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第7章「白刃は銀色に輝く」
第112話「人柱をささげましょう 聖母様、聖母様」
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遺跡の最上段に立ち上がった巨体を、村人は呆然とした顔で見上げた。
「ジャイアントだと……?」
この一帯を覆い尽くしていた死者を全て集めて作られたジャイアントは、正しく脅威と映る巨体である。
「ジャイアントではないのだけどね」
片方の上唇だけを吊り上げる、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべるフミ自身が、そのジャイアントを形作る死者の中心にはいっていた。
このジャイアントこそ、フミにとって切り札――最強の兵器であり、最大の防具――だからこそ名称に拘りなどはない。ジャイアントというモンスター名を誤用するのも構わないし、一言でいって「好きに呼べ」だ。
――どうせ結末は変わらない。
こちらを見上げてくる村人に対し、フミは胸の前に魔力の光を灯す。
「さあ!」
またフミは小馬鹿にした笑みを浮かべ、集中させた魔力を解放すれば、真一文字に飛翔する閃光となる。ドュフテフルスのヴァイスギッフェルでグリューが見せたシャインアローとは比較にならない規模と輝きを持って。
飛翔するだけで轟音を放つ閃光は、雷の魔法を指向させた、電撃の魔法とでもいうべきものだった。
縦に掃射したのは、広範囲に威力を発揮させるよりも、示威を優先したからか。
その効果は、示威の面でも威力の面でも覿面だ。
「にげ――」
誰かが悲鳴と共に声を上げたが、それを掻き消すようにもう一度、轟音が響き渡った。
フミは集中させた魔力を地面に叩きつけたのだ。
その魔力が地面を滑走するように伝わり、村人達の中心に来たタイミングで炎を噴水のように吹き上がらせる。
天にも届かんばかりに高く噴き出した炎は石や土を溶かしているのだから、電撃と同じく恐怖を掻き立てた。
そして間がいいのか悪いのか、ここは森。
「逃げろ!」
「隠れろ!」
混乱した村人が飛びつくものは、いくらでもあった。
だが隠れる事は意味を成さない。
「焼き払えばいい!」
これだけの魔法を操れるフミは、森ごと焼き払ってしまえばいい。
二度目の炎が森を包む。
フミは真っ赤な口を開いた。
「ダメだろう?」
だが絶望を撒き散らす炎が、ヴィーの呆けたような顔を引き締めさせる。
――あれは!
炎の中から飛翔してくるライジングムーンを見つけたからだ。ライジングムーンに括り付けられた石版が落ちる。
――これは精剣スキルじゃない。死者の中にエルフがいる。全員の魔法を一つにしてるだけ。
そこには、インフゥからの報告があった。ホッホの感覚がもたらした値千金の情報!
「ファン!」
ヴィーはファンへと、怒鳴るように声を張り上げる。
「後ろにつけ。斬りに行く!」
そしてヴァラー・オブ・ドラゴンを構えるヴィーは、三つ目のスキルを発動させた。
「10コマンドメンツ」
10の分身を生むスキルを使い、全員の鎧と盾で背後のファンを庇う壁となる。
「お前は、何が何でもエルを起こせ! 讃州旺院非時陰歌なら、あれも斬れる!」
切り札を出せというヴィーに、ファンには一瞬の逡巡があったが、頷く。
「……ああ」
どうやったらエルの意識が戻るのか、それが分からないが故のシュンジュンだった。
――精剣から人に戻して、改めて抜くか?
以前、試した方法が浮ぶが、ファンにも確信などはない。
それでも頷く。ただし頷くしかないから、という消極的な考えでは決してない。
手がないはずがない、という頷きだと、ヴィーにも、それが分かった。
――そうだな。
ファンとエルならば、土壇場で何とかする。
――いつか、特別な友達を一人だけ選ぶ時が来る。
ヴィーの胸に、幼い日、両親からいわれた言葉が浮かぶ。
――ファンは、選んだんだ。
ファンとエルは、互いが特別だと選んだ。その結果、ヴィーは深く傷つく事になり、あの上覧試合へと繋がるのだが、それは今の状況とは関わりない。
ファンとエルならば何とかできる、とヴィーは確信している。
「行くぞ!」
隊列を組み、ヴィーとファンが走った。
「ほう!」
フミが目を見張った。
「この期に及んで戦意が萎えていない」
それが一つ目の理由。
「無様に特攻するしか能がないか」
二つ目の理由はそれだ。
「退け、去れ、散れ、帰れ、失せろ」
罵りながら向けられた電撃の魔法に、ヴィーは全身全霊の抵抗を試みる。
――耐えろ! 防げ!
だが何百人と集まったエルフが放つ魔力の圧には、それでも足を止めさせられた。
じりじりと下がってしまうヴィーだが、10人が一丸となって先頭を支え、背後のファンを庇う。
――俺は特別な一人は選べなかった。ファンもエルも、どちらも大事だとしか思えなかった!
ファンへの想い、エルへの想いを総動員し、ともすれば消えてしまいそうになる意識を保つ。
――傷つけられたと思ったが、それでも俺は、二人が好きなんだ。
我が儘でいいんだと自己肯定し、その想いを両足に込めて進む。
「気合い……入れろ! Lレアだろうが!」
同じ格のはずだと、盾を構える手に力を込めた。右手に持った剣も、間合いに入れば即、斬りつけるつもりで握りしめる。
電撃の魔法は、ながながと放ち続けられるものではない。最初に集中させた魔力が尽きれば消える。
――消えた瞬間、俺とファンが斬り込んでやる!
ヴァラー・オブ・ドラゴンと讃州旺院非時陰歌の振動剣が、もう一度、魔力を集中させる前のフミに一撃ずつ攻撃を加える。
全身に感じていた圧が消えていく。
「よし、よし!」
待ちに待った瞬間だと顔を高揚させるヴィーだったが、その時、ヴィーは聞いてしまう。
声が伝える感情は、ただ絶望だった。
――もう嫌!
ヴィーの脳裏に響いた声は、精剣を宿しているアイシャの声。
同時に10人の分身が消えた。
それだけでなく、盾も鎧も――精剣さえも消え失せる。
目を剥くヴィーの傍らで、アイシャが人の姿に戻っていた。
ヴィーとアイシャの関係は隷属。
フミの猛攻により、アイシャはヴィーよりもフミに恐怖してしまったのだ。
「もう嫌! いつまでこんな事……もう戦えない……もう守れない……!」
アイシャは顔を蒼白にし、ヴィーとファンから離れていく。
「一体、誰が私を守ってくれる? 誰が私を守ってくれるのよ!?」
アイシャの怯えた目が伝えようとしているものが、言葉となって迸る。
「便利に使い倒してるだけで、心の底ですら私が死ぬ事を考えていない!」
それがアイシャの最期の言葉となった。
フミから放たれた電撃だ。
――素敵なドレス、可愛い靴、おいしいご飯……。
何もかもが消えていく中で、アイシャが考えていた事は、自分を守ってくれるはずだったLレアの精剣を宿した時と同じ事。
だが本当の最後は――、
「何故、この私が、こんな所で、こんな目に……」
アイシャの姿が完全に消えたところで、フミの目がファンとヴィーへと向けられる。
魔力は、まだ残されていた。
「さぁ、もうどうしようもなくなったなァ!」
フミは笑いながら、その魔力を電撃へ変えた。
そこから先の光景は、ファンにもヴィーにも、酷くゆっくりに見えた。
「ははは……」
ヴィーが死に瀕したのだと理解するのは一瞬で十分だった。
「ヴィー、お前は……」
ヴィーは独り言ちながら、思い出していく。
ファンとエルが、互いに特別な友達を一人だけ選んだ事により、ヴィーは傷つけられたと思っていた。
「いつもこうだ……」
だからヴィーは選ばなかった。
「何の力もないくせに……」
しかし選ばなくとも、人を傷つけていたではないか。自分を守ってくれる者を探していたアイシャを無視し続けた結果が、この無残な死だ。
ファンがエルを連れてて出て行った時、誰もが軽口の類いだと断じた「赤茶けた大地を畑や街に、煤けた顔を笑顔に」という言葉を信じ、それに対抗するために生きてきた自分が、どれ程、上等だったというのか?
