お飾り結婚だからと自由にしていたら、旦那様からの愛が止まらない

よどら文鳥

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2話 お飾り結婚

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 ハイド様は冷静そのもの。
 ガルムのように嫌らしい視線を向けてくることも一切ない。
 普段から領地の取引をすることが多い経験上、むしろこの話もなぜか取引をしていますといったような雰囲気にすら見える。

「失礼なことをお伺いしてもよろしいでしょうか?」
「あぁ」
「ラフィーネ様とは初対面かと思いますが」
「そうだな」
「なにか政略的に利益があるとお考えでの結婚でしたら、間違えているかと……」

 遠回しにだが、お断りしたいと訴えている。
 しかし、ハイド様はこのタイミングで薄らと笑みを浮かべた。
 あぁ、確かに誰が見てもカッコ良いと思うのかもしれない。

「ヴィニアさんは、私の理想だ」
「んがっ!?」
「ヴィニアさんが言うとおり、失礼ながらまさに政略婚、いや、お飾り婚というべきか」

 私のことが理想だと言われている意味が全くわからない。
 世の女性なら容姿に負けて喜んでしまう人もいるかもしれないが、とても迷惑な話だ。
 だが、相手は公爵次男坊だし断れるわけがない。
 それとなく結婚したい理由を聞いて、ハイド様が描かれている理想とは全く違いますよーと思ってもらうしかない。

「なにかラフィーネ様にメリットがあるのでしょうか?」
「あぁ。結婚とは言っても、ヴィニアさんを縛るようなことはしない。むしろ自由だ」
「えっ!?」

 むしろ私の理想を言ってきたため、逆に興味がわいてしまった。

「公爵家で住むことにはなってしまうが、形上籍を入れてもらうだけだ。ゆえに私のことを相手にしなくて構わない」
「つまり……食事も寝る部屋も別でも良く、結婚生活において縛られることがないと?」
「あぁ」
「昼間、実家に戻って家事をしたり、お父様の領地運営のお手伝いをしたりしても……?」
「あぁ、もちろん自由にしてくれて構わない」

 なんという至れり尽くせり。
 条件面がかなり魅力で、初めて結婚しても良いんじゃないかと思うようになってしまった。

 正式に籍を入れてしまえば、ガルムもさすがに諦めてくれ、穏便に領地運営ができるかもしれない。

「どうしてそこまで……。それは私でなくても良いのでは?」
「いや、ヴィニアさんでないとダメなんだ!」

 綺麗な髪で隠れていない側の赤色の瞳からは、真剣そのものといった雰囲気。
 ここまで言われても全く異性として見れなくて、どうしようか困っている。
 結婚となれば、たとえ政略でも意識しなければというのに。

「聞いた話だと、ヴィニアさんは異性に全く興味がないのだと」
「はい……」
「そこが良い。実は私も異性に対しての興味が全くない。むしろ正直数々の縁談話や交渉で疲れている……」

 意中にない相手からしつこくされると疲れる。お互い苦労しますね。

「私の兄上が、隣国の王女のところへ婿入りしたことを知っているか?」
「あ、はい。もちろん存じておりますよ。友好国としての象徴だと世間では大賑わいでしたから」
「それゆえに、私が公爵家の跡取りとなってしまった。どうしても結婚はしなければならなくなって。だが、今までの縁談話などは名誉や見返りを求めたことばかりで、正直辛かった」

 ハイド様の話を聞いていて、だんだんと私に声をかけてきた理由がわかってきた。

「ヴィニアさんなら、私にそういった意識はしないだろうと思うのだが、……どうだろうか?」
「大変失礼ながら……仰るとおり、全く男性としての意識はありません」
「ははは、それで良い。だからヴィニアさんが理想なんだ。お飾りとしていてくれるだけで良い」

 口にはしていないが、ハイド様も私に対して女としての意識はないのだろう。
 むしろそれならば今の私にとっても縁談を断る理由が見つからなくなった。
 お父様からも、将来的に私は結婚してもしなくても良いし、仮に結婚相手は見つかったとしても自由に決めてもらって良いと言われている。

「結婚、よろしくお願いします」
「ありがたい。だが、この縁談が身勝手すぎることは重々承知だ。せめてもの償いになるのかはわからないが、縁談の条件としてこちらも確認してもらいたい」

 これは交渉にとても大事な条件面の提示か。
 書類に目を通した。

 恐ろしすぎる条件面で、私の手が震える。

 なんと、結納金として本来の相場の十倍を用意すると書いてある。しかも結婚している間、ヴィニア伯爵家に使用人を配属させてくれるらしい。
 仮に離婚する場合、いかなる理由でも夫側から慰謝料を請求するようなことはしないと……。
 使用人に関しても結婚している間と書いてあるだけに、政略婚という理由で離れることも想定しているのか。

 正直結納金は大変ありがたい。
 先日領地内で天災に見舞われ、その修復費用をどうしたものかと悩んでいるタイミングなのだ。

 さらにそれだけではなく、私の自由を保証してくれるものばかり。
 この結婚、私にしか利益がないようなものばかりだ。

「納得できなければ他の条件も出すが」
「むしろこんな至れり尽くせり、よろしいのですか?」
「問題ない。私も救われるのだから」

 ハイド様が微笑んでいる姿が凛々しい。

 交渉のような婚約は成立した。
 帰り際、馬車に乗ろうとするハイド様が私に顔を向けた。

「よろしく、レイチェル」

 婚約相手に対する社交辞令として名前を呼んでくれたのだろう。
 これからは私もハイド様と呼ぶようにしなければだ。社交辞令として。

 お父様やお兄様は驚かれていたが、むしろ理由はなんであれ喜んでくれていた。
 なお、結納金に関しては話していない。それを気遣って結婚したんじゃないかと疑われてしまいそうだからだ。
 私だって結婚しようと思ったのはこの件を知る前。
 住む場所は変わるけれど、今までと同じような生活が平穏にできるならばありがたい。

 お金に関して話さなくとも結婚を喜んでくれたのは、私の性格を知っているからこそ、お飾り結婚のようなものでも納得してくれたのだと思う。

 あっという間に結婚の流れになり、正式に入籍手続きも完了した。
 私は今後、レイチェル=ラフィーネと名乗ることになり、公爵家での生活が始まる。
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