悪役令嬢は死んで生き返ってついでに中身も入れ替えました

蒼黒せい

文字の大きさ
28 / 30

第28話

しおりを挟む
 アーノルドは結婚し、伴侶を得なければ跡継ぎとして認められない。
 だが、大半の令嬢からは断られてしまった。
 そんなアーノルドには実は想い人がいる…らしい。
 それとは別に、ヴィオーネのことを紹介してくれと頼んできたことがあった。

 ヴィオーネは家からアーノルドとの結婚を迫られている。
 本人は、家のためには仕方ないと半ば諦めてもいる。

 家の意向で考えれば、アーノルドとヴィオーネが結婚すればすべてまるく収まる。
 アーノルドは伴侶を得て家督も継ぐ。
 ヴィオーネは侯爵家に嫁ぎ、家のつながりを得る。
 …ミリアは心置きなくロード家に嫁ぐことができる。

 すべて万々歳だ。
 何も問題が無い。
 ……本人たちの意思を無視して、という一点を除いて。

 もちろん、家同士の決めた結婚であってもいざ夫婦となれば仲良くやっている場合もある。
 必ずしも婚前で仲睦まじくなければならない必要はない。

 なら、このまま話を進めてもいいのか?
 そんなことはありえない、とミリアは判断する。

 せっかくアーノルドがやる気になり、ヴィオーネもアーノルドに対し後ろ向きながらも関心を示している。
 なら、もっとこれを良い方向に向ければいいはずだ。


「…と思ったんだけれど、どうかしら?」

 午後の昼下がり。
 休日の今日は、ロード家の庭園を訪れ、ルッツとティータイムを楽しんでいた。
 そこで、ミリアはアーノルドとヴィオーネのことについて話をした。

「…俺もそう思う。今なら家同士の結婚ということで話はすぐ進むだろうな。だけど、今のまま…せっかく鍛え始めてきたアーノルド様の熱意に水を差すことはしたくない」

 アーノルドを鍛え始めたのは結局のところ、ミリアとルッツが心置きなく結婚できるよう、伴侶を見つけるため、結婚するためだ。
 その目的が達成されれば特訓はこれにて終了となってしまう。

 ミリアとしても、このままヴィオーネに家のための結婚をしてほしくない。
 普段は強気な彼女が、『家のため』だと漏らしたときの物憂げな表情が忘れられない。
 ヴィオーネにそんな表情は似合わない。
 そんな彼女のためにも、彼女が納得するような結婚をしてほしい。

 そのためには、アーノルドだ。
 彼が徹底的に素晴らしい男になる必要がある。
 ヴィオーネが認めるような、だ。

「……一度、会わせてみてはどうだ?」

 ルッツの一言に、ミリアは首を傾げた。

「会わせる?誰を?」
「アーノルド様と、ヴィオーネ様だ」
「…会わせたとして、どうするの?」

 ルッツの提案にミリアが疑問を投げかける。
 会わせて何の意味があるのか。
 アーノルドは確かにヴィオーネを紹介してくれと言ってきた。
 しかしヴィオーネにとっては特に意味は無いはずだ。
 むしろ会わせない方がいいのではないかと思ってすらいる。

「どうもしない。どうするかは二人が決める」
「……なにそれ。意味が分からないわ」

 ルッツの答えにミリアは呆れた声を返す。
 会わせると言いながらその結論を二人に任せる。
 無責任とすら思える。

「意味ならある。今会うこと自体に、だ」
「会うこと自体に…」
「今お互いが抱えているものは、決して互いに無関係じゃない。そこにある思惑も含めて」
「それはそうね」
「けれど今のままではお互いにそれを知らない。唯一知るのはこの場にいる者だけだが、それを教えてもいい影響にはならないと思う」
「そう…?」
「直接相手の口から聞くことに意味があるんだ」

