初恋の呪縛

泉南佳那

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6・想い想われ

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 確認に手間取り、結局解決に30分ぐらいかかった。

 そのあいだにみんな着替えをすませ、2次会に向かう準備を整えていた。

 一足遅れて衣装を脱ぎ、洗面所でメイクを落としてオフィスに戻ると、残っているのは千隼さんだけだった。

「あれ、みんなは?」
「先に二次会に行かせた。用事を済ませ方々、久保と一緒に合流するって言っておいたよ」

「だいぶお待たせしました?」
「いや、そうでもない」 
「じゃあ、行きましょうか。みんな待ってるでしょうし」

 わたしは先に立ってドアのほうに向かい、電灯のスイッチを切った。

 彼が後ろに立つ気配を感じたとたん、背中から肩を掴まれた。
「朱利」
 振りむくと、そのまま壁に押し付けられ、強引に唇を奪われた。

 手にしていたバッグが床に落ち、大きな音を立てる。
 
 千隼さんの、熱を帯びた舌に口腔を蹂躙される。
 むずがゆいような、居ても立ってもいられないような感覚に襲われ、わたしは彼の背に手を回してすがりついた。
 
 これまでで一番長いキスから解放されると彼は自嘲気味に呟いた。

「自分はもっと理性的な人間だと思ってたんだけど、違ってたようだ」

 千隼さんはわたしの耳たぶを軽く食み、それから首筋に唇を押しあててくる。

 湿ったその感触にぞくりと背筋が震えた。
「嫉妬したんだよ。都築に」
「千隼……さん」

「朱利が僕には見せたことがない表情をするからさ……ははっ、ザマないな。忘れなくていいなんて、カッコつけてたのに」

 千隼さんは、ごめん、飲みすぎたようだ、と呟き、わたしから身体を離した。

「ごめんなさい」

「君が謝ることじゃない」
 かすかにざらついた声で、千隼さんは言った。

 ここで言わなければいけないんだ、本当は。
 
 都築なんて、もう関係ないと。
 わたしはあなたのことしか眼中にないと。
 
 でも、言えなかった。
 その場を取り繕っても仕方ないと、心のどこかで思っていた。

 結局、またあのときの二の舞になるんだろうか。
 千隼さんもやはり、わたしから離れていってしまうんだろうか。
 
 二次会会場の『El Topo』に向かう道々、千隼さんはすでに気を取り直していつもの調子に戻っていた。
 
 並んで歩きながら、彼は曇りひとつない晴れやかな声で話しかけてくれた。

「年末年始は何か予定ある?」
「家族と過ごすぐらいで、特には」
「良ければ、旅行しないか」
「旅行?」
「うん。おいしいものを食べて、ゆったり温泉に浸かって」
 そう言いながら、微笑んでわたしを見つめる。

 千隼さんは優しい。
 早く気持ちの整理をつけろと、なじられても文句なんて言えないのに。

 なんの不足があるというのだろう、彼に。
 あるはずがない。

 なのに、わたしはどうしても最後の最後で、彼の気持ちに応じきれずにいる。

 彼の、優しくて、少し哀しげな瞳の色に気づくたびに、申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 自分がそうさせているのだと、痛いほどわかっているのに、そのときのわたしは何もできなかった。
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