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第4章「母であり、姉であり、相棒であり……」
第48話「煙はどこだ あっちそっちこっち」
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ファンへと向けられた牧童頭の目は、ファンの回答を全て受け入れる気がない事を明白に告げていた。
「今まで通り、方々へ行く旅芸人、続けてもいいスか?」
ファンは殊更、両手を挙げるような仕草はしない。精剣は刃として振るうのではなく、スキルを操るタクトのようなものだ。両手を挙げただけでは降伏を示す態度にはならないにしても。
「それはダメだ」
牧童頭もファンが手を上げていない事など気にしない。
「中立も許さん」
気にするのはファンの立ち位置だ。
「あっちにつくなら、今の奴らと同じ目に遭わせてやる。けれど、こっちにつくなら、それなりの身分にしてやる」
理由は簡単で、眉を態とらしくハの字にし、挑発の意味合いを強く含めて言い放つ。
「お前も剣士だろう?」
ファンの精剣がエルに宿っている事を見抜いてた上で、旅芸人のようなつまらない仕事をしているのは、格の低い精剣しか持てなかったからだろう、と。
「不本意な副業ッスよ」
省略されている主語は旅芸人であったが、ファンは剣士だと判断して返事した。
「そうだろうな。ろくな精剣を持って――」
だが牧童頭は旅芸人こそつまらない副業だという。
無論、それはファンの逆鱗に触れる。
「自分の仕事は、方々を回って芸を披露する旅芸人ッス。剣士こそ不本意な副業」
「はん?」
何をいっていると首を傾げる剣士だったが、ファンは羽根つき帽子を被り直し、
「今日、頑張った人が、明日も頑張ろうって時に必要なのは、美味しいご飯と柔らかいベッド、温かい家庭ッスよ。その手伝いができるのは、剣士じゃないッスよね」
そこから先は声こそ出さないが、唇だけは動かす。
――くだらない仕事は剣士の方だろ。
村人と牧場主の双方が集まる場になるため、碌でもない結末になるだろうと想像はしていたのだが、まさか双方が精剣を持ちだし、その場を一気に戦場へと変えてしまうとまでは思っていなかった。
国土全体を巻き込み、何十年と続いた大戦も、原因となったのは土地問題であるから、この村が抱えている問題は大きい。
だが、それでも双方にあったのは話し合う気ではなく殺し合う気だったというのは、ファンから見れば喜劇とも悲劇ともいえない、できの悪い筋書きだ。
それはどちらの側につくという事を断言していないが、牧童頭にとって敵に回るという事だけはハッキリしていた。
「残念だ!」
牧童頭が精剣を振り上げる。
そこに集まるのは、村人側の代表を打ち砕いた火球よりも禍々しさを増させた、青い光だった。
「灼熱霰弾!」
振り下ろす剣と共に、青い火球が弾き出される。
「抜剣――」
それに対しファンは前転する要領で身を躱しつつ、エルから非時を受け取った。
「!」
牧童頭の方は驚いたはずだ。この手の精剣スキルは遠くなるほど減衰するのだから、近い方がより強い攻撃力を発揮する。避けるならば横っ飛びに跳ぶか、後ろだ。
――気は確かか!?
牧童頭にとって、前は最も有り得ない回避方向だった。
ただしファンはいう。
「その火の玉は広がるんだろう? だったら広がる前の方が避けやすいだろうが」
前が最も安全な回避方向だ、と。横っ飛びしようと後退しようと、傘に懸かって連射してくることは想像に易い。そしてファンの非時は、刃が届く距離で戦うものだ。
前転の勢いを殺さず、また低い位置だからこそ身体を加速させられる。
非時を振り抜くが、その手に牧童頭の身体へ刃を食い込ませた手応えはなかった。
――外したッ。
牧童頭の灼熱霰弾がファンの踏み込みを半歩、届かせなかった。
それでも鍔迫り合いへと繋げる事までは制限できていない。
「古臭い……! 精剣に傷が付く!」
牧童頭の口元が忌々しいとばかりに歪んでいく。鍔迫り合いは刃ではなく鎬を削るものであるが、その技術は精剣の出現によって絶えて久しい状況だ。
「いい剣だ。だけど、使い熟せてるか!?」
このままならばへし折るぞ、と力を込めるファンは表情を読ませない。
だが表情を読ませないのは、その一瞬だけだ。
「使い熟せているか、だとぉ~?」
牧童頭の、態とらしい、間延びした声の後、ファンは背中に焼け付くような痛みと激痛を覚えた。
「灼熱霰弾を、ただ前へ撃ち出すだけだと思ったか?」
ファンの背中を打ったのは、Uターンして戻ってきた灼熱霰弾だった。
「俺のシューティングスターはSレア!」
フミの元にあったプロミネンスよりも格上なのだ。
「そして――」
牧童頭が命じると、今まで広場に埋まっていた、いわば不発弾と化した灼熱榴弾が全て弾け飛ぶ。
悲鳴が上がり、阿鼻叫喚が起こったのだろうが、それすらも聞こえなくする爆音、爆発音が周囲に荒くれた。
「敵の剣士は殺せ。精剣は回収しろ」
牧童頭は高笑い。
「全て、俺のシューティングスターの強化材料だ!」
笑いながら、今まで溜めに溜めていた灼熱霰弾を暴れさせる。
ただし、この時、歓迎できないものまで呼び寄せた事は、すぐに気付けなかったのだが。
「今まで通り、方々へ行く旅芸人、続けてもいいスか?」
ファンは殊更、両手を挙げるような仕草はしない。精剣は刃として振るうのではなく、スキルを操るタクトのようなものだ。両手を挙げただけでは降伏を示す態度にはならないにしても。
「それはダメだ」
牧童頭もファンが手を上げていない事など気にしない。
「中立も許さん」
気にするのはファンの立ち位置だ。
「あっちにつくなら、今の奴らと同じ目に遭わせてやる。けれど、こっちにつくなら、それなりの身分にしてやる」
理由は簡単で、眉を態とらしくハの字にし、挑発の意味合いを強く含めて言い放つ。
「お前も剣士だろう?」
ファンの精剣がエルに宿っている事を見抜いてた上で、旅芸人のようなつまらない仕事をしているのは、格の低い精剣しか持てなかったからだろう、と。
「不本意な副業ッスよ」
省略されている主語は旅芸人であったが、ファンは剣士だと判断して返事した。
「そうだろうな。ろくな精剣を持って――」
だが牧童頭は旅芸人こそつまらない副業だという。
無論、それはファンの逆鱗に触れる。
「自分の仕事は、方々を回って芸を披露する旅芸人ッス。剣士こそ不本意な副業」
「はん?」
何をいっていると首を傾げる剣士だったが、ファンは羽根つき帽子を被り直し、
「今日、頑張った人が、明日も頑張ろうって時に必要なのは、美味しいご飯と柔らかいベッド、温かい家庭ッスよ。その手伝いができるのは、剣士じゃないッスよね」
そこから先は声こそ出さないが、唇だけは動かす。
――くだらない仕事は剣士の方だろ。
村人と牧場主の双方が集まる場になるため、碌でもない結末になるだろうと想像はしていたのだが、まさか双方が精剣を持ちだし、その場を一気に戦場へと変えてしまうとまでは思っていなかった。
国土全体を巻き込み、何十年と続いた大戦も、原因となったのは土地問題であるから、この村が抱えている問題は大きい。
だが、それでも双方にあったのは話し合う気ではなく殺し合う気だったというのは、ファンから見れば喜劇とも悲劇ともいえない、できの悪い筋書きだ。
それはどちらの側につくという事を断言していないが、牧童頭にとって敵に回るという事だけはハッキリしていた。
「残念だ!」
牧童頭が精剣を振り上げる。
そこに集まるのは、村人側の代表を打ち砕いた火球よりも禍々しさを増させた、青い光だった。
「灼熱霰弾!」
振り下ろす剣と共に、青い火球が弾き出される。
「抜剣――」
それに対しファンは前転する要領で身を躱しつつ、エルから非時を受け取った。
「!」
牧童頭の方は驚いたはずだ。この手の精剣スキルは遠くなるほど減衰するのだから、近い方がより強い攻撃力を発揮する。避けるならば横っ飛びに跳ぶか、後ろだ。
――気は確かか!?
牧童頭にとって、前は最も有り得ない回避方向だった。
ただしファンはいう。
「その火の玉は広がるんだろう? だったら広がる前の方が避けやすいだろうが」
前が最も安全な回避方向だ、と。横っ飛びしようと後退しようと、傘に懸かって連射してくることは想像に易い。そしてファンの非時は、刃が届く距離で戦うものだ。
前転の勢いを殺さず、また低い位置だからこそ身体を加速させられる。
非時を振り抜くが、その手に牧童頭の身体へ刃を食い込ませた手応えはなかった。
――外したッ。
牧童頭の灼熱霰弾がファンの踏み込みを半歩、届かせなかった。
それでも鍔迫り合いへと繋げる事までは制限できていない。
「古臭い……! 精剣に傷が付く!」
牧童頭の口元が忌々しいとばかりに歪んでいく。鍔迫り合いは刃ではなく鎬を削るものであるが、その技術は精剣の出現によって絶えて久しい状況だ。
「いい剣だ。だけど、使い熟せてるか!?」
このままならばへし折るぞ、と力を込めるファンは表情を読ませない。
だが表情を読ませないのは、その一瞬だけだ。
「使い熟せているか、だとぉ~?」
牧童頭の、態とらしい、間延びした声の後、ファンは背中に焼け付くような痛みと激痛を覚えた。
「灼熱霰弾を、ただ前へ撃ち出すだけだと思ったか?」
ファンの背中を打ったのは、Uターンして戻ってきた灼熱霰弾だった。
「俺のシューティングスターはSレア!」
フミの元にあったプロミネンスよりも格上なのだ。
「そして――」
牧童頭が命じると、今まで広場に埋まっていた、いわば不発弾と化した灼熱榴弾が全て弾け飛ぶ。
悲鳴が上がり、阿鼻叫喚が起こったのだろうが、それすらも聞こえなくする爆音、爆発音が周囲に荒くれた。
「敵の剣士は殺せ。精剣は回収しろ」
牧童頭は高笑い。
「全て、俺のシューティングスターの強化材料だ!」
笑いながら、今まで溜めに溜めていた灼熱霰弾を暴れさせる。
ただし、この時、歓迎できないものまで呼び寄せた事は、すぐに気付けなかったのだが。
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