74 / 114
第5章「大公家秘記」
第74話「あなたは誰でしょう。空高く輝きます」
しおりを挟む
最後に残ったメーヘレンが顰めっ面を見せていた。
勝者は赤方ばがりが聞こえてくる。
ムン、ミョン、ファル・ジャルと、3人が立て続けに敗れたのだ。
――そんな高位の精剣が集まっているのか?
メーヘレンの思考はそこに至る。
目を向ける精剣の格はレア。
レアとはいうが、その実、メーヘレンには「ノーマルではない」くらいの意味しか持っていない。7段階ある内の下から3段階目なのだから。上位の精剣が手に入った場合、ノーマルと一緒に強化の材料にするつもりだ。
精剣を女に戻さずに持ち歩いているメーヘレンにとって、精剣の価値は格とスキルにしか見出していない。
格の高い精剣があれば、という思いは、4人の中で最も強い。
ムンは「どれだけ強力なスキルを発動させられるか、それが勝負を分けるのだ!」と言ったが、その想いはメーヘレンの方が強いくらいだ。
精剣を持った剣士同士の戦いは、スキルの強弱で全てが決まる――メーヘレンにとって、戦闘とは単純なもの。
レアという高いようで高くない精剣の格に懐く不安が、知っている者たちの敗北によって一層、強くされた。
格の高い精剣があるからこそ勝てる、勝てれば仕官が叶い、より格の高い、強い精剣を手に入れられる、という事だけを頼みに参加した上覧試合だ。
精剣の格を気にし始めたら、どうしても抜け出せない沼へ足を踏み入れることになる。
心中で足掻き、苦しみ、そして藻掻いた手が掴めたのは、ムン、ミョン、ファル・ジャルへの恨み言だった。
――策を弄しても無駄だったって事だろ!
相手にスキルを使わせない立ち位置、こちらのスキルを発動させる最高のタイミング、全て3人が実行してきた事だ。
皆、口々に必勝だといっていた。
だが現実は――、
「どれもダメだったろう!」
言葉として吐き出したメーヘレンは、その言葉を最後に口を真一文字に括った。
――火力だ。強大で、格好いいスキルを、ド派手に炸裂させるのが勝利の分かれ目だ!
その考えに帰結したからだ。
「黒方、クー・メーヘレン!」
呼び出しがあった。
それに反応したメーヘレンの足取りには、震えなど無縁だった。
***
一方、パトリシアとエリザベスも、赤方の勝利ばかりが伝えられる状況に、些か緊張感が増してきていた。
そんな中、エリザボスが溜息を吐くように深呼吸する。
「はぁ……」
座っているパトリシアが顔を向け、
「心配かい?」
と、エリザベスは「いいえ!」と慌てて首を横に振った。
緊張していないといえば嘘になるが、絶望など懐いていない。
「ユージン様、インフゥ様、コバック様……皆様、勝利してきていますから」
自分たちだけは負けた、引き分けたでは格好がつかないと思っているからと知れば、パトリシアは笑ってしまう。
「ははは。そうか、次は私たちかも知れないか」
パトリシアは笑いながら、赤方に残っている剣士がファンと自分だけだったと、今、思い出したかのように戯けて見せた。
「ファンなら負けないだろうし、確かに私たちも勝つしかないな」
簡単そうにいうパトリシアであるが、簡単ではない事くらい心得ている。
エリザベスに宿っている精剣ワールド・シェイカーはHレア。レアとは一段階しか違わないが、この辺りから貴重度が増して行く。メダルの投入で顕現する最低の格がHレアだといわれているが、コインに比べて貴重なメダルを使うのだから。
