お飾り結婚だからと自由にしていたら、旦那様からの愛が止まらない

よどら文鳥

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1話 二人からの婚約宣言

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「俺と婚約してくれよ、レイチェル=ヴィニア!」
「何度も申していますが、ガルムさんの申し出はお断りです」
「俺はこんなにレイチェルのことを愛しているというのに、なぜわかろうとしない?」

 やっかいな男に狙われてしまって、私、レイチェル=ヴィニアはウンザリしている。
 ガルム=バケット子爵令息の視線は、私の胸に容赦なく向けられている。視線から外れるよう背を向け、子爵家から帰ろうとした。
 しかし、私の腕を掴まれた。

「確かにレイチェルの両親からは許可を得られていない。だが、それはおまえが説得すれば状況も変わるだろ?」
「いえ、ですから私個人としましてもお断りです。バケット子爵とは今後とも領地関係でのご縁は大事にしていきますが」
「結婚すればさらに深い関係でいられるだろう。お互いに利益しかないと思うが」

 お父様=ヴィニア伯爵は王都から馬で一日ほど走らせた場所の領地を管理している。
 そのさらに奥にある小さな村がバケット子爵の領地だ。
 互いの領地が近いため、持ちつ持たれつといった関係が続いている。そのため、求婚に対して強く断れないのが辛い。

「サラサラな長い金髪も美しいし、豊満な胸もムラムラする。大きな目もエメラルドの瞳も、全部俺の好みなんだよ」

 ガルムは貴族令息であることを武器にして、裏では民衆の女性たちを好き勝手しているという噂だ。
 しかも飽きたら捨て、泣かされた女性は数知れずらしい。
 求婚されるようになってからも、身体のことばかり言ってくるし、愛というよりも欲求が全てのようにしか思えない。

 そもそも私は男性に興味がなく、領民が幸せに生活できる環境づくりに貢献することが好きだ。
 家で雇うお金を全部、領地の発展や恵まれない領民に還元できればと思って、家のことは私が管理するようになった。
 料理をしたり掃除をしたりと、使用人がするようなことを始めたのだが、これもなかなか楽しい。
 令嬢度がゼロだが、お兄様が爵位を継ぐし、お姉様も二人いるため、私の婚約は好きにして良いと言われている。

 未婚でも幸せな毎日を過ごしているのだから、嫁ぐ予定はない。

「では私は用事も済んだので失礼します」
「待てよ。婚約できない正当な理由を聞かせ――」

 ガルムの話を聞かずして扉を閉めた。
 はぁ……領地で収穫した調味料を提供するための書類を、バケット子爵に届けるだけの用事だったのに、足止めが大変だった。

 このままではいつまで経っても諦めてくれそうにない。
 なにか手を打たなければ……。

 ♢

 余計な時間を使ってしまったため、今日の晩餐は普段よりも簡単なものを用意した。
 お父様は基本領地生活、お姉様二人はすでに貴族家へ嫁いでいて、お母様は病気で天国へ旅立ってしまっている。今は基本的にはお兄様と二人暮らしだ。
 今日はお父様が帰られているため、三人で食事をするのは久々だった。それなのに準備が不十分なのが悔やまれる。

「あぁ……レイチェルが作る料理は美味い、美味すぎる。もう領地へ戻りたくない」
「ダメです。しっかりと領民を守ってくださいね」
「控えめに言っても、ベテラン使用人より優秀だ。料理は王宮のシェフレベル、掃除も丁寧かつ素早い、庭の手入れも芸術のよう」
「父上の評価も納得できる。こんなに頑張って、レイチェルは使用人にでもなるのかい?」
「いえ、ただの趣味ですよ。それに、今日は二人とも手伝ってくれたではありませんか」

 お父様とお兄様は散々ベタ褒めしてくれるが、家族揃って力を合わせているからこそ上手くいっているのだ。

「ところで……レイチェルに会いたいと言っているお方がいるのだが」
「どちらさまですか?」

 お兄様が申し訳なさそうに話しているため、おそらく男性だろう。
 それも身分が上のお方に違いない。

「ハイド=ラフィーネ公爵令息だよ」
「なんのために……」

 その名前を聞いて、私だけでなくお父様も驚いていた。貴族民衆問わず絶大な人気があるからだ。
 ハイド=ラフィーネ様は公爵家次男で、王都の貴族関係者ならずとも民衆でも知らない人はいないだろう。

「彼は隣国との紛争を止め、さらに友好国となるよう導いた国の救世主。いっぽうで女性が大の苦手。会話すらまともにしないし、大変クールで異性には冷たい。だが、なぜかレイチェルとは話をしてみたいのだと」

 私も何度か見たことはあるが、体格容姿共に見た目の面でも人気があるのは納得できる。

 性格を象徴するかのようなダークに染まっている片方の目元まで隠れるほどの黒髪。その奥にはクールな性格を象徴するかのような赤色の瞳。
 縁談の話を持ち込んだ女性たちには冷酷な対応で断り続け、今となっては、誰ひとり縁談を持ちかけようともしない。それでも人気がある。
 なにしろ国を救ったのだから。

「わかりました」
「え? 良いのか? 」
「縁談を断り続けているそうですし、そういう関係のお話ではないでしょうから」

 そもそも私のような自由気ままな女に対して、格上の勇者のようなお方が相手にしてくるはずもない。

「確かにレイチェルとなぜ話してみたいのかまでは聞いていないが……」

 私には結婚願望もなければ異性との恋愛に興味がない。
 どんなにハイド様の人気が高かろうとも凄いお方だとは思う反面、やはり異性としての意識はないのだ。

「仮に縁談話関連でしたら、お姉様方に話があったかと思いますよ」
「そうか、わかった。では先方には会う方向で伝えておこう」

 仮に公爵家から縁談の話を持ち込まれたら、立場上断ることはほぼ不可能。
 だが、今まで女性関係の話が全く入ってきていなかったし、おそらく私と同じ感覚なのだと思う。
 ガルムの影響である程度の対応策も身についた。
 恐れることなどない。

 と……思っていたのだが。

「突然すまないな」

 ハイド様がわざわざヴィニア家にお越しくださった。
 しかもこんな日に限って家には私しかいない。

 ともかく挨拶をしてできる限りのおもてなしを……。
 ひとまず応接室へ案内し、そこに座ってもらった。

「お初にお目にかかります。レイチェル=ヴィニアでございます。本日はお招きくださりありがとうございます」
「ん。ハイド=ラフィーネだ。さっそく本題に入りたいのだが、レイチェル=ヴィニアさんと結婚したい」

 嘘でしょ!?
 まさかの言葉に私の動作は停止した。
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