起きたら猫に!?~夫の本音がだだ漏れです~

水中 沈

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2 夫の本音

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…はい?
今何とおっしゃったのですか?
私を、愛している?嫌っているのでは?

これは聞き逃してはならないと、私は耳をそば立てる。
マリウスは無口な人で、私に愛してるだなんて、一度も言った事は無かった。
彼は私を撫でながら話を続けた。

「妻を喜ばせようとしても、いつも失敗してしまうんだ」

妻は花の中でチューリップが一番好きだ。
二つ隣の領地に少し早い春が来て、見事なチューリップ畑が広がっているという。

季節外れの薔薇を愛でるより、妻の大好きなチューリップで庭を満たしたら、妻は喜んでくれるだろうか。
そう思って、薔薇の代わりにチューリップを注文した。

だがしかし、その日のサロンは王都で咲いた珍しい薔薇を愛でようと事前に皆で決めていたというのだ。
結果、妻は酷く恥をかいてしまった。

「それだけじゃない」とマリウスは続ける。

生まれたての子馬を見て、妻は「遠乗りに行きたいわ」と言った。
けれど、妻は一人では馬に乗れない。

それならばと妻を誘って二人で遠乗りに出たのだが、目的地の泉に着いた時。
妻が足を引きづっていた。
それを見て思ったよ。「失敗した」と。

「部下にこのことを話したら、酷く怒られてしまった。『ドレスの女性を馬に乗せるだなんて!!』と。妻には悪い事をしてしまった」
 
その後も次々とマリウスは失敗を語った。
そしてその全てが「妻が喜ぶ」と思ってした行動だった。

「酷く間抜けな夫だろう?
正直に妻に愛を伝える事も出来ず、彼女を喜ばせてやる事も出来ない」

私の背を撫でる手が止まる。
どうしたんだろう?と顔を上げると、今にも泣きだしそうな顔のマリウスがいた。

「いつか、いつか私は妻に捨てられてしまうかもしれない」

そうなったら、とても生きていけそうにない。

心臓でも貫かれたのかと思うくらい苦しげな声で彼は言う。
そのあまりの必死さに思わず声が出る。

「大丈夫ですよ」

私があなたを捨てるなんて事。絶対にありえませんから。

部屋ににゃーと声が響く。

「慰めてくれているのか」

お前は優しい猫だ。とマリウスは私の頭を撫でた。

この魔法が解けたら夫に伝えなくてはならない事がある。
魔法が解けるまで。それまでは…この人の情けない話に付き合ってあげよう。
 
「随分と長く話し込んでしまったな。ところでお前、どこから入って来たんだ?」

私を抱き上げてマリウスが問う。
本当におまぬけさんね。今更気になったの?

思わず笑い声を上げた時、パチリと音がして魔法が解けた。


「あ、アネット!!??」

天井まで届くんじゃないかと思うくらいの勢いでマレウスが飛び上がる。
彼の膝に乗った私は、突然至近距離になったマリウスの顔に目を白黒させていた。
彼とこんなに近づくのは久しぶりだった。

「どうして君がここに!」

「あの、私、猫で…妖精の悪戯が…」

マリウスはその言葉で全てを理解したらしい。
耳を真っ赤にさせながら、「なんて事だ…」と呟いた。

「ああ、アネットどうか落ち着いて聞いてくれ。君と離婚するのは死んでも嫌だ」

神に懺悔するようにマリウスは私の手を握って懇願した。
 
「勝手に決めつけないでください。私はあなたと離婚する気はありませんよ」

「本当か!本当なんだな!?」

ああ、良かったと彼は私の手を取ったまま立ち上がる。
そのままダンスでも始めてしまいそうな喜びようだった。

「ですが、一つ条件があります」

「なに、条件だと」

宝石か?花か?ドレスか?君の為なら何でも用意しようとマリウスが言う。

「違います。一週間に一回。私の講座を受けて貰います」

「講座?」

「ええ、そうです。女心の分からないあなたに、私がしっかり教えてあげます。どうすれば、私が喜ぶのかを」
 
「なるほど、それは面白そうだ」

直ぐに君の為の時間割を作ろう。とマリウスがペンを走らせる。

「毎日水曜日。一時間ちゃんと受けてくださいね」

「勿論だとも」

ああ、これでやっと妻を喜ばせる事が出来る。
マリウスが私を抱き上げた。

その時――――。


「マリウス様!奥様がいなくなりました!!!」


顔を真っ青にした侍女と執事が執務室の中になだれ込んでくる。
彼らは抱き合う私たちを見るなり、はーっと大きく息を吐いた。
そして、目にも止まらぬ速さで扉を閉めると。

「お邪魔しました!!」

と大きな音を立てて去って行く。

その様子があんまりにも面白かったものだから、私とマリウスは暫く笑いが止まらなかった。
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