どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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circus man

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かこん、と氷が割れる音にはっとして顔を上げると机越しに書類に目を通す政宗さんが視界に入った。

「…?どうした」
「いえ、ちょっとぼーっとしてました。」

6月の終わり、初夏に彼は可笑しそうに笑って目を細めた。それが俺には、唯一と言っていいほど、そっくりな本物であったのだ。

「悪いな。学校で疲れてるのにこっちに来てもらって」
「ううん。今日はテストだけでしたし。俺ここ初めて来たんですけどすごいですね」
「一応、表向きは普通の会社だからな。」

そう言うと政宗さんは"社長机"の横で同じく書類をチェックしていた"秘書"の北谷さんに書類を渡した。

「いや~このクッキー美味しいですね冰澄さん」
「おいハゲなんでてめぇがティータイムしてんだ沈めんぞ」
「黙れクソカス谷、大人しく書類となかよしこよししてな」

今日も片桐さんと北谷さんはいがみ合ってるけどこれでもお二人は結構仲がいい。2人で飲んだりオールしたりしてるらしい。

今日は、社長さんな政宗さんの仕事姿を観察、というわけではなくマンションの引越し作業があるらしくじかんをつぶすためだけにきた。どうやら今でも十分広く綺麗で高そうなマンションからもっと広く綺麗で高級なマンションへ移動するらしい。
なんで?と問いかけても彼は、いつも優しく笑って「気まぐれだ」だなんて言うけど、俺は知っているよ、俺のためなんでしょう。それだけが言えないままいる。

言わないけど、俺の周りに沢山人が増えた。護衛の人だったり、友達といえるような存在だったり。でも全部彼が俺にくれたものだったり、彼が"置いて"おいてくれて俺が拾えたり。

だけど俺は何かを返せもしてないのだろうか。
不意に過った考えが鷲掴みにされた。

「冰澄、変なこと考えてんだろ」

目の前に引き戻されれば、濁った紅茶の香りがあった。

「そんなこと」
「考えただろ」

政宗さんは、書類から目を離して俺を見つめた。

「冰澄、あまりしょうもねぇこと考えてんじゃねーぞ。お前の時間無駄にする気か?」

その説教じみた言葉に素直に頷いてしまうのは、この考えがしょうもないことだとわかっているからだろうか。政宗さんは書類を乱暴に置くと席を立った。手の中のぬるいぬるい紅茶を奪われるのと同時に政宗さんが口角を上げた。

「無駄にするなよ、高校生の夏休みなんて一瞬だぞ」

そう言うと彼は俺に触れるだけのキスをくれた。


****

鳥の声なんて聞こえはしないほど、マンションは高いけど、いつものように明るい日差しと俺の髪を撫でるその感覚に目を覚ました。

「…んー…?」
「朝だぞ。遅刻してもいいのか?」

政宗さんの言葉と、時計の針の向きで朝が来たことはよくわかるが俺はベッドの上で布団に潜り込んだ。

結局すぐに政宗さんにベッドから引き抜かれたのだが。身支度を済ませて、いつものようにテレビをつけると、テーマパークの特集中だ。
そういえばこういうとこは行ったことないなぁ…としみじみ感慨深く思っていると、目ざとく(今日の政宗さんのスケジュールを確認しに来ていた)北谷さんが、首をかしげた。

「冰澄くん」

そう呼ばれるようになったのは、尚也くん(友達になった。)との件があってからだ。どこか雰囲気も柔らかくなった北谷さんは、おもむろに口を開いた。

「そういったところに興味が?」
「え!?どうしてですか?」
「いえ、普段より食い入るように見ていたようなのでもしかして行ったことないとか…」
「そんなに見てましたかね…?確かに行ったことないなぁ…」

言ったことないからといって別段珍しい事でもないとは思うが北谷さんはゆっくり目を細めてから、自分の後ろにいた政宗さんを振り返った。

「プレミアムチケット2枚で大丈夫ですか?」
「いや、片桐と弟とお前の分も、買っとけ。いちいち別々にする方がめんどくさい」
「組長のポケットマネーからですか?」

政宗さんは北谷さんの言葉には返さず、黒いカードを北谷さんに押し付けてから立ち上がった。黒いシャツに、いつものようなネクタイはついていない。ヤクザさんにもクールビズがあったようだ。

「冰澄。そろそろ出るぞ。学校まで俺のとこに乗れ。どうせ今日は方向が同じだ。それと、今週の土曜は空けとけよ。」

え、と言う暇もなく、俺は政宗さんの意地悪そうな笑みを呆然と見つめた。
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