私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍

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353話 私の記憶でございます。

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「……お願いします」
【うむ】


 今、私に残っている前世の記憶といえば武術や料理などの学んできたこと、そして基本的なその世界での常識くらい。あとは夢にみたほんの少しの思い出。
 知れるなら知りたい、私が何者なのかを。昨日ガーベラさんに口走ったこともどういう意味なのか気になるし。


【ちなみにアイリスが記憶を取り戻すことで、今のアイリスが消えてしまうなんてことはないかゾ?】
【それは本人次第だ、魔物の子よ】


 記憶喪失だった人が記憶を取り戻すことで、その取り戻す間までの自分が消えてしまう。たしかにそれも有り得なくはない話。
 ただ、そこで迷っている場合じゃない。今はこの世界に残れるよう駄々をこねるか、元の世界にすんなり帰るかを選ぶ時だから。記憶がなければなにも進まない。


【今の話を聞いて尚、記憶を取り戻すということでいいかな?】


 目の前の存在の問いに、私はうなずいた。
 ふと周りを見渡すと、ロモンちゃんとリンネちゃんは泣き出しそうな表情を浮かべていた。一方でお母さんやお父さんのような大人逹は私のことをただ眺めている。


【本当のことを言えば、どちらにせよこの一連の行事が終わるまでに全ての記憶が戻ることになっている。今まで別世界から借りてきた魂があまりにも頻繁に記憶をなくすため、大昔にそのように調整した。故に一人反応を見られない者が居るが、勝手に進めさせてもらう】


 一人反応が見られない? この場にいる全員何かしら表情に浮かべている。となると……そっか、ガーベラさんや私以外のもう一人、味方になるはずの魔物になった人のことか。
 たしかにその人のもことも気になる。知り合っていない以上私達からはどうにもできないから、なんとも言えないけれど。


【では始めよう。もとよりこの世界の存在として生命を受けた我が子にとっては一瞬の出来事で済む。そう待たせることはない……】


 目の前の存在がそう述べた瞬間、この辺り全体が光に包まれた。最初は暖かったその光はやがて影すらのみこんで、眼を凶暴に痛々しく襲ってくる。更に意識まで遠のいていって、私は_______________


◆◆◆



「なぜ、呼び出したかは理解していますね?」


 一人の男性の前に正座をしその顔を見上げていた。
 鋭い眼光がこちらを貫く。懐かしさと共に、ほんの少しの恐怖心が湧き上がっている。
 私はゆっくりと思うように動かない口を開いた。


「はい、しょーちしております。おとおさま」


 お父様……。
 ああ、そうだ。そうだった。私の目の前にいる方は私の実の父だ。そして呂律から推測するに今の私は3歳前後といったところかしら。
 本当の親の顔を見たためか、消えていたはずの記憶がみるみると蘇っていくのが判る。

 そして私はこの頃からずっと敬語で喋りづけていた。軟弱な行動や言葉遣いはこの人に一切許されなかったから。


「我等が当主様の奥様が先日ご懐妊なされました。今後、貴女は生涯をかけて、お生まれになる御子息様に尽くすことになります。それが石上家の人間の使命なのです」
「……はい」
「今後貴女に自由などありません。蛇神様にその身を捧げるのです」
「……はい」


 私の人生に自由なんてなかった。
 石上家、この家の人間は蛇神家を主とし一生をかけて奉仕する。それが決まり。それが伝統。そういう血筋。私は仕えるために生まれてきた存在。生まれた時からそれを叩き込まれてきた。


「貴女には明日から古くから贔屓にしている古武術の道場に通ってもらいます。それはなぜか、この家の人間なら言えますね?」
「はい。いざというときに、あるじさまのミをまもるため、です」
「そう、その通りです。そして勉学にも励んでもらいます。それはなぜか_________」


 このような問答が何回も続いた。やるべきことを私の頭、そして私の人生に刷り込むためだ。
 勉学、炊事、武道、茶道、華道、美術……兎にも角にも完璧な人間となり主様を支えていかなくてはならない。この頃の私には幼いながらその覚悟ができていたと思う。


