262 / 419
第2話
しおりを挟む
激しく息を切らす祐介を先頭として、三人が弾かれるように車内へと身を翻す。
しっかりと確認を終えた浩太は、振り返ると同時に、ニッコリと笑顔を浮かべて短く言った。
「飛ぶぞ!」
一歩間違えれば、死者の海へ落ちてしまう。そうなれば、生きて生還するなど不可能だ。だが、ここで再び、誰かと離れることなどできるはずもない。
浩太は、手摺を掴むと、一気に乗り越えた。失った重力に従い、まっすぐに吸い込まれるように、浩太は車上に落下した。二度、三度と転がり、どうにかハッチの上部で揺れる身体を止める。
緊張から吹き出した汗を拭い、浩太は二人を仰ぐ。
「来い!」
死者の大群と二人の距離は離れておらず、取り囲まれるのも時間の問題だろう。
真一が、ごくり、と生唾を飲み込んでから戦車を見下ろす。
「......やっぱり、ろくな方法じゃなかったぜ!くそったれ!」
「まあ......浩太らしいちゃあ、らしいよな......いくしかねえか......」
真一と達也、二人は手摺に足を掛け、大群の先頭に押されるように、飛び降りた。
ぶわっ、と滝のように流汗する。水のような冷たさを額に貯めたまま、最初に着地したのは真一だった。
浩太と同じく車上を転がり衝撃を逃がす。起き上がった時には、過呼吸になったかのような息を繰り返している。それは、達也も同じだ。やがて、落ち着きを取り戻した二人が声を揃えて項垂れながら言った。
「し......死ぬかと思った......」
「生きてるんだから、万々歳だろ?」
恨み言でも口にする時のような目付きで二人は、浩太をきつく睨んだが、当の本人は素知らぬ顔で、誤魔化すかのように、ハッチを強く叩いた。
「おい!ここを開けてくれ!」
やがて、車上からハッチが開かれた。
最初に出てきた祐介は、傷だらけの顔で瞳を潤ませてはいるものの、力強い光は、そのまま輝いている。よほどの事を乗り越えてきたのだろう。
そんな感慨に耽ていると、祐介が細い声を出した。
「浩太さん......よく、無事で......良かった、本当に良かった......」
「ああ、お前らこそ、無事で安心したよ。みんな、中にいるんだろ?早速で悪いけど、入れてくれないか?いい加減、こんな辛気くさいところはコリゴリなんだ」
みんな、の言葉を耳にした祐介の眉間が陰る。それを見逃す浩太ではないが、ここは詮索せずに、努めて明るく言った。
それは、後ろにいる二人、いや、達也への配慮でもある。ハッチから、車内へ戻った祐介のあとを追うが、これほど辛い心境は、そう味わえるものではないだろう。
そして、すぐにその理由は明らかとなった。
そこまで広さもない車内、そこには祐介、阿里沙、加奈子の姿しかない。浩太は、自身の胸を強く押さえつけて、どうにか声を絞りだす。尋ねたくはなかった。だが、突き付けられた現実は、浩太に逃げる為の言葉を奪い去ってしまったのだ。
「し......彰一......は?」
ピクリ、三人の肩が僅かに動く。そこで、二人も車内で合流し、ぐるりと周囲を見回した真一は、愕然としたことだろう。
一拍の静寂が永遠にすら感じてしまう。そんな重苦しい空気の中、意を決して口火を切ったのは祐介だった。
「彰一は......俺達を逃がすために......」
「もういい......!言わなくてもいい!ごめん......彰一......本当に......!」
堪らず、浩太は祐介を抱き締めた。
聞きたくない、という強い気持ちと、信じたくはない心が突き動かしたのだろう。
浩太の胸に、顔を埋めた祐介の、とても小さな嗚咽が車内に小さく木霊し、それに混じって真一が、嘘だろ、と小さく呟き、膝をついた。
しっかりと確認を終えた浩太は、振り返ると同時に、ニッコリと笑顔を浮かべて短く言った。
「飛ぶぞ!」
一歩間違えれば、死者の海へ落ちてしまう。そうなれば、生きて生還するなど不可能だ。だが、ここで再び、誰かと離れることなどできるはずもない。
浩太は、手摺を掴むと、一気に乗り越えた。失った重力に従い、まっすぐに吸い込まれるように、浩太は車上に落下した。二度、三度と転がり、どうにかハッチの上部で揺れる身体を止める。
緊張から吹き出した汗を拭い、浩太は二人を仰ぐ。
「来い!」
死者の大群と二人の距離は離れておらず、取り囲まれるのも時間の問題だろう。
真一が、ごくり、と生唾を飲み込んでから戦車を見下ろす。
「......やっぱり、ろくな方法じゃなかったぜ!くそったれ!」
「まあ......浩太らしいちゃあ、らしいよな......いくしかねえか......」
真一と達也、二人は手摺に足を掛け、大群の先頭に押されるように、飛び降りた。
ぶわっ、と滝のように流汗する。水のような冷たさを額に貯めたまま、最初に着地したのは真一だった。
浩太と同じく車上を転がり衝撃を逃がす。起き上がった時には、過呼吸になったかのような息を繰り返している。それは、達也も同じだ。やがて、落ち着きを取り戻した二人が声を揃えて項垂れながら言った。
「し......死ぬかと思った......」
「生きてるんだから、万々歳だろ?」
恨み言でも口にする時のような目付きで二人は、浩太をきつく睨んだが、当の本人は素知らぬ顔で、誤魔化すかのように、ハッチを強く叩いた。
「おい!ここを開けてくれ!」
やがて、車上からハッチが開かれた。
