感染

宇宙人

文字の大きさ
411 / 419

第16話

しおりを挟む
    しかし、なぜだ。どうしてあの人がここにいるのだろうか。あまりにも卒爾な事態に、田辺はヘリコプターの轟音により流されるような小声で言った。

「さ……斎藤……さん?」

 ただでさえ強い錆の匂いが、ぐっ、と濃度を増していく。
 ヘリコプターからの銃撃に撃ち抜かれ、這っていた死者の頭部を踏み潰した浩太が振り返る。

「知りあいか、田辺さん!」

「は……はい、東京での僕の仲間です。けれど、どうやってここに……」

 頭の処理が追い付かずにいた田辺は、ヘリコプターの腹部に気付く。そこには、警視庁と大きな文字が入っていた。つまりは、斎藤が東京で動き、説得を試みた結果、協力者を得られたのだろう。搭乗者達も迷彩柄の服を着用し、使用されている銃も警察に採用されていないものだった。恐らく、多くの助力を得て斎藤や三台のヘリコプター、そして同乗者達は、この九州地方にやってきたのだ。報道に規制をかけられ、九州地方への連絡も遮断され、交通機関もなく、立ち入りすら許されなかった、この見捨てられかけていた九州地方にだ。拡声器から斎藤の声が響く。

「お前達は、急いでヘリコプターへ乗り込め!そいつらは、俺達で引き受ける!」

 鳴り止まない銃声は、まるで四人を鼓舞しているかのようだ。身体の奥から熱が甦り全身を巡っていく。
 まだ、ここで死ぬ訳にはいかない。この九州地方感染事件を、今回の事件を明るみにし、被害者の関係者に事実を伝えなくてはならない。
    田辺が記者を志した理由は、まさにそこだ。

「僕は、まだ世間に何も知らせていない。岡島さん、走って!」

「言われるまでもない!俺と田辺さんが道を作る!平山、達也を頼んだぞ!」

「了解!」

 浩太がヘリコプターからの銃撃を潜り抜けた死者の一人を殴りつけ、二人は互いに頷きあった。もう後戻りも、死ぬこともできない。ならば、あとは生き延びるだけだ。

「ウオオオオオオオオ!」

 揃って雄叫びをあげ、二人は駆け出した。
 着陸地点まで浮上していたヘリコプターが戻るが、押し寄せる死者を警戒してかハッチは開かず、四人の到着を待っており、窓から覗く裕介の表情は不安で歪んでた。それで良い。無理なリスクを背負う必要はない。
    浩太は、正面にいた死者を蹴りつけ、平山に言う。

「達也は大丈夫か!」

「ああ!まだ、細いが息はある!」

 平山の返事に胸中で安堵し、ヘリコプターへの距離を目算で計れば、百五十メートルといったところか。広い屋上を抜ける間に流れ弾に当たるような間抜けな真似はできない。直進距離を一気に抜けること、それが現状では最善だ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

三分で読める一話完結型ショートホラー小説

ROOM
ホラー
一話完結型のショートショートです。 短いけれど印象に残るそんな小説を目指します。 毎日投稿して行く予定です。楽しんでもらえると嬉しいです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

皆さんは呪われました

禰津エソラ
ホラー
あなたは呪いたい相手はいますか? お勧めの呪いがありますよ。 効果は絶大です。 ぜひ、試してみてください…… その呪いの因果は果てしなく絡みつく。呪いは誰のものになるのか。 最後に残るのは誰だ……

意味が分かると、分からないと怖い話【体験談+】

緑川
ホラー
ショートショートの寄せ集め。 幻想的から現実味溢れるものなど様々、存在。 出来の良し悪しについては格差あるので悪しからず。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/1/14:『でんしれんじ』の章を追加。2026/1/21の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/13:『こえ』の章を追加。2026/1/20の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/12:『あけてはいけない』の章を追加。2026/1/19の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/11:『みきさー』の章を追加。2026/1/18の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/10:『つかまれる』の章を追加。2026/1/17の朝8時頃より公開開始予定。 2026/1/9:『ゆうじんのかお』の章を追加。2026/1/16の朝4時頃より公開開始予定。 2026/1/8:『ついてきたもの』の章を追加。2026/1/15の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

終焉列島:ゾンビに沈む国

ねむたん
ホラー
2025年。ネット上で「死体が動いた」という噂が広まり始めた。 最初はフェイクニュースだと思われていたが、世界各地で「死亡したはずの人間が動き出し、人を襲う」事例が報告され、SNSには異常な映像が拡散されていく。 会社帰り、三浦拓真は同僚の藤木とラーメン屋でその話題になる。冗談めかしていた二人だったが、テレビのニュースで「都内の病院で死亡した患者が看護師を襲った」と報じられ、店内の空気が一変する。

処理中です...