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7・決心
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わたしは頭ひとつ大きい都築を見上げる。
最初に声をかけられた日と同じように。
つい、昨日のことのようだ。
わたしの作品を気に入ってくれた都築。
わたしにモードの本当の面白さを教えてくれた都築。
モノクロだったわたしの日々をあざやかな極彩色で染めてくれた都築。
わたしの全てだった都築。
出会えて、良かった。
今は心からそう思う。
「じゃあな、今日はありがとな。朱利」
「うん」
これがいい。
これが落ち着く。
ああ、でも、ひとつだけ後悔があるとすれば、それは……
「あのさ。やっぱキスしとけば良かった。あのとき」
「うん?」
「だって、そしたら、わたしのファーストキスの相手、都築だったのに」
都築が小さく息を飲んだ。
「お前さ……言うなよ。そんな、いじらしいこと」
「都築?」
表情が違う。
さっきまでとは、ぜんぜん。
「俺、さっきからずっと、ぎりぎりのとこで踏ん張ってたんだけど」
都築はわたしの腕を強く引き、エレベーターの前に連れて行った。
扉が開くとすぐ、操作パネルの角に押し込まれる。
わたしの手を取ったまま、都築は閉ボタンを押す。
「どうしたの……」
顔を上げると、都築の唇が降りてきた。
そして都築の唇を感じた瞬間、7年の歳月はあっというまに無に返った。
これは7年越しの……
紛れもないわたしのファースト・キスだ。
熱情を注ぎ込むような口づけを一度解き、都築はさらに強くわたしを抱きすくめた。
そして、再び、三たび唇を重ねてくる。
身体の芯から喜びが湧き上がり、焦ったい気持ちに襲われる。
7年の歳月を一気に埋めようかとするような、息をつけないほどの激しい口づけに翻弄され、思わず伸ばした手がボタンに触れた。
ガクンとエレベーターが動き出す。
都築は名残惜しげに唇を離し、掠れた声で囁いた。
「一緒になるか。裏切者に」
わたしも同じ気持ちだった。
できることなら、ふたりでこのままどこかに行きたい。
誰にも邪魔されることのない、ふたりきりになれる場所に。
でも、わたしはそっと都築の胸を手で押した。
「そんなの無理だよ」
抱えているものが多すぎる。
都築もわたしも。
それに、激情に流されて、愛に身を投じる年じゃない。
そのぐらいの分別は持ち合わせていた。
エレベーターが改札階に到着する。
わたしは先に降りた。
そのまま、無言で改札を目指す。
「朱利」
呼ばれても振り返らなかった。
ホームから発車を知らせるアナウンスが聞こえる。
「バイバイ、都築」
振りかえり、それだけ言うと、わたしは階段を駆け下り、閉まりかけたドアをこじ開けるように、地下鉄に乗り込んだ。
バイバイ、都築。
心のなかで、もう一度そう告げた。
わたしたちはたぶん表裏一体の間柄なんだ。
都築が表で、わたしが裏。
だから、どんなに求めても、向きあうことは初めから不可能だったのだ。
それがわかった今、わたしはようやく都築から卒業することができる。
吸い込まれそうに黒い車窓に映る自分は、ふっきれた顔をしていた。
それはけっして強がりではなかった。
最初に声をかけられた日と同じように。
つい、昨日のことのようだ。
わたしの作品を気に入ってくれた都築。
わたしにモードの本当の面白さを教えてくれた都築。
モノクロだったわたしの日々をあざやかな極彩色で染めてくれた都築。
わたしの全てだった都築。
出会えて、良かった。
今は心からそう思う。
「じゃあな、今日はありがとな。朱利」
「うん」
これがいい。
これが落ち着く。
ああ、でも、ひとつだけ後悔があるとすれば、それは……
「あのさ。やっぱキスしとけば良かった。あのとき」
「うん?」
「だって、そしたら、わたしのファーストキスの相手、都築だったのに」
都築が小さく息を飲んだ。
「お前さ……言うなよ。そんな、いじらしいこと」
「都築?」
表情が違う。
さっきまでとは、ぜんぜん。
「俺、さっきからずっと、ぎりぎりのとこで踏ん張ってたんだけど」
都築はわたしの腕を強く引き、エレベーターの前に連れて行った。
扉が開くとすぐ、操作パネルの角に押し込まれる。
わたしの手を取ったまま、都築は閉ボタンを押す。
「どうしたの……」
顔を上げると、都築の唇が降りてきた。
そして都築の唇を感じた瞬間、7年の歳月はあっというまに無に返った。
これは7年越しの……
紛れもないわたしのファースト・キスだ。
熱情を注ぎ込むような口づけを一度解き、都築はさらに強くわたしを抱きすくめた。
そして、再び、三たび唇を重ねてくる。
身体の芯から喜びが湧き上がり、焦ったい気持ちに襲われる。
7年の歳月を一気に埋めようかとするような、息をつけないほどの激しい口づけに翻弄され、思わず伸ばした手がボタンに触れた。
ガクンとエレベーターが動き出す。
都築は名残惜しげに唇を離し、掠れた声で囁いた。
「一緒になるか。裏切者に」
わたしも同じ気持ちだった。
できることなら、ふたりでこのままどこかに行きたい。
誰にも邪魔されることのない、ふたりきりになれる場所に。
でも、わたしはそっと都築の胸を手で押した。
「そんなの無理だよ」
抱えているものが多すぎる。
都築もわたしも。
それに、激情に流されて、愛に身を投じる年じゃない。
そのぐらいの分別は持ち合わせていた。
エレベーターが改札階に到着する。
わたしは先に降りた。
そのまま、無言で改札を目指す。
「朱利」
呼ばれても振り返らなかった。
ホームから発車を知らせるアナウンスが聞こえる。
「バイバイ、都築」
振りかえり、それだけ言うと、わたしは階段を駆け下り、閉まりかけたドアをこじ開けるように、地下鉄に乗り込んだ。
バイバイ、都築。
心のなかで、もう一度そう告げた。
わたしたちはたぶん表裏一体の間柄なんだ。
都築が表で、わたしが裏。
だから、どんなに求めても、向きあうことは初めから不可能だったのだ。
それがわかった今、わたしはようやく都築から卒業することができる。
吸い込まれそうに黒い車窓に映る自分は、ふっきれた顔をしていた。
それはけっして強がりではなかった。
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