「パット……」
エリザベスの声には、心配そうな響きがあった。宿している本人であるから分かる。ワールド・シェイカーは弱くはないが、強くもない。魔物の一群ならば十二分に活躍してくれる精剣だと思っているが、大公が集めた剣士ともなれば、必勝の自信はない。
「ベス」
その不安そうな声、視線を受けて、パトリシアが顔を向けた。
「簡単じゃないとしても、難しくもない。私は勝つよ。ワールド・シェイカーがある」
パトリシアは、エリザベスに宿っている精剣だからこそ勝てる、といった。
格がどうのという気は一切ない。
「確かにワールド・シェイカーはHレアだ。身近でも、ユージンがSレアの帝凰剣を持っていた」
昨夜、食卓を囲んだ男の事を思い出すと、どうしてもエリザベスは自身が宿す精剣とも差を感じてしまう。SレアとHレアの差は、レアとHレアの差よりも大きい。
だがパトリシアはエリザベスの頬へ手を伸ばし、
「ベス」
二度目の呼びかけは、一度目よりもゆっくり、そして気持ちだけ大きく、そして優しく聞こえた。
「私の精剣は――」
パトリシアの言葉は、別に特別という訳ではない。
「ベスのワールド・シェイカーだけだ」
ファンにとっての非時、ユージンにとっての帝凰剣、インフゥにとってのバウンティドッグ、コバックにとってのライジングムーンと同じ想い。
「赤方、パトリシア・ノーマン!」
呼び出しに応え、パトリシアが立ち上がった。
勝者は赤方ばがりが聞こえてくる。
ムン、ミョン、ファル・ジャルと、3人が立て続けに敗れたのだ。
――そんな高位の精剣が集まっているのか?
メーヘレンの思考はそこに至る。
目を向ける精剣の格はレア。
レアとはいうが、その実、メーヘレンには「ノーマルではない」くらいの意味しか持っていない。7段階ある内の下から3段階目なのだから。上位の精剣が手に入った場合、ノーマルと一緒に強化の材料にするつもりだ。
精剣を女に戻さずに持ち歩いているメーヘレンにとって、精剣の価値は格とスキルにしか見出していない。
格の高い精剣があれば、という思いは、4人の中で最も強い。
ムンは「どれだけ強力なスキルを発動させられるか、それが勝負を分けるのだ!」と言ったが、その想いはメーヘレンの方が強いくらいだ。
精剣を持った剣士同士の戦いは、スキルの強弱で全てが決まる――メーヘレンにとって、戦闘とは単純なもの。
レアという高いようで高くない精剣の格に懐く不安が、知っている者たちの敗北によって一層、強くされた。
格の高い精剣があるからこそ勝てる、勝てれば仕官が叶い、より格の高い、強い精剣を手に入れられる、という事だけを頼みに参加した上覧試合だ。
精剣の格を気にし始めたら、どうしても抜け出せない沼へ足を踏み入れることになる。
心中で足掻き、苦しみ、そして藻掻いた手が掴めたのは、ムン、ミョン、ファル・ジャルへの恨み言だった。
――策を弄しても無駄だったって事だろ!
相手にスキルを使わせない立ち位置、こちらのスキルを発動させる最高のタイミング、全て3人が実行してきた事だ。
皆、口々に必勝だといっていた。
だが現実は――、
「どれもダメだったろう!」
言葉として吐き出したメーヘレンは、その言葉を最後に口を真一文字に括った。
――火力だ。強大で、格好いいスキルを、ド派手に炸裂させるのが勝利の分かれ目だ!
