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7.揺れる心
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「颯、お前、顔やばい。」
同行での外出の帰り道。蓮は、険しい顔をして言った。
あの日から、もう2週間ほど経っていた。
「顔が、なんだよ。」
「あれだ、あれ・・あれに似てる。不動明王。」
渋い例えに少し笑いが漏れる。
笑いが出たことに安心したのか、蓮が続けた。
「榛名さんと何かあった?橘も流石にその顔じゃ絡めねーよ。やり辛いから勘弁して。」
あー、と上を向く。
俺なんかより、蓮の方がずっと、主任だったり、人の上に立つのに向いていると思う。
「取り返しつかないことしたんだよ、俺・・」
聞かれていないのにボヤくように続ける。
「まじで自分死ねと思ってる。今。」
会社で常に顔が見える場所じゃ、辛いわなぁ。
そう返す言葉に、何を言ったかは聞かない蓮の気遣いを感じる。
思い出したくもない、自分の言葉。
俺は何回繰り返せば、気が済むんだろう。
あの日は旭に言われるがまま、どうする事も出来ずに帰った。
「私たち、やっぱり駄目なんだと思う。」
去り際に言われた言葉が、頭から離れない。
桐山がどうとかいう話じゃない。
これは、俺の問題だ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
旭は、颯の怖い顔を見るたびに、ため息をついていた。
颯の激しい感情に驚いた。そして、憎からず思ってくれているのは分かった。
でも
あの、冷たい言葉を思い出す。
あんな言い方、無い・・
何も、分かってない。
思考は混乱して、上手く纏まらない。
やっぱり一度駄目になったものは、もう駄目なのかもしれない。
「榛名さん、何ボーッとしてるの!」
その言葉で現実に引き戻される。
「はい!」
急いで香月の下に駆け寄った。
桐山とは、会わないように避けていた。
あの日、一瞬で心に入り込んできたあの人に、会いたくなかった。
今は、特に。
自分がぐらぐらになっている今、会ってしまったら。
簡単に流されてしまう。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
数日後、避け続けてきた相手に、旭はエレベーターでばったりと会ってしまった。
また急ぎの資料の修正で残業、時間は22時過ぎ。
最近は心配そうにこちらを見る颯も、声をかけ辛いのだろう、何か言いたそうにしながら、旭の机にこっそりコーヒーや栄養ドリンクを置いて、帰っていく。
遅い時間にエレベーターに乗っていたのは桐山一人で、飛び込むように乗り込んで、自分を見て目を丸くする旭に、「お疲れ様」と不敵に笑った。
助手席で、はぁ、とため息をついた旭を桐山は横目で見た。
「自分で言うのもなんだけど、俺は女の子を助手席に乗せて、そんなため息をつかれるのは初めてだよ。」
ずるすると引きずられるように助手席に乗せられた旭は、鞄を胸に抱え、小さくなって座っていた。
「隙を作らないようにしてるの?」
くすくすと可笑しそうに笑う。
そんなに固まらなくても、大丈夫だよ。
話題を仕事の話に変え、香月の話や橘の成長について聞きたがる桐山の横顔には、あの日の気配は見えない。
お願い、今は、踏み込まないで。
心で強く祈った。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
そんな旭の願いも虚しく、旭のマンションの前にとまった瞬間、素早くシートベルトを外した桐山は、ドアを開けようとした旭の手を抑えた。
「いつでもおいでと言ったけど、君は、待ってても来てくれなさそうだね。」
「やめてください。」
そう言って、流されそうな自分を抑え、上目遣いで睨む。
余裕の表情だった桐山の顔が少し歪んだ。
「本当にやめてほしいなら、もっとちゃんと抵抗してほしいな。」
はぁ、とため息をついて、旭の肩に額を置いた。
「今君が抱えてるもの、そのままでいい。」
「何も、考えないで。」
耳元で囁かれ、びく、と反応してしまう。
力が抜けた旭に微笑んで、唇に触れそうな距離で、抵抗が無いことを確かめる。
震えながらゆっくりと目を閉じる旭の唇に、桐山は優しくキスをした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
桐山はそれから旭が帰る時間を逃さず聞いてくるようになった。遅い時間になりそうであれば、必ず送ると言う。課長に就任して多忙な桐山は、なかなか早く帰れる状況では無いようだ。
『今日は?』
19時。携帯に届いた短いメッセージにため息をつく。
車で交わすキスは、日に日にタチが悪いものになっていっていた。
「ん・・はぁ、きり・・やまさんっ・・」
絡め取るようなキスは、すぐに私の身体の力を抜いてしまう。
上からくちゅ、くちゅ、と唇を挟み込まれるたびに、甘い息が漏れる。
キスの合間に盗み見た彼は、もう、上司だったときの穏やかさも柔らかさも無い。
「違う・・人みたい・・」
そう口に出してしまった私を見下ろす顔は、少し息が乱れ、何かに耐えるように目を細めている。
ぞくりとした。
「それは・・こっちのセリフだな。」
苦しいのかネクタイを緩め、もう一度顔を寄せてくる。
彼に近付く度に香る、微かな甘い匂いに、思考が溶けていった。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「瀬戸口さん、水瀬さん、ちょっと」
秋も深まった11月下旬、橘はオフィスで、颯と蓮にこそりと声をかけた。
「今週どっかで、飲みにいったりできます?」
颯は、旭を誘わないのは珍しい、と思いながらも、いいよと頷き、その翌日には3人は居酒屋で集まっていた。
ビールをカチン、と合わせ、ぐびぐびと喉を鳴らして、料理をつまむ。
酔いが回ってきたところで、橘が口を開いた。
「・・桐山さんと旭さんって、なんかあるんですかね。」
途端に眉間に皺が寄り、やばい顔と言われたことを思い出してそれを意識的に戻す。
「なんで?」と横から蓮が聞いた。
「いやー、なーんか、たまーに広いフロアで二人が一緒になることがあるんですけど、二人の感じが・・」
「感じが?」
詰まる橘に声を落ち着かせて促すと、少し安心したように続けた。
「二人とも、目があったらペコ、って挨拶するんですけど、前は二人とも、柔らかーい感じで笑い合ってたじゃないですか。」
桐山さんは笑顔なんですけど、旭さんがね。
「無表情というか。さっさと顔そらして、で、そのあとなんですけど、」
桐山さん、ちょっとだけ旭さんの顔、見たまんまなんです。
「ほんとにちょっとなんですけど。」
「その顔が、なんていうか・・いつもの桐山さんじゃなくて、こう、鋭いというか、」
「なーんか、辛そうな顔、してるんですよね。」
颯の歪んだ顔を、橘と蓮がちらりと見る。
旭さん凝視してる俺じゃなかったら、気付かないと思います、と追加する橘に、そこ、誇んなよ、と更に顔をしかめて突っ込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「できてるんですかね」
そう聞く橘に、知らねぇよ、と返す。はぁ、と重いため息が出た。
苦しさに我慢できず、上を向いて絞り出すように言う。
「あー・・ヤッてんのかな・・」
旭が桐山に乱される姿が脳裏に浮かぶ。嫉妬と不快感で吐き気がしそうだ。
「いや、それは無いと思います。」
もぐもぐと枝豆を噛みながら橘は言った。
「何で分かるんだよ」
「ヤッてたら、旭さん、分かりますよ。」
「はぁ!?」
真顔で言う橘に、声が裏返る。橘は唖然としている颯の顔を見て、そのまま目線だけ蓮の方に向ける。
「ね、水瀬さん。」
あー・・と蓮は発して、ちらりと俺の顔を伺いながら、口を開いた。
「榛名さんさ、」
躊躇いながら続ける。
