どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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華やぐ青春の香り

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(政宗 視点)

「冰澄くんの歌聴くの初めてだわ。楽しみ」

「お前聞いたことなかったのか?」

「やだ、ここにいる奴らほとんど全員そうでしょ」

楓が俺たちを見ながらそう言って笑った。

確かに冰澄が歌ってるところは見たことがない。ギターは家で時々弾いている。

「西乃芽山学園軽音楽部って言ったら、プロ級だって聞くじゃない。」

「そんなにすごいんだ~」

高梨が間の抜けた声でそうこぼした。

俺は上手いとか下手とかはよくわからない。でも冰澄のあの細い体で体育館中に響く声を出せるだろうか。

そんなことを考えた。

冰澄の声はよく通る。独特の声だ。聞いていて心地がいいと言える。

「あいつの歌はいいぞ。浄化される。」

小柳梅之介は目を細めてそう言った。





体育館内は人の話し声で賑やかだった。並べられた席はすでに満席で立ち見もほぼ占めている。

「すごいっすね。」

「本当に人気なんですね」

北谷と片桐の言葉を聞きながら、背を壁に預けた。

「始まるわよー」

楓の高い声が無駄に頭に響いた。

照明が落ち、暗くなると徐々に話し声も消えていった。誰もが何かを待ち望むように視線をステージに向ける。

マイクのノイズ音が耳に届いた。

「あーあー。……先輩音量」

かすかに聞こえたのは冰澄の声だ。

いつもより真剣さを纏う声だった。

「みなさんお待たせしました。ステージの部、第二部を開幕します。初めから軽音楽部です。なおステージの上に押しあがったりしないでください。死にたくない人は体育館の後ろの方で鑑賞をお願いします。えー校長からです、暴れすぎないように。以上。では軽音楽部の演奏です!」

司会者の長い注意事項の後、ステージの照明がついた一斉に歓声が上がる。
俺の目は冰澄だけを捉えた。

形の整った唇が狐を描いた。

吸い込まれた空気の代わりに帰ってきた声に俺は目を見張った。


俺も見たことがないくらい楽しそうな笑みを浮かべながら歌いギターを弾く姿に目を奪われた。あの夜と同じように真っ直ぐ伸びた背筋は、今は彼だけのものだった。


どのくらい冰澄を見続けていたのかはわからない。

終わったのにすら気づけないほどだった。

「ちょっと政宗、終わったわよ。」

「……ああ。」

「しっかりしなさいよ。人の波に巻き込まれるわよ。」

楓の言葉で周りをちらりと見た。
一斉に出口へ向かう人の塊があった。

「あら、あの人イケメン。」

楓が「出口の横」というと指差した。


「……あいつ!」


声を荒げた俺に驚いた北谷たちも一斉に出口を見た。金色のブロンドの髪をなびかせて人の波に溶け込んだ。長身で体型がよく整った男だ。軽く目を細めステージの上にいた冰澄を見つめると気味が悪い笑みを浮かばせた。

そしてゆっくりサングラスをかけると人に紛れて消えていった。


「……組長。」

北谷がいつもの呼び方で俺を呼んだ。

「鷹峯…克巳」

俺の口からこぼれた言葉は、雑音に紛れ消えていった。
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