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第7章「白刃は銀色に輝く」
第113話「時化ても無事だよ 雪洞ゃ明るい」
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フミから見れば、今更、精剣が変化したところで、何もかも「少々」という言葉で片付けられる。
「元はノーマル! しかも碌《ろく》なスキルが宿っていなかった!」
フミ自身は非時に宿るスキルを知らないが、目立っていないのだから死にスキルだと判断している。
アブノーマル化は格の変化だが、元がノーマルの精剣がどのように変化しようとも、最上級のLレアに匹敵するとも思っていない。
「スキルを把握しきれていない気配がするぞ!」
グリューとフォールを斃した一回しか扱った事がない、と確信を懐いた。
経験を殊更、重視するフミではなく、寧ろ自分は一瞬で精剣スキルを把握したと胸を反らせられる質であるからこそ、ファンの讃州旺院非時陰歌へ嘲笑を向ける。
「Lレアを宿していた女は蒸発して消滅した!」
アイシャの死で、万が一に過ぎなくとも、戦力になるヴァラー・オブ・ドラゴンは消失した。
「使っていた剣士も、無謀な格好だ」
ヴィーは崩れ落ちようとしている。
もうまともに立っていられる剣士はいない、とフミは嗤うのみ。コバックとパトリシアは直接、見ていないが、下で大慌てしている村人共にいるのでは、二度目の火炎魔法で死しかないものと断じた。
「いずれ、使ってやろう。そのためのヘロウィンだ」
また嗤う。
地に崩れたヴィーの身体が見えた。
その向こうで、必死になって精剣を翳しているファンの姿に、更なる嘲笑を加える。
「そんな位置で、何ができるというんだろうな。攻撃スキルだったとしても、私の魔法で掻き消されてしまうくらいなのにな」
嗤うフミであったが、精剣を持つファンのこそ、この時、嘲りの表情が浮かんだ。
「バカ面さげてる場合か?」
讃州旺院非時陰歌を構えるファンの姿は、電撃魔法で消滅させられそうになっている姿ではない。
そしてフミも、自分の足で立っている。
「!?」
そこでやっと、フミは自分のいる場所が死人で造り上げた巨人の中ではない事に気付いた。
精剣のスキルが捉えたぞ、とファンが宣言する。
「傷跡のウェヌス」
ヴィーが稼いだのは高々、一歩に過ぎなかったが、その一歩こそ、黄金にも勝るものだった。
「不干渉領域だ」
死者で作った巨人も、この場には入れない。
「入れるのは二人。しかし出られるのは一人」
一騎打ちに勝利した方のみが出られる空間の中だ。
――ヴィー……。
振り向く事は許されず、フミから意識を逸らす事すら死を意味する一対一の空間であるが、ファンは一瞬、この場に導いてくれた親友の顔を思い浮かべた。
――エル……。
そして、この場を形作る精剣を宿す少女の顔も。
――特別な友達を一人、選ばなきゃいけない時が来るってヴィーはいってたか。
その特別な一人に、ファンはエルを選んだ。しかし、ただ一人に対し、誠実になるということは、他の誰かには不誠実になるという事の裏返しでもある。
――ヴィーに、消えない傷跡をつけてたんだな。
傷跡を抱えたヴィーを思えば、そしてその想い故に、この場にファンを立たせたのだと考えれば、自分の不明に腹が立つ。
しかし同時に思う事は、今の勝機を作ってくれたエルの事。
――エルはヴィーの事を分かってたんだよな。
如何《いか》なる法則があって精剣が、またスキルが宿るのかは知らないが、ファンは讃州旺院非時陰歌に宿るスキルこそがエルの想いだと理解していた。
傷跡のウェヌス。
スキルの名には、ヴィーに残されたものが、効果にはヴィーに対する態度が示されている。
――エルは、一対一で傷跡と向かい合えって思ってたんだな。
ならば今、ファンはその想いを両足に込め、己の立つ礎とし、敵を怖れる己の心に立ち向かう。
しかしフミの笑みは消えない。
「フッ」
今尚、フミは怖れるに足らないと考えている。
「一騎打ち、望むところ!」
ヘイロウィンを振り上げ、ファンに躍りかかった。
構えているのだから、当然、ファンは動く。徹底的に後の先――敵の挙動を見てから動いても、先に挙動を完成させる秘技を発揮し、フミが振り回すヘロウィンを受け流そうとする。
――バカメ!
フミの笑みは、そう告げていた。
ファンが受け流そうとするヘロウィンは、不意に光を宿す。赤、次いで白、最後に青と一瞬で光の色を変化させたのは、刃に宿る熱のため。
電磁式振動剣だ。
「デュアルスキルだ! Lレアでは常識だ!」
知らなかっただろうという嘲笑をファンへ向けるフミ。
「刀身を衝突させれば、より大きなエネルギーを持つ方が勝る!」
へし折ってやると目を見開くフミに対し、ファンは細い目を更に鋭くするのみ。
「確かに、強くて凄くていい剣だ」
受け流そうとした動作に間違いはなく、ファンの刀身も輝きを宿す。エルの精神感応式振動剣が発動したのだ。
――だけど……。
刀身の衝突によって激しい火花が散り、二人の顔を焼いていく。
その火花の中、ファンはぐるりと剣を半回転させ――、
「技術は追い付いてるか!?」
ヘロウィンの刀身を巻き込み、弾く。
火花が止まる中、宙を舞ったのは切断されたヘロウィンの刀身だった。
「――!」
フミが目を剥く。
確かにヘロウィンの方が強い力を持っていたのだろう。
だが刃を垂直に押し当ててしまったフミに対し、ファンは刃を傾斜させ、最も浅い角度で受け止めた。
断面積の差――僅かばかりとしかいい様がないが、その差が明暗を分ける。
――いいや!
精剣を構えるファンは、理屈こそそうであっても、明暗を分けたのは偏に人なのだという。
神に選ばれたというフミの言葉には嘲笑を向けたが、ファンの精剣こそが――ファンの心を救ってくれるエルに宿った剣こそが伝説級なのだ。
女神の白刃にて、断てぬ敵があろうか!
「――!?」
ファンの刃は、フミに悲鳴も断末魔も上げさせない。
不干渉領域が解き放たれると、首を失ったフミが倒れた。
「……」
しかしファンからも、勝利の雄叫びはなかった。
「誰も笑えないッスわ」
倒れているヴィーへ歩み寄り、肩を貸すのみ。
「元はノーマル! しかも碌《ろく》なスキルが宿っていなかった!」
フミ自身は非時に宿るスキルを知らないが、目立っていないのだから死にスキルだと判断している。
アブノーマル化は格の変化だが、元がノーマルの精剣がどのように変化しようとも、最上級のLレアに匹敵するとも思っていない。
「スキルを把握しきれていない気配がするぞ!」
グリューとフォールを斃した一回しか扱った事がない、と確信を懐いた。
経験を殊更、重視するフミではなく、寧ろ自分は一瞬で精剣スキルを把握したと胸を反らせられる質であるからこそ、ファンの讃州旺院非時陰歌へ嘲笑を向ける。
「Lレアを宿していた女は蒸発して消滅した!」
アイシャの死で、万が一に過ぎなくとも、戦力になるヴァラー・オブ・ドラゴンは消失した。
「使っていた剣士も、無謀な格好だ」
ヴィーは崩れ落ちようとしている。
もうまともに立っていられる剣士はいない、とフミは嗤うのみ。コバックとパトリシアは直接、見ていないが、下で大慌てしている村人共にいるのでは、二度目の火炎魔法で死しかないものと断じた。
「いずれ、使ってやろう。そのためのヘロウィンだ」
また嗤う。
地に崩れたヴィーの身体が見えた。
その向こうで、必死になって精剣を翳しているファンの姿に、更なる嘲笑を加える。
「そんな位置で、何ができるというんだろうな。攻撃スキルだったとしても、私の魔法で掻き消されてしまうくらいなのにな」
嗤うフミであったが、精剣を持つファンのこそ、この時、嘲りの表情が浮かんだ。
「バカ面さげてる場合か?」
讃州旺院非時陰歌を構えるファンの姿は、電撃魔法で消滅させられそうになっている姿ではない。
そしてフミも、自分の足で立っている。
「!?」
そこでやっと、フミは自分のいる場所が死人で造り上げた巨人の中ではない事に気付いた。
精剣のスキルが捉えたぞ、とファンが宣言する。
「傷跡のウェヌス」
ヴィーが稼いだのは高々、一歩に過ぎなかったが、その一歩こそ、黄金にも勝るものだった。
「不干渉領域だ」
死者で作った巨人も、この場には入れない。
「入れるのは二人。しかし出られるのは一人」
一騎打ちに勝利した方のみが出られる空間の中だ。
――ヴィー……。
振り向く事は許されず、フミから意識を逸らす事すら死を意味する一対一の空間であるが、ファンは一瞬、この場に導いてくれた親友の顔を思い浮かべた。
――エル……。
そして、この場を形作る精剣を宿す少女の顔も。
――特別な友達を一人、選ばなきゃいけない時が来るってヴィーはいってたか。
その特別な一人に、ファンはエルを選んだ。しかし、ただ一人に対し、誠実になるということは、他の誰かには不誠実になるという事の裏返しでもある。
――ヴィーに、消えない傷跡をつけてたんだな。
傷跡を抱えたヴィーを思えば、そしてその想い故に、この場にファンを立たせたのだと考えれば、自分の不明に腹が立つ。
しかし同時に思う事は、今の勝機を作ってくれたエルの事。
――エルはヴィーの事を分かってたんだよな。
如何《いか》なる法則があって精剣が、またスキルが宿るのかは知らないが、ファンは讃州旺院非時陰歌に宿るスキルこそがエルの想いだと理解していた。
傷跡のウェヌス。
スキルの名には、ヴィーに残されたものが、効果にはヴィーに対する態度が示されている。
――エルは、一対一で傷跡と向かい合えって思ってたんだな。
ならば今、ファンはその想いを両足に込め、己の立つ礎とし、敵を怖れる己の心に立ち向かう。
しかしフミの笑みは消えない。
「フッ」
今尚、フミは怖れるに足らないと考えている。
「一騎打ち、望むところ!」
ヘイロウィンを振り上げ、ファンに躍りかかった。
構えているのだから、当然、ファンは動く。徹底的に後の先――敵の挙動を見てから動いても、先に挙動を完成させる秘技を発揮し、フミが振り回すヘロウィンを受け流そうとする。
――バカメ!
フミの笑みは、そう告げていた。
ファンが受け流そうとするヘロウィンは、不意に光を宿す。赤、次いで白、最後に青と一瞬で光の色を変化させたのは、刃に宿る熱のため。
電磁式振動剣だ。
「デュアルスキルだ! Lレアでは常識だ!」
知らなかっただろうという嘲笑をファンへ向けるフミ。
「刀身を衝突させれば、より大きなエネルギーを持つ方が勝る!」
へし折ってやると目を見開くフミに対し、ファンは細い目を更に鋭くするのみ。
「確かに、強くて凄くていい剣だ」
受け流そうとした動作に間違いはなく、ファンの刀身も輝きを宿す。エルの精神感応式振動剣が発動したのだ。
――だけど……。
刀身の衝突によって激しい火花が散り、二人の顔を焼いていく。
その火花の中、ファンはぐるりと剣を半回転させ――、
「技術は追い付いてるか!?」
ヘロウィンの刀身を巻き込み、弾く。
火花が止まる中、宙を舞ったのは切断されたヘロウィンの刀身だった。
「――!」
フミが目を剥く。
確かにヘロウィンの方が強い力を持っていたのだろう。
だが刃を垂直に押し当ててしまったフミに対し、ファンは刃を傾斜させ、最も浅い角度で受け止めた。
断面積の差――僅かばかりとしかいい様がないが、その差が明暗を分ける。
――いいや!
精剣を構えるファンは、理屈こそそうであっても、明暗を分けたのは偏に人なのだという。
神に選ばれたというフミの言葉には嘲笑を向けたが、ファンの精剣こそが――ファンの心を救ってくれるエルに宿った剣こそが伝説級なのだ。
女神の白刃にて、断てぬ敵があろうか!
「――!?」
ファンの刃は、フミに悲鳴も断末魔も上げさせない。
不干渉領域が解き放たれると、首を失ったフミが倒れた。
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しかしファンからも、勝利の雄叫びはなかった。
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(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
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