「自分の事ばかり……」
ファンの旅など宛てもなく、どれだけの人々を救ったとしても将来に繋がらない、将来に繋がる道筋をつける自分の方が凄いといいたかった。
幽閉されれば世直しに動く特使の元締めになりたいという大公に渡りをつけた理由は、そんな所。
――宛てのないファンに比べ、俺は宛てがあったぞと誇りたかっただけだ。
だからエルは自分と組み、ファンはついてくるだけでいいといいたかった。
だが将来に繋がらなくとも、人々を救い、笑顔にしてきたファンに比べ、ヴィーは何も成していないではないか!
「そんな事で、誰かを守れるつもりだったのか!」
そしてヴィーは、今、選んだ。
ファンとエルが、互いに特別でいつづける事を、選んだ。
「おおおおお!」
気合いの声と共に、ファンの眼前で両手を広げ、仁王立ちになる。
アイシャを一瞬で消した電撃であるから、如何にムゥチが群青銅で強化した衣装であるといっても、紙のような盾に過ぎない。
一歩か二歩か、稼げるのはそれだけだろう。
――頼んだぞ、ファン! エル!
声は、もう出なかった。
「ヴィー!」
ファンは声を絞り出した。
そして絞り出された言葉は、二人分。
――ヴィー!
エルの声!
エルの意識が戻るのは、ファンとエルが同じ感情を懐いた時だったのだ。
――昇現《しょうげん》!
ファンが手にしている非時が変わる。
「讃州旺院非時陰歌!」
その切っ先が向く――フミだ。
「傷跡のウェヌス!」
「ジャイアントだと……?」
この一帯を覆い尽くしていた死者を全て集めて作られたジャイアントは、正しく脅威と映る巨体である。
「ジャイアントではないのだけどね」
片方の上唇だけを吊り上げる、人を小馬鹿にしたような笑みを浮かべるフミ自身が、そのジャイアントを形作る死者の中心にはいっていた。
このジャイアントこそ、フミにとって切り札――最強の兵器であり、最大の防具――だからこそ名称に拘りなどはない。ジャイアントというモンスター名を誤用するのも構わないし、一言でいって「好きに呼べ」だ。
――どうせ結末は変わらない。
こちらを見上げてくる村人に対し、フミは胸の前に魔力の光を灯す。
「さあ!」
またフミは小馬鹿にした笑みを浮かべ、集中させた魔力を解放すれば、真一文字に飛翔する閃光となる。ドュフテフルスのヴァイスギッフェルでグリューが見せたシャインアローとは比較にならない規模と輝きを持って。
飛翔するだけで轟音を放つ閃光は、雷の魔法を指向させた、電撃の魔法とでもいうべきものだった。
縦に掃射したのは、広範囲に威力を発揮させるよりも、示威を優先したからか。
その効果は、示威の面でも威力の面でも覿面だ。
「にげ――」
誰かが悲鳴と共に声を上げたが、それを掻き消すようにもう一度、轟音が響き渡った。
フミは集中させた魔力を地面に叩きつけたのだ。
その魔力が地面を滑走するように伝わり、村人達の中心に来たタイミングで炎を噴水のように吹き上がらせる。
天にも届かんばかりに高く噴き出した炎は石や土を溶かしているのだから、電撃と同じく恐怖を掻き立てた。
そして間がいいのか悪いのか、ここは森。
「逃げろ!」
「隠れろ!」
混乱した村人が飛びつくものは、いくらでもあった。
だが隠れる事は意味を成さない。
「焼き払えばいい!」
これだけの魔法を操れるフミは、森ごと焼き払ってしまえばいい。
二度目の炎が森を包む。
フミは真っ赤な口を開いた。
「ダメだろう?」
だが絶望を撒き散らす炎が、ヴィーの呆けたような顔を引き締めさせる。
――あれは!
