神様から転生スキルとして鑑定能力とリペア能力を授けられた理由

瀬乃一空

文字の大きさ
10 / 117

新たな名前

しおりを挟む
 退院のその日、ゼファイル村長が子供を連れてくるという約束の時刻。
 ゲオルクもイルゼも始終落ち着かない。
 イルゼもそわそわしながら家事をこなしていたが、ゲオルクのそわそわは尋常ではなかった。既に鍛冶屋の仕事は再開していたが、この日ばかりはどうにも手につかない。
「ヒゲ、剃り残しはないか? 髪は乱れてないか? 服はこれでいいか?」
「ちょっとは落ち着いたらどうなの。相手は子供だよ。図体ばかりで気が小さいんだから」
「おい、一張羅出してくれ」
「そんなものはないよ」
「あっただろ。結婚する前によく来ていた青いシャツだよ。胸のところに小さなポケットが付いてて錨の刺繍がしてあったやつだ。気に入ってたんだ」
「カビが生えてたんで捨てちゃったよ。五年も前のことよ」
 ゲオルクは膨れっ面をイルゼに向けた。
 もうそろそろだ。昼前には連れていけそうだと昨日、使いが来た。
 ゲオルクは窓から外の様子を見ていた。
 すると、ゼファイル村長の姿が見えた。杖を突きながらゆっくりと歩いてくる。その脇に小さな子供を連れていた。
「来たぞ。来たぞ。イルゼ、落ち着け、落ち着け」
「あんたよ」
 ゼファイル村長の足音がドアの前で止まった。ノックとともに「ゲオルクいるか?」とドア越しにしゃがれた声が響いた。
 イルゼはドアを開けるとゼファイル村長に応対した。
「村長、お待ちしておりました。この度は、お世話になります」
 ふと見ると、ゼファイル村長の足にしがみつくように小さな男の子が不安そうに立っていた。
 金髪のサラサラ髪、瑠璃色の瞳、きりっとした眉、白い肌、子供ながらに通った鼻筋。まだ、額には傷が残ってはいるものの今までに見たこともないような美しく、可愛い男の子だった。しかし、緊張と恐怖のせいか、その表情には固さが見られる。
 イルゼはゲオルクに振り返ると渾身の力を込めて怒鳴った。
「あんた、こんなにかわいい子を百回も殴ったのかね。地獄へ落ちるよ。どう見たらゴブリンに見えるの」
 ゲオルクもその子供の顔を見てはっとした。あの時の姿からは想像もできないほど見違えていた。泥と垢と埃で汚れ、悪臭を放っていたあの子供である。そしてゴブリンと勘違いして滅多打ちにしたあの子供である。
「いや、百回は殴ってないと思うが……すまない。本当にごめんよ」
 ゲオルクは謝りながら子供に近づくが、子供は怖がって逃げようとした。
「もう絶対に叩いたりしないから、信じてくれ」
 子供はその言葉を聞いて少し安心したのか力を抜いた。それでも表情は固い。
——ああ、そういうことか……俺、この人にボコボコに殴られたんだ。その衝撃で前世の記憶が蘇ったんだ。あの爺さんに「いずれ、記憶が消えるだろう」って言われていたんだけど……逆になっちゃったんだ。それで蘇る前の記憶がほとんど消えたわけだ。で、ここでの俺って誰なんだろう?——
 席に着くとゼファイル村長はおもむろに口を開いた。
「お役人から話は聞いていると思うが、この子を二人に預けるんだが、覚悟はいいな」
「へえ」とゲオルク。
「はい」とイルゼ。
「それでだ、この子には以前の記憶があまりない」
「というのは、どういうことで?」とゲオルクが怪訝に聞いた。
「この人が殴ったから、頭がどうにかなってしまったんですかね、村長」
「そうではないらしい。九歳で東の方から来て、森で生活していたという記憶はあるのだが、それ以前の記憶がないのじゃな。つまり名前も生まれも、なぜそうなったかも覚えておらん。話は普通にできる」
 ゲオルクとイルゼは困ったような表情で子供を見ていた。
「まず、名前が無い。で、お前ら二人に名前を決めてもらいたいのじゃな」
「名前ですか。と言われても、すぐにとは……。頭が悪いせいか、いざとなったら何も浮かばんのです。村長が決めてください」とゲオルク。
「わしがか……それでもいいが。……そうじゃな、では、わしが尊敬していた司祭の名前はどうじゃろ。エルンストじゃ」
「エルンストですか。では、うちの名前と合わせてエルンスト・ラインハルトか。愛称エルンでいいか」
「いいんじゃない。エルン」とイルゼも復唱した。
 エルンは皆の顔を順に見つめながらきょとんとした目をしていた。
「いいか、お前は今日からエルンだ。そしてうちの子だ。いいな。文句は言わせねえ」
「僕、エルンなの?」
 ゲオルクとイルゼは初めてエルンの声を聴いた。嬉しさが込み上げた。途端に家じゅうが華やかになった。
「そうだ、エルンだ」 「あなたはエルンよ」
 ゲオルクは突然立ち上がると歩み寄ってエルンを抱き抱え、振り回して叫んだ。
「お前はエルンだ。エルン、エルン、エルンスト・ラインハルトだ」
 エルンはそれでもきょとんとした目をしたままだ。
 ゼファイル村長は帰り際、「酒と博打を慎め」とゲオルクに釘を刺した。
「へえ、お役人様にも言われました」 
 ゲオルクは渋々と頷いた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

