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第15話
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入口から接近していた二人の顔面を銃挺で叩き潰し、三人を囲っていた死者達の頭部へ弾丸を埋め込むのと、カチッカチッ、と銃から聞こえたのは、ほぼ同時だった。唖然とする三人を尻目に、平山は銃を投げ捨てるように放って口角をあげた。
「今ので弾丸はなくなっちまった……」
目を丸くした浩太は、喉から絞り出すように言った。
「アンタ……何したか分かってんのか?」
むっ、と不機嫌そうに平山が返す。
「なんだよ、まずはありがとう、感謝の言葉は人間にとって基本だろ?」
「だからって……」
言葉を詰まらせる浩太の肩を叩き、首を傾けて背後にいる田辺を見てから言った。
「子供は大人の理想を押し付けられる、だったよな。だったら、俺も田辺さんの言う大人ってやつみたいだ。だから、付き合うよ田辺さん……大人としてさ」
平山の落ち着いた声に、田辺は目尻を下げ頷いた。
ヘリコプターに残された裕介と亜里沙、加奈子の三人はこれからを背負っていかなければいけない。今回の九州地方感染事件の全容も、そこさら先のことすらもだ。ならば、浜岡には心苦しいが、ここで彼らを逃がす為に奮闘するのも悪くない。
死者の一人を殴り飛ばした浩太の背中を眺めていた田辺が拳を握り締めれば、ついに屋上への扉を囲む壁が死者の圧力により崩れてしまう。押し寄せる津浪のように、様々な物体を包む勢いをもった死者の大群は、大音量の呻きを伴いながら四人へ目を向けると地鳴りを響かせて走り出す。
限界を悟った操縦士がヘリコプターの周囲を囲む死者達を振り切るようにコネクティブスティックを引き機体を浮上させる。ある死者は野田の肉塊を求め、ある死者は真一の首を奪い合い、多くが浩太、田辺、達也、平山へと餓えた獣のように一心不乱に駆け寄ってきていた。
浩太は、ヘリコプターの窓を一見し、なにかを大声で叫んでいる裕介に右手を突き上げてみせる。浩太にとっては簡単だけれども別れの挨拶のつもりだったのだが、その結末の予想は大きく外れることになる。それは、死者の大群から発せられる圧力を肌に感じられそうなほどに距離が縮まったまさにその時に起きた。
裕介達が乗り込んだヘリコプターのモーター音が重なっている。その音が徐々に聞き取れるようになり、四人が空を煽ぎ目を剥くと同時に、三台のヘリコプターから途方もほどの銃声と弾丸の雨が、まるで雷雨のように降り注いだ。
次々と倒れていく多数の死者や突然、現れたヘリコプター、訳もわからず視線を泳がせる四人の元に、拡声器を使った声が届く。
「田辺!良かった!無事だったか!」
それは、田辺にとってこの数日間に聞き慣れた声だった。
「今ので弾丸はなくなっちまった……」
目を丸くした浩太は、喉から絞り出すように言った。
「アンタ……何したか分かってんのか?」
むっ、と不機嫌そうに平山が返す。
「なんだよ、まずはありがとう、感謝の言葉は人間にとって基本だろ?」
「だからって……」
言葉を詰まらせる浩太の肩を叩き、首を傾けて背後にいる田辺を見てから言った。
「子供は大人の理想を押し付けられる、だったよな。だったら、俺も田辺さんの言う大人ってやつみたいだ。だから、付き合うよ田辺さん……大人としてさ」
平山の落ち着いた声に、田辺は目尻を下げ頷いた。
ヘリコプターに残された裕介と亜里沙、加奈子の三人はこれからを背負っていかなければいけない。今回の九州地方感染事件の全容も、そこさら先のことすらもだ。ならば、浜岡には心苦しいが、ここで彼らを逃がす為に奮闘するのも悪くない。
死者の一人を殴り飛ばした浩太の背中を眺めていた田辺が拳を握り締めれば、ついに屋上への扉を囲む壁が死者の圧力により崩れてしまう。押し寄せる津浪のように、様々な物体を包む勢いをもった死者の大群は、大音量の呻きを伴いながら四人へ目を向けると地鳴りを響かせて走り出す。
限界を悟った操縦士がヘリコプターの周囲を囲む死者達を振り切るようにコネクティブスティックを引き機体を浮上させる。ある死者は野田の肉塊を求め、ある死者は真一の首を奪い合い、多くが浩太、田辺、達也、平山へと餓えた獣のように一心不乱に駆け寄ってきていた。
浩太は、ヘリコプターの窓を一見し、なにかを大声で叫んでいる裕介に右手を突き上げてみせる。浩太にとっては簡単だけれども別れの挨拶のつもりだったのだが、その結末の予想は大きく外れることになる。それは、死者の大群から発せられる圧力を肌に感じられそうなほどに距離が縮まったまさにその時に起きた。
裕介達が乗り込んだヘリコプターのモーター音が重なっている。その音が徐々に聞き取れるようになり、四人が空を煽ぎ目を剥くと同時に、三台のヘリコプターから途方もほどの銃声と弾丸の雨が、まるで雷雨のように降り注いだ。
次々と倒れていく多数の死者や突然、現れたヘリコプター、訳もわからず視線を泳がせる四人の元に、拡声器を使った声が届く。
「田辺!良かった!無事だったか!」
それは、田辺にとってこの数日間に聞き慣れた声だった。
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