憧れの彼は一途で優しくて時々イジワル

RIKA

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一章

14.近づく温もり

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数人で帰宅したものの、香澄と同じ方向の人は永瀬を含めて五人だった。
彼とは、初めて食事したターミナル駅で落ち合うことにした。
仕事帰りに食事する時は香澄の最寄駅まで永瀬が来てくれることが多いが、今日は他の社員も一緒なので、敢えてのことである。
夫の迎えがある町谷とは駅前で別れたし、他三人は営業の社員なので、香澄が普段使う路線を知らない。
だから誰に訝しまれることもなく、彼女は永瀬と同じ路線の改札をくぐることができた。
問題はターミナル駅に着いた時、どうやって怪しまれず彼と二人になれるかということだったが、三人とも途中の通過駅で下車したので、偶然にも最後に残ったのは香澄と永瀬だけ。待ち合わせする必要もなく、二人きりになれた。

時間帯が時間帯なだけに、下り電車はとても混雑していた。
二人になった後は、永瀬がかろうじて壁際で盾となり香澄を守ってくれている。しかし数センチにも満たない距離にある彼の匂いや温もりに、香澄は胸の高鳴りを隠せないでいた。

「…平気?」

頭上から声をかけられ、香澄は頷く。目の前には彼の広い胸、視線を上げれば彼の顔がある。
お酒のせいか顔が火照って、まともに彼の視線を受けることができない。

「はい。永瀬さんこそ、大丈夫ですか?」
「うん。悪いけどあと一駅、我慢して」
「…はい」

やけに速い胸の鼓動に気付かれないようにできる限り彼に触れないよう距離を取るが、あまりに近すぎて無駄な足掻きなのかもしれない。

「…っ!」

突然、香澄の耳元に吐息がかかって、反射で首をすくめた。
気付けば、頬の横に永瀬の顔があった。彼の吐息が香澄の耳を撫でて、身体の奥がジンと疼いた。

「ごめん…混んでるから」
「い、いえ…」

耳が一気に火照ったのが自分でも分かった。横髪でなんとか隠して、視線を足元に泳がせる。

(…どうしよう、ダメだ。私の周り、全部永瀬さんしかない。匂いも、視界も、温もりも――)

何度かキスもしてるし、抱き寄せられたこともある。でもそのどれもが数秒程度だったから、こんなに長時間密着するのは、実を言うと今回が初めてのことだった。

香澄がひたすらじっと耐えていると、はあ、とすぐ横からため息が聞こえてきた。

「…キツイな」

独り言のように呟かれた一言。
何がキツイのか香澄は疑問に思ったが、きっとこの満員電車のことだろうと解釈した。
とそのとき、急に電車が大きく揺れて、香澄は咄嗟に目の前の胸にしがみついた。
それとほぼ同時にそれまで壁に手をついていた永瀬の腕が香澄の背中に回る。――彼女は、抱きしめられていた。
そして揺れが収まってもその腕が元の位置に戻ることはなく、香澄は満員電車の中でずっと彼の腕に包まれたままだ。

二人の間には、もはや距離など存在しない。触れ合ったところから、お互いの体温が直接伝わってくる。
こんな人混みの中では、これほどの接近は仕方がないこと。赤の他人でさえ、触れてしまうことは珍しいことではない。
けれど、相手が永瀬ならその意味は全く変わってくる。

こんなに近いのに、彼なら不快じゃない。
むしろ、もっと近くにと思ってしまう。
心のどこかで、この温もりに安堵している。
香澄は無言のまま、彼のジャケットの袖をぎゅっと握った。はぐれないように、離れないように。
そうして通り抜ける時間を待っている。
もっと長くこうしていられたらと願う本心を、その裏に隠して。
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