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第5章「大公家秘記」
第69話「とうとう太鼓を打ち鳴らして追い出してしまった」
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ミョンの精剣に灯されている炎は、精剣スキルによるバフである。急速な酸化、もしくは還元反応による発熱、発火ではないので、たいまつを振り回したように思わぬ場所へ着火するような事はない。
――斬ると焼くを同時に喰らわせる事で、痛みを絶対のものとする!
もっと格の高い精剣であれば、この刀身に纏わせた炎を剣閃によって弾き飛ばして攻撃できるスキルもあるが、ミョンの精剣は間の悪い事にレアだ。
スキル自慢をすると、そのレアという格が常にミョンの中で淀みを作ってしまう。
7つある格の内、下から3番目というレアは、決して高い書くとはいえない。
――力……力だ!
故にミョンは縋る。
――この世は弱肉強食! それを否定する事は、摂理を否定する事になる!
縋るのだから、インフゥが口にした否定など、ただのへりくつだと断じるしかない。
――威力の高いスキルを持った精剣は、俺がのし上がるには必須!
力は絶対でなければならないのだ。
――名をもらい、騎士となって城勤め! シュティレンヒューゲルを踏み台に、天下一の男となるのだ!
その望みを叶えるために、ミョンが根底に持つ考えは弱肉強食以外にないではないか!
インフゥとミョン、互いに互いを否定する二人が精剣を構えると、奇妙な静寂が訪れた。
ミョンに構えはなく、だらりと片手で剣を下げて持つ。
――変幻自在の自然体だ!
上下左右、どの方向へも剣を振るう事ができると自負するミョンに対し、インフゥは胸の前に揃え、バウンティドッグを両手持ちにする。
――重心は低く、爪先立ちにならない。
インフゥが口の中で繰り返しそうになるが、歯を食い縛って言葉を押し殺した。力を出すなら歯を食い縛らなければならない。
ファンの教えは胸中で繰り返す。
その教えと、バウンティドッグを通してフィードバックされるホッホの感覚がインフゥの命綱だ。
静止は沈黙を呼び、大公や貴族の沈黙は緊張感を高めていく。
その緊張感が期待させるのは、ひとつ。
――勝負は一瞬でつく、か……!
大公も意識せず拳を握っていた。この雰囲気には、事の善し悪しに関わらず、憧れるものなのかも知れない。
ミョンの切っ先が動いた。
一度でも動かせば切っ掛けとなる。
そして動き出せば、もう一度の静止はない。
――お前の突きと、俺の斬撃、どちらが速いか、勝負だ!
体勢を低くしたインフゥの技を、ミョンは突きだと考えていた。突きというならば、孤を描く斬撃で対抗するには不利を抱える事になるのだが、バフによって強化された精剣の攻撃力が補ってくれると高を括る。
――分の悪い賭けは、嫌いじゃない!
そんな言葉とは裏腹に、ミョンは分の悪い賭けなどとは思っていない。
――犬のお前に、狼の牙をくれてやる!
弱者――野良犬に、強者――狼の牙が敗れるはずがないからだ。
――賭けか!
その雰囲気をホッホの感覚が捉え、インフゥに伝えた。
勝敗を分けたのは、ここだった。
ミョンは賭けた。
だがインフゥは賭けなかったのだ。
ミョンは突きだと思ったが、インフゥが狙ったのは突きではなく入身――踏み込みだ。
「!」
突いてこなかった事を、ミョンは幸運と感じた以上に、インフゥが馬鹿だと思ったはずだ。
――五分の条件だろうが! それが状況に適した答えか!
嘲笑と共に精剣が振り下ろされる。刀身に宿る炎は一層、勢いを増していく。
だが手応えは、そんな精剣の勢いとは裏腹だった。
――何……?
思わず呆けた声を上げたしまいそうになるほど、弱い。
その理由は、インフゥの体勢だ。
飛び込んだインフゥの体勢は、犬のように低かった。
――剣の切っ先は、振り下ろされて行くに従って威力を失っていく。殺傷力を持つのは、精々、脳天から股下までだ。
これもファンに教えてもらった。
犬と同じくらい低い体勢を取れるならば、ミョンの剣はバフによる支援があっも、インフゥに致命傷を負わせられない。
そして犬の狩りとは、相手の急所を捉える絶対の一手を取る。
インフゥに宿るホッホの感性が、それを可能とした。
「ッ」
歯を食い縛っているため、裂帛の気合いはないが、インフィのバウンティドッグはミョンの脛へと振り抜かれた。
「勝者、赤方! インフゥ!」
――斬ると焼くを同時に喰らわせる事で、痛みを絶対のものとする!