「ただ、寝不足なのかな、って思ったんだよ。」
はじめは。
「でも、なんか、・・こう、たまに仕事の手が止まって、何か思い出すみたいな、顔してて、その顔が・・」
言おうか言うまいか迷い、そこで口を閉じる。
ウンウン、と聞いていた橘がかぶせた。
「めっちゃ、エロいんです。」
「!!!」
言葉を発せない颯に続ける。
「俺、すんません、何回か抜きました。」
「はぁ!!!?」
正直すぎる橘に、何か吹っ切れたように蓮が続ける。
「そんで、そういう日って、お前もなーんか、やらしー目で榛名さんを見てるというか・・二人の間の空気がもう、変なんだよ。」
ほんとっすよ。うんうん、と橘が頷く。
顔がじわじわ熱くなるのが分かる。
「じゃ、・・お前、前から」
「カマはかけましたけどね。分かりますよ、あんなん。」
もーほんと、何の拷問かと思ってました。
そう言う橘にもう言葉が出せない。
「とりあえず、今んとこその気配が無いので、多分ヤッてはないです。」
羞恥と怒りと驚きがごちゃごちゃになり、颯はそれをビールで流し込んだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「桐山、さ・・」
狭い車内で後ろから抱き締められる。首を後ろに向かせて唇を貪られた。桐山を完全に拒否しきれない自分に、嫌気が差す。
もうこんな事はやめる。その言葉をいつも伝えようとし、そう出来ない日が続いていた。
つかず離れずの距離で快楽を与えられ、少しでも嫌がる素振りをすれば、それ以上は求めてこない。
桐山が何を考えているのか分からず、旭は溺れそうになる自分を必死で治める。
キスは耳や、首筋にも降りてくるようになった。
そのたびに反応する自分の身体が恨めしい。
桐山も、日に日に、吐く息が苦しそうになっていく。
許してしまえば、お互いに楽になるのだろうか。
集中していないことを咎めるように、後ろから、耳の後ろを優しく噛まれた。
「ぁ」
小さく出てしまった声に、桐山の身体がびくりと反応した。
ちゅ、ちゅ、と首にキスを続けながら、手が服の裾から侵入してくる。
「ぁ、ちょっ・・」
慌てて抵抗しようとした手を押さえつけられ、
性急に下着を上にずらされた。手が膨らみを包み込む。
はぁ、と熱い息が耳にかかった。
「君は、・・着痩せするんだな」
その言葉に、カッと顔が熱くなる。
首筋に噛み付くようにキスされながら、最初は躊躇いがちに、徐々に荒く揉まれ、旭の息も荒くなっていく。
手で全体を包んだまま、その指の隙間で反応していた突起を挟まれた。
「ん、ぁ・・っ」
「・・ぅ・・」
私の声と反応に、小さく呻く声がする。
きゅ、きゅ、と挟まれる度に身体がびくびくと反応し、それが桐山を追い込んでいく。
「・・めだ」
「え?」
掠れて聞き取れない声を、旭も声にならない声で聞き返した。
「だめ、だ・・君が、求めてくれるまではと、思ってたんだけど、・・ぅ・・はぁ、」
「試すつもりで、いい、から・・」
「俺に許して・・」
刺激と耳元で囁かれる声で快楽に溺れかかっていた意識が、その言葉で覚醒する。
『なぁ、・・試す?』
急に固くなった旭の変化に桐山は気付いた。手を止め、顔を自分の方に向かせる。その旭の表情を見て顔を歪めた。
「今、何を考えてる。」
冷たくなった空気に、旭の身体はぶる、と震えた。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
「今、何を考えてる。」
身体を離してそう聞く桐山の顔を見て、旭は悟った。
この人、本気で私を・・
あぁ、そんな苦しそうな顔、しないで。
決意を固めた顔で桐山を見る。
「桐山さん、ごめんなさい、私・・」
そう言いかけた口を慌てて手でふわりと塞がれる。
先ほどの凶暴な気配は静まった。
少し目を見開いたその顔には、焦りが浮かんでいる。
「言わないで。」
「ごめん、俺が悪かった。」
切ない声に胸が締め付けられる。
ぎゅぅ、と強く抱き締められた。
もう駄目だ。この人をこれ以上、苦しめられない。
熱い腕の中で、旭はそう思った。
同行での外出の帰り道。蓮は、険しい顔をして言った。
あの日から、もう2週間ほど経っていた。
「顔が、なんだよ。」
「あれだ、あれ・・あれに似てる。不動明王。」
渋い例えに少し笑いが漏れる。
笑いが出たことに安心したのか、蓮が続けた。
「榛名さんと何かあった?橘も流石にその顔じゃ絡めねーよ。やり辛いから勘弁して。」
あー、と上を向く。
俺なんかより、蓮の方がずっと、主任だったり、人の上に立つのに向いていると思う。
「取り返しつかないことしたんだよ、俺・・」
聞かれていないのにボヤくように続ける。
「まじで自分死ねと思ってる。今。」
会社で常に顔が見える場所じゃ、辛いわなぁ。
そう返す言葉に、何を言ったかは聞かない蓮の気遣いを感じる。
思い出したくもない、自分の言葉。
俺は何回繰り返せば、気が済むんだろう。
あの日は旭に言われるがまま、どうする事も出来ずに帰った。
「私たち、やっぱり駄目なんだと思う。」
去り際に言われた言葉が、頭から離れない。
桐山がどうとかいう話じゃない。
これは、俺の問題だ。
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旭は、颯の怖い顔を見るたびに、ため息をついていた。
颯の激しい感情に驚いた。そして、憎からず思ってくれているのは分かった。
でも
あの、冷たい言葉を思い出す。
あんな言い方、無い・・
何も、分かってない。
思考は混乱して、上手く纏まらない。
やっぱり一度駄目になったものは、もう駄目なのかもしれない。
「榛名さん、何ボーッとしてるの!」
その言葉で現実に引き戻される。
「はい!」
急いで香月の下に駆け寄った。
桐山とは、会わないように避けていた。
あの日、一瞬で心に入り込んできたあの人に、会いたくなかった。
今は、特に。
自分がぐらぐらになっている今、会ってしまったら。
簡単に流されてしまう。
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数日後、避け続けてきた相手に、旭はエレベーターでばったりと会ってしまった。
また急ぎの資料の修正で残業、時間は22時過ぎ。
最近は心配そうにこちらを見る颯も、声をかけ辛いのだろう、何か言いたそうにしながら、旭の机にこっそりコーヒーや栄養ドリンクを置いて、帰っていく。
遅い時間にエレベーターに乗っていたのは桐山一人で、飛び込むように乗り込んで、自分を見て目を丸くする旭に、「お疲れ様」と不敵に笑った。
助手席で、はぁ、とため息をついた旭を桐山は横目で見た。
「自分で言うのもなんだけど、俺は女の子を助手席に乗せて、そんなため息をつかれるのは初めてだよ。」
ずるすると引きずられるように助手席に乗せられた旭は、鞄を胸に抱え、小さくなって座っていた。
「隙を作らないようにしてるの?」
くすくすと可笑しそうに笑う。
そんなに固まらなくても、大丈夫だよ。
話題を仕事の話に変え、香月の話や橘の成長について聞きたがる桐山の横顔には、あの日の気配は見えない。
お願い、今は、踏み込まないで。
心で強く祈った。
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そんな旭の願いも虚しく、旭のマンションの前にとまった瞬間、素早くシートベルトを外した桐山は、ドアを開けようとした旭の手を抑えた。
「いつでもおいでと言ったけど、君は、待ってても来てくれなさそうだね。」
「やめてください。」
そう言って、流されそうな自分を抑え、上目遣いで睨む。
余裕の表情だった桐山の顔が少し歪んだ。
「本当にやめてほしいなら、もっとちゃんと抵抗してほしいな。」
はぁ、とため息をついて、旭の肩に額を置いた。
「今君が抱えてるもの、そのままでいい。」
「何も、考えないで。」
耳元で囁かれ、びく、と反応してしまう。
力が抜けた旭に微笑んで、唇に触れそうな距離で、抵抗が無いことを確かめる。
震えながらゆっくりと目を閉じる旭の唇に、桐山は優しくキスをした。
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桐山はそれから旭が帰る時間を逃さず聞いてくるようになった。遅い時間になりそうであれば、必ず送ると言う。課長に就任して多忙な桐山は、なかなか早く帰れる状況では無いようだ。
『今日は?』
19時。携帯に届いた短いメッセージにため息をつく。
車で交わすキスは、日に日にタチが悪いものになっていっていた。
「ん・・はぁ、きり・・やまさんっ・・」
絡め取るようなキスは、すぐに私の身体の力を抜いてしまう。
上からくちゅ、くちゅ、と唇を挟み込まれるたびに、甘い息が漏れる。
キスの合間に盗み見た彼は、もう、上司だったときの穏やかさも柔らかさも無い。
「違う・・人みたい・・」
そう口に出してしまった私を見下ろす顔は、少し息が乱れ、何かに耐えるように目を細めている。
ぞくりとした。
「それは・・こっちのセリフだな。」
苦しいのかネクタイを緩め、もう一度顔を寄せてくる。
彼に近付く度に香る、微かな甘い匂いに、思考が溶けていった。
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「瀬戸口さん、水瀬さん、ちょっと」
秋も深まった11月下旬、橘はオフィスで、颯と蓮にこそりと声をかけた。
「今週どっかで、飲みにいったりできます?」
颯は、旭を誘わないのは珍しい、と思いながらも、いいよと頷き、その翌日には3人は居酒屋で集まっていた。
ビールをカチン、と合わせ、ぐびぐびと喉を鳴らして、料理をつまむ。
酔いが回ってきたところで、橘が口を開いた。
「・・桐山さんと旭さんって、なんかあるんですかね。」
途端に眉間に皺が寄り、やばい顔と言われたことを思い出してそれを意識的に戻す。
「なんで?」と横から蓮が聞いた。
「いやー、なーんか、たまーに広いフロアで二人が一緒になることがあるんですけど、二人の感じが・・」
「感じが?」
詰まる橘に声を落ち着かせて促すと、少し安心したように続けた。
「二人とも、目があったらペコ、って挨拶するんですけど、前は二人とも、柔らかーい感じで笑い合ってたじゃないですか。」
桐山さんは笑顔なんですけど、旭さんがね。
「無表情というか。さっさと顔そらして、で、そのあとなんですけど、」
桐山さん、ちょっとだけ旭さんの顔、見たまんまなんです。
「ほんとにちょっとなんですけど。」
「その顔が、なんていうか・・いつもの桐山さんじゃなくて、こう、鋭いというか、」
「なーんか、辛そうな顔、してるんですよね。」
颯の歪んだ顔を、橘と蓮がちらりと見る。
旭さん凝視してる俺じゃなかったら、気付かないと思います、と追加する橘に、そこ、誇んなよ、と更に顔をしかめて突っ込んだ。
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「できてるんですかね」
そう聞く橘に、知らねぇよ、と返す。はぁ、と重いため息が出た。
苦しさに我慢できず、上を向いて絞り出すように言う。
「あー・・ヤッてんのかな・・」
旭が桐山に乱される姿が脳裏に浮かぶ。嫉妬と不快感で吐き気がしそうだ。
「いや、それは無いと思います。」
もぐもぐと枝豆を噛みながら橘は言った。
「何で分かるんだよ」
「ヤッてたら、旭さん、分かりますよ。」
「はぁ!?」
真顔で言う橘に、声が裏返る。橘は唖然としている颯の顔を見て、そのまま目線だけ蓮の方に向ける。
「ね、水瀬さん。」
あー・・と蓮は発して、ちらりと俺の顔を伺いながら、口を開いた。
「榛名さんさ、」
躊躇いながら続ける。
「ただ、寝不足なのかな、って思ったんだよ。」
はじめは。
「でも、なんか、・・こう、たまに仕事の手が止まって、何か思い出すみたいな、顔してて、その顔が・・」
言おうか言うまいか迷い、そこで口を閉じる。
ウンウン、と聞いていた橘がかぶせた。
「めっちゃ、エロいんです。」
「!!!」
言葉を発せない颯に続ける。
「俺、すんません、何回か抜きました。」
「はぁ!!!?」
正直すぎる橘に、何か吹っ切れたように蓮が続ける。
「そんで、そういう日って、お前もなーんか、やらしー目で榛名さんを見てるというか・・二人の間の空気がもう、変なんだよ。」
ほんとっすよ。うんうん、と橘が頷く。
顔がじわじわ熱くなるのが分かる。
「じゃ、・・お前、前から」
「カマはかけましたけどね。分かりますよ、あんなん。」
もーほんと、何の拷問かと思ってました。
そう言う橘にもう言葉が出せない。
「とりあえず、今んとこその気配が無いので、多分ヤッてはないです。」
羞恥と怒りと驚きがごちゃごちゃになり、颯はそれをビールで流し込んだ。
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「桐山、さ・・」
狭い車内で後ろから抱き締められる。首を後ろに向かせて唇を貪られた。桐山を完全に拒否しきれない自分に、嫌気が差す。
もうこんな事はやめる。その言葉をいつも伝えようとし、そう出来ない日が続いていた。
つかず離れずの距離で快楽を与えられ、少しでも嫌がる素振りをすれば、それ以上は求めてこない。
桐山が何を考えているのか分からず、旭は溺れそうになる自分を必死で治める。
キスは耳や、首筋にも降りてくるようになった。
そのたびに反応する自分の身体が恨めしい。
桐山も、日に日に、吐く息が苦しそうになっていく。
許してしまえば、お互いに楽になるのだろうか。
集中していないことを咎めるように、後ろから、耳の後ろを優しく噛まれた。
「ぁ」
小さく出てしまった声に、桐山の身体がびくりと反応した。
ちゅ、ちゅ、と首にキスを続けながら、手が服の裾から侵入してくる。
「ぁ、ちょっ・・」
慌てて抵抗しようとした手を押さえつけられ、
性急に下着を上にずらされた。手が膨らみを包み込む。
はぁ、と熱い息が耳にかかった。
「君は、・・着痩せするんだな」
その言葉に、カッと顔が熱くなる。
首筋に噛み付くようにキスされながら、最初は躊躇いがちに、徐々に荒く揉まれ、旭の息も荒くなっていく。
手で全体を包んだまま、その指の隙間で反応していた突起を挟まれた。
「ん、ぁ・・っ」
「・・ぅ・・」
私の声と反応に、小さく呻く声がする。
きゅ、きゅ、と挟まれる度に身体がびくびくと反応し、それが桐山を追い込んでいく。
「・・めだ」
「え?」
掠れて聞き取れない声を、旭も声にならない声で聞き返した。
「だめ、だ・・君が、求めてくれるまではと、思ってたんだけど、・・ぅ・・はぁ、」
「試すつもりで、いい、から・・」
「俺に許して・・」
刺激と耳元で囁かれる声で快楽に溺れかかっていた意識が、その言葉で覚醒する。
『なぁ、・・試す?』
急に固くなった旭の変化に桐山は気付いた。手を止め、顔を自分の方に向かせる。その旭の表情を見て顔を歪めた。
「今、何を考えてる。」
冷たくなった空気に、旭の身体はぶる、と震えた。
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「今、何を考えてる。」
身体を離してそう聞く桐山の顔を見て、旭は悟った。
この人、本気で私を・・
あぁ、そんな苦しそうな顔、しないで。
決意を固めた顔で桐山を見る。
「桐山さん、ごめんなさい、私・・」
そう言いかけた口を慌てて手でふわりと塞がれる。
先ほどの凶暴な気配は静まった。
少し目を見開いたその顔には、焦りが浮かんでいる。
「言わないで。」
「ごめん、俺が悪かった。」
切ない声に胸が締め付けられる。
ぎゅぅ、と強く抱き締められた。
もう駄目だ。この人をこれ以上、苦しめられない。
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