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魔法の才能(1)
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一日目、二日目、三日目とエルンは緊張のせいかほとんど口を利かずゲオルクとイルゼを心配させたが、四日目になると少しずつ話すようになった。
朝食の時だった。
「おじさんの仕事は何?」
ゲオルクは突然の言葉に少し驚いた。
「おおお、俺か。俺の仕事は鍛冶屋だ。少し離れた森の中に仕事場がある。鉄を熱くして柔らかくして、打って叩いて農具や剣を作る仕事だ。ここで鉄を打つと近所迷惑になるから離れたところで作ってるんだ」
「見に行っていい?」
「……おお、いいぞ。じゃあ、これから一緒に行こうぜ」
「エルンは鍛冶屋に興味あるのかな?」
イルゼが聞いた。
「わかんない。どんな仕事かよく知らないから」
「じゃあ、俺が教えてやらぁ」
ゲオルクの仕事場は家から百メートルほど離れた木々に囲まれた一軒家にあった。
エルンとゲオルクが連れ立ってそこまで行く。エルンはきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。目新しい景色は新鮮だった。
「ここだ。古い家だが頑丈だ。鍛冶屋として独立するときに買ったんだ。遠慮なく入れ」
大きくはない建物だったが太い柱と頑丈そうな壁が目を引いた。
中へ入ると、鍛冶屋としてのたくさんの道具が備え付けられていた。何十種類ものハンマーに何十種類ものやっとこが壁に掛けられ、大小様々な金床、バケツ、ふいごが所狭しと設えられていた。
ゲオルクは得意げにそれらをエルンに説明した。それからおもむろに窯の前にしゃがむと炭を入れ、火を付ける。火がある程度広がるとふいごで風を送る。たちまち炭が真っ赤に燃え上がる。
「この火の扱いが難しいんだ。ここが鍛冶屋の腕の見せ所だ。炎の色で温度がわかれば一人前だ」
エルンは興味深げにゲオルクの話を聞いていた。
「エルン、お前、わかっているのか」
わかってかわからずか「うん」と笑顔でうなずいた。ゲオルクはそれでもいいと思った。何か話をする切っ掛けがあればいい。
ゲオルクが鍛冶屋としての仕事を始めると、近くに椅子を置いてちょこんと座り、仕事ぶりを見ていた。手際のいい仕事、無駄のない動き、それらを興味深く見ていた。
「もうお昼だよ、おじさん」
ゲオルクは立ち上がると窓から外を眺めた。太陽がちょうど真上に来ている。
「そうか。昼か。昼飯に帰るか。イルゼがシチューを作って待っていてくれる」
「どうしてわかるの」
「お前、この匂い、気が付かないか」
「ああ、この匂い、おばさんのシチューなんだ」
「この匂いはイルゼお得意の肉シチューだ。うまいぞ」
「お代わりしていい」
「何杯でもお代わりしな。全部食べてもいいぞ」
「うん、わかった」
「昼からも見るか?」
「昼からは森の中を歩いてみたいんだけど、いい?」
「おお、そうか。近所の散策だな。道に迷うなよ。まあ、大丈夫か。二年も森の中で生きていたんだからな」
「二年?」
エルンは怪訝そうな顔を見せた。
家へと戻る途中、ゲオルクはエルンに聞いてみた。
「お前、二年も森の中で、一人で生活していたそうだが、大丈夫だったか?」
「……特に何もなかったけど」
「危ないこともあっただろ」
「そんな時は息を潜めてじっとしていれば大丈夫だった」
「そんなもんか? 食い物はどうしていたんだ?」
「探せば結構簡単に見つけることができたよ」
「……そんなもんか」
ゲオルクは簡単そうに言うエルンが不思議でならなかった。話に聞くと森に迷い込んだ者が生きて帰ってくることの方が珍しいのだ。妙な子供だとゲオルクは内心思った。
昼食をエルンとゲオルクとイルゼの三人で食べているとき、エルンが何かに目を留めて指を指した。
