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第17話
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学園の二大モテ男がついに本気になった―――
この噂はあっという間に広がり、その相手があの問題児ミリアと、元最有力王妃候補フィーネ。しかもその二人はとても仲がいいらしい。
となればほかの令嬢たちが黙っていない。
が、もともとルッツは病気でミリアが伏せていた間も婚約を取り消さなかったことから極めて誠実な男と認知されている。それがさらに好意を隠さずミリアと接しているのだから、その光景を見ただけで立ち去る令嬢が続出した。
一方、デウスはミリアへの求婚を取り消し、フィーネへ求婚した。
もちろん、エンジュルグ公爵が拒否するが、デウスは取り消さなかった。
さらに娘であるフィーネがデウスとの婚約を強く望んでいることもあり、公爵自身は娘の願いを叶えてやりたいと思いつつ、一度言ってしまった手前軽く撤回もできないと苦悩しているようだ。
こうして、学園で最も話題性のあるカップルが二組も出来上がった頃。
一つの嵐が訪れようとしていた。
それは、休日にミリアのもとへルッツが訪れていた時のこと。
中庭で二人はティータイムを楽しんでいた。
「少し風が寒いわね」
「中に行こうか」
「そこは『温めてあげよう』とかいって上着を掛けてくれるんじゃないの?」
「一緒のソファーに座って肩を寄せれば温かくなるんじゃないかと思ってね」
「…それもいいわね」
自身の提案よりルッツの提案のほうが魅力的。
そう感じたミリアは早速椅子から立ち上がる。すぐにルッツも立ち上がり、当然のようにミリアへと手を差し出す。そしてこれまたその手にミリアも自身の手を乗せ、エスコートされる。その光景に、使用人たちは自分たちの目を疑い、こする。
ルッツがこの屋敷に足を踏み入れたのは、ミリアが死んだことを明かした時以来だ。あのときからすれば、今の二人の光景は信じられないのも無理はない。
二人連れ立って屋敷の中に入ろうとしたとき……嵐は前触れもなく訪れた。
屋敷の門の前に一台の馬車が止まった。
その馬車から降りてきた男は、我が物顔で門を通り、屋敷に入ろうとする。
そのあまりに堂々とした姿に、その男に気づいたミリアは何も言えなかった。
しかし男はミリアたちに気づいたようで、顔を向けるとその整った黒髪黒目を歪めた。
「相変わらずだな……さっさと消え失せろ、この屑め」
それだけ言い放ち、さっさと屋敷に入ってしまう。
あまりの第一声にミリアは言葉は無く、そしてルッツは……その顔を怒りに染めている。ミリアの手を握った手に、ほんの少しだけ力が加わる。
「誰……だったのかしら?」
ミリアにとっては見覚えのない男だった。
当然のように屋敷に入っていったのだから関係者なのだろうか。しかし、だからといってあのセリフは無い。
「ルッツは知ってる?」
見上げて問えば、ルッツは一瞬顔を驚愕に変えるが、すぐに思い出したようで口を開いた。
「ミリアは…まだ会ったことが無かったんだな?」
その言い方に何かを感じ、ミリアは表情を真剣なものへと変える。
「『私』…は会ったことないわ」
『私』。それは生まれ変わったミリアが会ったことのない人間。だが『ミリア』なら会ったことのある人間。
「彼は…アーノルド・カースタ。君の兄で、カースタ家の嫡男だ」
場所は変わって応接室。
アーノルド・カースタ。
カースタ家嫡男にして、ミリアと同じ黒髪黒目。
例にもれず、整った顔だちをしており、目元はややきつめ。
高身長で細身であり、文官向き。勉学においては極めて優秀で、学園を首席で卒業している。
経験を積むために2年ほど留学していた。
ミリアのことは両親と違って毛嫌いしており、嫌悪すらしている。
カースタ家の恥と公言しており、ミリアが病気に臥せていた際にはそのまま死ねばいいのにと本気で思っていた。
性格はミリアに対する嫌悪を隠そうとしない程に潔癖。善悪の考えが極端で、不正は死すべきと公言するほど。
そんな息子に父は留学を進め、経験を増やすことを目的としたが、本音は他国を含む様々な事情を知り、善悪の二つだけで世の中を渡ることはできない現実を知り、度量を身に付けてほしかったから。