「では今日は早目に休み、明日に備えてください」
「しょうちしました、おとおさま」



◆◆◆


「ここが、お父様の仰っていた道場ですよ」


 気がつけば唐突に場所が変わり、私の目の前には古くとも立派と言える道場があった。
 隣には私の手を握り、一緒にその道場を眺めている女性がいる。髪が黒くて長く、後ろで束ねていること以外は私にかなり似ていた。間違いなくお母様だ。


「今日から毎日ここにお世話になるんです」
「はい」
「あ、そういえば道場主のお子さんが貴女と同い年ですってね。友達になってくれるといいわね?」


 少し砕けた様子でお母様はそう言った。しかし幼い私は間髪入れずに厳しい口調で答えた。


「おかあさま、わたしにゆうじんなどとあそんでいるヒマはありません」
「いいえ、遊ぶ暇はなくとも友人は大切です。支えとなる者が身内以外に数人いるだけで普通は乗り越えられないようなことが、乗り越えられるようになるんですよ」
「そうでしょーか……」


 幼い私は不服そうだが、実際はこの言葉があったからこそ私は人付き合いが人並みにできているような気がする。お父様みたいに伝統と決まりでガチガチに凝り固まった思考を持つようになっていたらどうなっていたか。


「さ、そろそろご挨拶しましょうか」
「はい」

 
 この古めかしい道場に不釣り合いな、近代的なインターホンをお母様が押すと、しばらくして筋骨隆々でつるりとした頭の男性が現れた。
 一眼見た瞬間に悟った。この人に私は両親と同じくらいに親しみがある。なぜなら、これから十数年も私に武の心得を教えてくれる人だから……いわゆる恩師という者だ。


「おお、お待ちしておりました石上さん。どうぞ中へ」
「お邪魔致します」
「お、おじゃまします」


 屋内に通され、客間でこれから私の師匠となる人による説明等が始まった。それらの話を聞いていると、次々とこの道場で切磋琢磨してきた日々が蘇ってくる。
 正直、武道は私にとってかなり楽しいものだった。精神と共に肉体を鍛え上げるのは根本的に性に合っていたのかもしれない。いや、理由はそれだけじゃなく……そう、そうだ。もう一人大事な存在がここには……。


「ぱぱ、ボクとおなじとしっていうコきたの?」
「あ、こら、紹介はまだだから向こうで待ってなさい!」


 私は突然現れたその男の子の方を向いた。この記憶の中の私はこの時点ではその子に特に興味を示すことなく、すぐに師匠の方に向き直す。しかし、今の私自身は違う。
 ガーベラさんだ。いくら3歳程度の年齢で金髪じゃなくて黒髪になっているからとはいえ雰囲気ですぐにわかった。間違いなくガーベラさんだ。

 いままでなんとなく、ガーベラさんとは前世……いわゆるこの時代から付き合いがあったような気はしていたけれどこんな幼い時からだったとは。幼馴染みという奴だったんだ、彼とは。


「すいません、なかなか好奇心旺盛で」
「いえいえ、このくらいの年の子は本来そうあるべきですよ」


 お母様は少し悲しそうに、私を見てそう言った。師匠も石上家と古い付き合いだけあって事情を知っているようで、同情しているような表情を見せる。そんな中、ガーベラさんは私の側に近寄ってきた。


「ね、キミ、なんていう名前なの?」


 幼い私はそう聞かれ、戸惑うようにお母様に目線を向けた。答えてもいいかどうか了承が欲している。この頃の私はたしかに、このように言われるがまま、指示がないと動けない人間だった。
 お母様がうなずいてくれると、幼い私は彼の質問に答えた。


「わたしは、あいりともうします」
「そっかー。ボクはしょーぶ! これからよろしくね」
「……はい」


 これが私とガーベラさん……もとい、愛理と勝武のファーストコンタクト。この先、この人と別世界まで一緒に行動することになる腐れ縁になるなんて誰が予想できたのかしらね。……ましてや、結婚前提で付き合うなんて。





#####

先週はお休みしてしまい申し訳ありませんでした。
ひどい頭痛は久しぶりだったもので、耐えきれず……。

次の投稿は11/2の予定です。
もし投稿できない場合はこの場所に当日に追記致します。


※追記
上記のように危惧していた通り、今週も休載します。
また今後は個人的に非常に忙しくなるため十二月の終わりあたりまで安定して執筆できる保証がありません。
長い休みを一度もらってから、続けて休みをいただいてばかりで申し訳ないです。
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