どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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circus man

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「こんにちわ」

それは青天の霹靂とでもいえば良いのか、おれに声をかけた少年。ひどく眩しく暗く、まっすぐ伸びた幹におれは確かに拍手喝采を鳴らした。それほど美しい背筋と笑みが、おれの視界を奪ったのである。



「尚也くん、この方が組長の恋人の波津冰澄さんです。」
「兄ちゃんがいまお世話させてもらってる子だぜ」

北谷さんと兄ちゃんが交互にそう交わすなかおれは、伺うように彼を見つめた。そんな俺に気づいて"くれた"彼はゆっくりと目を細めた。その双眼は日本人には見られない美しいものである。

「波津冰澄です。よろしくお願いします」
「…片桐…尚也です。よろしく、です」

差し出された手をおずおずと握って見れば、その感覚には身に覚えがあった。

「みず……」
「喉乾いたか?」

つぶやきに兄ちゃんが心配そうにおれをのぞき込んだ。ゆらゆらと否定してから口をとがらせてみた。

「ちがうよ…。水」
「…?…?」
「だから…水だよ」

言いたいことが言えないただ言いたいことを言いたいだけなのに上手く言葉がおれを見つけてはくれない。兄ちゃんは首を傾げるし北谷さん心配そうにおれをみるし、東さんを見てみれば、その視線で"彼"を指してからおれに微笑んでみせた。

「俺の体温ですよ。人よりつめたいから。」

彼が、言葉におれを紹介してくれた。いとも簡単にやってのけた、波津冰澄という少年は、"そういうもの"なのだと。

「…常温の、水は、熱い人が触ると冷たいし、
冷たい人が、触ると、暖かいんだよ」

冬に足を入れてみせた川は、酷く暖かった。
夏に足を取ってきた川は、酷く冷たかったのだ。

それが言いたくて、だから、と続けてみるがどうしてもそのあとが言えなかった。原理から導き出せば冷たいと感じた俺は、

「暖かいんですね。尚也さん、すごく暖かいですよ。」
「おれは……!」

夏の、暑い、熱い、真夏の日だ。
なのに体は震えるほど冷たくて、自分が"冷たい"人間なのだと思い知らされた。信じたくても信じられなかった、好きな人のことも大好きな兄のことも。そんな自分が…おれは。

誕生日の、二日後に、通っていた中学校から飛び降りた。

「おれが悪かったんです…!おれが悪かったの!わかってた!!信じようと思ったんだ!なのにおれは"それ"を拒否した!」

頭を撫でてくれる優しい手も、差し出される言葉にできない幸せな手も、おれは心では信じてた。理解してたはずだったのに。おれの手は。"それ"を振り払ってしまったのだ。

「自分が、冷たくて!冷たいのに!からだは、暖かいんだ!!!そんなの矛盾してる!!おかしいよ!だっておれ!!!」
「たくさんの愛情を振り払ったのは、あなたじゃなくて、あなたの優しさじゃないんですか?」

おれの手を握る手はやはり冷たい。冷たいのに全て包み込んでいくのだ。

「もう誰にも、傷ついて欲しくなくて、悪者になって欲しくなくて、いなくなって欲しくなくて。」
「そんなの綺麗事だよおれがいい思いしたいだけの」
「…いや?そうでもないと思いますよ。自分自身がしたくないと思ってることでも、人の優しさは意外にそれをさせてしまえるくらい大きいんですよ。俺は、"それ"と10年近く一緒だったからわかってるんです。」

言葉にできない感情は、水を弾き飛ばしてしまった。けれど水はゆっくりと波打っただけだ。ただ言葉にならない声をあげて、近くにいた優しい手を伝ってすべてに抱きついた。

「ごめん、ごめん兄ちゃん…!ごめんなさい」
「いい、気にすんな。俺の方こそごめんな。もう気にすんなよ、俺も気にしねぇから。…尚也。だからもう、こんな、眠りこけてんじゃねぇぞ!!」

兄ちゃんの大きい無駄にたくましい体がおれを力強く抱きしめると、綺麗な水は、兄ちゃんを受け止めたように波紋を広げた。

「泣きっ面だけは昔からそっくりだな」

-おれの知らない東さんが微笑んでそう言ったのもきっと、きれいな水の中にいるからなのだろう。俺達はいま、全員水の中にいるのだ。
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