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第3章「星を追った。ツキはなかった。花は咲いた」
第24話「木馬に乗って、バンベリークロスへ。白馬のご婦人を見るために」
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天下の趨勢を決定する決戦と、その後の混乱があっても、領主がしなければならない事に大きな変化はない。
領主がしなればならない事――領民の動産、不動産を守る事だ。
そういう意味では、配下により強い、格の高い精剣を持った剣士を招き入れる事は防衛力の増強にもなると肯定されるのかも知れない。
その地は、大帝の権力も、皇帝の権威も及びにくい故に自衛が最善の手である――そう領主は宣言した。
そしてどこからか手に入れたコインを持ち、市井の女から政庁の女中までも総動員して遺跡へ向かったのが、つい先月の事だっただろうか。
「すみません。集合を掛けられていて……」
メイド服姿の女中が、剣士の顔を見上げながらか細い声を出していた。見上げているといっても、身長が然程も変わらない相手であるから上目遣いになっているように見えてしまう。
剣士は、そんな仕草を大層、可愛いと感じているから、彼女が離れてしまわないように壁へ手を着き、身体を寄り添わせてしまう。
「構わないよ。少しくらい」
「でも私も呼ばれていて……」
その女中の身体に宿っている精剣が、この剣士のものなのだ。
「いいって。少しくらい遅れても」
剣士の耳に落ちてきた髪は、軽く顎をしゃくるだけで整う。貴婦人達が羨む髪質だろう。無論、女中も見とれていて、そんな女中の瞳を覗き込む剣士は、フッと笑った。
「私じゃ、やっぱりダメかな?」
男の口調、声色を作っているが、剣士は女だ。
ある意味、だからこそ弁えているといえた。
「行こうか」
肯定も否定も聞かないまま、剣士は女中を先導していく。
「……精剣を宿した女を全員、招集するなんて、何の用事でしょうか?」
パタパタとした足取りでついていく女中は、心配そうな表情を見せていた。精剣と剣士を集める理由は、それ程、多く思いつかない。
――火急の知らせ?
天下は一応の収まりを見せたとはいえ、その実、他の領主や剣士は治安維持よりも精剣の奪い合いに夢中であるから、世が治まっているとはいい難い。
「盗賊団とか……、また精剣が揃っている事が噂になり、それを要求されているとか……」
「さぁね」
しかし剣士は肩を竦めるのみだった。
「私は既に最高の精剣を持っているから、他の精剣を奪おうとする剣士の心が分からないし、同じく盗賊団なんてのがいるのなら、一人で平らげてしまうよ」
深刻になる必要はないといいながら剣士が発した笑いは、不思議と女中を安心させる。最高の精剣とは、女中の中に宿っている精剣だ。
――とはいえ……。
招集場所である広場へと顔を向けつつ、剣士は思案顔を浮かべていた。
この地は大帝の権力も、皇帝の権威も届きにくい辺境であるが故に、領主こそが王同然だ。
領主が就任して最初に行った事は、前領主の側近を追放する事だった。
そもそも領主となった背景も、自身が最強の精剣であるLレアを所持しているから、というものだった。
それら二つだけでも分かるよう、相当な武断派。
火急の知らせが本当であれば、果たしてどのような措置を取らされる事か、想像もできない。
「まぁ、いい」
独り言ちた剣士に女中が首を傾げたが、剣士は片手を上げただけで広場へ続く門を潜ろうとする。
「お待ちください」
そこへ声と同時に左右の衛兵が槍を十字に下ろし、門を遮った。
「何か? 自分はパトリシア・ノーマン。エリザベス・デファンスに宿る精剣と共に領主様直属の――」
「存じております」
剣士が名乗るが、だからこそ衛兵は槍を交叉させ、遮っている。
「だからこそ、お通しできません。今、呼ばれているのは、ノーマルの精剣です」
「ノーマル?」
パトリシアは顰めっ面をさせられた。
確かに最も数が多いのはノーマルの精剣だが、精剣の戦力は格によって大きく変わる。ノーマルが10集まるよりも、Sレアが1つある方がいい場合もあるのだ。
どちらにせよHレアを宿すエリザベスと、それを振るえるパトリシアが除外される理由にはならない。
「何故、ノーマルだけなんだ?」
と、パトリシアが聞き返した時だ。
広間に数え切れない程の光の柱が突き立った。
「!?」
目を剥かされるパトリシアとエリザベスは、その光が何か知っている。
――精剣が顕現した光?
単色の光は、コモンやアンコモンが現れた時の光だった、とパトリシアは記憶していた。
つまり今、広場に集められたノーマルの精剣が一斉に抜き放たれたという事だ。
――違う!
顕現しただけではないとパトリシアは感じ取った。
光は立ち上がっただけではなく、宙を飛翔し、大きく弧を描いて広場を望むバルコニーへと集まっていくのだから。
バルコニーにはノーマルの精剣が変わった光が描く虹を吸収していく、白金に輝く精剣。
領主が持つというLレアの精剣だ。
――ノーマルの精剣を吸収し、階位を上げようとしている!
パトリシアも思わず身震いしてしまうような光景だった。
剣士が精剣を集める事に心を砕く理由の一つだ。格が高い精剣ばかりが求められるわけではない。精剣は他の精剣を吸収する事で、より強大にできる。そのためにはノーマルを犠牲にするのが常套手段だ。
「ベス……」
パトリシアは思わずエリザベスを呼んだ。愛称で呼べたのは、まだ冷静さの欠片が残っていたからだ。
「ベス……にげ……いや、帰ろう。用はないそうだ」
声が震えていた。
精剣をこういう風に使用した場合、鞘となっている女たちにも重大なダメージがある。それをエリザベスには見せたくない。
「は、はい……」
エリザベスも突然、肩を抱きしめてきたパトリシアに驚きつつ、おっかなびっくり背を向けた。
領主がしなればならない事――領民の動産、不動産を守る事だ。
そういう意味では、配下により強い、格の高い精剣を持った剣士を招き入れる事は防衛力の増強にもなると肯定されるのかも知れない。
その地は、大帝の権力も、皇帝の権威も及びにくい故に自衛が最善の手である――そう領主は宣言した。
そしてどこからか手に入れたコインを持ち、市井の女から政庁の女中までも総動員して遺跡へ向かったのが、つい先月の事だっただろうか。
「すみません。集合を掛けられていて……」
メイド服姿の女中が、剣士の顔を見上げながらか細い声を出していた。見上げているといっても、身長が然程も変わらない相手であるから上目遣いになっているように見えてしまう。
剣士は、そんな仕草を大層、可愛いと感じているから、彼女が離れてしまわないように壁へ手を着き、身体を寄り添わせてしまう。
「構わないよ。少しくらい」
「でも私も呼ばれていて……」
その女中の身体に宿っている精剣が、この剣士のものなのだ。
「いいって。少しくらい遅れても」
剣士の耳に落ちてきた髪は、軽く顎をしゃくるだけで整う。貴婦人達が羨む髪質だろう。無論、女中も見とれていて、そんな女中の瞳を覗き込む剣士は、フッと笑った。
「私じゃ、やっぱりダメかな?」
男の口調、声色を作っているが、剣士は女だ。
ある意味、だからこそ弁えているといえた。
「行こうか」
肯定も否定も聞かないまま、剣士は女中を先導していく。
「……精剣を宿した女を全員、招集するなんて、何の用事でしょうか?」
パタパタとした足取りでついていく女中は、心配そうな表情を見せていた。精剣と剣士を集める理由は、それ程、多く思いつかない。
――火急の知らせ?
天下は一応の収まりを見せたとはいえ、その実、他の領主や剣士は治安維持よりも精剣の奪い合いに夢中であるから、世が治まっているとはいい難い。
「盗賊団とか……、また精剣が揃っている事が噂になり、それを要求されているとか……」
「さぁね」
しかし剣士は肩を竦めるのみだった。
「私は既に最高の精剣を持っているから、他の精剣を奪おうとする剣士の心が分からないし、同じく盗賊団なんてのがいるのなら、一人で平らげてしまうよ」
深刻になる必要はないといいながら剣士が発した笑いは、不思議と女中を安心させる。最高の精剣とは、女中の中に宿っている精剣だ。
――とはいえ……。
招集場所である広場へと顔を向けつつ、剣士は思案顔を浮かべていた。
この地は大帝の権力も、皇帝の権威も届きにくい辺境であるが故に、領主こそが王同然だ。
領主が就任して最初に行った事は、前領主の側近を追放する事だった。
そもそも領主となった背景も、自身が最強の精剣であるLレアを所持しているから、というものだった。
それら二つだけでも分かるよう、相当な武断派。
火急の知らせが本当であれば、果たしてどのような措置を取らされる事か、想像もできない。
「まぁ、いい」
独り言ちた剣士に女中が首を傾げたが、剣士は片手を上げただけで広場へ続く門を潜ろうとする。
「お待ちください」
そこへ声と同時に左右の衛兵が槍を十字に下ろし、門を遮った。
「何か? 自分はパトリシア・ノーマン。エリザベス・デファンスに宿る精剣と共に領主様直属の――」
「存じております」
剣士が名乗るが、だからこそ衛兵は槍を交叉させ、遮っている。
「だからこそ、お通しできません。今、呼ばれているのは、ノーマルの精剣です」
「ノーマル?」
パトリシアは顰めっ面をさせられた。
確かに最も数が多いのはノーマルの精剣だが、精剣の戦力は格によって大きく変わる。ノーマルが10集まるよりも、Sレアが1つある方がいい場合もあるのだ。
どちらにせよHレアを宿すエリザベスと、それを振るえるパトリシアが除外される理由にはならない。
「何故、ノーマルだけなんだ?」
と、パトリシアが聞き返した時だ。
広間に数え切れない程の光の柱が突き立った。
「!?」
目を剥かされるパトリシアとエリザベスは、その光が何か知っている。
――精剣が顕現した光?
単色の光は、コモンやアンコモンが現れた時の光だった、とパトリシアは記憶していた。
つまり今、広場に集められたノーマルの精剣が一斉に抜き放たれたという事だ。
――違う!
顕現しただけではないとパトリシアは感じ取った。
光は立ち上がっただけではなく、宙を飛翔し、大きく弧を描いて広場を望むバルコニーへと集まっていくのだから。
バルコニーにはノーマルの精剣が変わった光が描く虹を吸収していく、白金に輝く精剣。
領主が持つというLレアの精剣だ。
――ノーマルの精剣を吸収し、階位を上げようとしている!
パトリシアも思わず身震いしてしまうような光景だった。
剣士が精剣を集める事に心を砕く理由の一つだ。格が高い精剣ばかりが求められるわけではない。精剣は他の精剣を吸収する事で、より強大にできる。そのためにはノーマルを犠牲にするのが常套手段だ。
「ベス……」
パトリシアは思わずエリザベスを呼んだ。愛称で呼べたのは、まだ冷静さの欠片が残っていたからだ。
「ベス……にげ……いや、帰ろう。用はないそうだ」
声が震えていた。
精剣をこういう風に使用した場合、鞘となっている女たちにも重大なダメージがある。それをエリザベスには見せたくない。
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