【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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24 わたしが世界基準

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朝はガラクタ山の整理。
そして昼からは――地獄の淑女特訓である。

「……魔界城、地下に部屋あったんだ……」

わたしは、指導者であるメイド長スネクの後をついていきながら、冷たい石階段を、一段ずつ踏みしめていた。
降りるたび、肌をなぞる空気が鋭さを増す。
ついこの間までは、瘴気に満ちたはずの地下。
けれど今は、恐ろしく不気味なほど澄んでいた。

「瘴気が強い時は地上に出られないから、家で冬眠してたのよ」

そう言って前を歩くスネクは、蛇皮の鞭を肩に担いでいた。

男女問わず全ての人が恐れ、すべての人がひれ伏すと言われる影のボス、スネクメイド長。

優雅に、そして容赦なく。
音もなくシュルシュルと蛇のように、いや蛇だった。
そんなスネクがわたしの指導者、ひーっ!なんで?
だが、私に拒否権はない。

そして――気づけば鏡の前。後ろにスネクメイド長。
わたしは黙って立たされる。

「背筋伸ばして! 胸を張って! 」

わたしは指示通り、必死で胸を張る。
バレリーナか?
はたまたどっかの歌劇団を目指すのか?
いや、女兵士かも!!

「その姿勢じゃ尊厳が逃げるのよ!!」
「は、はいっ!」

尊厳ってなんですか?そんな疑問を持つことは許されない。
逃すなというなら、捕まえるしかない。
そんな恐怖の圧迫感。

「さあ立ち上がる。その一瞬がすべてを決めるの。どう立つかで、勝敗は決まる!」

私は、ふんっ!と勢いよく立ち上がる。
全てが決まる!!
鼻息も荒い!

ふんっ!ふんっ!ふんっ!!!

「つ、、常に世界基準ですね!スネク先生!」

私の鼻の穴は更にデカくなる。

「そう!! あなたが基準!!」

スネクの目がキラリンと光る。
声がビシィンと空気を裂く。
空気すらスネクにひれ伏す。

そして、スネクが魔界城の空気、空間を地下から操るかのような殺気が出る。

「しょんぼりした時点でボロ負け!“あ、雑魚だ”って思わせたら、人生終了よ!」

ヘビムチがパシンと意味なくわたしの前の地面を打つ
まるで、そこに雑魚がいたかのようだ。

ひーっ!

私は鼻の穴を広げたまま、心で悲鳴を上げる

「はい!雑魚じゃないです!!」

雑魚になったら、雑魚になったら、私!!
鞭打ちの刑です!!

「歩く!!」

スネクはスッと前に指先を示す。
それだけで、まるで床はベルトコンベアーで、歩かなければ後ろに下がってしまうのではないかと錯覚させる。

おそるべし、スネク!!
スネクに逆らうことなかれ!

私の心に赤い警鐘ランプが光る。

「はいっ!」

思わず項垂れたその瞬間――

ピシィッ!

うぉっ!!ヘビムチ炸裂!!
ムチのしなった音がビュンって聞こえる。
ビュン、ビュンって!!

「やり直し! 背筋ッ! 本を頭に乗せて、そのまま椅子まで歩く!!」


歩く!歩く!歩く!
そこに、ずしん、と頭に魔導書。
スネクが乗せたのは、辞典のように分厚いやつだった。

え?これ?首すくみませんか??
どうみても、5kgは超えてますよね??
私はなんの罪で今裁かれているのでしょうか?

ふんぬ!!ふん!!ふん!!ふん!!
もう鼻の穴広げすぎて、鼻血でそう!!

「視線は常に上! 下を見るのは下々の民だけ!」

「私は……世界基準!」

くらっくらしてきた。
ダメダメ、世界基準!

「そう! 下々を見下ろす女になるのよ!」

スネクは嬉しそうに唇をにんまり引き上げる。
蛇だ!さすが蛇だ!
まるで、舌がしゅっ!!って出てないのに幻が見えるよ

「はいっ!」
「ここでターン!」
「ターンっ!」

回れ、回れ!回れえええええ!

「にっこり笑う!」
「にこっ!!」

――ポトン。本が落ちた。

ゔがあああああああああっ!

「失敗なんて、下々に許された特権です!!!」

ピシィッ!

「あなたは、魔王陛下のそばにいたいんでしょう? だったら“失敗しました”なんて概念、今すぐ燃やして!!」

「はいっ……! 私が世界基準ですっ……!」

スネクの言葉は鋭いのに、なぜか、胸の奥に残る。

何で私、今こんなことに??
魔界にいるってそんなに難しい?
魔王さま、また会えるかな。
ここで……ここで、居場所をつくらなきゃ!!

「あなた?卑屈になってない!?」

びくっ。
鏡越し、スネク先生の目がきらりと光る。

「いい? いさせてもらうは、論外です。“仕方ないから私がいてあげる”くらいの気持ちでいなさい!」

「は、はいぃ……!魔王さま...いて...あげますわ!!」
鏡越しに私の真横にスネクの顔

「仕方ないわ、いてあげるわって伝わってきたわよ!!」
「は、はい!世界基準ですから!」

ひーん!もう涙目!!

「涙は女の武器! 無駄遣いしない! 泣く時は最大火力で燃やし尽くす!女優になりなさい!!」
「女優になります……スネク先生……!」

鼻をすすりながらそう答えると、鏡の中。泣きそうな顔をした自分が――ほんの少しだけ、わたしが凛として見えた。

「いい子。誰がなんと言おうと、自分を否定しない。それが淑女の基本よ。あなたの価値は、あなたが決める!」

ピシィン!蛇鞭が空を斬り、意味なくわたしの前に飛ぶ。

「はいっ、スネク先生!!」

ビシッ!!
こんな訓練が、毎日、毎日続いていく。

そしてその先に――
わたしの無意識魅了スキルが、誰かの心を揺らす日が来るのは、もう少しだけ後のこと。
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