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第5章「大公家秘記」
第73話「怖がるどころか浮かれて騒ぐ」
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オークがどれだけの知能を持っているのか、また教育によって、どれ程の知識を得られるのかというのは、誰も正確に把握していない。オークを精剣の鞘として繁殖させようという計画を実行している側でも、予算的にも人員的にも習性を調べるくらいが精々だった。
個体差が大きすぎ、平均化できない――それだけが知られている。
それによれば、コバックはかなり上位に含まれていた。コミュニケーションが取れるだけでなく料理ができるのだから、人間の子供よりも高い知能と知識を有している。
それでも、ファル・ジャルは関係ないと思っているだろう。
オークの本能には恐るべきものを感じているのかも知れないが、自身が持つデュアルスキルはオークやコボルトどころか、ドラゴンすら駆逐できるスキルだという思いこそが強い。
剣士である事が不本意なファル・ジャルであるが、違えられない事がある。
持論は絶対という事だ。
ファル・ジャルにとって、オークとは最上位と最低位の知能に差などなく、総じてバカでなければならない。
Uレアの精剣に宿るデュアルスキルは、相手が何者であろうとも後れを取らない。
――これを読み解けない者は蒙昧であるに決まっているのだ。
それがファル・ジャルにとって現実――自分が描く物語の根底にあるからこそ、違える事は天地かひっくり返ても許されない。
違えられるはずがない理であると思っていた。
デバフはコバックを蝕んだ。
バフはファル・ジャルの身体を包み込んでいる。
コバックは立ち位置を間違え、投擲武器であるライジングムーンを投げられない。
――剣士でなくとも、想像は創造に通じる!
踏み込む。丸鋸のようなライジングムーンは当然、並の剣よりも重く、お世辞にも取り回しのいい武器とはいえない。
引く事でしか斬れず、そういう意味でも接近戦ではデメリットしかない武器だ。
「ハハッ」
間合いへ侵入したファル・ジャルは、その相貌に勝利しか捉えていなかった。バフによって燃え上がるような感覚すら覚えている体躯は、一握の石程の重さすらもなくしたかの如く軽い。
軽さ、そして速さを実感しているファル・ジャルは、時間の流れすらも追い越した感覚を覚えていただろう。
だが突きつけられる現実は、激痛と共にやって来くる。
コバックの拳だった。
踏み込んできた所に合わせたといえばラッキーパンチ同然であるが、この場合は若干、意味が違っていた。
合わせたというよりも応じたという方が正しい。
精剣の事も、剣の心得もないコバックには、ファル・ジャルが決して認める事のできない一点が宿っていた。
インフゥとザキに対する責任感である。
それはインフゥに向けられるファンの指導を、自らも聞く、覚えるという行動に繋がった。
――仕掛けとか攻め崩しとか、いい方は色々とある。それらをさせず、相手が不完全なまま攻撃してきたところに応じる。
相手よりも後に行動を起こしても、先に完結させられる秘訣であるというファンだが、これもいうは易し行うは難しというもの。相手の動きを待って合わせたのでは間に合わず、相手の動きを感じ、応じられるからできる事。
インフゥも身に着けているとは言い難い技術を、インフゥを息子のように思っているからこそ、コバックはファンの言葉を聞き、咀嚼していた。
ファル・ジャルにとって、こんな知識や技能は存在してはならない。剣士でなければ精剣は振るえないし、戦えないからこそ、自分には欠点も弱点もないはずなのだ。
――俺の立てた策は、欠点も弱点もない。
激痛によって思考を奪われた頭の中で、ファル・ジャルはそればかりを渦巻かせていた。デバフを仕掛けられて尚、オークの筋力は人に勝る事、数倍。それで頭部を殴られたのだから当然といえば当然だ。
しかしファル・ジャルには、劣っていなければならないオークの女に、しかも精剣を使われずに敗れる現実など、認めようがない。
――摂理……真理……弱肉強食。
ファル・ジャルが縋り付くのは、人の本質が露悪的に出現する世こそが、自身の望む創作が求められる世界だという願望だった。
――悪徳の……。