その考えに帰結したからだ。
「黒方、クー・メーヘレン!」
呼び出しがあった。
それに反応したメーヘレンの足取りには、震えなど無縁だった。
***
一方、パトリシアとエリザベスも、赤方の勝利ばかりが伝えられる状況に、些か緊張感が増してきていた。
そんな中、エリザボスが溜息を吐くように深呼吸する。
「はぁ……」
座っているパトリシアが顔を向け、
「心配かい?」
と、エリザベスは「いいえ!」と慌てて首を横に振った。
緊張していないといえば嘘になるが、絶望など懐いていない。
「ユージン様、インフゥ様、コバック様……皆様、勝利してきていますから」
自分たちだけは負けた、引き分けたでは格好がつかないと思っているからと知れば、パトリシアは笑ってしまう。
「ははは。そうか、次は私たちかも知れないか」
パトリシアは笑いながら、赤方に残っている剣士がファンと自分だけだったと、今、思い出したかのように戯けて見せた。
「ファンなら負けないだろうし、確かに私たちも勝つしかないな」
簡単そうにいうパトリシアであるが、簡単ではない事くらい心得ている。
エリザベスに宿っている精剣ワールド・シェイカーはHレア。レアとは一段階しか違わないが、この辺りから貴重度が増して行く。メダルの投入で顕現する最低の格がHレアだといわれているが、コインに比べて貴重なメダルを使うのだから。
「パット……」
エリザベスの声には、心配そうな響きがあった。宿している本人であるから分かる。ワールド・シェイカーは弱くはないが、強くもない。魔物の一群ならば十二分に活躍してくれる精剣だと思っているが、大公が集めた剣士ともなれば、必勝の自信はない。
「ベス」
その不安そうな声、視線を受けて、パトリシアが顔を向けた。
「簡単じゃないとしても、難しくもない。私は勝つよ。ワールド・シェイカーがある」
パトリシアは、エリザベスに宿っている精剣だからこそ勝てる、といった。
格がどうのという気は一切ない。
「確かにワールド・シェイカーはHレアだ。身近でも、ユージンがSレアの帝凰剣を持っていた」
昨夜、食卓を囲んだ男の事を思い出すと、どうしてもエリザベスは自身が宿す精剣とも差を感じてしまう。SレアとHレアの差は、レアとHレアの差よりも大きい。
だがパトリシアはエリザベスの頬へ手を伸ばし、
「ベス」
二度目の呼びかけは、一度目よりもゆっくり、そして気持ちだけ大きく、そして優しく聞こえた。
「私の精剣は――」
パトリシアの言葉は、別に特別という訳ではない。
「ベスのワールド・シェイカーだけだ」
ファンにとっての非時、ユージンにとっての帝凰剣、インフゥにとってのバウンティドッグ、コバックにとってのライジングムーンと同じ想い。
「赤方、パトリシア・ノーマン!」
呼び出しに応え、パトリシアが立ち上がった。
10
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
エリクサーは不老不死の薬ではありません。~完成したエリクサーのせいで追放されましたが、隣国で色々助けてたら聖人に……ただの草使いですよ~
シロ鼬
ファンタジー
エリクサー……それは生命あるものすべてを癒し、治す薬――そう、それだけだ。
主人公、リッツはスキル『草』と持ち前の知識でついにエリクサーを完成させるが、なぜか王様に偽物と判断されてしまう。
追放され行く当てもなくなったリッツは、とりあえず大好きな草を集めていると怪我をした神獣の子に出会う。
さらには倒れた少女と出会い、疫病が発生したという隣国へ向かった。
疫病? これ飲めば治りますよ?
これは自前の薬とエリクサーを使い、聖人と呼ばれてしまった男の物語。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
第5皇子に転生した俺は前世の医学と知識や魔法を使い世界を変える。
黒ハット
ファンタジー
前世は予防医学の専門の医者が飛行機事故で結婚したばかりの妻と亡くなり異世界の帝国の皇帝の5番目の子供に転生する。子供の生存率50%という文明の遅れた世界に転生した主人公が前世の知識と魔法を使い乱世の世界を戦いながら前世の奥さんと巡り合い世界を変えて行く。
主人公は高みの見物していたい
ポリ 外丸
ファンタジー
高等魔術学園に入学した主人公の新田伸。彼は大人しく高校生活を送りたいのに、友人たちが問題を持ち込んでくる。嫌々ながら巻き込まれつつ、彼は徹底的に目立たないようにやり過ごそうとする。例え相手が高校最強と呼ばれる人間だろうと、やり過ごす自信が彼にはあった。何故なら、彼こそが世界最強の魔術使いなのだから……。最強の魔術使いの高校生が、平穏な学園生活のために実力を隠しながら、迫り来る問題を解決していく物語。
※主人公はできる限り本気を出さず、ずっと実力を誤魔化し続けます
※小説家になろう、ノベルアップ+、ノベルバ、カクヨムにも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる