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修 行(3)
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七日目の午後。
いつものように水球を頭上に浮遊させていると背後から声を掛けられた。
「こんなところでこんな修行をしてたんだ。やっぱりずるいよエルン」
「えっ、アル?」
エルンの頭に水球が落ちてずぶ濡れになった。己の未熟さを痛感した。
「私にも教えて」
「どうしてここがわかったの?」
「ゾフィー先生に聞いたの。もう二週間以上休んでるでしょ。授業中、エルンの話をしてたら注意されたの。それで心配してることがわかったのね。そしたら、ここにいるって教えてくれたの」
「色々とあったからね。しばらくは学校へは行けないんだ。休学届けは出してあるはずなんだ」
「何があったかはあまり興味ないけど、今やってたのは何の練習?」
「これは……空中浮遊の基礎訓練だよ。ゾフィー先生に教わってるんだ」
アルの目が輝いた。
エルンは嫌な予感がした。
「私もやるわ」
——やっぱり——
「勝手に始めたらゾフィー先生に怒られるよ」
「構わないわよ。先生は怒るのが仕事。生徒は怒られるのが仕事。それに私、怒られるの慣れてるから。……で、どうするの?」
エルンはバケツの水を汲み直すとアルに説明した。
「バケツの水で水球を作ればいいのね」と言いアルは水に集中して見せた。
すると水が浮き上がり、いきなりきれいな水球ができた。
驚いたのはエルンだ。
「どうしていきなりできるの? 僕だってすぐにはできなかったんだ」
「私、水を扱う魔法は得意なの。水の気持ちはよくわかるの。これくらいは何でもないわ」
アルは不敵な笑みを浮かべて得意げだ。
「水の気持ちか……おもしろいね」
しかし、得意気だったアルも水の量が多くなるとうまくいかない。
「つまり、これは魔力量の問題なんだ。制御はうまくできてるんだ」
「じゃあ私、素質はあるということね。水の量を少しずつ増やしていけばいいのね」
「……うん。たぶん」
エルンはアルを調子に乗せてしまったかとちょっと後悔した。
「調子に乗らん方がいい」
背後から声がした。
ゾフィーがいつの間にか帰っていた。
「いいか、浮遊術というのは自由に使いこなせればとても便利だが、反面、危険な術だ。空中で魔力切れ、集中力切れを起こせば落下する。命にかかわることを理解しろ」
「はい先生」と歯切れのよい返事のアル。
「アル、お前は私の生徒ではあるが、弟子ではない」
「どうしてエルンだけ特別なんですか。私にも高度な魔法を教えてください」
「無理だな」
アルは真剣な目でゾフィーを睨んだ。本気の目だ。
しかし、すぐに柔和な目になった。そしてニヤッと笑った。
「じゃあいいです。私、エルンの弟子になります。だったら先生には関係ありませんから。ねえ、いいでしょエルン」とアルはエルンに圧を掛ける。
「…………」
「どうしたのエルン。なんとか言ってよ」
エルンはアルとゾフィーの顔を交互に見るが、黙って俯いた。
「人に何かを教えるということは、確かに勉強にはなるが……私は知らんぞ」
ゾフィーは呆れ顔でその場を離れた。
「先生、いいって」
アルは満面の笑み。
「そうは言ってないと思うけど」
エルンの顔には困惑が浮かんだ。
「私、学校の授業が終わったら、毎日来るから、一緒に修行よ」
「ここまで一時間はかかるよ。往復二時間だよ」
「平気よ。いいわね。では早速」と俺の隣に座ると水球を作って頭上に浮遊させた。
仕方なくエルンも水球を作って頭上に浮かべた。
アルに水を取られたので少し小さくなった。
大きな水球と小さな水球が並んで頭上に浮かんだ。
突然「ねえ、エルン」とアルが話しかけた。
「えっ?」とエルンが返事をしたとき、頭上の水が落ちた。「話しかけるから落ちちゃったじゃないか。集中しないと……」
「そうなの?」
しかし、アルの頭上の水球は安定したままだ。
エルンは不思議に思った。
「どうして話をしてるのにアルの水球は落下しないの?」
「知らない」
アルはエルンの方を見ながらも話をしながらも水球は浮かんだままだ。
何度やっても同じだ。
アルはお喋りをしながらでも水球を保っているが、エルンはアルの話に耳を傾けるだけで水球が暴れ始め、口を開けばたちまち落下する。
何だか面白くない。弟子に抜かれた気分だ。
アルが帰ったあと、ゾフィーにそのことを聞いてみた。
「早速いい効果があったようだな。弟子は取ってみるもんだ。おそらく、それは男と女の特性の違いだ。男は一つのことに集中して大きな力を発揮する。女は周辺に気を配りながら生活するから一度にいくつかの仕事を同時にこなす。アルにとっては何でもないことだがエルンにとっては慣れないことだ。だが訓練次第ではできるはずだ」
次の日もアルはやって来た。
その次の日も。
アルの水球は日に日に大きくなっていった。
エルンの水球も安定はするものの、他事を考えたり、話しかけられたりすると落下しないまでも揺らぐ。
だが、次第にそれもなくなった。
訓練は次の段階へと入った。
「今度は、水に向けていた魔力を自分自身へと向けてみろ。そして持ち上げろ」
エルンは言われるようにやってみた。
するとふわりと浮いた。
アルもやってみると、ゆっくと浮き上がった。
アルは歓喜の声を上げた。
「エルン、浮いた」
「よかったねアル」
魔力量のせいだろうかアルの浮遊は低くゆっくりだが、エルンはさすがに高度もあり動きも速い。
それでもエルンは何だか悔しかった。
「落っこちないように、それを繰り返せ。己の魔力の限界を知っておけ」
ここまで来ると、後は制御と魔力量だけだ。
二人の浮遊能力は日に日に向上していった。
「あとは速度を上げることだ。その程度の動きなら狙い撃ちだ。子供の石礫でも当たるぞ」
いつものように水球を頭上に浮遊させていると背後から声を掛けられた。
「こんなところでこんな修行をしてたんだ。やっぱりずるいよエルン」
「えっ、アル?」
エルンの頭に水球が落ちてずぶ濡れになった。己の未熟さを痛感した。
「私にも教えて」
「どうしてここがわかったの?」
「ゾフィー先生に聞いたの。もう二週間以上休んでるでしょ。授業中、エルンの話をしてたら注意されたの。それで心配してることがわかったのね。そしたら、ここにいるって教えてくれたの」
「色々とあったからね。しばらくは学校へは行けないんだ。休学届けは出してあるはずなんだ」
「何があったかはあまり興味ないけど、今やってたのは何の練習?」
「これは……空中浮遊の基礎訓練だよ。ゾフィー先生に教わってるんだ」
アルの目が輝いた。
エルンは嫌な予感がした。
「私もやるわ」
——やっぱり——
「勝手に始めたらゾフィー先生に怒られるよ」
「構わないわよ。先生は怒るのが仕事。生徒は怒られるのが仕事。それに私、怒られるの慣れてるから。……で、どうするの?」
エルンはバケツの水を汲み直すとアルに説明した。
「バケツの水で水球を作ればいいのね」と言いアルは水に集中して見せた。
すると水が浮き上がり、いきなりきれいな水球ができた。
驚いたのはエルンだ。
「どうしていきなりできるの? 僕だってすぐにはできなかったんだ」
「私、水を扱う魔法は得意なの。水の気持ちはよくわかるの。これくらいは何でもないわ」
アルは不敵な笑みを浮かべて得意げだ。
「水の気持ちか……おもしろいね」
しかし、得意気だったアルも水の量が多くなるとうまくいかない。
「つまり、これは魔力量の問題なんだ。制御はうまくできてるんだ」
「じゃあ私、素質はあるということね。水の量を少しずつ増やしていけばいいのね」
「……うん。たぶん」
エルンはアルを調子に乗せてしまったかとちょっと後悔した。
「調子に乗らん方がいい」
背後から声がした。
ゾフィーがいつの間にか帰っていた。
「いいか、浮遊術というのは自由に使いこなせればとても便利だが、反面、危険な術だ。空中で魔力切れ、集中力切れを起こせば落下する。命にかかわることを理解しろ」
「はい先生」と歯切れのよい返事のアル。
「アル、お前は私の生徒ではあるが、弟子ではない」
「どうしてエルンだけ特別なんですか。私にも高度な魔法を教えてください」
「無理だな」
アルは真剣な目でゾフィーを睨んだ。本気の目だ。
しかし、すぐに柔和な目になった。そしてニヤッと笑った。
「じゃあいいです。私、エルンの弟子になります。だったら先生には関係ありませんから。ねえ、いいでしょエルン」とアルはエルンに圧を掛ける。
「…………」
「どうしたのエルン。なんとか言ってよ」
エルンはアルとゾフィーの顔を交互に見るが、黙って俯いた。
「人に何かを教えるということは、確かに勉強にはなるが……私は知らんぞ」
ゾフィーは呆れ顔でその場を離れた。
「先生、いいって」
アルは満面の笑み。
「そうは言ってないと思うけど」
エルンの顔には困惑が浮かんだ。
「私、学校の授業が終わったら、毎日来るから、一緒に修行よ」
「ここまで一時間はかかるよ。往復二時間だよ」
「平気よ。いいわね。では早速」と俺の隣に座ると水球を作って頭上に浮遊させた。
仕方なくエルンも水球を作って頭上に浮かべた。
アルに水を取られたので少し小さくなった。
大きな水球と小さな水球が並んで頭上に浮かんだ。
突然「ねえ、エルン」とアルが話しかけた。
「えっ?」とエルンが返事をしたとき、頭上の水が落ちた。「話しかけるから落ちちゃったじゃないか。集中しないと……」
「そうなの?」
しかし、アルの頭上の水球は安定したままだ。
エルンは不思議に思った。
「どうして話をしてるのにアルの水球は落下しないの?」
「知らない」
アルはエルンの方を見ながらも話をしながらも水球は浮かんだままだ。
何度やっても同じだ。
アルはお喋りをしながらでも水球を保っているが、エルンはアルの話に耳を傾けるだけで水球が暴れ始め、口を開けばたちまち落下する。
何だか面白くない。弟子に抜かれた気分だ。
アルが帰ったあと、ゾフィーにそのことを聞いてみた。
「早速いい効果があったようだな。弟子は取ってみるもんだ。おそらく、それは男と女の特性の違いだ。男は一つのことに集中して大きな力を発揮する。女は周辺に気を配りながら生活するから一度にいくつかの仕事を同時にこなす。アルにとっては何でもないことだがエルンにとっては慣れないことだ。だが訓練次第ではできるはずだ」
次の日もアルはやって来た。
その次の日も。
アルの水球は日に日に大きくなっていった。
エルンの水球も安定はするものの、他事を考えたり、話しかけられたりすると落下しないまでも揺らぐ。
だが、次第にそれもなくなった。
訓練は次の段階へと入った。
「今度は、水に向けていた魔力を自分自身へと向けてみろ。そして持ち上げろ」
エルンは言われるようにやってみた。
するとふわりと浮いた。
アルもやってみると、ゆっくと浮き上がった。
アルは歓喜の声を上げた。
「エルン、浮いた」
「よかったねアル」
魔力量のせいだろうかアルの浮遊は低くゆっくりだが、エルンはさすがに高度もあり動きも速い。
それでもエルンは何だか悔しかった。
「落っこちないように、それを繰り返せ。己の魔力の限界を知っておけ」
ここまで来ると、後は制御と魔力量だけだ。
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