…その父の思惑は、ミリアへの態度から成しえなかったことがうかがえる。
「…以上が、アーノルド様について私の知るすべてでございます」
「…わかったわ。ありがとう」
執事からアーノルドについての説明を受け、ミリアは礼を言う。
この世界に生まれ変わって1年。何故今まで兄の話題が出なかったのかについて疑問だったが、話を聞いて理解した。
結論から言えば、兄は兄で問題児だった。傲慢な態度で使用人を虐げる妹と違い、兄は使用人の仕事の出来栄えに問題があるとこれでもかと重箱の隅を楊枝でほじくるように指摘し続ける。それが主人として当然であるかのように。それでやめていった使用人は後を絶たない。
学園も首席で卒業するほど頭脳明晰だが、一方で不出来な者への態度はまさしくゴミのような扱い。
そんな風に育ってしまった理由が父だった。
家では子供たちを溺愛する父だが、財務大臣である彼の仕事ぶりはまるで違う。
国の金庫を預かる彼は、一切の不正を許さない完璧な男だ。一切の不正を許さず、漏れを許さず、民から預かった大切な税金を私利私欲に使わせない。正義感の強い男だ。
そんな父を見て育ったアーノルドは、その父の仕事の面の影響を強く受けてしまった。
結果、彼は本来仕事の面でしかなかった父の姿を、日常にまで落とし込んでしまい、苛烈な性格となってしまった。それは当然家族であるミリアにも及び、傍若無人、傲慢、無駄遣いと彼からすれば極刑も免れない大罪を犯したミリアは、病気で死して当然といった考えだ。
そんな兄が屋敷に帰ってきた。
これからは文官として城勤めなようだ。屋敷からの通いだという。
つまり毎日顔を合わせることになるだろう。
どうしたものかとミリアは考える。
「そこまで嫌ってるなら、わざわざあちらから関わってくることも無いのかしら?」
事あるごとに突っかかってくるようなら考えものだが、そうでないならわざわざ気にするほどでもない。そう思ったが、そんなに甘くは無いようだ。
「いえ、アーノルド様は口に出さずにはいられず、正さずにはいられない性格でございます」
それを聞き、ミリアはうんざりといった様子で息を吐いた。
嫌う相手にわざわざ構うなどミリアには理解できない考えだが、彼はそういう男のようだ。
そんなミリアの肩を、ルッツが抱き寄せた。
「大丈夫だ。疲れたのなら、うちに来ればいい」
「あら、それじゃあ毎日いるようになっちゃうかも?」
「もちろん大歓迎だぞ?」
「まぁこわい、襲われちゃうかも?」
じゃれ合い始めた二人に執事もルーミアもご馳走様である。
が、そんな空気をぶち壊す乱入者が、ノックもせずにドアをこじ開けた。
「未婚の男女がそんな体を寄せあうなどふしだらだ!この欲を抑えられぬケダモノどもめ!」
現れたのはアーノルド。
肩を抱き寄せられたミリアとルッツを見て、目が吊り上がっている。
しかし、肩を抱き寄せただけでそこまで言われなければならないのかと、ミリアもルッツも呆れ顔だ。
「…体を寄せただけでケダモノですって」
「ずいぶんとケダモノの敷居が低いな」
「いいから離れないか貴様ら!」
五月蠅くてかなわないと、ミリアは体をルッツから離そうとする。が、ルッツがそれを拒むように腕に力を籠め、離れるのを許さない。
「ルッツ?」
「離れる必要など無いさ」
ニヤリと言い放つルッツに、やっぱり変わったわねと嬉しくなり、ミリアの顔に笑みが浮かぶ。そのルッツの変化に、あまり良い感情を抱いていなかった執事も、顔をほころばせる。なにより、ルッツに抱き寄せられたミリアの表情がとてもうれしそうだから。
しかし、そんな二人の甘い雰囲気に耐えられない者が一人。
「~~!!やはり屑は屑だな!貴様の顔など見たくもない!」
そう言い、荒々しくドアを閉めてアーノルドは立ち去っていった。
まるで嵐のようだとミリアは感想を抱く。
「…変わらないな、アーノルド様は」
やれやれと息を吐くルッツ。
「ルッツはアー…………お兄様のことを知っているの?」
名前で呼びそうになり、『お兄様』と訂正する。
今日が初対面ということもあり、どうにも肉親という意識が出てこない。
「彼が学園に在学中はいろいろと話が来たさ。学園在学中、一度として主席の座を譲ったことが無い天才だが、極端なまでの実力至上主義者、潔癖主義者で何度も諍い起こし、争いが絶えなかったようだ」
「兄妹そろって問題児だったのね」
他人ごとのようにつぶやくミリアに、「あぁそうだな」とルッツは苦笑して返す。
「それに、アーノルド様は未婚の男女が手以外を触れることすら嫌うからな」
「手以外って……ダンスはどうしたのかしら?」
日常ならともなく、貴族ならば夜会が開かれその際にダンスを踊る。そうなればただ手を握るだけではすまず、男性なら女性の腰や肩に手を回すこともある。
それはどうしたのかと疑問に思えば、これまたルッツは苦笑した。
「相手の女性曰く、絶対に手しか握らないそうだ。腰にも肩にも手を回さない、まるでお遊戯のようなダンスだったと酷評していたさ」
「あらまぁ」
その潔癖さは筋金入りのようだ。呆れたらいいのか、哀れめばいいのか、わからなくなる。
「そういえば、だな」
ルッツが話を切り替える。が、その切り出しは少しの緊張が垣間見える。
「何かしら?」
「フェリンツ伯爵主催の夜会の招待状が来ているんだ」
「まぁ奇遇ね。私にも来ているわ」
「それで、だな…」
少し頬を染めたルッツが、なかなかその先を切り出さない。
しかしそれは、断られることに怯える姿ではなく、単純に照れからくるものだろう。
慣れてしまえばもうこんな姿は見られなくなってしまうかもしれないと思うと、ミリアはあえて急かさずその様子を見守る。
「ええ、それで?」
「……君のエスコートを、俺に任せてくれないか?」
まっすぐな瞳でミリアを見つめる。
その瞳に込められた熱に充てられたかのように、ミリアの頬も朱に染まる。
「ええ、喜んで」
微笑んでそれに応じれば、ルッツも破願して喜びを露わにした。
その喜びが抑えきれないのか、ルッツはそのままミリアを抱きしめてしまった。
「ミリア、ありがとう。嬉しい」
「ルッツ、私もよ」
恋人同士の抱擁…のようで恋人ではない二人に、(さっさとくっつきやがれ)とルーミアは内心愚痴る。
が、そこに我が物顔で再びの乱入者。
もちろんノックは無い。
「ミリア!今度の夜会に貴様のエスコ…何をしとるか貴様らぁぁぁぁぁ!!」
アーノルドの怒声が屋敷中に轟いたのであった。
この噂はあっという間に広がり、その相手があの問題児ミリアと、元最有力王妃候補フィーネ。しかもその二人はとても仲がいいらしい。
となればほかの令嬢たちが黙っていない。
が、もともとルッツは病気でミリアが伏せていた間も婚約を取り消さなかったことから極めて誠実な男と認知されている。それがさらに好意を隠さずミリアと接しているのだから、その光景を見ただけで立ち去る令嬢が続出した。
一方、デウスはミリアへの求婚を取り消し、フィーネへ求婚した。
もちろん、エンジュルグ公爵が拒否するが、デウスは取り消さなかった。
さらに娘であるフィーネがデウスとの婚約を強く望んでいることもあり、公爵自身は娘の願いを叶えてやりたいと思いつつ、一度言ってしまった手前軽く撤回もできないと苦悩しているようだ。
こうして、学園で最も話題性のあるカップルが二組も出来上がった頃。
一つの嵐が訪れようとしていた。
それは、休日にミリアのもとへルッツが訪れていた時のこと。
中庭で二人はティータイムを楽しんでいた。
「少し風が寒いわね」
「中に行こうか」
「そこは『温めてあげよう』とかいって上着を掛けてくれるんじゃないの?」
「一緒のソファーに座って肩を寄せれば温かくなるんじゃないかと思ってね」
「…それもいいわね」
自身の提案よりルッツの提案のほうが魅力的。
そう感じたミリアは早速椅子から立ち上がる。すぐにルッツも立ち上がり、当然のようにミリアへと手を差し出す。そしてこれまたその手にミリアも自身の手を乗せ、エスコートされる。その光景に、使用人たちは自分たちの目を疑い、こする。
ルッツがこの屋敷に足を踏み入れたのは、ミリアが死んだことを明かした時以来だ。あのときからすれば、今の二人の光景は信じられないのも無理はない。
二人連れ立って屋敷の中に入ろうとしたとき……嵐は前触れもなく訪れた。
屋敷の門の前に一台の馬車が止まった。
その馬車から降りてきた男は、我が物顔で門を通り、屋敷に入ろうとする。
そのあまりに堂々とした姿に、その男に気づいたミリアは何も言えなかった。
しかし男はミリアたちに気づいたようで、顔を向けるとその整った黒髪黒目を歪めた。
「相変わらずだな……さっさと消え失せろ、この屑め」
それだけ言い放ち、さっさと屋敷に入ってしまう。
あまりの第一声にミリアは言葉は無く、そしてルッツは……その顔を怒りに染めている。ミリアの手を握った手に、ほんの少しだけ力が加わる。
「誰……だったのかしら?」
ミリアにとっては見覚えのない男だった。
当然のように屋敷に入っていったのだから関係者なのだろうか。しかし、だからといってあのセリフは無い。
「ルッツは知ってる?」
見上げて問えば、ルッツは一瞬顔を驚愕に変えるが、すぐに思い出したようで口を開いた。
「ミリアは…まだ会ったことが無かったんだな?」
その言い方に何かを感じ、ミリアは表情を真剣なものへと変える。
「『私』…は会ったことないわ」
『私』。それは生まれ変わったミリアが会ったことのない人間。だが『ミリア』なら会ったことのある人間。
「彼は…アーノルド・カースタ。君の兄で、カースタ家の嫡男だ」
場所は変わって応接室。
アーノルド・カースタ。
カースタ家嫡男にして、ミリアと同じ黒髪黒目。
例にもれず、整った顔だちをしており、目元はややきつめ。
高身長で細身であり、文官向き。勉学においては極めて優秀で、学園を首席で卒業している。
経験を積むために2年ほど留学していた。
ミリアのことは両親と違って毛嫌いしており、嫌悪すらしている。
カースタ家の恥と公言しており、ミリアが病気に臥せていた際にはそのまま死ねばいいのにと本気で思っていた。
性格はミリアに対する嫌悪を隠そうとしない程に潔癖。善悪の考えが極端で、不正は死すべきと公言するほど。
そんな息子に父は留学を進め、経験を増やすことを目的としたが、本音は他国を含む様々な事情を知り、善悪の二つだけで世の中を渡ることはできない現実を知り、度量を身に付けてほしかったから。
…その父の思惑は、ミリアへの態度から成しえなかったことがうかがえる。
「…以上が、アーノルド様について私の知るすべてでございます」
「…わかったわ。ありがとう」
執事からアーノルドについての説明を受け、ミリアは礼を言う。
この世界に生まれ変わって1年。何故今まで兄の話題が出なかったのかについて疑問だったが、話を聞いて理解した。
結論から言えば、兄は兄で問題児だった。傲慢な態度で使用人を虐げる妹と違い、兄は使用人の仕事の出来栄えに問題があるとこれでもかと重箱の隅を楊枝でほじくるように指摘し続ける。それが主人として当然であるかのように。それでやめていった使用人は後を絶たない。
学園も首席で卒業するほど頭脳明晰だが、一方で不出来な者への態度はまさしくゴミのような扱い。
そんな風に育ってしまった理由が父だった。
家では子供たちを溺愛する父だが、財務大臣である彼の仕事ぶりはまるで違う。
国の金庫を預かる彼は、一切の不正を許さない完璧な男だ。一切の不正を許さず、漏れを許さず、民から預かった大切な税金を私利私欲に使わせない。正義感の強い男だ。
そんな父を見て育ったアーノルドは、その父の仕事の面の影響を強く受けてしまった。
結果、彼は本来仕事の面でしかなかった父の姿を、日常にまで落とし込んでしまい、苛烈な性格となってしまった。それは当然家族であるミリアにも及び、傍若無人、傲慢、無駄遣いと彼からすれば極刑も免れない大罪を犯したミリアは、病気で死して当然といった考えだ。
そんな兄が屋敷に帰ってきた。
これからは文官として城勤めなようだ。屋敷からの通いだという。
つまり毎日顔を合わせることになるだろう。
どうしたものかとミリアは考える。
「そこまで嫌ってるなら、わざわざあちらから関わってくることも無いのかしら?」
事あるごとに突っかかってくるようなら考えものだが、そうでないならわざわざ気にするほどでもない。そう思ったが、そんなに甘くは無いようだ。
「いえ、アーノルド様は口に出さずにはいられず、正さずにはいられない性格でございます」
それを聞き、ミリアはうんざりといった様子で息を吐いた。
嫌う相手にわざわざ構うなどミリアには理解できない考えだが、彼はそういう男のようだ。
そんなミリアの肩を、ルッツが抱き寄せた。
「大丈夫だ。疲れたのなら、うちに来ればいい」
「あら、それじゃあ毎日いるようになっちゃうかも?」
「もちろん大歓迎だぞ?」
「まぁこわい、襲われちゃうかも?」
じゃれ合い始めた二人に執事もルーミアもご馳走様である。
が、そんな空気をぶち壊す乱入者が、ノックもせずにドアをこじ開けた。
「未婚の男女がそんな体を寄せあうなどふしだらだ!この欲を抑えられぬケダモノどもめ!」
現れたのはアーノルド。
肩を抱き寄せられたミリアとルッツを見て、目が吊り上がっている。
しかし、肩を抱き寄せただけでそこまで言われなければならないのかと、ミリアもルッツも呆れ顔だ。
「…体を寄せただけでケダモノですって」
「ずいぶんとケダモノの敷居が低いな」
「いいから離れないか貴様ら!」
五月蠅くてかなわないと、ミリアは体をルッツから離そうとする。が、ルッツがそれを拒むように腕に力を籠め、離れるのを許さない。
「ルッツ?」
「離れる必要など無いさ」
ニヤリと言い放つルッツに、やっぱり変わったわねと嬉しくなり、ミリアの顔に笑みが浮かぶ。そのルッツの変化に、あまり良い感情を抱いていなかった執事も、顔をほころばせる。なにより、ルッツに抱き寄せられたミリアの表情がとてもうれしそうだから。
しかし、そんな二人の甘い雰囲気に耐えられない者が一人。
「~~!!やはり屑は屑だな!貴様の顔など見たくもない!」
そう言い、荒々しくドアを閉めてアーノルドは立ち去っていった。
まるで嵐のようだとミリアは感想を抱く。
「…変わらないな、アーノルド様は」
やれやれと息を吐くルッツ。
「ルッツはアー…………お兄様のことを知っているの?」
名前で呼びそうになり、『お兄様』と訂正する。
今日が初対面ということもあり、どうにも肉親という意識が出てこない。
「彼が学園に在学中はいろいろと話が来たさ。学園在学中、一度として主席の座を譲ったことが無い天才だが、極端なまでの実力至上主義者、潔癖主義者で何度も諍い起こし、争いが絶えなかったようだ」
「兄妹そろって問題児だったのね」
他人ごとのようにつぶやくミリアに、「あぁそうだな」とルッツは苦笑して返す。
「それに、アーノルド様は未婚の男女が手以外を触れることすら嫌うからな」
「手以外って……ダンスはどうしたのかしら?」
日常ならともなく、貴族ならば夜会が開かれその際にダンスを踊る。そうなればただ手を握るだけではすまず、男性なら女性の腰や肩に手を回すこともある。
それはどうしたのかと疑問に思えば、これまたルッツは苦笑した。
「相手の女性曰く、絶対に手しか握らないそうだ。腰にも肩にも手を回さない、まるでお遊戯のようなダンスだったと酷評していたさ」
「あらまぁ」
その潔癖さは筋金入りのようだ。呆れたらいいのか、哀れめばいいのか、わからなくなる。
「そういえば、だな」
ルッツが話を切り替える。が、その切り出しは少しの緊張が垣間見える。
「何かしら?」
「フェリンツ伯爵主催の夜会の招待状が来ているんだ」
「まぁ奇遇ね。私にも来ているわ」
「それで、だな…」
少し頬を染めたルッツが、なかなかその先を切り出さない。
しかしそれは、断られることに怯える姿ではなく、単純に照れからくるものだろう。
慣れてしまえばもうこんな姿は見られなくなってしまうかもしれないと思うと、ミリアはあえて急かさずその様子を見守る。
「ええ、それで?」
「……君のエスコートを、俺に任せてくれないか?」
まっすぐな瞳でミリアを見つめる。
その瞳に込められた熱に充てられたかのように、ミリアの頬も朱に染まる。
「ええ、喜んで」
微笑んでそれに応じれば、ルッツも破願して喜びを露わにした。
その喜びが抑えきれないのか、ルッツはそのままミリアを抱きしめてしまった。
「ミリア、ありがとう。嬉しい」
「ルッツ、私もよ」
恋人同士の抱擁…のようで恋人ではない二人に、(さっさとくっつきやがれ)とルーミアは内心愚痴る。
が、そこに我が物顔で再びの乱入者。
もちろんノックは無い。
「ミリア!今度の夜会に貴様のエスコ…何をしとるか貴様らぁぁぁぁぁ!!」
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