「あそこに置いてある本は何?」
イルゼが何のことかとそちらへと目を向けると棚の上に一冊の古い本が置いてあった。
「ああ、あれは鍋敷きよ」
朝食の時だった。
「おじさんの仕事は何?」
ゲオルクは突然の言葉に少し驚いた。
「おおお、俺か。俺の仕事は鍛冶屋だ。少し離れた森の中に仕事場がある。鉄を熱くして柔らかくして、打って叩いて農具や剣を作る仕事だ。ここで鉄を打つと近所迷惑になるから離れたところで作ってるんだ」
「見に行っていい?」
「……おお、いいぞ。じゃあ、これから一緒に行こうぜ」
「エルンは鍛冶屋に興味あるのかな?」
イルゼが聞いた。
「わかんない。どんな仕事かよく知らないから」
「じゃあ、俺が教えてやらぁ」
ゲオルクの仕事場は家から百メートルほど離れた木々に囲まれた一軒家にあった。
エルンとゲオルクが連れ立ってそこまで行く。エルンはきょろきょろと辺りを見回しながら歩く。目新しい景色は新鮮だった。
「ここだ。古い家だが頑丈だ。鍛冶屋として独立するときに買ったんだ。遠慮なく入れ」
大きくはない建物だったが太い柱と頑丈そうな壁が目を引いた。
中へ入ると、鍛冶屋としてのたくさんの道具が備え付けられていた。何十種類ものハンマーに何十種類ものやっとこが壁に掛けられ、大小様々な金床、バケツ、ふいごが所狭しと設えられていた。
ゲオルクは得意げにそれらをエルンに説明した。それからおもむろに窯の前にしゃがむと炭を入れ、火を付ける。火がある程度広がるとふいごで風を送る。たちまち炭が真っ赤に燃え上がる。
「この火の扱いが難しいんだ。ここが鍛冶屋の腕の見せ所だ。炎の色で温度がわかれば一人前だ」
エルンは興味深げにゲオルクの話を聞いていた。
「エルン、お前、わかっているのか」
わかってかわからずか「うん」と笑顔でうなずいた。ゲオルクはそれでもいいと思った。何か話をする切っ掛けがあればいい。
ゲオルクが鍛冶屋としての仕事を始めると、近くに椅子を置いてちょこんと座り、仕事ぶりを見ていた。手際のいい仕事、無駄のない動き、それらを興味深く見ていた。
「もうお昼だよ、おじさん」
ゲオルクは立ち上がると窓から外を眺めた。太陽がちょうど真上に来ている。
「そうか。昼か。昼飯に帰るか。イルゼがシチューを作って待っていてくれる」
「どうしてわかるの」
「お前、この匂い、気が付かないか」
「ああ、この匂い、おばさんのシチューなんだ」
「この匂いはイルゼお得意の肉シチューだ。うまいぞ」
「お代わりしていい」
「何杯でもお代わりしな。全部食べてもいいぞ」
「うん、わかった」
「昼からも見るか?」
「昼からは森の中を歩いてみたいんだけど、いい?」
「おお、そうか。近所の散策だな。道に迷うなよ。まあ、大丈夫か。二年も森の中で生きていたんだからな」
「二年?」
エルンは怪訝そうな顔を見せた。
家へと戻る途中、ゲオルクはエルンに聞いてみた。
「お前、二年も森の中で、一人で生活していたそうだが、大丈夫だったか?」
「……特に何もなかったけど」
「危ないこともあっただろ」
「そんな時は息を潜めてじっとしていれば大丈夫だった」
「そんなもんか? 食い物はどうしていたんだ?」
「探せば結構簡単に見つけることができたよ」
「……そんなもんか」
ゲオルクは簡単そうに言うエルンが不思議でならなかった。話に聞くと森に迷い込んだ者が生きて帰ってくることの方が珍しいのだ。妙な子供だとゲオルクは内心思った。
昼食をエルンとゲオルクとイルゼの三人で食べているとき、エルンが何かに目を留めて指を指した。
「あそこに置いてある本は何?」
イルゼが何のことかとそちらへと目を向けると棚の上に一冊の古い本が置いてあった。
「ああ、あれは鍋敷きよ」
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