最初に出てきた祐介は、傷だらけの顔で瞳を潤ませてはいるものの、力強い光は、そのまま輝いている。よほどの事を乗り越えてきたのだろう。
そんな感慨に耽ていると、祐介が細い声を出した。
「浩太さん......よく、無事で......良かった、本当に良かった......」
「ああ、お前らこそ、無事で安心したよ。みんな、中にいるんだろ?早速で悪いけど、入れてくれないか?いい加減、こんな辛気くさいところはコリゴリなんだ」
みんな、の言葉を耳にした祐介の眉間が陰る。それを見逃す浩太ではないが、ここは詮索せずに、努めて明るく言った。
それは、後ろにいる二人、いや、達也への配慮でもある。ハッチから、車内へ戻った祐介のあとを追うが、これほど辛い心境は、そう味わえるものではないだろう。
そして、すぐにその理由は明らかとなった。
そこまで広さもない車内、そこには祐介、阿里沙、加奈子の姿しかない。浩太は、自身の胸を強く押さえつけて、どうにか声を絞りだす。尋ねたくはなかった。だが、突き付けられた現実は、浩太に逃げる為の言葉を奪い去ってしまったのだ。
「し......彰一......は?」
ピクリ、三人の肩が僅かに動く。そこで、二人も車内で合流し、ぐるりと周囲を見回した真一は、愕然としたことだろう。
一拍の静寂が永遠にすら感じてしまう。そんな重苦しい空気の中、意を決して口火を切ったのは祐介だった。
「彰一は......俺達を逃がすために......」
「もういい......!言わなくてもいい!ごめん......彰一......本当に......!」
堪らず、浩太は祐介を抱き締めた。
聞きたくない、という強い気持ちと、信じたくはない心が突き動かしたのだろう。
浩太の胸に、顔を埋めた祐介の、とても小さな嗚咽が車内に小さく木霊し、それに混じって真一が、嘘だろ、と小さく呟き、膝をついた。
0
あなたにおすすめの小説
意味が分かると怖い話(解説付き)
彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです
読みながら話に潜む違和感を探してみてください
最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください
実話も混ざっております
女子切腹同好会
しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。
はたして、彼女の行き着く先は・・・。
この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。
また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。
マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。
世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。
【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし
響ぴあの
ホラー
【1分読書】
意味が分かるとこわいおとぎ話。
意外な事実や知らなかった裏話。
浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。
どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。
中1でEカップって巨乳だから熱く甘く生きたいと思う真理(マリー)と小説家を目指す男子、光(みつ)のラブな日常物語
jun( ̄▽ ̄)ノ
大衆娯楽
中1でバスト92cmのブラはEカップというマリーと小説家を目指す男子、光の日常ラブ
★作品はマリーの語り、一人称で進行します。
終焉列島:ゾンビに沈む国
ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。
最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。
会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。
それなりに怖い話。
只野誠
ホラー
これは創作です。
実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。
本当に、実際に起きた話ではございません。
なので、安心して読むことができます。
オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。
不定期に章を追加していきます。
2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。
2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。
2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。
※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる