憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA

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一章

7.贈り物

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付き合い始めた週末、二人は永瀬の車で東京近郊にあるショッピングモールに来ていた。
とある自然派レストランがそのモール内に関東初出店したと聞いて、行ってみたいと香澄が口にしたことがきっかけである。
レストランはオープン直後とあって、特に週末は混雑するらしい。そのため開店時間より早めに到着してレストランの順番を取ると、時間が来るまでモール内を散策することにした。

永瀬と手を繋いで歩きながら、香澄はこの数日で激変した自分の日常を思い返していた。

(――先週の今頃は、まさかこんなことになるなんて考えてもみなかったな…。それも、よりによって永瀬さんとだなんて…)

すぐ隣を歩く永瀬にちらりと視線を向けてみる。
スーツ姿しか見たことがなかったので、シャツにジーンズ、スニーカー姿の彼は新鮮だ。もともと長身で整った顔をしているので、カジュアルな私服姿でも十分にかっこいい。
車の運転だってすごく上手で、慣れた手つきでハンドルを切る仕草や難なく駐車する彼を、香澄はさりげなく何度も盗み見ては胸をときめかせた。
隣にいるのが大して見栄えのしない自分で申し訳なく思えてくるほどに。

「あ、可愛い…」

通りかかったとある雑貨屋の店先で飾られたネックレスを見て、香澄は思わず声を上げた。
ピンクゴールドの細いチェーンの先にハートが意匠化されたそのネックレスは、華奢きゃしゃなのに存在感がある。控えめなアクセサリーを好む香澄が目を引かれるのも当然のことだった。

「これ?」

香澄の視線の先を追って、永瀬がネックレスに手を伸ばす。そしてそれを手に取ると、香澄の首元に合わせるようにして広げた。

「いいね。似合う」
「そうですか?なら買っちゃおうかな?」

調子に乗った風を装い、冗談めいた口調で香澄が言うと、それなら、と永瀬が続けた。

「俺が買ってもいい?」
「えっ」

その言葉は予想外だったので、香澄は驚いて永瀬を見上げた。しかし彼は本気のようで、早くも会計の場所を確認している。

「あの、ごめんなさい、そんなつもりでは。それに買うなら自分で払いますので…!」
「俺が買いたいんだ。彼氏としてプレゼントしたい」

彼はそう笑うと「ちょっと待ってて」と言い置き、一人会計へと行ってしまった。そして支払いを終えてあっという間に戻ってくると、ギフト包装された小さな紙袋を差し出した。

「今度着けてるところ見せてくれると嬉しい」

期待を含んだ微笑みと共に思いがけない贈り物を受け取った香澄は、掌に収まるそれを呆然と眺めた。

初めて彼からもらったプレゼント。身に着けられるものというだけで、特別な意味を感じる。
――いや、特別なのだ。だからこそ贈られた。
そして香澄にとって彼がそうであるように、彼にとってもきっと…。

(私なんかが、なんて、卑屈に思わなくていいんだ)

本当は、彼に想いを打ち明けられて以来、心のどこかでずっと不安だった。
自分に自信がないから、誰かに申し訳ないような気がしていた。
だけど、きっとそんな必要はないんだ。好きだと言ってくれた彼のその想いを、ただ信じていれば。

そう思ったらなんだか心強く思えた。
だから香澄は顔をあげ、思い切って言った。

「今、着けます。…着けてもらってもいいですか?」

その言葉に永瀬は一瞬目を見開いたが、すぐに「もちろん」と笑った。
香澄は丁寧にネックレスを袋から取り出し、永瀬に手渡す。肩まである髪を片側に流して彼に背中を向けると、永瀬が後ろからそっとネックレスを着けてくれた。

「…どうですか?」

ネックレスの位置と髪を整えて緊張気味に彼を振り返ると、そこには香澄を見つめて満足気に笑う彼がいた。

「よく似合ってる。可愛い」
「…ありがとうございます。大事にします、会社にもつけていっていいですか?」
「もちろん。楽しみにしてる」

永瀬は頷くと、行こうか、と彼女に手を差し出した。その手を香澄が握って、二人は並んで歩き出す。
彼女の胸で光るネックレスは、自分が彼の恋人であることの証明に思えて、香澄を幸せな気持ちにさせた。それと同時に彼女は、自分も彼を同じ気持ちにさせたい、と願った。

「あの、私も永瀬さんに贈り物したいです」
「え」
「何がいいですか?欲しいものとかあります?」
「いや、俺は別にいいよ。大して物欲ないし」
「私も彼女として、プレゼントしたいんです」

その理由を出されては、永瀬も断れないようだ。
永瀬は暫し考えを巡らせると、それなら、と言った。

「仕事で使えるものにしようかな」
「仕事で使えるもの…ネクタイとか…?」
「いいね。選んでくれる?」
「はい!」

それから二人はショッピングモール内のスーツ専門店を訪れ、香澄の見立てでネクタイを購入した。
彼女が選んだのは寒色系のレジメンタルタイ。見つけた瞬間にこれだと直感した。

「だって、課長になられてからはよくネイビースーツ着てますよね。色味的に絶対合うと思います」

選んだ理由を香澄が伝えると、永瀬は一瞬目を瞬かせてから、やけに嬉しそうに微笑んだ。

「…うん。ありがとう」
「ネクタイでそんなに喜んでくれるなんて、嬉しいです。また贈らせてくださいね」

香澄はそう笑ったが、実のところ、永瀬が喜んだのはネクタイが増えたからじゃない。
"課長になってからよくネイビースーツを着ている"――それを彼女が知っていたことが嬉しかったのだ。
なぜならそれは香澄が永瀬を見ていた証拠に他ならないから。
だが残念ながら、彼女は自分が思わぬ暴露をしてしまったことに気付いていないらしい。

「俺も早速来週、つけてく」

そう宣言したら、香澄も嬉しそうに笑って頷いた。
それはあまりに柔らかく、いつか見たありのままの笑顔そのものだったから――愛しさが溢れ出して、永瀬は人混みの中にもかかわらず、思わず彼女をぎゅっと抱き寄せた。

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