悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい

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第12話

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 翌日の放課後。
 今朝は現れなかったデウスに早々に捕まった。

「やぁ、ちょっといいかな?」
「ちょっとで済むお顔じゃありませんが?」

 デウスは笑顔だ。なのにその笑顔にはやたらとすごみがある。
 なんかもうプレッシャーがすごい。

「じゃあこっちに来てもらえる?」
「しかもこっちの返事も聞いてないですね?」

 何も言わせず、デウスは歩き始めた。ついてこいということだろう。

「………」

 歩きださず、微動だにしないミリアとルーミア。
 デウスが曲がり角を曲がったところで勢いよく戻ってきた。

「普通そこはついてくるところじゃない!?」

 焦ったデウスの姿は実に貴重である。
 ミリアは内心(勝った)とほくそ笑んでいた。

 今度は大人しくついていくと、そこは人気のない個室。だが、やたらと調度品が豪華で、ここが特別な部屋だということがわかる。

「ここは学園側が用意した王族用の個室でね。あまり使いたくはないんだけど、今回は仕方なくね」
「はぁ…」

 つまり他の人が来ることはないということ。
 いい予感がしないだけに、ミリアは早く帰りたい。

「まぁ座って」
「…はい」

 大人しく椅子…ではなくソファーに座る。
 ルーミアは侍女として、ミリアの背後に待機している。

「さて、話があるんだけど、心当たりはある?」
「無いです」
「うん、君のその即答っぷりは嫌いじゃないよ」

(無いものは無いし)

 早く帰りたいミリアは、対応が雑だ。

「フィーネ嬢と何か話したでしょ?」
「…はい」

 そっちか…と思いつつ、デウスの次の言葉を待つ。

「昨日、放課後教室に押しかけてきてさ。僕とお話ししたいって言い出してね」
「良いことじゃありませんか」
「君が僕と話したらってけしかけてなかったらね」

 何故そこを話した。フィーネの(馬鹿)正直さに少し呆れたミリア。

「フィーネ様とお話しできました?」
「まぁ…ね。ねぇ、何で僕とお話ししたらって彼女に言ったの?」
「デウス様のことを何も知らないようなので」
「そう……だね」

 なら何も問題は無いはずだ。
 わざわざデウスが呼び止めてきた意味が分からい。

「僕、君に求婚してるんだよ?」
「そうですね」
「…わかってて、他の女性を僕に寄越すの?」
「………」

(ああ、なるほど。そういうことね…)

 確かに今更考えると、納得する。
 求婚してる女性に、別の女性を話しに行けとけしかけられれば、それは相手側から見れば自分じゃなくてその女性を選べと言われているようなものだ。
 我ながらやっていることがなかなかひどい。

 が、それはお互い様である。

「私は了承した覚えはありませんので」
「それでもそこは、やらないのが人の情けじゃない?」
「求婚をやめていただけたら考えます」
「いや、それじゃダメだよ」
「さすがはお嬢様、悪役っぷりが板についています」

 ルーミアが感心したように褒めてくる。

「褒めてないわよね?」
「最大の賛辞にございます」
「あなたねぇ……」
「主従のコンビ漫才はそこまでにしてもらっていい?」
「漫才ではございません」
「主従の愛でございます」
「愛じゃないわよ…」
「僕も愛欲しいなぁ…」
「私から差し上げる予定は無いので、そんな目で見ないでください」

(なんなのよこれ…)

 だんだん場が混沌としてきた。
 特にルーミア。

「とにかく、私はデウス様の求婚を受けませんし、他の女性をけしかけたとしても何か言われる筋合いはありません」
「王族相手にそう言い切るお嬢様、素敵です」
「ルーミアは少し黙ってて?」
「はーい」
「…だから君がいいんだけどなぁ」

 うっとりするような目でミリアを見るデウス。
 そんな目で見られてもミリアに応える気は無い。

「いつまでも私に構わず、デウス様はご自分に合った女性を探してください」
「君が最有力なんだけどね」
「私を抜いて」
「ルッツ君がいるから?」
「関係ありません」
「……そこまで言い切るのもさすがだよねぇ」
「とにかく失礼します」

 そう言って席を立ち、扉へ向かう。
 このままここにいても、意味が無い、そうミリアは判断した。

「失礼しました」
「失礼しました」
「うん、また明日」

 手を振り見送るデウスを視界から切り、扉を閉める。

「はぁ……疲れた」
「おんぶしますか?」
「やめて…」

 女生徒同士でおんぶなど恥ずかしいどころではない。

「今なら3件分のところを2件分で」
「特別給付金を当たり前のように要求するんじゃない!」

 もうやだこの侍女。


 ***


「はぁ……」

 自室にて夜、ミリアは物憂げにため息をついた。

「胃もたれですか?」
「……淑女のため息をなんだと思ってるのよ」

 ルーミアの問いを疲れた様子で返す。
 疲れてるのはルーミアの主人を主人と思わない態度に、ではない。

「誰とも友達になれない…」

 未だミリアの学園での友達は……0。
 元婚約者に求婚者。恋敵?はいるが、友達と呼べる存在は0だった。

「フィーネ様は?」
「あれを友達扱いするには無理があるでしょう」

 フィーネはあれからもなにかとミリアに突っかかってくるし、その度にデウスに挑み、そしてミリアに文句を言いに来る。
 もっとも、少し反論すると途端に弱気になり、涙目になるあたり、少し可愛いと思ってしまったこともある。王妃の座を狙ってミリアに突っかかってくる割に、意外にメンタルが弱い。そして、とても素直でミリアの言うことを素直に実行している。その内容がほとんどデウスにけしかける内容で、たいていその後にデウス本人からクレームが来るが当然スルー。
 デウスのことは嫌いではない。以前のミリアと違って。けれど、好きというわけでもない。
 求婚してくるだけあって、甘い言葉や直球な言葉を放つことが多々あるけれど、どれもミリアの心を揺さぶることは無かった。何故なのかはわからない。

 ミリアの学園での立場は非常に悪い。
 王子の求婚を断り続け(王家から不興を買っていると思われて避けられる)、一方的に婚約を解消し(その後も再婚約を拒んでいるため令嬢からは圧倒的に嫌われている)、王妃最有力候補をあしらい(ミリア本人としてはあしらってるつもりはない)、凶悪な侍女が仕えている(本人了承済み)、といったもろもろの理由で、男子・女子問わず近づいてくるものはいない。

 友達がいないのは必然だった。

「学園生活って難しいものね…」

 齢17にして知る世間の厳しさに侯爵令嬢の心は冷え切っている。
 前世で知らないだけに特に。

「婚約相手もおりませんしね」
「…………」

 グサリと突き刺さるルーミアの追い打ちに、ミリアは手で顔を覆った。

「私、もう一人で生きていくしかないのかしら…」
「超貧弱なお嬢様が一人で?はっ」

 鼻で笑った侍女に、ミリアの視線が鋭くなる。が、そんなものに動じるルーミアではない。

「まぁ…そのときはですね」

 ルーミアはミリアの正面に回ると、その頭に手を乗せた。

「ルーミア?」
「私がどこまでもお付きしますよ。屋敷を追い出されたら私が拾ってあげます」

 そう言い、頭を撫でられた。
 主人に対してする行為ではないし、言ったセリフも不謹慎だが、それでも今はその手が温かい。ミリアの落ち込んだ心が少しだけ軽くなった。

「…ありがとう」
「1.5件分で」
「………」

 軽くなった心は、再び重くなった。


 ***


 ルーミアにああ言われたからといって、やはり一人も友達がいないのは寂しい。
 かといって、前世含めてでも同年代の友達がいた記憶が無い。
 文化や知識を学んでも何を話せばいいのかわからない。
 友達ができないのは必然だったのかもしれない。

 そして学園にて、食堂。

「聞いてくださいな!私、ついにデウス様とお茶をご一緒できるのよ!」

 意気揚々とミリアの隣に腰かけたのはフィーネ。
 もはやミリアの隣は彼女の指定席になりつつある。

「そうですか、それはおめでとうございます」
「ええ!それもデウス様お勧めの茶葉を頂けるのよ!どう?羨ましいでしょう!」
「ハイ、ソウデスネ」
「おほほほほほ!」

 デウスに誘ってもらったことがよほどうれしいのか、フィーネはミリアの棒の返事にも気づかない。

「ああ、デウス様と二人っきりでお茶だなんて……」

 今度はトリップしてしまった。
 それを放置してミリアはランチを食べ進めていく。

「これも友人たる貴女の進言のおかげですわ!」
「えっ?」
「えっ?」

 思わぬセリフにミリアは硬直し、そんなミリアの反応にフィーネも硬直する。
 …これは面白いと内心思うルーミアは今日も肉のタワーを攻略しながら、様子を面白がっ…見守る。

「…何ですの、その反応は?」
「…誰が、友人?」
「! 私と!」

 フィーネは自分を指さし、

「貴女が!」

 ミリアを指さし、

「友人!」
「……そうだったの?」
「そうですの!」

 突然の友人認定にミリアの動揺は収まらない。
 一方のフィーネも、友人だと思われていなかったことにご立腹だ。

「あなたは私を何だと思ってたんですの!?」
「……さぁ?」
「さぁってなんですのよ!」

 憤るフィーネに、ミリアはどうしていいか分からない。
 そもそも友人とはなんなのか、と哲学的思考に発展しかけている。

「とにかく、私とあなたは友人ですの!よろしくて!?」
「えっ、あ、はい…」
「よろしいですわ」

 フィーネに詰め寄られ、なし崩し的にミリアは返事(?)をしたが、それでフィーネは機嫌を直したようだ。

(友人……)

 ちらりと隣でランチを食べる友人…を見る。
 よほど上機嫌なのか、フィーネは笑顔でランチを口に運んでいる。
 ルーミアとは違う、主従としての関係ではない新たな関係。
 そのことにミリアの口元がほころんだ。
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