起きたら猫に!?~夫の本音がだだ漏れです~

水中 沈

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1 猫になっちゃった!

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「本当は私を愛していないんでしょう!!」

アネットがそう叫んで自室に閉じこもったのは昨日の事。
サロンに出す花を薔薇で注文していたのに、夫であるマリウスが勝手にチューリップに変えてしまったのだ。
おかげで必死に準備していたサロンは微妙な空気のまま終わった。

私に何の相談も無く花を変えるだなんて!
しかも、これが一度目ではない。

外出しようと誘われ、綺麗なドレスで着飾ったのに。
馬車ではなく馬に乗せられ、重たいドレスを汚さない様にするのに必死だったこともある。

きっと、きっと彼は私の事が嫌いなんだわ!

ベッドの枕は涙でびしょ濡れになった。

そして翌朝――――

窓から差し込み光で目を覚ました私の視界に入って来たのはピンクのフワフワな肉球だった。
ああなんて柔らかそうな…と思っていたら、私の動きに合わせて肉球が動く。
体を伸ばすといつものベッドなのに、やけに広く感じた。

視線をずらすと、窓辺で小さな妖精がいたずらっ子の様に笑っている。

(まさか!)

急いでベッドから飛び起きて、絡みつくシーツに四苦八苦しながら鏡へと向かう。
転がる様に鏡の前に立った私は悲鳴を上げそうになった。
なんと、鏡の前にいたのは。

「猫!!???」
 
にゃにゃっ!!と猫の鳴き声が部屋に響く。
私は白猫になってしまっていた。
十中八九、先ほどの妖精の仕業だろう。

「妖精の悪戯」

巡り合えば幸運を引き寄せるという噂があるけれど、実際に悪戯されると迷惑でしかない。
そう長くはもたないと聞いているけれど、いつになったら人間に戻れるのか見当もつかなかった。

困ったわと、部屋の中をうろつく。
もうすぐ侍女が朝食を持ってやって来る時間だ。猫になっただなんて、誰も信じてくれないだろうし…
それに、喋ろうとしても口から出るのはにゃーという可愛い声だけ。

コンコンと控えめなノックの音が聞こえ、僅かに扉が開く

「奥様、朝食を…」

(侍女は猫が苦手だわ!見つかったら大変!)

侍女の声を聞く前に、私は開いたドアに向かって走った。



「猫だ!!」

「猫がいる!!!」

廊下を走る私を見て執事と侍女が驚く声が耳にこだます。
キーンと耳に響きその音に、私は更に驚き、パニックになった。
体中の毛が立ち、尻尾がピンとなる。

(誰も、誰もいないところへ、早く!)

尻尾を踏まれそうになりながら、走って走って…どのくらい走っただろうか。
人気のない部屋にサッと体をねじ込んだ。
そうしてようやく、静かになった。

(ああ、良かった)

ホッのもつかの間。
山ほどに積まれた本のその向こう側で、カリカリと筆記用具の音がした。

恐る恐る覗いてみると、そこには真剣な面持ちで書類にペンを走らせるマリウスがいた。
彼はまだ私の存在に気付いていないようだった。

(ここも駄目ね)

別の場所に移動しようと踵を返すが、誰かが閉めてしまったのか、扉が完全に閉まってしまっている。

(せめて、手があれば開けられたのに!!)

猫の前足では扉は開きそうにない。
それでも。と開かない扉に奮闘していると、その音に気が付いたのか、マリウスが椅子から立ち上がった。

「何だ?」

(ああ、神様お願い…)

出来るだけ小さく、見逃してもらえるように尻尾を丸くする。
しかしその効果は無く、夫は扉の前で固まる私を見つけてしまった。

「なんだ、猫か」
 
マリウスはそっと私を抱き上げ、私の顔を覗き込む。
暫くじっと私を見つめたのちに、小さく。

「猫ならいいか」

と呟いて、私を部屋の奥へと連れていく。
どさりと椅子に座った彼は、私を自分の足の上に座らせて、背中を優しくなでながら「猫よ」と問う。


「私は妻を愛しているんだが、どうやったら上手く伝えられるだろうか…」
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