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7・決心
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あれが一方的な幻想だったのか、それとも本当のことだったのか。
その疑問が解けなかったからこそ、いつもそこで立ち止まってしまっていたのだ。
今なら聞ける。
あのときの、都築の気持ちを。
というか、チャンスは今しかない。
「都築……あのさ」
「ん?」
でも、いざとなると、どう話を切り出したらいいのかわからなくなってしまった。
なんの心の準備もしていない。
都築の返事を聞いてどうするのか。
千隼さんとのことを、どうするのか……
なかなか話を切り出せないでいるわたしよりも先に、都築が口を開いた。
「お前、佐藤さんと付き合ってるんだって?」
予想していなかった言葉に驚き、わたしは思わず都築の顔を見た。
「なんで知ってるの?」
「佐藤さんから聞いた。で、そのとき、言われたんだ。もういい加減、7年前の呪縛から久保を解放してやれって」
千隼さんがそんなことを。
「見てらんないんだって。佐藤さんと付き合うことでお前が悩んでるのを。で、できるなら、お前が久保の気持ちを受け止めてやってくれって言われた」
「彼が……そう言ったの?」
「ああ、心底お前に惚れてんだな、あの人。自分のことより、お前の幸せのほうが大事だって、そう言ってたよ」
都築はベンチの背に身体を預け、空を見上げた。
わたしは前を向いたまま、話し始めた。
「彼、最初からわたしが都築のことを想っててもいいって言ってくれて」
「すげーな。とてもじゃねえけど、俺はそんなこと言えねーわ」
「でも、内心、そのことで我慢しているみたいで。だからわたしもちゃんとしなきゃと思ってた。彼と続けるにしろ、別れるにしろ、このままじゃだめだなって」
「今さらだけど……さ」
都築はわたしのほうを向き、少し躊躇ってから言葉を続けた。
「7年前、本気だったよ、俺」
わたしの目を見つめながら、一言ずつ、確かめるように口にした。
「本気って……」
「本気で、お前とキスしたいって思ったってこと。お前が受け入れてくれたら、俺、ユキと別れるつもりだったんだ。もう、自分の気持ちをごまかしきれなくなっていたから」
都築は大きく息を吐いた。
そんなこと、ありえない。
一番に頭に浮かんできたのはその言葉だった。
都築がそんなこと言うなんて。
絶対にありえないと。
9年の片思いが成就した瞬間なのに。
なぜか喜びよりも戸惑いが勝っていた。
でも、それなら、どうして?
「でも……」
訊かずにいられなかった。
「どうして結婚したの。ユキちゃんと」
都築は少し言いづらそうに口を開いた。
「ユキが……妊娠してるのがわかったんだ。コンペのすぐ後で」
「妊娠? でも……」
都築とユキちゃんのあいだに子供はいない。
「ああ、そんで入籍を決めてすぐ……4カ月に入ったころだったけど。子供、だめになっちゃってさ」
わたしは思わず、手で口を押えた。
「そんな……知らなかった……」
その疑問が解けなかったからこそ、いつもそこで立ち止まってしまっていたのだ。
今なら聞ける。
あのときの、都築の気持ちを。
というか、チャンスは今しかない。
「都築……あのさ」
「ん?」
でも、いざとなると、どう話を切り出したらいいのかわからなくなってしまった。
なんの心の準備もしていない。
都築の返事を聞いてどうするのか。
千隼さんとのことを、どうするのか……
なかなか話を切り出せないでいるわたしよりも先に、都築が口を開いた。
「お前、佐藤さんと付き合ってるんだって?」
予想していなかった言葉に驚き、わたしは思わず都築の顔を見た。
「なんで知ってるの?」
「佐藤さんから聞いた。で、そのとき、言われたんだ。もういい加減、7年前の呪縛から久保を解放してやれって」
千隼さんがそんなことを。
「見てらんないんだって。佐藤さんと付き合うことでお前が悩んでるのを。で、できるなら、お前が久保の気持ちを受け止めてやってくれって言われた」
「彼が……そう言ったの?」
「ああ、心底お前に惚れてんだな、あの人。自分のことより、お前の幸せのほうが大事だって、そう言ってたよ」
都築はベンチの背に身体を預け、空を見上げた。
わたしは前を向いたまま、話し始めた。
「彼、最初からわたしが都築のことを想っててもいいって言ってくれて」
「すげーな。とてもじゃねえけど、俺はそんなこと言えねーわ」
「でも、内心、そのことで我慢しているみたいで。だからわたしもちゃんとしなきゃと思ってた。彼と続けるにしろ、別れるにしろ、このままじゃだめだなって」
「今さらだけど……さ」
都築はわたしのほうを向き、少し躊躇ってから言葉を続けた。
「7年前、本気だったよ、俺」
わたしの目を見つめながら、一言ずつ、確かめるように口にした。
「本気って……」
「本気で、お前とキスしたいって思ったってこと。お前が受け入れてくれたら、俺、ユキと別れるつもりだったんだ。もう、自分の気持ちをごまかしきれなくなっていたから」
都築は大きく息を吐いた。
そんなこと、ありえない。
一番に頭に浮かんできたのはその言葉だった。
都築がそんなこと言うなんて。
絶対にありえないと。
9年の片思いが成就した瞬間なのに。
なぜか喜びよりも戸惑いが勝っていた。
でも、それなら、どうして?
「でも……」
訊かずにいられなかった。
「どうして結婚したの。ユキちゃんと」
都築は少し言いづらそうに口を開いた。
「ユキが……妊娠してるのがわかったんだ。コンペのすぐ後で」
「妊娠? でも……」
都築とユキちゃんのあいだに子供はいない。
「ああ、そんで入籍を決めてすぐ……4カ月に入ったころだったけど。子供、だめになっちゃってさ」
わたしは思わず、手で口を押えた。
「そんな……知らなかった……」
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