 その言葉にミリアははっとした。
 そうだ、ただ伝え聞くのと本人から直接言われるのでは言葉の重みが違う。

「だからこそ、会う必要があるんだ。そしてお互いにはっきりぶつけた方がいい。俺たちのように」
「……そうね」

 そう、ミリアもルッツも、お互いに直接言いたいことを言った。
 だからこそ、その言葉は互いに深く響くものになった。
 それほどまでに、直接聞かされることは大事だ。

「なら善は急げね。早速二人を会わせる算段を付けないと」
「こういうときのミリアは早いな」

 話が決まれば即実行のミリアにルッツは苦笑する。
 この思い切りの良さもミリアの魅力だ。
 ルッツは改めて惚れた女に惚れなおした。


 ***


 かくして二人を会わせる算段は付いた。
 場所はカースタ家。
 アーノルドはいるとして、ヴィオーネはミリアとのお茶会の名目で呼びつけた。

「本日はお招きいただき、感謝いたします」
「そう固くならないで。私とあなたの仲じゃない」
「ふふ、そうですわね」

 言葉とは裏腹に、やはりヴィオーネは少し緊張気味だ。
 それはそうだろう、彼女からすればこの家はもしかすればいつか嫁いでくるかもしれない家なのだ。
 その家に、友人からの招待で訪れることになり、ヴィオーネとしては心境複雑だ。

 今日はルッツは屋敷にはいない。
 なんだかんだで彼もミリアと婚約者となり、次期当主という立場が明確になって忙しいらしい。すぐに当主になることはないが、だからといって何十年もあるわけでもない。
 それにルッツ自身も、いずれミリアを正式に夫人として迎えるための準備と思っている。
 であれば、ルッツの意気込みも十分というものだ。

「見事な庭ですわね」
「ええ、当家自慢の庭師の出来、お気に召されました?」
「ええ、気に入りましたわ」

(あ、なんか令嬢してる気分)

 普段は令嬢らしくを気にしていないので、こういった会話は新鮮だ。
 周囲に令嬢らしくないことを気に入られていることも多いので、つい令嬢の仮面を置き忘れてしまう。
 最後に被ったのはいつだっただろうか。

「ロード家にはいつ輿入れされますの?」

(そちらから振ってくるとはね)

 いつその話を切り出そうかと考えていたところに、いきなりヴィオーネが話を振ってきた。
 これは助かったと思いつつ、話に乗る。

「早ければ卒業後、ですわ。ただルッツも、卒業後は一旦騎士となるつもりのようなので、あまり卒業直後が慌ただしいなら多少ずらすことも検討しております」
「まぁ。明確に決めておかなくて大丈夫ですの?」
「問題ありませんわ。それよりそちらは?」

 強引にミリア側の話は打ち切り、新たなボールをヴィオーネへと投げる。
 投げられたヴィオーネは顔を強張らせながら、ボールを返す。

「……父が、カースタ侯爵にアーノルド様との婚約を打診したと聞きました」
「!」

 思った以上に動きが早い。
 現状、アーノルドはほぼすべての令嬢からの結婚を断られた状態だが、それでも彼の存在自体は魅力的だ。
 さらに…

「アーノルド様は最近城での評判も良いとのことで、他の令嬢の目が変わらないうちに…父上はそう考えているようです」
「そう…」

 これはあまりよくない。
 このままでは完全に本人たちの意向を無視して結婚が決まってしまう。
 とはいえ、フェリンツ家と違い、カースタ家はあくまでも本人の意思を優先している。
 いくら父にその話が言ったとて、本人の承諾なしに了承するとは思えない。

 状況は一刻も争う。
 ミリアはそう判断した。
 ちょうどよく風も吹き始めた。

「風が出てきましたわね。続きは中で話しましょう」
「ええ」

 ミリアはルーミアに合図を出す。
 合図を受けたルーミアは近くの執事にさらに合図を出す。
 執事はどこかへと走り去り、その後ミリアとヴィオーネはゆっくりと移動し始めた。

 向かったのは応接室。
 そしてそこに待っていたのは…アーノルド。
 互いの姿を確認したアーノルドとヴィオーネはそろって体を硬直させた。
 特にヴィオーネはどういうことだとミリアへと向きなおる。

「さ、ヴィオーネ様。お付きになって」
「ミリア様!これはいったい…」
「さ、早く」

 困惑するヴィオーネを無視し、その手を掴むと強引にソファーに座らせる。
 しかもその場所は、あろうことかアーノルドの隣。
 3人用のソファーであり、互いに端に座っているため距離はあるが、それでもその距離は近すぎる。

 そうして無理やりヴィオーネを座らせたミリアは、そのまま扉へと向かう。

「ミリア様!?」

 驚き、困惑し、若干泣きそうな声でミリアの名を呼ぶも、ミリアは無情にも扉を閉めていく。

「では、後はお二人でごゆっくり」

 閉められた扉からミリアは消えた。
 残されたのはアーノルドとヴィオーネ。そして、仮にも未婚の男女であるため、室内には執事と侍女が一人ずつ。

「さて…」

 閉めた扉へと向き直り、ミリアは祈るように呟いた。

「頼んだわよ、お兄様」


 ***


 それからおよそ1時間後。
 自室でくつろいでいたミリアのもとへ、ルーミアから伝言が来る。

「…そう、分かったわ」

 言葉と同時にミリアは立ち上がる。
 玄関へ向かえば、そこには親しげに会話を交わす男女が二人。
 アーノルドとヴィオーネだ。
 わずか1時間前の困惑した空気と一変、こんなにも変わるのかと呆れるほどだ。
 …なお、ミリアとルッツの際も周囲の反応は似たようなものだったことを付け加えておく。

「お帰りになられるのね」
「!? み、ミリア様!」

 いけない場面でも見られたかのようにアーノルドから距離を取るヴィオーネ。
 その様が面白くてつい笑ってしまう。
 一方距離を取られたアーノルドは不満げにミリアを睨む。

「まぁこわい、お兄様。どうなさったの?」
「…なんでもない」

 これがもしルッツならば、恥ずかしがることなくミリアを邪魔者扱いしただろう。
 まだアーノルドにはヴィオーネとの関係を示唆させるような言動はできないようだ。
 しかし二人の反応からして、成果は上々なのはわかる。
 近いうちにヴィオーネを捕まえてじっくり吐かせればいい。

「…ミリア様、なんだかお顔が怖くいらしてよ?」

 どうやら思惑が表情に出ていたらしい。
「あらいやだ」などと白々しく言い放ち、表情を微笑みに変える。

「当家での滞在、楽しんでいただけたかしら?」
「…ええ、とても有意義だったわ」
「それはよかったわ。後でじ~っくり聞かせてね?」

 ミリアの言葉にヴィオーネは口元を引きつらせた。

「え、ええ、いずれ…」
「それまではお兄様から聞くわ」

 くるりと兄に向き直れば、今度は兄が顔を引きつらせた。
 どうも最近アーノルドはミリアに苦手意識を持ち始めたらしい。
 が、そんなことはミリアの知ったことではない。
 むしろミリアからすれば都合がいいくらいだ。

「そ、それではまた、御機嫌よう」
「ええ、ご機嫌よう」

 二人が別れの挨拶を交わす。
 そこにアーノルドが混ざり込んだ。

「…まただ、ヴィオーネ」
「…はい、アーノルド様」

 わずかに見つめ合った二人。
 その二人の空気にどこか覚えがありつつ、あえてそのままにするミリア。
 が、1分ほど経ってもそのままだったのでさすがに声を掛けた。

「ずいぶんと仲がよろしくて何よりですわ」

 ミリアの言葉に二人はバッと顔を逸らした。

「で、では!」

 逃げるように玄関を出ていくヴィオーネ。

「あ、ああ!」

 それだけ言うとこの場から逃げるように部屋へと早歩きで行くアーノルド。

「…面白いわねぇ」
「お嬢様もなかなかいじわるですね」
「あなたほどじゃないわ」

 ルーミアにいじわる扱いされるのは不本意だ。
 そう返せばどや顔された。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

大事なことなので、もう一度言います。メインヒロインはあちらにいるのでこっちに来ないでください!!

もち
恋愛
「ニコ、一緒にマギア学園に入ろうね!約束」 「うん、約束!破ったらダメだよリリィ!」 「ニコもだよ!」 あ〜今日もリリィは可愛いな〜優しいしリリィと友達になれて良かった!! ん?リリィ、?どこかで聞いたことあるような名前だな? この可愛い笑顔もどこかでみたことが う〜ん、、、あっ、、わかった 「恋の魔法を君に」っていうゲームだ 画面越しにずっと見て名前を呼んでいたこのゲームのメインヒロイン リリィ・スカーレットだ そこで、一気に昔の記憶が蘇ってきた。 確かリリィは、学園に入るといろんな攻略対象たちから恋愛感情を向けられるはず、、、 ってことは私は幼少期から一緒にいるメインヒロインの友達モブ ゲームストーリーにはいなかったよね?

王妃ですが都からの追放を言い渡されたので、田舎暮らしを楽しみます!

藤野ひま
ファンタジー
 わたくし王妃の身でありながら、夫から婚姻破棄と王都から出て行く事を言い渡されました。  初めての田舎暮らしは……楽しいのですが?!  夫や、かの女性は王城でお元気かしら?   わたくしは元気にしておりますので、ご心配御無用です!  〔『仮面の王と風吹く国の姫君』の続編となります。できるだけこちらだけでわかるようにしています。が、気になったら前作にも立ち寄っていただけると嬉しいです〕〔ただ、ネタバレ的要素がありますのでご了承ください〕

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

うわさの行方

下沢翠花(しもざわすいか)
恋愛
まだ十歳で結婚したセシリア。 すぐに戦場へ行ってしまった夫のニールスは優しい人だった。 戦場から帰るまでは。 三年ぶりにあったニールスは、なぜかセシリアを遠ざける。 ニールスの素っ気ない態度に傷つき疲弊していくセシリアは謂れのない酷い噂に追い詰められて行く。

愛のない結婚をした継母に転生したようなので、天使のような息子を溺愛します

美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
目が覚めると私は昔読んでいた本の中の登場人物、公爵家の後妻となった元王女ビオラに転生していた。 人嫌いの公爵は、王家によって組まれた前妻もビオラのことも毛嫌いしており、何をするのも全て別。二人の結婚には愛情の欠片もなく、ビオラは使用人たちにすら相手にされぬ生活を送っていた。 それでもめげずにこの家にしがみついていたのは、ビオラが公爵のことが本当に好きだったから。しかしその想いは報われることなどなく彼女は消え、私がこの体に入ってしまったらしい。 嫌われ者のビオラに転生し、この先どうしようかと考えあぐねていると、この物語の主人公であるルカが声をかけてきた。物語の中で悲惨な幼少期を過ごし、闇落ち予定のルカは純粋なまなざしで自分を見ている。天使のような可愛らしさと優しさに、気づけば彼を救って本物の家族になりたいと考える様に。 二人一緒ならばもう孤独ではないと、私はルカとの絆を深めていく。 するといつしか私を取り巻く周りの人々の目も、変わり始めるのだったーー

「出来損ないの妖精姫」と侮辱され続けた私。〜「一生お護りします」と誓った専属護衛騎士は、後悔する〜

高瀬船
恋愛
「出来損ないの妖精姫と、どうして俺は……」そんな悲痛な声が、部屋の中から聞こえた。 「愚かな過去の自分を呪いたい」そう呟くのは、自分の専属護衛騎士で、最も信頼し、最も愛していた人。 かつては愛おしげに細められていた目は、今は私を蔑むように細められ、かつては甘やかな声で私の名前を呼んでいてくれた声は、今は侮辱を込めて私の事を「妖精姫」と呼ぶ。 でも、かつては信頼し合い、契約を結んだ人だから。 私は、自分の専属護衛騎士を最後まで信じたい。 だけど、四年に一度開催される祭典の日。 その日、私は専属護衛騎士のフォスターに完全に見限られてしまう。 18歳にもなって、成長しない子供のような見た目、衰えていく魔力と魔法の腕。 もう、うんざりだ、と言われてフォスターは私の義妹、エルローディアの専属護衛騎士になりたい、と口にした。 絶望の淵に立たされた私に、幼馴染の彼が救いの手を伸ばしてくれた。 「ウェンディ・ホプリエル嬢。俺と専属護衛騎士の契約を結んで欲しい」 かつては、私を信頼し、私を愛してくれていた前専属護衛騎士。 その彼、フォスターは幼馴染と契約を結び直した私が起こす数々の奇跡に、深く後悔をしたのだった。 【誤字報告ありがとうございます!大変助かります(´;ω;`)】

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

私は彼に選ばれなかった令嬢。なら、自分の思う通りに生きますわ

みゅー
恋愛
私の名前はアレクサンドラ・デュカス。 婚約者の座は得たのに、愛されたのは別の令嬢。社交界の噂に翻弄され、命の危険にさらされ絶望の淵で私は前世の記憶を思い出した。 これは、誰かに決められた物語。ならば私は、自分の手で運命を変える。 愛も権力も裏切りも、すべて巻き込み、私は私の道を生きてみせる。 毎日20時30分に投稿

処理中です...