どうしてこんな拍手喝采

ソラ

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ミンミンゼミが泣き叫ぶ中俺はゆっくり校門をくぐった。
世は夏休み。学生は舞い踊り昼まで寝る。そんな時期だが俺は朝から学校にいた。

「よー冰澄ぃー」
「先輩だらしないですよ」

部室に入ると真っ先にソファで寝転んでぐだぐだする誓先輩がいる。そう俺たち軽音部に夏休みはない。


「部活?夏休みに入ったのにわざわざか?」
「えぇわざわざですよ」

一週間にごくまれに政宗さんは朝帰りをするときがある。俺が起きてきてちょうど政宗さんが疲労感満載(それが感じ取れるのは俺だけらしい)で眼の下には薄い隈を一緒に連れて帰ってくる。今日はまさにそんな日で、政宗さんはネクタイをゆるめると怪訝そうに不機嫌そうに顔をしかめた。

「学校祭もおわっただろ、なんでまた」
「毎年俺たちライブハウスで夏休みの最後にミニライブ開くんですよ。それの練習で。今年はなにせ誓先輩が赤点とったりで時間削られちゃってかつかつの練習時間なんです」
「まさか毎日いくとか言わねぇよな?」
「そんな…そんなそんな…」

ジト目で俺を見てくるその視線から逃げようと鞄を肩にかけながら目をそらした。

「おい、待て。…くそ人がせっかくゆっくり可愛がってやろうって時に」
「結構です、ノーセンキューです」
「最近ご無沙汰だろうが、我慢ならん」
「おじさんみたいな言い方ですよ政宗さん」

あ?なんてどすの利いた声に包まれた俺は本能的に危険を感じ取ったのでそそくさとギターを肩にかけた。

「……冰澄、週末は空けとけよ」

獣なんたるや、不機嫌を隠しもしない顔の政宗さんを髪をかきあげた。
俺は、もう呆れ半分子供を相手にしているような気分で返事を返してから廊下に足を進めた。だがそれにしても政宗さんの最近の疲れようは半端じゃない、北谷さんや片桐さんにそれをなんとなく言ってみても心当たりはあるようだが「あー…まぁ冰澄さんは気にせんでください」なんてはぐらかされるのだ。

「おはよーございます」
「あ、高梨さんおはようございます」
「今日も学校なんてほんとお疲れ様ですね。」

今日の運転手はどうやら高梨さんのようで、先日のテーマパークの時点では金髪だった紙が青色に変化していた。

「あ、これすか?桜介のカラー剤の残りでやられたんですよ」
「え!桜介くん染めちゃったんですか?」
「ん、いやいや毛先だけ青色にね。あいつ冰澄さんにあってからますますバンドにのめりこんで、ついにはピアスにもあこがれをもち髪も~なんてカッコつけ始めちゃったんですよ。んで染めるの初めてだから俺が深夜に呼び出されて」
「相変わらず仲がいいんですね。」
「ただのパシリですよ」

そんなことをいう高梨さんだが表情はいたってどこにでもいる父親の顔だ。
やっぱり高梨さんと桜介さんは親子で高梨さんはちゃんと桜介君を息子として愛してるように感じた。

「…なんで一緒に暮らさないんですか?…息子さんと」
「おどろいたねぇ、知ってたの」

ひょうひょうと車を運転する様は全然驚いた様子でもなく、そんな光景が政宗さんとかぶった。

「…やくざもんってね。難しいんですよ。普通の家族の形をしらねぇーもんだから。つくるなんて、無理でしょ」
「高梨さんのお父さんは陣さんですよね。そうなると高梨さんは辻間さんの」
「孫。ついでに言うと組長は…政宗さんは俺の従兄。冰澄さんのことだから気付いてるだろうなって思ってたよ」

彼らは気付かれないようにしているらしいが、どうにも”それ”は漏れ出ている。
内にひそめた狂気と圧倒的畏怖だ。
なんとなく俺がわかったのは、辻間さんの息子さんの陣さんと、陣さんの息子さんの高梨さんたちと政宗さんの血筋は少し違うような気がするということだ。
高梨さんよりも政宗さんのほうが年上で、高梨さんは政宗さんの下についてる。

「政宗さんと辻間会長はとても似てたんですけど。従兄にしては高梨さんと政宗さんは似てませんよね?」
「うーん。ここもちょっと複雑でね。親父と政宗さんのおふくろさんは腹違いの姉弟なんですよね」
「腹違いの…」
「そう。俺の親父の母親は正式な妻で、政宗さんのお袋さんのお袋さんはいわゆる愛人ですよ。と言っても俺んとこのババアと爺さんが結婚するもっと前に政宗さんのおばあさんとは別れてた、…ってのは表だけで俺のババアとじいさんの縁談の話が組で出てきたから政宗さんのおばあさんは自分から身を引いて姿をくらませたんですよ。どっかの漫画見たいでしょう。」
「…そのときすでに政宗さんのおばあさんは妊娠してたんですね」
「そうです~。ドロドロになると思われたんだけど、じいさんはわかったとき金銭支援だけでこっちには引きずり込まなかった。なんでだと思う。政宗さんがもう生まれてたんだよ」
高梨さんのその言葉は遠回しに俺に伝えた。
随分、時間が経っていたのだ。

「政宗さんがこっちに入った理由は、俺もよくわからないんですよ」
「……俺もまだまだ何も知らないんですよ」

高梨さんは学校前で車を止めてから俺のほうを向いて笑った。

「でも、いま政宗さんのことよく知ってるのは冰澄さんだとおもうよ」

その言葉にぎこちなく笑顔を返す、何もできない自分がすこし嫌いだ。

ー奪われることは怖い。

なぜいまその言葉を思い出したんだろうか。政宗さんがあの日俺に決して見せたくなかったであろうあの顔を、俺はふいに思い出した。


「あ、そうだ、冰澄さん」
「え、はい!」
「今日の午後から、桜介と楓が来るんですけどかまってやってもらっていいですか、俺も一応いるんで」
「桜介くんたち来るんですか?」
「見学兼遊びですよ」

少年のように笑う高梨さんにつられて笑みがこぼれた。彼は本当に桜介くんと楓さんが大好きで大切なようだ。
俺から見る彼らは立派な家族で、形はすこし歪で不思議だが、その空気はどこか居心地がいい。俺は大きくうなずいて「ぜひ、たのしみです」と返した。

ミンミンゼミが泣き叫ぶ、夏の始まり、干からびてしまいそうな太陽の光がじわじわと何かを焦げ付かせる。

干からびてしまいそうなほど、暑かった。




-end-
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