私は〈元〉小石でございます! ~癒し系ゴーレムと魔物使い~

Ss侍

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156話 破滅蟹との決戦でございます…! 2

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「「「おおおおおおおお!!」」」


 湧き上がる歓声と上がって行く士気。
 魔法陣を3重に重ねて出力する技術は、この世界でお母さんとベスさんしかいないらしい。まず人間にはできないんだって。


【久々だけどうまくできたわね】
【ダナ…コレナラ、アレモデキソウダ】


 これは簡単に勝ててしまうんじゃないだろうか。やっぱりお母さんもお父さんもこの国で最強だったと言われるだけあるって、魔王の幹部との戦いでわかるなんてね。


【グゥゥゥ……】


 ひっくり返っていたグラブアは蟹のくせに器用に起き上がった。腹部にある焦げ跡が先ほどの魔法の威力をものがたる。


【これはもう、俺も余力なんて残す暇はなくなったかな】


 彼はそう言うと一つの魔法陣が展開される。
 ……水色と紫色が混じりきってないような魔法陣、つまりこれは闇氷魔法ね。


【これはどうかな……っ】


 兵の大群に向けて魔法は放たれた。なかなかまずいところに打ってくれる。冒険者だったら簡単に回避されるか、そこまで痛手は与えられないと判断したのか、士気を下げるために兵を狙うなんて。
 

「……ロモン、盾かして」
「はい、無茶しないでね」
「うん」


 魔法が放たれた瞬間に双子がそんな会話をしていたかと思うと、ロモンちゃんがリンネちゃんにアーティファクトの盾を貸したの。
 そして一瞬でリンネちゃんの姿が消える。
 次に現れたのは、兵の軍団のど真ん中。グラブアが狙った場所で、リンネちゃんは空を泳ぎ地面に背を向けて盾を構え、闇氷魔法の座標ぴったりに盾の効果を発動させ……そして見事に防ぎきってしまった。
 

「さっすがロモン! パパに似てきたわね」
「もぅ、無茶しないでっていったのに」
【おお!? …仕方ない、これなら】


 見事に魔法を防がれたグラブアは片目で眼をみはるも、すぐに魔法の準備をした。
 今度は青と紫…つまり闇水魔法ね。闇水魔法は普通の水魔法と違い、酸を大量に含んでる。もともと酸を持つ魔物以外で酸を放つ唯一の方法ね。
 これを雨のように降らされたり、波のように発動されたら生身の生き物は皮膚が爛れる。
 お色気も期待できる……なんて考えちゃダメね。
 まあ、私なら防げるでしょう。

 グラブアは器用にも両手からそれぞれ魔法陣を展開さてるけれどなんとかなる。


【ここは私に任せてください】
【今度こそ喰らえっ!】


 太く勢いよく噴出される黒い水の光線。やっぱりハサミの間から光線ぽいのを撃つのはロマンよね。
 でも残念。


【凍りなさい】


 私が唱えたのは闇氷魔法。これをグラブアの両手に発生させる。
 水魔法が手から噴出されるも、それは私の魔法によって凍らされ、最終的にはグラブアの両手が氷漬けになってしまう結果になった。


【おおおお!?】
「なんだ! 蟹の手が凍ったぞ!」
「おお、これでもう魔法は使いにくくなったか!」


 魔法は媒体が必要だからね。
 もうグラブアは口からしか魔法を発現できない。だから魔法に関してはもう口だけを警戒してればいい。
 ふふ、モンスアーガされてるからここまでの威力が出たのね。やっぱりロモンちゃんと協力すると戦いやすい。


【クッソ…! こうなったら…!】


 グラブアは両手を高く上げると、勢いよく振り下ろした。地面が揺れるおかしな威力。
 そう、グラブアで一番怖いのはあのハサミをハンマーのように振り回されること。
 魔法で足止めされてからハサミの餌食になるなんてことはなくなったけど、もう半分ヤケクソになって仕舞えば…。


【はははは! ヤケクソってやつさ! ははははははは!】


 案の定、そう、案の定むやみやたらに自分のハサミを振り回し始めた。正直いってこれが一番怖い。
 様々な冒険者・兵士・騎士から集団リンチを受けて全身ボロボロの状態から振るわれる破滅を導く槌。
 当たったら高い防御を誇る私ですら回復が間に合わなければ死んでしまう。


