は月だったから2年目は太陽をテーマにしたんだ。そういえば。
わたしはとてつもなく長い8メートルのヴェール担当で、これに刺繍するのが、もう筆舌に尽くしがたいほど大変で……
都築と作業に明け暮れた日々の記憶が胸いっぱいに満ちてくる。
コンペは盛況のうちに幕を下ろした。
若さを全面に出したエネルギッシュな20組の作品は予想していたよりずっと見ごたえがあった。
普段扱っている既成品とは違い、学生らしい未完成さがとても愛しかった。
別室での審査を終え、審査員一同そろって登壇した。
講堂を埋めつくした学生たちの熱い眼差しに気圧される。
断るつもりで電話を入れたのだけれど、今年のテーマが「リアル・クローズ」ということで、デザイナーだけでなく、プランナーとしての視点も審査に加味したいと懇願され、結局押し切られた。
終了はだいたい18時ごろということなので、そのあとで千隼さんと会う約束をした。
もちろん、コンペの後、都築と過ごそうなんて、つゆほども考えていなかったけれど、それでも何か、自分の心の歯止めになるものが必要だった。
24日当日、窓を叩く雨音で起こされた。
雨は1時間ほどで止み、出かけるころには晴れ間も見え始めた。
学校を訪れるのは実に5年ぶりだ。
最寄り駅で都築と待ち合わせて、一緒に向かった。
校舎に一歩に足を踏み入れると、懐かしさがこみあげてくる。
まだ将来が見通せなくて、暗中模索していた日々。
そして……
毎日が、都築一色で埋め尽くされていたあのころ。
「懐かしいな」
「うん」
「学校ってところは時が止まってるみたいだな」
都築もいつになく神妙な様子で、感慨に耽っている。
事務室に向かう途中、在学生が近づいてきて「都築さんですよね、『Change the living』のデザイナーさんの」と声をかけてきた。
「ああ」
「あの、握手してください! ファンです!」
「どうも」
都築は照れ臭そうに応じた。
握手を終えると、その女の子は顔を真っ赤に紅潮させて足早に校舎に向かっていった。
「相変わらずモテるね。都築」
「なに、妬いてんの?」
「んな訳ないでしょ」
都築はチラッとわたしを見ると、聞こえるか聞こえないかという声音で「素直じゃねえな。相変わらず」と呟いた。
「なんか言った?」
聞き返そうと見上げると、都築は「別に」と言って、事務室のドアに手をかけた。
中に入ると、電話をくれた担当の斎藤さんが出迎えてくれた。
「こんにちは。今日はよろしくお願いします」
「こちらこそ、ご足労いただきまして。憧れの先輩方においでいただけてもう感無量です。おふたりの作品、いまだに語り草なんですよ」
校長室前のケースにわたしたちの作品が展示されていると聞き、行ってみる。
審査員全員一致でグランプリを獲得したのは、開校以来2組だけだったそうだ。
そのうちの1組が、このわたしたちの作品だった。
「今見ると、あんまりぱっとしねえな。もうちょっとマシだと思ってたけど」
金糸をふんだんに用いたウェディング・ドレス。
1年目は月だったから2年目は太陽をテーマにしたんだ。そういえば。
わたしはとてつもなく長い8メートルのヴェール担当で、これに刺繍するのが、もう筆舌に尽くしがたいほど大変で……
都築と作業に明け暮れた日々の記憶が胸いっぱいに満ちてくる。
コンペは盛況のうちに幕を下ろした。
若さを全面に出したエネルギッシュな20組の作品は予想していたよりずっと見ごたえがあった。
普段扱っている既成品とは違い、学生らしい未完成さがとても愛しかった。
別室での審査を終え、審査員一同そろって登壇した。
講堂を埋めつくした学生たちの熱い眼差しに気圧される。
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