だが最も悪徳なのは、それらの中心に居座るであろう自身の創作だという点に辿り着けないファル・ジャルに、それ以上の何かはない。
「勝者、赤方!」
ただの一撃で寸断されたファル・ジャルの意識では、その声が聞こえたかどうかも怪しいものだ。
個体差が大きすぎ、平均化できない――それだけが知られている。
それによれば、コバックはかなり上位に含まれていた。コミュニケーションが取れるだけでなく料理ができるのだから、人間の子供よりも高い知能と知識を有している。
それでも、ファル・ジャルは関係ないと思っているだろう。
オークの本能には恐るべきものを感じているのかも知れないが、自身が持つデュアルスキルはオークやコボルトどころか、ドラゴンすら駆逐できるスキルだという思いこそが強い。
剣士である事が不本意なファル・ジャルであるが、違えられない事がある。
持論は絶対という事だ。
ファル・ジャルにとって、オークとは最上位と最低位の知能に差などなく、総じてバカでなければならない。
Uレアの精剣に宿るデュアルスキルは、相手が何者であろうとも後れを取らない。
――これを読み解けない者は蒙昧であるに決まっているのだ。
それがファル・ジャルにとって現実――自分が描く物語の根底にあるからこそ、違える事は天地かひっくり返ても許されない。
違えられるはずがない理であると思っていた。
デバフはコバックを蝕んだ。
バフはファル・ジャルの身体を包み込んでいる。
コバックは立ち位置を間違え、投擲武器であるライジングムーンを投げられない。
――剣士でなくとも、想像は創造に通じる!
踏み込む。丸鋸のようなライジングムーンは当然、並の剣よりも重く、お世辞にも取り回しのいい武器とはいえない。
引く事でしか斬れず、そういう意味でも接近戦ではデメリットしかない武器だ。
「ハハッ」
間合いへ侵入したファル・ジャルは、その相貌に勝利しか捉えていなかった。バフによって燃え上がるような感覚すら覚えている体躯は、一握の石程の重さすらもなくしたかの如く軽い。
軽さ、そして速さを実感しているファル・ジャルは、時間の流れすらも追い越した感覚を覚えていただろう。
だが突きつけられる現実は、激痛と共にやって来くる。
コバックの拳だった。
踏み込んできた所に合わせたといえばラッキーパンチ同然であるが、この場合は若干、意味が違っていた。
合わせたというよりも応じたという方が正しい。
精剣の事も、剣の心得もないコバックには、ファル・ジャルが決して認める事のできない一点が宿っていた。
インフゥとザキに対する責任感である。
それはインフゥに向けられるファンの指導を、自らも聞く、覚えるという行動に繋がった。
――仕掛けとか攻め崩しとか、いい方は色々とある。それらをさせず、相手が不完全なまま攻撃してきたところに応じる。
相手よりも後に行動を起こしても、先に完結させられる秘訣であるというファンだが、これもいうは易し行うは難しというもの。相手の動きを待って合わせたのでは間に合わず、相手の動きを感じ、応じられるからできる事。
インフゥも身に着けているとは言い難い技術を、インフゥを息子のように思っているからこそ、コバックはファンの言葉を聞き、咀嚼していた。
ファル・ジャルにとって、こんな知識や技能は存在してはならない。剣士でなければ精剣は振るえないし、戦えないからこそ、自分には欠点も弱点もないはずなのだ。
――俺の立てた策は、欠点も弱点もない。
激痛によって思考を奪われた頭の中で、ファル・ジャルはそればかりを渦巻かせていた。デバフを仕掛けられて尚、オークの筋力は人に勝る事、数倍。それで頭部を殴られたのだから当然といえば当然だ。
しかしファル・ジャルには、劣っていなければならないオークの女に、しかも精剣を使われずに敗れる現実など、認めようがない。
――摂理……真理……弱肉強食。
ファル・ジャルが縋り付くのは、人の本質が露悪的に出現する世こそが、自身の望む創作が求められる世界だという願望だった。
――悪徳の……。
だが最も悪徳なのは、それらの中心に居座るであろう自身の創作だという点に辿り着けないファル・ジャルに、それ以上の何かはない。
「勝者、赤方!」
ただの一撃で寸断されたファル・ジャルの意識では、その声が聞こえたかどうかも怪しいものだ。
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