炎の中から飛翔してくるライジングムーンを見つけたからだ。ライジングムーンに括り付けられた石版が落ちる。
――これは精剣スキルじゃない。死者の中にエルフがいる。全員の魔法を一つにしてるだけ。
そこには、インフゥからの報告があった。ホッホの感覚がもたらした値千金の情報!
「ファン!」
ヴィーはファンへと、怒鳴るように声を張り上げる。
「後ろにつけ。斬りに行く!」
そしてヴァラー・オブ・ドラゴンを構えるヴィーは、三つ目のスキルを発動させた。
「10コマンドメンツ」
10の分身を生むスキルを使い、全員の鎧と盾で背後のファンを庇う壁となる。
「お前は、何が何でもエルを起こせ! 讃州旺院非時陰歌なら、あれも斬れる!」
切り札を出せというヴィーに、ファンには一瞬の逡巡があったが、頷く。
「……ああ」
どうやったらエルの意識が戻るのか、それが分からないが故のシュンジュンだった。
――精剣から人に戻して、改めて抜くか?
以前、試した方法が浮ぶが、ファンにも確信などはない。
それでも頷く。ただし頷くしかないから、という消極的な考えでは決してない。
手がないはずがない、という頷きだと、ヴィーにも、それが分かった。
――そうだな。
ファンとエルならば、土壇場で何とかする。
――いつか、特別な友達を一人だけ選ぶ時が来る。
ヴィーの胸に、幼い日、両親からいわれた言葉が浮かぶ。
――ファンは、選んだんだ。
ファンとエルは、互いが特別だと選んだ。その結果、ヴィーは深く傷つく事になり、あの上覧試合へと繋がるのだが、それは今の状況とは関わりない。
ファンとエルならば何とかできる、とヴィーは確信している。
「行くぞ!」
隊列を組み、ヴィーとファンが走った。
「ほう!」
フミが目を見張った。
「この期に及んで戦意が萎えていない」
それが一つ目の理由。
「無様に特攻するしか能がないか」
二つ目の理由はそれだ。
「退け、去れ、散れ、帰れ、失せろ」
罵りながら向けられた電撃の魔法に、ヴィーは全身全霊の抵抗を試みる。
――耐えろ! 防げ!
だが何百人と集まったエルフが放つ魔力の圧には、それでも足を止めさせられた。
じりじりと下がってしまうヴィーだが、10人が一丸となって先頭を支え、背後のファンを庇う。
――俺は特別な一人は選べなかった。ファンもエルも、どちらも大事だとしか思えなかった!
ファンへの想い、エルへの想いを総動員し、ともすれば消えてしまいそうになる意識を保つ。
――傷つけられたと思ったが、それでも俺は、二人が好きなんだ。
我が儘でいいんだと自己肯定し、その想いを両足に込めて進む。
「気合い……入れろ! Lレアだろうが!」
同じ格のはずだと、盾を構える手に力を込めた。右手に持った剣も、間合いに入れば即、斬りつけるつもりで握りしめる。
電撃の魔法は、ながながと放ち続けられるものではない。最初に集中させた魔力が尽きれば消える。
――消えた瞬間、俺とファンが斬り込んでやる!
ヴァラー・オブ・ドラゴンと讃州旺院非時陰歌の振動剣が、もう一度、魔力を集中させる前のフミに一撃ずつ攻撃を加える。
全身に感じていた圧が消えていく。
「よし、よし!」
待ちに待った瞬間だと顔を高揚させるヴィーだったが、その時、ヴィーは聞いてしまう。
声が伝える感情は、ただ絶望だった。
――もう嫌!
