勝手に勘違いして、婚約破棄したあなたが悪い

猿喰 森繁

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結局、夕食はデザート付きのセットを食べた。
お腹がいっぱいになると、満足するものだ。
眠くなってくるし、一日の疲れがどっと押し寄せてくる。
お風呂に入ってから、私はさっさと布団に潜り込んだ。

「おやすみなさいませ。アリシア」
「うん。おやすみ」

布団を深くかぶりながら、天井を眺めた。
少し心が落ち着かない。
もう寝てしまおう。明日も学校だ。
なんだか最近大変だな。
いろいろなことがありすぎて、疲れているのかもしれない。
明日になったらまた何かあるんじゃないかって気がして、不安になってしまう。
だから、考えないようにして、深呼吸をして、瞼を閉じた。

明日こそ、良い日になりますように。
そんなことを願ってしまう。

「おはようございます。アリシア」
「おはよう。リリー」

学校に行き、教室に入る。
いつも通りの朝だ。
今日は授業が終わった後、委員会の活動があるらしい。
私は委員会に入っていないので、普通に帰る。
まぁ、いつもと変わらない一日だ。何も特別なことはないだろう。
そう思っていた矢先だった。

「ねぇ、アリシアさん」
廊下で、突然呼びかけられ、振り向くとそこにミアとその友人たちが立っていた。ミアの後ろから、ニヤニヤと笑っている取り巻きに対して、ミアの表情は険しい。アーサーがいないからだろう。口や頬の筋肉が硬く引き締まっている。

「ミア……」

まさかミアの方から話しかけるとは思っても見なかった。私の表情になにか感じるものがあったのだろう。敵意をむき出しにしたミアの鋭い視線が私を貫いた。

「あなた、昨日アーサーのお見舞いに行ったんですって?」

声には明らかな非難が混じっていた。

「ええ、まぁ」

「それで?アーサーは元気だったかしら?」

問いかけの形を取っているが、質問の内容よりも彼女の声色に警戒心を抱く。

「ええ、とても。心配していたより随分と回復が早いみたい」

「そう」ミアは短く答えると、突然距離を詰めてきた。「それで?彼と二人きりで何を話したのかしら?」

ミアの取り巻きが何か話しているのに、なぜかその声が遠ざかっていくような錯覚を覚えた。

「何って……学校の様子とか……」

正直に話すべきか迷う。アーサーとの告白の件はまだ誰にも伝えていない。けれど、この雰囲気では黙っているのも賢明ではない気がした。

「聞いた話によると、あなたとアーサーが恋人同士になったというのだけど。嘘よね?」

ミアの言葉が放たれた瞬間、廊下全体が静まり返ったような気がした。周囲の生徒たちの視線が集まる。

「え?」

その言葉に私はなんて返したらいいか分からなかった。素直に言えば、きっとミアが傷つくだろうし、そのあとは怒り、悲しむだろう。きっと彼女から見て、私の顔から血の気が引いたような、見れば分かるような顔をしてしまったのだろう。私が言葉に詰まっているのを見て、ミアの目が異様に見開かれた。

「ふざけないで!!」

突然の大声に廊下の空気が凍りつく。ミアの美しい顔が歪んでいた。

「あなたみたいなパッと出がアーサーに近づくなんて許さない!彼は私のものなのよ!」

ミアは叫びながら私の腕を掴んだ。爪が肌に食い込むほど強く。

「やめて!ミア!」

振りほどこうとするが、彼女の力は予想外に強かった。

「アーサーを傷つけたのはあなたでしょう!それなのに……それなのに……!」

ミアの目に涙が浮かぶ。憎しみと悲しみが入り混じった表情。

「違っ!あの事件はロミオが勝手に……」

弁解しようとした時、廊下の奥からルドルフが現れた。彼は私たちの様子を見るなり、即座に駆け寄ってきた。

「やめろ、ミア!」

ルドルフがミアの腕を掴み、私から引き離す。

「この女が……アーサーを奪ったのよ……!」

ミアはまだ興奮冷めやらぬ様子で叫ぶ。

「彼女は何も悪いことはしていない」

ルドルフの声は驚くほど冷静だった。彼が私を庇ってくれていることに少し安堵する。
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