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2 医局の少年
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中央の朝廷から東に太極府は位置する。晶鈴は道の途中にある、医局の周りの様々な薬草を眺めながら歩く。
「医術と占術ってどこか似てるわね」
ぶらぶらしていると、かすかに叱咤されている声が聞こえた。声のほうにちらっと視線を向けると、軽装で裸足の少年が、年配の薬師に怒鳴られているところだった。
「あら、新しい見習いかしら」
初めて見る顔だった。がみがみ叱りつける薬師に少年は頭を垂れてはいるが、無表情だ。しばらく叱って気が済んだのか薬師は、茶色い衣の裾を翻し、去っていった。少年は立ち去ったのを見計らって、ぱっと晶鈴のほうへ走ってきた。
「こんにちは」
「あ、やあ」
晶鈴に気づき少年は声を返す。
「大丈夫だった?」
「なにが?」
「叱られてたでしょ? 何か失敗でもしたの?」
「ああ、食える草が生えてたからとって食っただけだ」
「まあっ。それは叱られるわね」
「らしいな。生えてる本数まで数えて管理してるってぎゃあぎゃあ言われたよ。今日来たんだから知らねえよ」
叱られているときは無表情だったが、目の前の彼は表情豊かで、率直な物言いをし飾り気がない。
「そうなのね。わたしは胡晶鈴。占い師見習いよ。あなたは薬師見習い?」
「俺は陸慶明。昨日試験に合格して、今日ついたとこだ」
「へえ。じゃあ、まだ見習いの宿舎は行ってないの?」
「これから行こうって矢先にさっきのあれさ」
「わたしが案内してあげるわ」
「そうか。悪いな。じゃ、荷物もってくるから、ちょっと待ってて」
素早い身のこなしで、慶明は小さな包みを持ってきた。
「これだけ?」
「うん。ここでなんでも揃うから、荷物はいらないって言われたから」
「まあ、そうね。こっちよ」
晶鈴は指をさして歩きだす。背格好に似ている二人は故郷はどこか話し合った。晶鈴はこの都のずっと北西からやってきたことを話す。
「占い師見習いも試験があるのか?」
「ううん。太極府で毎年、星の位置と易で見習いを選出するの。だけど、毎年出てくるわけじゃないみたい」
「そんな選び方なのか」
「わたしが来てから、まだ新しい人がいないからちょっと寂しいわね」
占い師見習いは、年によってばらつきが多い。、晶鈴が選ばれる前年に数名見つかったが、ここ最近めぼしい人材がいない。
「慶明さんのほかの合格者はいるの?」
「慶明でいいよ。同じ見習いだし。確か5人いるって聞いた」
「それは賑やかでいいわね」
「でも来年になるとどうかなあ」
「ああ、医局は厳しいものねえ」
占い師は一度選ばれ、入るとほぼずっと太極府にいることができるが、医局は毎年、試験があり、たとえ入局できてもふるい落とされることがあるのだ。
話しながら歩く慶明は時々視線を下に落とす。
「どうかしたの? 足が痛むの?」
裸足の慶明に、遠慮がちに尋ねる。
「いや。逆逆。これだけ滑らかな道じゃあ、ますます履物がいらないと思ってさ」
朝廷を中心にした王の宮殿には、医局と太極府、王、直属の軍隊の寄宿舎、後宮などがある。万が一の時、王のもとへ素早く馳せ参じるために、常に道は舗装されてあった。
「でもそのうち履物を履かされるようになるわよ」
「それが一番窮屈なことだよなあ」
慶明は南方の民族で、履物を履く習慣がないらしい。暖かい地方のようで衣も薄い。日に焼けた健康的な肌に、素朴で荒い生地が良く似合っている。貧しいから粗末な装いになっているわけではなかった。
「今はいいけど、ここは冷えるからきっと履くようになるわよ。あ、そこよ」
宿舎が見えてきたので晶鈴は指をさした。ほかの建物と違い、門も装飾はなく大きな箱のようだ。
「晶鈴はどこに住んでる?」
「ああ、わたしは女人用の宿舎が反対側にあるの」
「そうか。随分遠くまで案内させてしまったな」
「いいのいいの。こういうこともわたしには必要なことみたいだから」
「ふーん。そういうものか」
「じゃあ、ここで。またね」
「ああ、体調が悪くなったら俺が薬作ってやるよ」
「あははっ。また勝手に薬草とったりしないようにね」
踵を返し、晶鈴は来た道を戻った。袖の中の小石をまた手の中に戻し、こねるように撫でまわす。カチャカチャなる石たちの音を聞き、ふと今日の占いの卦を思い出す。
「あら? 友というのは、王子じゃなくて今の慶明なのかしら」
王子と友達になることよりも、薬師見習いの慶明と友達になるほうが自然なことのような気がする。
「まあ、どちらでもいいわね。やっと年の近い知り合いができたんだもの」