ヴィーの脳裏に響いた声は、精剣を宿しているアイシャの声。
同時に10人の分身が消えた。
それだけでなく、盾も鎧も――精剣さえも消え失せる。
目を剥くヴィーの傍らで、アイシャが人の姿に戻っていた。
ヴィーとアイシャの関係は隷属。
フミの猛攻により、アイシャはヴィーよりもフミに恐怖してしまったのだ。
「もう嫌! いつまでこんな事……もう戦えない……もう守れない……!」
アイシャは顔を蒼白にし、ヴィーとファンから離れていく。
「一体、誰が私を守ってくれる? 誰が私を守ってくれるのよ!?」
アイシャの怯えた目が伝えようとしているものが、言葉となって迸る。
「便利に使い倒してるだけで、心の底ですら私が死ぬ事を考えていない!」
それがアイシャの最期の言葉となった。
フミから放たれた電撃だ。
――素敵なドレス、可愛い靴、おいしいご飯……。
何もかもが消えていく中で、アイシャが考えていた事は、自分を守ってくれるはずだったLレアの精剣を宿した時と同じ事。
だが本当の最後は――、
「何故、この私が、こんな所で、こんな目に……」
アイシャの姿が完全に消えたところで、フミの目がファンとヴィーへと向けられる。
魔力は、まだ残されていた。
「さぁ、もうどうしようもなくなったなァ!」
フミは笑いながら、その魔力を電撃へ変えた。
そこから先の光景は、ファンにもヴィーにも、酷くゆっくりに見えた。
「ははは……」
ヴィーが死に瀕したのだと理解するのは一瞬で十分だった。
「ヴィー、お前は……」
ヴィーは独り言ちながら、思い出していく。
ファンとエルが、互いに特別な友達を一人だけ選んだ事により、ヴィーは傷つけられたと思っていた。
「いつもこうだ……」
だからヴィーは選ばなかった。
「何の力もないくせに……」
しかし選ばなくとも、人を傷つけていたではないか。自分を守ってくれる者を探していたアイシャを無視し続けた結果が、この無残な死だ。
ファンがエルを連れてて出て行った時、誰もが軽口の類いだと断じた「赤茶けた大地を畑や街に、煤けた顔を笑顔に」という言葉を信じ、それに対抗するために生きてきた自分が、どれ程、上等だったというのか?
「自分の事ばかり……」
ファンの旅など宛てもなく、どれだけの人々を救ったとしても将来に繋がらない、将来に繋がる道筋をつける自分の方が凄いといいたかった。
幽閉されれば世直しに動く特使の元締めになりたいという大公に渡りをつけた理由は、そんな所。
――宛てのないファンに比べ、俺は宛てがあったぞと誇りたかっただけだ。
だからエルは自分と組み、ファンはついてくるだけでいいといいたかった。
だが将来に繋がらなくとも、人々を救い、笑顔にしてきたファンに比べ、ヴィーは何も成していないではないか!
「そんな事で、誰かを守れるつもりだったのか!」
そしてヴィーは、今、選んだ。
ファンとエルが、互いに特別でいつづける事を、選んだ。
「おおおおお!」
気合いの声と共に、ファンの眼前で両手を広げ、仁王立ちになる。
アイシャを一瞬で消した電撃であるから、如何にムゥチが群青銅で強化した衣装であるといっても、紙のような盾に過ぎない。
一歩か二歩か、稼げるのはそれだけだろう。
――頼んだぞ、ファン! エル!
声は、もう出なかった。
「ヴィー!」
ファンは声を絞り出した。
そして絞り出された言葉は、二人分。
――ヴィー!
エルの声!
エルの意識が戻るのは、ファンとエルが同じ感情を懐いた時だったのだ。
――昇現《しょうげん》!
ファンが手にしている非時が変わる。
「讃州旺院非時陰歌!」
その切っ先が向く――フミだ。
「傷跡のウェヌス!」
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