初恋の呪縛

泉南佳那

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7・決心

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「まあ、喜ばしい話じゃないからな。お前だけじゃなくて、友達には誰にも言ってないよ」

 都築は話を続けた。

「あいつ、俺の気持ちが自分から離れてることにうすうす気づいてたから、子供がだめになって捨てられると思ったんだろうな。精神的に参っちまってさ。だから……封印したんだ。お前への気持ちは。あのとき、キスも拒まれたからさ。俺の一人相撲だと思ってたし」

「そうだったんだ……」

「今はもう落ち着いているけど、一時は入院したり、いろいろあった。だからさ。俺はユキと別れられないっていうか、別れる気はないんだよ。今はもう落ち着いてきてはいるけど、また壊れていく姿を見たくない」

 そう言うと、都築は前かがみになって下を向き、組んだ手の上に自分の額を預けた。

「だけど、お前もずっと好きでいてくれたんだよな、俺のこと」

 うめくような声で都築が訊いた。

 もう心を偽ることなく、わたしも素直に答えた。

「うん。ずっと好きだった」

 下を向いたまま、都築は言った。

「ごめん。俺、お前に何にもしてやれない」

 都築もわたしのことを好きだと思ってくれていたのだ。

 はじめの驚きや戸惑いが収まり、そのことがようやく心に染みわたった。

「都築」
 わたしは彼の肩に手を置いた。

「うん?」
 都築は顔を上げて、わたしに視線を向けた。

「都築はユキちゃんと結ばれる運命だったんだよ」
「久保……」

「逆に言えば、わたしたちはどうしたってうまくいかない運命なんだろうね。だから、都築が責任を感じる必要ないと思う」

 わたしは勢いよくベンチから立ち上がった。

「ユキちゃんを幸せにする責任はあるけどね」
「……そう、だな」

 わたしは都築に向かって手を伸ばした。

「話しづらいこと言わせちゃってごめん。でも、これからも変わらず友達でいてよね」

 都築は坐ったまま、わたしの手を取る。

「当たり前だろ。バカなこと言うなって」

 彼はわたしの手を放し、立ち上がった。

「そろそろ行かなきゃ。千隼さん、待ってるから」

「ああ」
 
  地下鉄の昇降口があるオフィスビルの前まで、何も話さず、黙々と並んで歩いた。

 お互いの本心を知った今、ふたりの間の空気は、やっぱり変わってしまったように思えた。

 寂しいけれど、それは仕方ないことなんだろう。

「じゃ、俺、JRで帰るから」
「うん。じゃあまた月曜日に」

 わたしが階段を降りようとしたとき、都築が声を掛けてきた。

「久保」
 わたしは振り返った。

「なあ、ひとつだけ訊いていい? なんで、あのとき、俺を拒んだんだ?」

「今さら聞く? そんなこと」

「うん、教えてよ。俺、結構、後まで引きずったんだぜ。女に拒まれたのは初めてだったし」
 
 ったく。
 どこまで自信過剰なんだか。

「ただ酔った勢いでするのが嫌だっただけ。だって、あれ、ファースト・キスだよ。女の子にとって、一番大切なキスなのに」

 わたしが真面目な顔でそう言うと、都築は吹き出した。

「女の子にとってか。ずいぶん純情なこと言うな。柄じゃねーけど」

「そう言うと思ってたよ」

 目を合わせ、笑いあった。

 ああ、これがいつものわたしたちだ。

 よかった。都築は都築だ。変わらない。
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