元外科医の俺が異世界で何が出来るだろうか?~現代医療の技術で異世界チート無双~

冒険者ギルド酒場 チューイ
ファンタジー
魔法は奇跡の力。そんな魔法と現在医療の知識と技術を持った俺が異世界でチートする。神奈川県の大和市にある冒険者ギルド酒場の冒険者タカミの話を小説にしてみました。  俺の名前は、加山タカミ。48歳独身。現在、救命救急の医師として現役バリバリ最前線で馬車馬のごとく働いている。俺の両親は、俺が幼いころバスの転落事故で俺をかばって亡くなった。その時の無念を糧に猛勉強して医師になった。俺を育ててくれた、ばーちゃんとじーちゃんも既に亡くなってしまっている。つまり、俺は天涯孤独なわけだ。職場でも患者第一主義で同僚との付き合いは仕事以外にほとんどなかった。しかし、医師としての技量は他の医師と比較しても評価は高い。別に自分以外の人が嫌いというわけでもない。つまり、ボッチ時間が長かったのである意味コミ障気味になっている。今日も相変わらず忙しい日常を過ごしている。 そんなある日、俺は一人の少女を庇って事故にあう。そして、気が付いてみれば・・・ 「俺、死んでるじゃん・・・」 目の前に現れたのは結構”チャラ”そうな自称 創造神。彼とのやり取りで俺は異世界に転生する事になった。 新たな家族と仲間と出会い、翻弄しながら異世界での生活を始める。しかし、医療水準の低い異世界。俺の新たな運命が始まった。  元外科医の加山タカミが持つ医療知識と技術で本来持つ宿命を異世界で発揮する。自分の宿命とは何か翻弄しながら異世界でチート無双する様子の物語。冒険者ギルド酒場 大和支部の冒険者の英雄譚。

ガチャと異世界転生  システムの欠陥を偶然発見し成り上がる!

よっしぃ
ファンタジー
偶然神のガチャシステムに欠陥がある事を発見したノーマルアイテムハンター(最底辺の冒険者)ランナル・エクヴァル・元日本人の転生者。 獲得したノーマルアイテムの売却時に、偶然発見したシステムの欠陥でとんでもない事になり、神に報告をするも再現できず否定され、しかも神が公認でそんな事が本当にあれば不正扱いしないからドンドンしていいと言われ、不正もとい欠陥を利用し最高ランクの装備を取得し成り上がり、無双するお話。 俺は西塔 徳仁(さいとう のりひと)、もうすぐ50過ぎのおっさんだ。 単身赴任で家族と離れ遠くで暮らしている。遠すぎて年に数回しか帰省できない。 ぶっちゃけ時間があるからと、ブラウザゲームをやっていたりする。 大抵ガチャがあるんだよな。 幾つかのゲームをしていたら、そのうちの一つのゲームで何やらハズレガチャを上位のアイテムにアップグレードしてくれるイベントがあって、それぞれ1から5までのランクがあり、それを15本投入すれば一度だけ例えばSRだったらSSRのアイテムに変えてくれるという有り難いイベントがあったっけ。 だが俺は運がなかった。 ゲームの話ではないぞ? 現実で、だ。 疲れて帰ってきた俺は体調が悪く、何とか自身が住んでいる社宅に到着したのだが・・・・俺は倒れたらしい。 そのまま救急搬送されたが、恐らく脳梗塞。 そのまま帰らぬ人となったようだ。 で、気が付けば俺は全く知らない場所にいた。 どうやら異世界だ。 魔物が闊歩する世界。魔法がある世界らしく、15歳になれば男は皆武器を手に魔物と祟罠くてはならないらしい。 しかも戦うにあたり、武器や防具は何故かガチャで手に入れるようだ。なんじゃそりゃ。 10歳の頃から生まれ育った村で魔物と戦う術や解体方法を身に着けたが、15になると村を出て、大きな街に向かった。 そこでダンジョンを知り、同じような境遇の面々とチームを組んでダンジョンで活動する。 5年、底辺から抜け出せないまま過ごしてしまった。 残念ながら日本の知識は持ち合わせていたが役に立たなかった。 そんなある日、変化がやってきた。 疲れていた俺は普段しない事をしてしまったのだ。 その結果、俺は信じられない出来事に遭遇、その後神との恐ろしい交渉を行い、最底辺の生活から脱出し、成り上がってく。

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! 仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。 カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。

神様、ちょっとチートがすぎませんか?