もっと格の高い精剣であれば、この刀身に纏わせた炎を剣閃によって弾き飛ばして攻撃できるスキルもあるが、ミョンの精剣は間の悪い事にレアだ。
スキル自慢をすると、そのレアという格が常にミョンの中で淀みを作ってしまう。
7つある格の内、下から3番目というレアは、決して高い書くとはいえない。
――力……力だ!
故にミョンは縋る。
――この世は弱肉強食! それを否定する事は、摂理を否定する事になる!
縋るのだから、インフゥが口にした否定など、ただのへりくつだと断じるしかない。
――威力の高いスキルを持った精剣は、俺がのし上がるには必須!
力は絶対でなければならないのだ。
――名をもらい、騎士となって城勤め! シュティレンヒューゲルを踏み台に、天下一の男となるのだ!
その望みを叶えるために、ミョンが根底に持つ考えは弱肉強食以外にないではないか!
インフゥとミョン、互いに互いを否定する二人が精剣を構えると、奇妙な静寂が訪れた。
ミョンに構えはなく、だらりと片手で剣を下げて持つ。
――変幻自在の自然体だ!
上下左右、どの方向へも剣を振るう事ができると自負するミョンに対し、インフゥは胸の前に揃え、バウンティドッグを両手持ちにする。
――重心は低く、爪先立ちにならない。
インフゥが口の中で繰り返しそうになるが、歯を食い縛って言葉を押し殺した。力を出すなら歯を食い縛らなければならない。
ファンの教えは胸中で繰り返す。
その教えと、バウンティドッグを通してフィードバックされるホッホの感覚がインフゥの命綱だ。
静止は沈黙を呼び、大公や貴族の沈黙は緊張感を高めていく。
その緊張感が期待させるのは、ひとつ。
――勝負は一瞬でつく、か……!
大公も意識せず拳を握っていた。この雰囲気には、事の善し悪しに関わらず、憧れるものなのかも知れない。
ミョンの切っ先が動いた。
一度でも動かせば切っ掛けとなる。
そして動き出せば、もう一度の静止はない。
――お前の突きと、俺の斬撃、どちらが速いか、勝負だ!
体勢を低くしたインフゥの技を、ミョンは突きだと考えていた。突きというならば、孤を描く斬撃で対抗するには不利を抱える事になるのだが、バフによって強化された精剣の攻撃力が補ってくれると高を括る。
――分の悪い賭けは、嫌いじゃない!
そんな言葉とは裏腹に、ミョンは分の悪い賭けなどとは思っていない。
――犬のお前に、狼の牙をくれてやる!
弱者――野良犬に、強者――狼の牙が敗れるはずがないからだ。
――賭けか!
その雰囲気をホッホの感覚が捉え、インフゥに伝えた。
勝敗を分けたのは、ここだった。
ミョンは賭けた。
だがインフゥは賭けなかったのだ。
ミョンは突きだと思ったが、インフゥが狙ったのは突きではなく入身――踏み込みだ。
「!」
突いてこなかった事を、ミョンは幸運と感じた以上に、インフゥが馬鹿だと思ったはずだ。
――五分の条件だろうが! それが状況に適した答えか!
嘲笑と共に精剣が振り下ろされる。刀身に宿る炎は一層、勢いを増していく。
だが手応えは、そんな精剣の勢いとは裏腹だった。
――何……?
思わず呆けた声を上げたしまいそうになるほど、弱い。
その理由は、インフゥの体勢だ。
飛び込んだインフゥの体勢は、犬のように低かった。
――剣の切っ先は、振り下ろされて行くに従って威力を失っていく。殺傷力を持つのは、精々、脳天から股下までだ。
これもファンに教えてもらった。
犬と同じくらい低い体勢を取れるならば、ミョンの剣はバフによる支援があっも、インフゥに致命傷を負わせられない。
そして犬の狩りとは、相手の急所を捉える絶対の一手を取る。
インフゥに宿るホッホの感性が、それを可能とした。
「ッ」
歯を食い縛っているため、裂帛の気合いはないが、インフィのバウンティドッグはミョンの脛へと振り抜かれた。
「勝者、赤方! インフゥ!」
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