23 / 114
第3章「星を追った。ツキはなかった。花は咲いた」
第23話「お姫様、ほしのひかりにおどるのさ」
しおりを挟む
暗い森の中を、女が一人、走って行く。着の身着のままという風な格好であるが、今の時代、それも珍しい話ではない。
精剣によって始まった殲滅戦は、今までの会戦を大きく変えた。
精剣の出現以前の戦いといえば、威嚇合戦と青田刈り――戦いというより嫌がらせに近い。誰もが血を流す覚悟で血を浴びる事ができる存在ではない。寧ろ、それを好んで実行できる者は希だ。剣や槍よりも弓が好まれるのは、命を絶ったという感触を、できるだけ感じたくないからというのが理由の一つである。領土拡大の野望よりも、今、自分の手元にあるものをどう守っていくのかが領主、また太守の仕事であり、天下統一などメリットを見出せない者ばかりだった。
そこへ現れた精剣は、スキルという存在を与えた。
現実とは思えない炎や落雷は、刃よりも、矢よりも、もっと命を絶つという感触が薄く、また相手の威信、矜恃を修復不能なまでに打ち砕ける――モラルの崩壊など、すぐに訪れた。
威嚇合戦と青田刈りが主で、実際に干戈を交える事など希だった、いうなれば牧歌的な戦いなど急速に消滅するしかない。
そんな戦場であるから未帰還者は鰻登りとなり、「生きていてこそ役に立てる」という考えが発生した、結果、戦死者への見舞金など雀の涙と成り果てた。
膨らむ戦費を抑えるには限度があるのだから、調達する術を見つけるしかない。
その術は、敗者側を連行し、競りにかける事が最も手っ取り早い。
いずれは恥ずべき歴史となるのだろうが、今の世では皆、必要悪という言い訳を駆使している。
今、必死に走っている女も、そんな目から見れば明らかに被害者だ。
しかし女は今、自分が逃げているとは思っていない。
着ているボロの古着には似つかわしくない輝きが、その手の中にある。
メダルだ。
遺跡に捧げれば、自らの身体に精剣を宿せる権利――それも安いコインではなく、高級なメダルの方を手にしている。
走る方向には遺跡。
――遺跡……。遺跡……!
どうやってメダルを手に入れたのかは、もう女の記憶にもないだろう。
そもそもメダルを手に入れるのは手段に過ぎないのだから、それをどうこういわれても、女は「知らないよッ」とにべもなく答える。
女が願う事は、ただ一つ。
――精剣……、できるだけ強い精剣……!
格の高い精剣を宿す事。
「誰でも良いから、私を守りなさい!」
遺跡の上から、その内部へとメダルを投げ込む。
陽光を受け、きらりきらりと光るメダルが落ちていき――、唐突に起きる。
光だ。
遺跡から立ち上る光は帯となって女を包み込む。
輝くドレスのように膨らみ、そして頭上にクリスタルを出現させる。
「!」
女は息を呑んだ。そのクリスタルの色が、精剣の格を示すと言われている。
ノーマルやレアならば銀色。
それ以上のHレアやSレアは金色といわれている。
――金……金ッ!
それを願った。
だが現実には――、
「……銀……」
落胆させられる色に見えた。
しかし頬に差す光は、正確にいうならば銀ではない。
金でもないが、銀ではないのだ。
それは白金――最上位のUレアやLレアを示す色だ。
クリスタルが割れる。
中から溢れ出す光は虹色。七色ではない。数え切れない程のグラデーションが彼女の身を包み込む。
「Lレア……」
女の言葉を奪う、最上級の精剣だ!
目を奪われる光が彼女の中に宿った時、ハッキリと感じ取った。
自分は何者かになった。
そして更なる何かに変わっていけるのだ、と。
「もう、落ちぶれた女じゃない……」
それは確かだ。
Lレアが出る確率を計算した事はない。2000回、試して一度しか出ないという話までもあるくらいの存在だ。
それを宿した女を、誰が無下に扱うものか。
女は精剣の鞘だ。それを打ち砕く事は、精剣を永久に失わせる事に繋がる。
最早、奪われる側ではない。
守られる側に立ったのだ。
守られる側とは、与えられる側だ。
――素敵なドレス、可愛い靴、おいしいご飯……。
打ち震える女が流しているのは感涙だろうか。
精剣によって始まった殲滅戦は、今までの会戦を大きく変えた。
精剣の出現以前の戦いといえば、威嚇合戦と青田刈り――戦いというより嫌がらせに近い。誰もが血を流す覚悟で血を浴びる事ができる存在ではない。寧ろ、それを好んで実行できる者は希だ。剣や槍よりも弓が好まれるのは、命を絶ったという感触を、できるだけ感じたくないからというのが理由の一つである。領土拡大の野望よりも、今、自分の手元にあるものをどう守っていくのかが領主、また太守の仕事であり、天下統一などメリットを見出せない者ばかりだった。
そこへ現れた精剣は、スキルという存在を与えた。
現実とは思えない炎や落雷は、刃よりも、矢よりも、もっと命を絶つという感触が薄く、また相手の威信、矜恃を修復不能なまでに打ち砕ける――モラルの崩壊など、すぐに訪れた。
威嚇合戦と青田刈りが主で、実際に干戈を交える事など希だった、いうなれば牧歌的な戦いなど急速に消滅するしかない。
そんな戦場であるから未帰還者は鰻登りとなり、「生きていてこそ役に立てる」という考えが発生した、結果、戦死者への見舞金など雀の涙と成り果てた。
膨らむ戦費を抑えるには限度があるのだから、調達する術を見つけるしかない。
その術は、敗者側を連行し、競りにかける事が最も手っ取り早い。
いずれは恥ずべき歴史となるのだろうが、今の世では皆、必要悪という言い訳を駆使している。
今、必死に走っている女も、そんな目から見れば明らかに被害者だ。
しかし女は今、自分が逃げているとは思っていない。
着ているボロの古着には似つかわしくない輝きが、その手の中にある。
メダルだ。
遺跡に捧げれば、自らの身体に精剣を宿せる権利――それも安いコインではなく、高級なメダルの方を手にしている。
走る方向には遺跡。
――遺跡……。遺跡……!
