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(視点:片桐)
冰澄さんが珍しく子供のように怯えて俺に聞いた。
「今誰かいましたよね?」
住宅街には誰もいなくてしんと冷たい風だけが吹いていたから俺はいないと答えた。
そしたら冰澄さんはその言葉を否定し、うそですよ、いましたよと怯えた顔で瞳で俺に告げた。倒れこんだ体を支えて車の中に寝かせてすぐに病院へ車を走らせる。
冰澄さん関連に緊急連絡用の電話番号にかければ1コールですぐに北谷の声が聞こえた。
「片桐かどうした」
「冰澄さんが倒れた。普通じゃない!」
「どういうことだ?今どこにいる?」
「病院に向かってる!」
「詳しいことは後だお前はそのまま冰澄さんを病院に……なんだ?」
「北谷どうした?」
向こう側で北谷が誰かと話しているのがわかるが内容までは聞こえてこない。
赤信号に時間を取られていると北谷が困惑した声を出した。
「片桐、焦らず聞け、ああ、ちがう焦ることじゃない…これは」
「北谷?どうしたおかしいぞおまえ」
「すまん、こんな時に……組長?」
北谷の声のすぐ後にガッと響いた音に驚きつつ車を走らせる。北谷よりも威圧感があり低い声が耳に届いた。
「片桐、冰澄をこのまま総合病院に連れて行け。高梨が手続きを済ませてるはずだ。そのあと弟とこにいけ」
突然出てきた尚也の話題に心臓が急速に跳ね上がった。まさか、なんて不穏な考えを組長は一蹴するように「安心しろ」と言う。
「目を覚ました。容態も問題ない。」
つい携帯を落としそうになった。病院はもうすぐ目の前だ。嬉しいのになぜか嬉しくない。多分それは俺が勝手に思い込んでる子が今苦しんでるからだろう。情けないほど涙が出てきそうになる。
ミラーで後部座席を確認する、冰澄さんが怯えたように丸くなって体を守っている。
「組長、病院につきます。冰澄さんの側に、お願いします」
「……わかってる。」
駐車場に入れば高梨の姿が確認できた。
「冰澄に言え。お前が大事に守っていた小さい冰澄は、俺がもう全部預かってる、もう泣いてないって、な」
「…わかりました。」
プツリと消えた携帯を放り投げ、車のドアを開けて冰澄さんを抱きかかえる。
小さく震える体は軽い。
「片桐!」
「高梨、冰澄さんを頼む。」
「ああ」
「冰澄さん、冰澄さん、聞こえますか」
丸まって小さくなって。子供のように。怯えている。
「組長が、冰澄さんが大事に守っていた小さい冰澄さんはもう組長が全部預かったって、もう泣いてないって、言ってました、だから、」
あの文にも、これからくる追想にも、大事な人の痛みにも、
「負けないでください。あなたによく似た、俺の弟は、負けませんでした。」
いつの間にか冰澄さんの体の震えは止まっていて、ゆっくりと顔を上げた。冰澄さんは驚いた表情をして、ゆっくり俺に問いかけた。
「尚也さん…?」
「はい。冰澄さん、死ななければいけない人間なんて、ほんの一握りしかいないんですよ。」
俺は小さく笑って冰澄さんの両手力強く握りって、高梨に頷いてみせた。
返すように高梨は小さく口角を上げた。
俺は冰澄さんのことをよく知らない。
叔父に虐待されて1人で生きてきた寂しい少年だということ、大きな何かを背負わされた子だということ、冰澄さんの両親のことも、親戚のことも俺は何一つ知らない。
でも一つだけ知っている死ななければいけないと思っている原因が、迎えに来る、といった人物が関わっていること、冰澄さんが何かを思い出したこと。
それだけだ。
冰澄さんが珍しく子供のように怯えて俺に聞いた。
「今誰かいましたよね?」
住宅街には誰もいなくてしんと冷たい風だけが吹いていたから俺はいないと答えた。
そしたら冰澄さんはその言葉を否定し、うそですよ、いましたよと怯えた顔で瞳で俺に告げた。倒れこんだ体を支えて車の中に寝かせてすぐに病院へ車を走らせる。
冰澄さん関連に緊急連絡用の電話番号にかければ1コールですぐに北谷の声が聞こえた。
「片桐かどうした」
「冰澄さんが倒れた。普通じゃない!」
「どういうことだ?今どこにいる?」
「病院に向かってる!」
「詳しいことは後だお前はそのまま冰澄さんを病院に……なんだ?」
「北谷どうした?」
向こう側で北谷が誰かと話しているのがわかるが内容までは聞こえてこない。
赤信号に時間を取られていると北谷が困惑した声を出した。
「片桐、焦らず聞け、ああ、ちがう焦ることじゃない…これは」
「北谷?どうしたおかしいぞおまえ」
「すまん、こんな時に……組長?」
北谷の声のすぐ後にガッと響いた音に驚きつつ車を走らせる。北谷よりも威圧感があり低い声が耳に届いた。
「片桐、冰澄をこのまま総合病院に連れて行け。高梨が手続きを済ませてるはずだ。そのあと弟とこにいけ」
突然出てきた尚也の話題に心臓が急速に跳ね上がった。まさか、なんて不穏な考えを組長は一蹴するように「安心しろ」と言う。
「目を覚ました。容態も問題ない。」
つい携帯を落としそうになった。病院はもうすぐ目の前だ。嬉しいのになぜか嬉しくない。多分それは俺が勝手に思い込んでる子が今苦しんでるからだろう。情けないほど涙が出てきそうになる。
ミラーで後部座席を確認する、冰澄さんが怯えたように丸くなって体を守っている。
「組長、病院につきます。冰澄さんの側に、お願いします」
「……わかってる。」
駐車場に入れば高梨の姿が確認できた。
「冰澄に言え。お前が大事に守っていた小さい冰澄は、俺がもう全部預かってる、もう泣いてないって、な」
「…わかりました。」
プツリと消えた携帯を放り投げ、車のドアを開けて冰澄さんを抱きかかえる。
小さく震える体は軽い。
「片桐!」
「高梨、冰澄さんを頼む。」
「ああ」
「冰澄さん、冰澄さん、聞こえますか」
丸まって小さくなって。子供のように。怯えている。
「組長が、冰澄さんが大事に守っていた小さい冰澄さんはもう組長が全部預かったって、もう泣いてないって、言ってました、だから、」
あの文にも、これからくる追想にも、大事な人の痛みにも、
「負けないでください。あなたによく似た、俺の弟は、負けませんでした。」
いつの間にか冰澄さんの体の震えは止まっていて、ゆっくりと顔を上げた。冰澄さんは驚いた表情をして、ゆっくり俺に問いかけた。
「尚也さん…?」
「はい。冰澄さん、死ななければいけない人間なんて、ほんの一握りしかいないんですよ。」
俺は小さく笑って冰澄さんの両手力強く握りって、高梨に頷いてみせた。
返すように高梨は小さく口角を上げた。
俺は冰澄さんのことをよく知らない。
叔父に虐待されて1人で生きてきた寂しい少年だということ、大きな何かを背負わされた子だということ、冰澄さんの両親のことも、親戚のことも俺は何一つ知らない。
でも一つだけ知っている死ななければいけないと思っている原因が、迎えに来る、といった人物が関わっていること、冰澄さんが何かを思い出したこと。
それだけだ。
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