ななくさ ゆう
ファンタジー
【大きすぎるチートは呪いと紙一重だよっ!】 未熟な神さまの手違いで『常人の“200倍”』の力と魔力を持って産まれてしまった少年パド。 本当は『常人の“2倍”』くらいの力と魔力をもらって転生したはずなのにっ!!  おかげで、産まれたその日に家を壊しかけるわ、謎の『闇』が襲いかかってくるわ、教会に命を狙われるわ、王女様に勇者候補としてスカウトされるわ、もう大変!!  僕は『家族と楽しく平和に暮らせる普通の幸せ』を望んだだけなのに、どうしてこうなるの!?  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇  ――前世で大人になれなかった少年は、新たな世界で幸せを求める。  しかし、『幸せになりたい』という夢をかなえるの難しさを、彼はまだ知らない。  自分自身の幸せを追い求める少年は、やがて世界に幸せをもたらす『勇者』となる――  ◇◆◇◆◇◆◇◆◇ 本文中&表紙のイラストはへるにゃー様よりご提供戴いたものです(掲載許可済)。 へるにゃー様のHP:http://syakewokuwaeta.bake-neko.net/ --------------- ※カクヨムとなろうにも投稿しています

病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

アトハ
ファンタジー
【短いあらすじ】 普通を勘違いした魔界育ちの少女が、王都に旅立ちうっかり無双してしまう話(前世は病院少女なので、本人は「超健康な身体すごい!!」と無邪気に喜んでます) 【まじめなあらすじ】  主人公のフィアナは、前世では一生を病院で過ごした病弱少女であったが……、 「健康な身体って凄い! 神さま、ありがとう!(ドラゴンをワンパンしながら)」  転生して、超健康な身体(最強!)を手に入れてしまう。  魔界で育ったフィアナには、この世界の普通が分からない。  友達を作るため、王都の学園へと旅立つことになるのだが……、 「なるほど! 王都では、ドラゴンを狩るには許可が必要なんですね!」 「「「違う、そうじゃない!!」」」  これは魔界で育った超健康な少女が、うっかり無双してしまうお話である。 ※他サイトにも投稿中 ※旧タイトル 病弱少女、転生して健康な肉体(最強)を手に入れる~友達が欲しくて魔境を旅立ちましたが、どうやら私の魔法は少しおかしいようです~

【第2章完結】最強な精霊王に転生しました。のんびりライフを送りたかったのに、問題にばかり巻き込まれるのはなんで?

山咲莉亜
ファンタジー
 ある日、高校二年生だった桜井渚は魔法を扱うことができ、世界最強とされる精霊王に転生した。家族で海に遊びに行ったが遊んでいる最中に溺れた幼い弟を助け、代わりに自分が死んでしまったのだ。  だけど正直、俺は精霊王の立場に興味はない。精霊らしく、のんびり気楽に生きてみせるよ。  趣味の寝ることと読書だけをしてマイペースに生きるつもりだったナギサだが、優しく仲間思いな性格が災いして次々とトラブルに巻き込まれていく。果たしてナギサはそれらを乗り越えていくことができるのか。そして彼の行動原理とは……?  ロマンス、コメディ、シリアス───これは物語が進むにつれて露わになるナギサの闇やトラブルを共に乗り越えていく仲間達の物語。 ※HOT男性ランキング最高6位でした。ありがとうございました!

妖精の森の、日常のおはなし。

華衣
ファンタジー
 気づいたら、知らない森の中に居た僕。火事に巻き込まれて死んだはずだけど、これってもしかして転生した?  でも、なにかがおかしい。まわりの物が全部大きすぎるのだ! 草も、石も、花も、僕の体より大きい。巨人の国に来てしまったのかと思ったけど、よく見たら、僕の方が縮んでいるらしい。  あれ、身体が軽い。ん!?背中から羽が生えてる!? 「僕、妖精になってるー!?」  これは、妖精になった僕の、ただの日常の物語である。 ・毎日18時投稿、たまに休みます。 ・お気に入り&♡ありがとうございます!

処理中です...