今度こそ、太極府へ戻ろうと着物の裾をまくり、小走りで道を進んだ。
「医術と占術ってどこか似てるわね」
ぶらぶらしていると、かすかに叱咤されている声が聞こえた。声のほうにちらっと視線を向けると、軽装で裸足の少年が、年配の薬師に怒鳴られているところだった。
「あら、新しい見習いかしら」
初めて見る顔だった。がみがみ叱りつける薬師に少年は頭を垂れてはいるが、無表情だ。しばらく叱って気が済んだのか薬師は、茶色い衣の裾を翻し、去っていった。少年は立ち去ったのを見計らって、ぱっと晶鈴のほうへ走ってきた。
「こんにちは」
「あ、やあ」
晶鈴に気づき少年は声を返す。
「大丈夫だった?」
「なにが?」
「叱られてたでしょ? 何か失敗でもしたの?」
「ああ、食える草が生えてたからとって食っただけだ」
「まあっ。それは叱られるわね」
「らしいな。生えてる本数まで数えて管理してるってぎゃあぎゃあ言われたよ。今日来たんだから知らねえよ」
叱られているときは無表情だったが、目の前の彼は表情豊かで、率直な物言いをし飾り気がない。
「そうなのね。わたしは胡晶鈴。占い師見習いよ。あなたは薬師見習い?」
「俺は陸慶明。昨日試験に合格して、今日ついたとこだ」
「へえ。じゃあ、まだ見習いの宿舎は行ってないの?」
「これから行こうって矢先にさっきのあれさ」
「わたしが案内してあげるわ」
「そうか。悪いな。じゃ、荷物もってくるから、ちょっと待ってて」
素早い身のこなしで、慶明は小さな包みを持ってきた。
「これだけ?」
「うん。ここでなんでも揃うから、荷物はいらないって言われたから」
「まあ、そうね。こっちよ」
晶鈴は指をさして歩きだす。背格好に似ている二人は故郷はどこか話し合った。晶鈴はこの都のずっと北西からやってきたことを話す。
「占い師見習いも試験があるのか?」
「ううん。太極府で毎年、星の位置と易で見習いを選出するの。だけど、毎年出てくるわけじゃないみたい」
「そんな選び方なのか」
「わたしが来てから、まだ新しい人がいないからちょっと寂しいわね」
占い師見習いは、年によってばらつきが多い。、晶鈴が選ばれる前年に数名見つかったが、ここ最近めぼしい人材がいない。
「慶明さんのほかの合格者はいるの?」
「慶明でいいよ。同じ見習いだし。確か5人いるって聞いた」
「それは賑やかでいいわね」
「でも来年になるとどうかなあ」
「ああ、医局は厳しいものねえ」
占い師は一度選ばれ、入るとほぼずっと太極府にいることができるが、医局は毎年、試験があり、たとえ入局できてもふるい落とされることがあるのだ。
話しながら歩く慶明は時々視線を下に落とす。
「どうかしたの? 足が痛むの?」
裸足の慶明に、遠慮がちに尋ねる。
「いや。逆逆。これだけ滑らかな道じゃあ、ますます履物がいらないと思ってさ」
朝廷を中心にした王の宮殿には、医局と太極府、王、直属の軍隊の寄宿舎、後宮などがある。万が一の時、王のもとへ素早く馳せ参じるために、常に道は舗装されてあった。
「でもそのうち履物を履かされるようになるわよ」
「それが一番窮屈なことだよなあ」
慶明は南方の民族で、履物を履く習慣がないらしい。暖かい地方のようで衣も薄い。日に焼けた健康的な肌に、素朴で荒い生地が良く似合っている。貧しいから粗末な装いになっているわけではなかった。
「今はいいけど、ここは冷えるからきっと履くようになるわよ。あ、そこよ」
宿舎が見えてきたので晶鈴は指をさした。ほかの建物と違い、門も装飾はなく大きな箱のようだ。
「晶鈴はどこに住んでる?」
「ああ、わたしは女人用の宿舎が反対側にあるの」
「そうか。随分遠くまで案内させてしまったな」
「いいのいいの。こういうこともわたしには必要なことみたいだから」
「ふーん。そういうものか」
「じゃあ、ここで。またね」
「ああ、体調が悪くなったら俺が薬作ってやるよ」
「あははっ。また勝手に薬草とったりしないようにね」
踵を返し、晶鈴は来た道を戻った。袖の中の小石をまた手の中に戻し、こねるように撫でまわす。カチャカチャなる石たちの音を聞き、ふと今日の占いの卦を思い出す。
「あら? 友というのは、王子じゃなくて今の慶明なのかしら」
王子と友達になることよりも、薬師見習いの慶明と友達になるほうが自然なことのような気がする。
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今度こそ、太極府へ戻ろうと着物の裾をまくり、小走りで道を進んだ。
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