どうやってメダルを手に入れたのかは、もう女の記憶にもないだろう。
そもそもメダルを手に入れるのは手段に過ぎないのだから、それをどうこういわれても、女は「知らないよッ」とにべもなく答える。
女が願う事は、ただ一つ。
――精剣……、できるだけ強い精剣……!
格の高い精剣を宿す事。
「誰でも良いから、私を守りなさい!」
遺跡の上から、その内部へとメダルを投げ込む。
陽光を受け、きらりきらりと光るメダルが落ちていき――、唐突に起きる。
光だ。
遺跡から立ち上る光は帯となって女を包み込む。
輝くドレスのように膨らみ、そして頭上にクリスタルを出現させる。
「!」
女は息を呑んだ。そのクリスタルの色が、精剣の格を示すと言われている。
ノーマルやレアならば銀色。
それ以上のHレアやSレアは金色といわれている。
――金……金ッ!
それを願った。
だが現実には――、
「……銀……」
落胆させられる色に見えた。
しかし頬に差す光は、正確にいうならば銀ではない。
金でもないが、銀ではないのだ。
それは白金――最上位のUレアやLレアを示す色だ。
クリスタルが割れる。
中から溢れ出す光は虹色。七色ではない。数え切れない程のグラデーションが彼女の身を包み込む。
「Lレア……」
女の言葉を奪う、最上級の精剣だ!
目を奪われる光が彼女の中に宿った時、ハッキリと感じ取った。
自分は何者かになった。
そして更なる何かに変わっていけるのだ、と。
「もう、落ちぶれた女じゃない……」
それは確かだ。
Lレアが出る確率を計算した事はない。2000回、試して一度しか出ないという話までもあるくらいの存在だ。
それを宿した女を、誰が無下に扱うものか。
女は精剣の鞘だ。それを打ち砕く事は、精剣を永久に失わせる事に繋がる。
最早、奪われる側ではない。
守られる側に立ったのだ。
守られる側とは、与えられる側だ。
――素敵なドレス、可愛い靴、おいしいご飯……。
打ち震える女が流しているのは感涙だろうか。
10
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
娘を返せ〜誘拐された娘を取り返すため、父は異世界に渡る
ほりとくち
ファンタジー
突然現れた魔法陣が、あの日娘を連れ去った。
異世界に誘拐されてしまったらしい娘を取り戻すため、父は自ら異世界へ渡ることを決意する。
一体誰が、何の目的で娘を連れ去ったのか。
娘とともに再び日本へ戻ることはできるのか。
そもそも父は、異世界へ足を運ぶことができるのか。
異世界召喚の秘密を知る謎多き少年。
娘を失ったショックで、精神が幼児化してしまった妻。
そして父にまったく懐かず、娘と母にだけ甘えるペットの黒猫。
3人と1匹の冒険が、今始まる。
※小説家になろうでも投稿しています
※フォロー・感想・いいね等頂けると歓喜します!
よろしくお願いします!
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
はずれスキル念動力(ただしレベルMAX)で無双する~手をかざすだけです。詠唱とか必殺技とかいりません。念じるだけで倒せます~
さとう
ファンタジー
10歳になると、誰もがもらえるスキル。
キネーシス公爵家の長男、エルクがもらったスキルは『念動力』……ちょっとした物を引き寄せるだけの、はずれスキルだった。
弟のロシュオは『剣聖』、妹のサリッサは『魔聖』とレアなスキルをもらい、エルクの居場所は失われてしまう。そんなある日、後継者を決めるため、ロシュオと決闘をすることになったエルク。だが……その決闘は、エルクを除いた公爵家が仕組んだ『処刑』だった。
偶然の『事故』により、エルクは生死の境をさまよう。死にかけたエルクの魂が向かったのは『生と死の狭間』という不思議な空間で、そこにいた『神様』の気まぐれにより、エルクは自分を鍛えなおすことに。
二千年という長い時間、エルクは『念動力』を鍛えまくる。
現世に戻ったエルクは、十六歳になって目を覚ました。
はずれスキル『念動力』……ただしレベルMAXの力で無双する!!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる