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第2章「夢を見る処」
第10話「かみさまの、めぐみたたえる」
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宛てのある旅をしている訳ではないファンとエルであるが、だからといって人のいない方へ行っても仕方がない。
だから街道を中心に移動し、時々、小道へ外れる。
「そろそろ信用できる地図がなくなります」
キャビンからエルが声をかけた。
「測りながら進むとしますか」
道具を出してくれというファンは、馬の足を緩めさせる。地図がない地域は、道だけでも測量して地図を作っていく。
そもそも地図は戦略物資だ。
進軍ルートの決定だけでなく、徴兵の基本となる「人」の調査にも繋がるからだ。この国の度量衡は人を基準としており、土地の広さは農業生産によって決定する。成人男性が一年に食べる穀物の量を1ハント、それだけの収穫を得られる土地の広さを1タントと呼ぶ。1年は360日であるから、1ハントの1000分の1が大体、一食で成人男性が食べる穀物の量という事になり、その単位を1リーベと定めている。
土地の広さで、その土地で養える人口が計算できるのだから、優れた地図は金になる。
「ま~、お金もらっても仕方ないッスけどねェ」
エルが立てている竹竿を基準に距離を計算していくファンは、そろそろ寂しくなったキャビンを見遣った。地方へ行けば、まだまだ原始的な物々交換が主である。物が慢性的に不足するのが戦乱の時代だった。物がないから金で、という方向で進んでしまった貨幣経済であるから、金はあくまでも代替品なのだ。
買えるところで買い、消費しながら進むか、必要な物に交換してしまうか、そうしなければ旅を続けられない。
「芸で変えましょう」
それが旅芸人の道だとエルはいう。しかし竹竿を移動させながら道の先を見遣るエルは、道の宛てはないが、食う宛てはあるのだろうかと首を傾げさせてもいた。
街道から逸れたとはいえ、道があるのだから集落もあるはずだか――、ファンは軽い溜息を吐く。
「変えられれば、いいッスねェ」
集落が健全に運営されている可能性は、まだまだ低い。
***
幌馬車を進めると、確かにファンとエルが望む通り集落はあった。
しかし集落の荒れ様は、二人の予想を遙かに超えていたが。
「参ったッスねェ」
手綱を握るファンは、商店がないかと周囲を見るのだが、それらしい建物は見えない。
「……この荒れ方は、盗賊ではないでしょう」
エルも窓越しであるが、集落の景色を見ていた。
理由は集落の荒れ方だ。
盗賊だというのならば、何もかもを奪っていくはずだが、この集落は建物が建物として残っている。
荒らされているのは、畑の一部と備蓄庫だ。
根刮ぎ奪っていったのではなく、一部だけ――恐らくは必要な分だけを奪っていった、となれば、盗賊ではない。
「……魔物ッスかぁ……」
ファンは大きく溜息を吐いた。
盗賊と魔物の違いは、盗賊ならば皆殺しにするところを、魔物は被害が小さくて済むのだが、何度も繰り返される点が挙げられる。
――まだ一度だけ……って様子じゃないな。
被害の様子から襲撃の頻度を予想するファン。その予想は、当たらずとも遠からず、というのが常だ。
どちらにせよ、この集落での補給は望みが薄い。魔物は自分たちが食べる分しか奪っていかないが、残された食料に、旅人へ施す余裕はないだろう。
その上、ファンから見ると、この集落は心配な点があまりにも多い。
魔物に対する防御は、集落の中心に術者を置き、防御魔法を展開させる事が基本となる。
そのため防壁は比較的低くても構わないのだが、それでも穴が空いている防壁では用を為さない。
その上、魔物が荒らしていったという事は、その術者に何か問題が起きているという事でもある。
「……うーん?」
どうするかと考えるファンは馬を止めた。早めに出立した方がいいのではないかと思うが、「居るだけ無駄だ」と断じられないのがファンだ。
「人、探すッスよ」
馬を手近にあった木に繋ぎ、ファンは周囲を探る。集落を襲う魔物のうち、人肉食を好む魔物は畑を荒らさない。
畑は無事だ。
ただし街並みを見るに、やはりファンとエルに分けられる程の蓄えがあるとは思えない。
しかし、それ以上にファンが気にした事は――、
「薬とか、余ってるッスか?」
こういう場所で不足しがちなのは、食料もそうだが医療品だ。この状況なのだから、襲撃を無傷で切り抜けられたはずがなく、負傷者は労働力の損失に繋がる。そして怪我人の次に出るのは病人だ。
「傷薬などは……、まぁ、余裕余裕といえる程ではありませんが、あります」
「あー、そりゃ、すまないッスなぁ。自分が使ってたッスわ」
ファンは頭を掻きつつ、「あ痛ぁ」と戯けた顔と身振りを見せた。曲芸や軽業での生傷は日常茶飯事である。。医療品こそ余裕を持っていられない。
「でも、困っている人がいれば、使ってしまいましょう」
エルは、食料品に変えられるならば変えてしまおう、とは言わない。互いに必要なものを交換するのは正当な商行為であるが、ファンの性格では今のような状況で交換を持ちかけるのは、傘に懸かるように感じてしまう。
――タダという訳にはいかないけれど。
ファンに気遣いつつ、正当な対価をもらう算段を立てたところで、エルは人影を見つけた。
「もし、そこの方」
声楽を心得ているエルの声は、よく通った。
だから街道を中心に移動し、時々、小道へ外れる。
「そろそろ信用できる地図がなくなります」
キャビンからエルが声をかけた。
「測りながら進むとしますか」
道具を出してくれというファンは、馬の足を緩めさせる。地図がない地域は、道だけでも測量して地図を作っていく。
そもそも地図は戦略物資だ。
進軍ルートの決定だけでなく、徴兵の基本となる「人」の調査にも繋がるからだ。この国の度量衡は人を基準としており、土地の広さは農業生産によって決定する。成人男性が一年に食べる穀物の量を1ハント、それだけの収穫を得られる土地の広さを1タントと呼ぶ。1年は360日であるから、1ハントの1000分の1が大体、一食で成人男性が食べる穀物の量という事になり、その単位を1リーベと定めている。
土地の広さで、その土地で養える人口が計算できるのだから、優れた地図は金になる。
「ま~、お金もらっても仕方ないッスけどねェ」
エルが立てている竹竿を基準に距離を計算していくファンは、そろそろ寂しくなったキャビンを見遣った。地方へ行けば、まだまだ原始的な物々交換が主である。物が慢性的に不足するのが戦乱の時代だった。物がないから金で、という方向で進んでしまった貨幣経済であるから、金はあくまでも代替品なのだ。
買えるところで買い、消費しながら進むか、必要な物に交換してしまうか、そうしなければ旅を続けられない。
「芸で変えましょう」
それが旅芸人の道だとエルはいう。しかし竹竿を移動させながら道の先を見遣るエルは、道の宛てはないが、食う宛てはあるのだろうかと首を傾げさせてもいた。
街道から逸れたとはいえ、道があるのだから集落もあるはずだか――、ファンは軽い溜息を吐く。
「変えられれば、いいッスねェ」
集落が健全に運営されている可能性は、まだまだ低い。
***
幌馬車を進めると、確かにファンとエルが望む通り集落はあった。
しかし集落の荒れ様は、二人の予想を遙かに超えていたが。
「参ったッスねェ」
手綱を握るファンは、商店がないかと周囲を見るのだが、それらしい建物は見えない。
「……この荒れ方は、盗賊ではないでしょう」
エルも窓越しであるが、集落の景色を見ていた。
理由は集落の荒れ方だ。
盗賊だというのならば、何もかもを奪っていくはずだが、この集落は建物が建物として残っている。
荒らされているのは、畑の一部と備蓄庫だ。
根刮ぎ奪っていったのではなく、一部だけ――恐らくは必要な分だけを奪っていった、となれば、盗賊ではない。
「……魔物ッスかぁ……」
ファンは大きく溜息を吐いた。
盗賊と魔物の違いは、盗賊ならば皆殺しにするところを、魔物は被害が小さくて済むのだが、何度も繰り返される点が挙げられる。
――まだ一度だけ……って様子じゃないな。
被害の様子から襲撃の頻度を予想するファン。その予想は、当たらずとも遠からず、というのが常だ。
どちらにせよ、この集落での補給は望みが薄い。魔物は自分たちが食べる分しか奪っていかないが、残された食料に、旅人へ施す余裕はないだろう。
その上、ファンから見ると、この集落は心配な点があまりにも多い。
魔物に対する防御は、集落の中心に術者を置き、防御魔法を展開させる事が基本となる。
そのため防壁は比較的低くても構わないのだが、それでも穴が空いている防壁では用を為さない。
その上、魔物が荒らしていったという事は、その術者に何か問題が起きているという事でもある。
「……うーん?」
どうするかと考えるファンは馬を止めた。早めに出立した方がいいのではないかと思うが、「居るだけ無駄だ」と断じられないのがファンだ。
「人、探すッスよ」
馬を手近にあった木に繋ぎ、ファンは周囲を探る。集落を襲う魔物のうち、人肉食を好む魔物は畑を荒らさない。
畑は無事だ。
ただし街並みを見るに、やはりファンとエルに分けられる程の蓄えがあるとは思えない。
しかし、それ以上にファンが気にした事は――、
「薬とか、余ってるッスか?」
こういう場所で不足しがちなのは、食料もそうだが医療品だ。この状況なのだから、襲撃を無傷で切り抜けられたはずがなく、負傷者は労働力の損失に繋がる。そして怪我人の次に出るのは病人だ。
「傷薬などは……、まぁ、余裕余裕といえる程ではありませんが、あります」
「あー、そりゃ、すまないッスなぁ。自分が使ってたッスわ」
ファンは頭を掻きつつ、「あ痛ぁ」と戯けた顔と身振りを見せた。曲芸や軽業での生傷は日常茶飯事である。。医療品こそ余裕を持っていられない。
「でも、困っている人がいれば、使ってしまいましょう」
エルは、食料品に変えられるならば変えてしまおう、とは言わない。互いに必要なものを交換するのは正当な商行為であるが、ファンの性格では今のような状況で交換を持ちかけるのは、傘に懸かるように感じてしまう。
――タダという訳にはいかないけれど。
ファンに気遣いつつ、正当な対価をもらう算段を立てたところで、エルは人影を見つけた。
「もし、そこの方」
声楽を心得ているエルの声は、よく通った。
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