感染

saijya

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第21部 撃墜

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「さて、この状況......どうすべきかな」

 階下に広がる死者の海を俯瞰した達也が、喉を鳴らして言った。それに、答えたのは真一だ。

「まあ、順当に考えるとすれば、一人が引き付けて挟み撃ちってのが良いと思うぜ?」

「出来れば......の話だろ?」

 浩太の言い草に、真一は無粋だとでも口にしたそうに右頬を舌で押し上げた。
    祐介を助ける為の銃撃で数多の死者がこちらを見上げており、唸り声を出しながら、両腕を三人へ突き上げている。何度となく眼にしてきた光景だが、とても馴れそうにない。
    達也は吐き気を催したのか、深く息を吸いこんだ。

「やっぱ、鬼ごっこ......やるしかねえかな。賢い奴等は、ここまでこれるみてえだし」

 すいっ、と視線を動かせば、エスカレーターを登ってくる集団が、こちらに白濁とした双眸を向けていた。数は、数えたくもない。
    達也が舌を打ち、真一は銃の弾倉を交換する。その様子に、嫌な予感がした浩太が訊く。

「おい、今度は、お前が囮になるとか言い出すなよ?」

「真一、囮なら俺がやる。この中で、百人以上の大群に追われた経験があるのは俺だけだ」

 浩太は、達也の冗談めかした口調を咎めるように、きつく睨み付けた。受けた達也は、両肩を軽くすくねてから続ける。

「浩太、こいつは現実的な話しになるだろ?下の学生達は助けた。あとは、こっちがどう効率よく逃げるかだ。だとすれば、もっとも、経験があってモール内部を知っている俺が囮として走れば、それが一番じゃねえか」

 そこで、浩太と達也に挟まれた真一が口を開く。

「いや、ここは俺が囮になるぜ。達也、お前は駄目だ。顔見れば分かるんだぜ?」

「......なにがだよ?」

「お前、かなり疲れてるだろ?そんな奴が、あの大群から逃げられるとは思えないぜ」

「それなら、お前らもそうだろ」

「今のお前よりは、多少、マシだ」

 くっ、と踵を返そうとした真一の腕を浩太が掴んだ。

「......俺にひとつ考えがある」

 真一が首だけ回して、神妙な顔つきの浩太をみやってからため息をつく。

「......お前の考えって、大抵がヤバイことだって自覚はある?」

    達也も門司港レトロでの一件を思い出しているのだろうか、表情に曇りがかかっていた。
    そんな二人に構うこともなく、浩太は目線だけを動かす。その先にあるのは、一階ホールに鎮座する戦車だ。不安そうに、三人を見上げる阿里沙と加奈子、祐介を見下ろしつつ、浩太が声を振り上げた。

「三人とも!いますぐ戦車のなかに入れ!」
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