【皆んな! 一回撤退!】


 お母さんが全員に念話で呼びかけた。
 槍や剣、槌、素手などで攻撃していた冒険者や騎士、兵達は慌ててその場から離れる。
 でもその間で犠牲になる人が何人も続出した。
 そんな人たちには私が小石視点で全体をしっかり把握しているので、慌てて回復してあげる。
 中には内臓が飛び散った人とか、頭が破裂した人とかもいたけれど今の所死んだ人はいない。
 致命傷を受けてから数十秒は生きてる人間の神秘のお陰ね。


「おお…すげえ」
「あのゴーレムが瞬時に回復してくれたのか」
「アイリスちゃんって言うんだぞ」


 しかし…ジリ貧ね。
 グラブアは自分でも今の状況がヤケクソなのは理解してるみたいだけど、魔法攻撃が来た際はハサミの勢いで半分近く弾いている。それもおそらくほぼ神経の反射で。
 やはり戦闘慣れしてる。
 こんなに人数を集めたからここまで追い詰められたけど、絶対に1対1だったら今の状況は生まれなかったわね。


「俺らが有利だが…しかしつっえ……」
「このメンツだぞ? どうなってんだよあの化け物」
「耐久もあり、破壊力もあり、知能もあり、魔法も使える……魔王軍の幹部がここまでとはな。そして攻めに徹したらそれだけで我々は脅威にさらされる」


 戦闘参加者の士気が下がり始めた。
 わかる。今あそこに飛び込んだら死んじゃうものね。
 さて、どうしようか。


【ソロソロ、ヤルシカ ナインジャナイ?】
【そうね。決めましょうか】


 お母さんとベスさんが何やら相談をしていたと思ったら、こちらに戻って来ていたリンネちゃんに話しかけた。


「リンネ、ちょっと本気出すから、私の体、頼めるかしら?」
「魔人融体…するの?」
「ええ」


 お母さんの魔人融体……!
 どうやら本当に本気を出すみたいね。


「……お母さんがやるなら私もやる。お願いお姉ちゃん!」


 案の定ロモンちゃんも乗って来た。


「いいよ。二人くらい大丈夫」
「あら、ロモンもやるのね。娘と二人で魔人融体なんて嬉しいわ……じゃ、やりましょうか」
「うん、アイリスちゃん!」
【はい!】


 ロモンちゃんとお母さんは魔人融体を唱えた。
 二人の身体はパタリと倒れ、私の方にはロモンちゃんの感覚が流れ込んでくる。


【アイリスちゃん、いくよ】
【ええ!】
「身体は任せてね」
【オイラモ マモルン ダゾ!】


 リンネちゃんとケル君の言葉が聞こえて来る。
 ベスさんがこちらを向いた。

【ね、ロモン、アイリスちゃん。お父さんの本気を見たらしいじゃない】
【うん。みたよ! すごかった!】
【ふふ、お父さんだけに娘の尊敬を集めるわけにはいかないからね。私も本気出すわ。……ロモンとアイリスちゃんも、できる限り全力でね】
【わかった!】


 私の首が勝手に頷いた。
 ロモンちゃんが操っている証拠ね。
 ああ、あと本気出すなら一つ、伝えた方がいいかしら。


【すいません、ひとつ連絡です。どうやらグラブアは雷魔法が弱点なのではなく、苦手なだけのようです。……もし威力を重視するならば一番得意な魔法が良いでしょう】
【ソウナノカイ?】


 今度は私の意思で頷く。
 そうすると、ベスさんも頷き返してくれた。一つの首だけ。


【ありがとうアイリスちゃん。……じゃ、やるわよ】
【ジッセン デハ ハジメテ ダネ!】
【ええ。でも私達ならやれるわ】


 ベスさんは3つの頭の口を全て開く。
 魔法陣を展開させた。
 しかし、圧巻なのはその数。……とてもじゃないけど、ありえない枚数。


【……くらいなさい。十重魔法陣、リスファイラム!】



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