107 / 114
第7章「白刃は銀色に輝く」
第107話「天井に上ったり 床に下りたり」
しおりを挟む
精剣を作った男といわれても、ピンと来る者は希有だ。田畑の造成でコインやメダルが見つかり始めた頃も、武具にするには丁度いい地金が出て来たくらいの認識であったし、精剣が宿り始めた頃の、格について言及される前は、そもそも興味を持たれる存在ではなかった。
そして今となっては、既にあるもの、更には便利で強力な兵器と認識され、精剣の存在意義、歴史などは等閑にされている。
「作った者……?」
エリザベスが独り言つと、フミは「そう」と頷いた。考えた事すらないという顔が見えている事に対し、満足そうに。
「遙か昔、だ」
長くなるというのだろうか、フミは手頃な岩に腰掛けた。
「天に召された女がいた。その復活を願った男がいた」
フミの笑みが強まるが、それが何に対してのものかは分からない。
「この世には、止めようのないものが一つだけてある」
フミは言葉の端々に、寒々しい雰囲気が纏わり付かせる。
「花は枯れ、人は腐り、形あるものが崩れていく絶対のもの――死だ」
フミは笑ったのだろうか? 嗤ったのだろうか?
「この恐ろしい法則を止めるため、男は一日1000人の者を犠牲にし、100年かけてて魔力を収束させる器を作った。それが精剣の起こりだ」
身振り手振りを交えて語るフミの声に、熱がこもり始めた。
「魔力を収束、発振させる剣は完成した。だが男が地に伏すまで、終ぞ望むようなスキルは現れなかったのさ。それはそうだ」
苦笑か、嘲笑か、その双方か、フミの笑みにそんな色がにじみ出してきた。
「天に召された女を連れ戻す力が、地に伏した男にあるはずがない」
フミの笑みは、軽い自嘲だったかも知れない。
「天に召された女を求めるんだから、運を天に任せるのが一番だと気付いたのは、今際の際だった訳だ。だから遺跡では、コインやメダルを投入すれば、精剣が現れる。天に召された女が認めたならば、もう一度、天から戻るため、死という法則を覆すスキルが精剣に宿るはずだ」
フミの笑いが強くなる。
「故に、私は精剣の仕掛けを知るに至ったのだ」
去年の春先、この地にある遺跡で声高に話していた事だ。
――精剣には、テーブルがある。
必ず高位の精剣が現れるという話だ。
――テーブルがあり、天井がある。特別な時間帯に、大量のコインを消費し、その後にメダルを使えば、必ず最上級の精剣が現れる。
自信満々にいっていたが、そんなものは与太話であり、眉に唾せぬ者などいないと思わされるもの。
――そして人の身体は、自分の中へ入ってこようとする異物を排除しようという意識が働く。生きていようと思うならば当然の事だ。その抵抗は精剣の格を落とす事もわかった。
だが、それら全てが真実だったというのだ。
「天に召された女と、地に眠る男の血を引く私は、今、その精剣を手に入れた!」
笑い声が最高潮に達した時、フミは飛び跳ねるように腰掛けていた岩から立ち上がった。
「我が精剣ヘロウィンこそ、死を超越する王者の剣だ」
高らかに宣言するのは、精剣の格ばかりをいっているのではない。
大事なのは口調――村人たちに、嫌が応にも思い出させる事がある口調だ。
――我々の頼りにしていた国は乱れ、経済、治安に深刻な影響が出ている。街道は夜盗、魔物が溢れ、そのためやむなく剣士の育成を急いだ。
フミ自らの言葉ではないが、フミが重臣達にいわせた言葉を、今、ここで思い出させる。
――これは全て、領民のためである! この決断に、残念な事であるが逆らう愚かな村があった。我々はやむを得ず、その村に厳罰を与えると共に、新たな精剣顕現の儀式を執り行う!
処刑宣言と同じ響きであり、それは事の起こりを知らないパトリシアにも戦慄させた。
「ここで見逃さなければ、どうするつもりだ?」
パトリシアは剣呑な雰囲気を見せる。
――剣士は一人じゃ意味がないぞ!
フミが剣士であろうと精剣を宿していたとしても、一人では戦えない。
単独で敵地へ姿を見せる事は自殺行為に等しいのだが、フミは涼しい顔。
「斬ればいい。別に構わないぞ」
それがパトリシアの手を止める。
――ハッタリだろう?
そう思って尚、パトリシアは精剣を抜けなかった。
万全であれば抜けただろう。
だが一戦を終えての消耗が、僅かとはいえない程の逡巡を呼んでしまった。
フミはそれを見抜いて、ここにいる。
「こちらは手を出さない。私の本拠地は、あの遺跡だ。来るといい」
背を向けるフミは、嗤うしかないではないか。
だから一歩、踏み出したところで、顔だけを振り向かせ、その笑みを対照的な表情のファンたち――下郎へ向ける。
「そうそう、手下の剣士などいないから、変な緊張をする必要はないよ。全て、私の精剣のエサにした。ドュフテフルスに送り込んだグリューとフォールは、偶々、Uレアだったから残しておいただけだ」
煽り口調で挑発し、今度こそ立ち去るために向けた背で語る。
――今は見逃してやる。
ファンもヴィーも、その姿が見えなくなるまで誰も動けなかった。
そして動けるようになったのは、大人たちより少年が早い。
「ファン……」
少年の声で、ファンは呼吸すら忘れていた事を自覚した。
「はぁぁぁ……」
深呼吸するように大きく息を吐き出すファンは、ここでやっと、頬を伝うのは冷や汗、額に浮かぶのは脂汗であるのに気付く。
「あの遺跡が、フミの本拠地なんスか?」
そんな嫌な汗を掻かせられる理由は直感させられたからだ。
――人じゃないのか。
フミは姿こそ人であり、人の言葉を解するが、人といえない何かだ。
「うん……」
頷く少年に、ファンはいつもの「大丈夫」という言葉がかけられない。
「……帰って来れない人が出るかも知れないッスね……」
何人とはいわないが、大丈夫という言葉は遂に口に出せなかったのだ。
そして今となっては、既にあるもの、更には便利で強力な兵器と認識され、精剣の存在意義、歴史などは等閑にされている。
「作った者……?」
エリザベスが独り言つと、フミは「そう」と頷いた。考えた事すらないという顔が見えている事に対し、満足そうに。
「遙か昔、だ」
長くなるというのだろうか、フミは手頃な岩に腰掛けた。
「天に召された女がいた。その復活を願った男がいた」
フミの笑みが強まるが、それが何に対してのものかは分からない。
「この世には、止めようのないものが一つだけてある」
フミは言葉の端々に、寒々しい雰囲気が纏わり付かせる。
「花は枯れ、人は腐り、形あるものが崩れていく絶対のもの――死だ」
フミは笑ったのだろうか? 嗤ったのだろうか?
「この恐ろしい法則を止めるため、男は一日1000人の者を犠牲にし、100年かけてて魔力を収束させる器を作った。それが精剣の起こりだ」
身振り手振りを交えて語るフミの声に、熱がこもり始めた。
「魔力を収束、発振させる剣は完成した。だが男が地に伏すまで、終ぞ望むようなスキルは現れなかったのさ。それはそうだ」
苦笑か、嘲笑か、その双方か、フミの笑みにそんな色がにじみ出してきた。
「天に召された女を連れ戻す力が、地に伏した男にあるはずがない」
フミの笑みは、軽い自嘲だったかも知れない。
「天に召された女を求めるんだから、運を天に任せるのが一番だと気付いたのは、今際の際だった訳だ。だから遺跡では、コインやメダルを投入すれば、精剣が現れる。天に召された女が認めたならば、もう一度、天から戻るため、死という法則を覆すスキルが精剣に宿るはずだ」
フミの笑いが強くなる。
「故に、私は精剣の仕掛けを知るに至ったのだ」
去年の春先、この地にある遺跡で声高に話していた事だ。
――精剣には、テーブルがある。
必ず高位の精剣が現れるという話だ。
――テーブルがあり、天井がある。特別な時間帯に、大量のコインを消費し、その後にメダルを使えば、必ず最上級の精剣が現れる。
自信満々にいっていたが、そんなものは与太話であり、眉に唾せぬ者などいないと思わされるもの。
――そして人の身体は、自分の中へ入ってこようとする異物を排除しようという意識が働く。生きていようと思うならば当然の事だ。その抵抗は精剣の格を落とす事もわかった。
だが、それら全てが真実だったというのだ。
「天に召された女と、地に眠る男の血を引く私は、今、その精剣を手に入れた!」
笑い声が最高潮に達した時、フミは飛び跳ねるように腰掛けていた岩から立ち上がった。
「我が精剣ヘロウィンこそ、死を超越する王者の剣だ」
高らかに宣言するのは、精剣の格ばかりをいっているのではない。
大事なのは口調――村人たちに、嫌が応にも思い出させる事がある口調だ。
――我々の頼りにしていた国は乱れ、経済、治安に深刻な影響が出ている。街道は夜盗、魔物が溢れ、そのためやむなく剣士の育成を急いだ。
フミ自らの言葉ではないが、フミが重臣達にいわせた言葉を、今、ここで思い出させる。
――これは全て、領民のためである! この決断に、残念な事であるが逆らう愚かな村があった。我々はやむを得ず、その村に厳罰を与えると共に、新たな精剣顕現の儀式を執り行う!
処刑宣言と同じ響きであり、それは事の起こりを知らないパトリシアにも戦慄させた。
「ここで見逃さなければ、どうするつもりだ?」
パトリシアは剣呑な雰囲気を見せる。
――剣士は一人じゃ意味がないぞ!
フミが剣士であろうと精剣を宿していたとしても、一人では戦えない。
単独で敵地へ姿を見せる事は自殺行為に等しいのだが、フミは涼しい顔。
「斬ればいい。別に構わないぞ」
それがパトリシアの手を止める。
――ハッタリだろう?
そう思って尚、パトリシアは精剣を抜けなかった。
万全であれば抜けただろう。
だが一戦を終えての消耗が、僅かとはいえない程の逡巡を呼んでしまった。
フミはそれを見抜いて、ここにいる。
「こちらは手を出さない。私の本拠地は、あの遺跡だ。来るといい」
背を向けるフミは、嗤うしかないではないか。
だから一歩、踏み出したところで、顔だけを振り向かせ、その笑みを対照的な表情のファンたち――下郎へ向ける。
「そうそう、手下の剣士などいないから、変な緊張をする必要はないよ。全て、私の精剣のエサにした。ドュフテフルスに送り込んだグリューとフォールは、偶々、Uレアだったから残しておいただけだ」
煽り口調で挑発し、今度こそ立ち去るために向けた背で語る。
――今は見逃してやる。
ファンもヴィーも、その姿が見えなくなるまで誰も動けなかった。
そして動けるようになったのは、大人たちより少年が早い。
「ファン……」
少年の声で、ファンは呼吸すら忘れていた事を自覚した。
「はぁぁぁ……」
深呼吸するように大きく息を吐き出すファンは、ここでやっと、頬を伝うのは冷や汗、額に浮かぶのは脂汗であるのに気付く。
「あの遺跡が、フミの本拠地なんスか?」
そんな嫌な汗を掻かせられる理由は直感させられたからだ。
――人じゃないのか。
フミは姿こそ人であり、人の言葉を解するが、人といえない何かだ。
「うん……」
頷く少年に、ファンはいつもの「大丈夫」という言葉がかけられない。
「……帰って来れない人が出るかも知れないッスね……」
何人とはいわないが、大丈夫という言葉は遂に口に出せなかったのだ。
10
あなたにおすすめの小説
『辺境伯一家の領地繁栄記』序章:【動物スキル?】を持った辺境伯長男の場合
鈴白理人
ファンタジー
北の辺境で雨漏りと格闘中のアーサーは、貧乏領主の長男にして未来の次期辺境伯。
国民には【スキルツリー】という加護があるけれど、鑑定料は銀貨五枚。そんな贅沢、うちには無理。
でも最近──猫が雨漏りポイントを教えてくれたり、鳥やミミズとも会話が成立してる気がする。
これってもしかして【動物スキル?】
笑って働く貧乏大家族と一緒に、雨漏り屋敷から始まる、のんびりほのぼの領地改革物語!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【最強モブの努力無双】~ゲームで名前も登場しないようなモブに転生したオレ、一途な努力とゲーム知識で最強になる~
くーねるでぶる(戒め)
ファンタジー
アベル・ヴィアラットは、五歳の時、ベッドから転げ落ちてその拍子に前世の記憶を思い出した。
大人気ゲーム『ヒーローズ・ジャーニー』の世界に転生したアベルは、ゲームの知識を使って全男の子の憧れである“最強”になることを決意する。
そのために努力を続け、順調に強くなっていくアベル。
しかしこの世界にはゲームには無かった知識ばかり。
戦闘もただスキルをブッパすればいいだけのゲームとはまったく違っていた。
「面白いじゃん?」
アベルはめげることなく、辺境最強の父と優しい母に見守られてすくすくと成長していくのだった。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
処刑された勇者は二度目の人生で復讐を選ぶ
シロタカズキ
ファンタジー
──勇者は、すべてを裏切られ、処刑された。
だが、彼の魂は復讐の炎と共に蘇る──。
かつて魔王を討ち、人類を救った勇者 レオン・アルヴァレス。
だが、彼を待っていたのは称賛ではなく、 王族・貴族・元仲間たちによる裏切りと処刑だった。
「力が強すぎる」という理由で異端者として断罪され、広場で公開処刑されるレオン。
国民は歓喜し、王は満足げに笑い、かつての仲間たちは目を背ける。
そして、勇者は 死んだ。
──はずだった。
十年後。
王国は繁栄の影で腐敗し、裏切り者たちは安穏とした日々を送っていた。
しかし、そんな彼らの前に死んだはずの勇者が現れる。
「よくもまあ、のうのうと生きていられたものだな」
これは、英雄ではなくなった男の復讐譚。
彼を裏切った王族、貴族、そしてかつての仲間たちを絶望の淵に叩き落とすための第二の人生が、いま始まる──。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
アルフレッドは平穏に過ごしたい 〜追放されたけど謎のスキル【合成】で生き抜く〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
アルフレッドは貴族の令息であったが天から与えられたスキルと家風の違いで追放される。平民となり冒険者となったが、生活するために竜騎士隊でアルバイトをすることに。
ふとした事でスキルが発動。
使えないスキルではない事に気付いたアルフレッドは様々なものを合成しながら密かに活躍していく。
⭐︎注意⭐︎
女性が多く出てくるため、ハーレム要素がほんの少しあります。特に苦手な方はご遠慮ください。
子供って難解だ〜2児の母の笑える小話〜
珊瑚やよい(にん)
エッセイ・ノンフィクション
10秒で読める笑えるエッセイ集です。
2匹の怪獣さんの母です。12歳の娘と6歳の息子がいます。子供はネタの宝庫だと思います。クスッと笑えるエピソードをどうぞ。
毎日毎日ネタが絶えなくて更新しながら楽しんでいます(笑)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる