【完結】聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

文字の大きさ
36 / 70

36 聖女の真実

しおりを挟む
「……私ね、もともとは人間だったのよ」

ぽつりと、ウンディーネが呟いた。

「えっ? 精霊じゃないんですか?」
「それは、今の姿ね」

そう言って、ウンディーネはかすかに笑った。
けれど、その瞳は少し寂しそうだった。

「私は、聖女としての力が生まれつき強かったの。それでよく頼まれて、ダンジョンのパーティの一員として潜っていたわ。……そこで、ある男の人と出会ったの」
「男の人?」
「弱かったけど、まっすぐで一生懸命で……毎日、剣の練習をしていたの。よく怪我してね、私がいつも回復魔法で治してあげてた」
「回復魔法って、聖女の?」
「ええ。あなたも、きっと使えるようになるわよ。教えたくないけどね。利用されるから」

ウンディーネはそう言って、ウインクをしてみせた。

「私、回復だけじゃ足りなくて、ポーションも、解毒剤も、防御薬も……ぜんぶ自分で作ってた。それができる人がいないのに、困っている人はいる。そうするしかないと思っていたから。
でも彼は優しくて、私の魔力を心配して回復を断ってくれることもあったの。自分は怪我だらけなのにね。そんな彼に惹かれていったわ」
「……その人って、もしかして」
「そう、勇者に選ばれたの。あの水晶にね」
「勇者……ギルド長!?」
「ええ。名前はマクライア。今はどうか知らないけど、あの人が勇者なんて、ね」

ウンディーネは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「パーティは、私が回復役で、偵察がリース。魔法使いはガブリエル。そして盾役が――キリルって男。キリルは、物資を運んだり、ダンジョンの前衛もやっていたわ」

「……キリルさんって、教会に出入りしてるの、何度か見たことあります...ってえっ!ガブリエルってあのガブリエル神父??」

急に身近な名前が出てきて、いや、身近におきたくなかった人たちの名前を聞いてわたしは驚く。

「ふふ……まだ繋がってるのね、あの二人」

ウンディーネの声が、ほんの少し震えた。

「魔界の門が開くと、魔王が復活する。それで私たちは魔王討伐に向かったの。……そのとき彼は言ったのよ。“これが終わったら結婚しよう”って――指輪をくれた」

一瞬、ウンディーネの瞳に光が宿った。
でも、それもすぐに翳る。

「でも、その日は来なかった」

彼女の声は、静かに沈んでいった。

「瘴気がすごくて……門の周りはわたしにはほとんど何も見えないほど濃い紫の視界。そこにどす黒い怨念がまとわりついてきた。
でも、私は見えるし、浄化もできる。だから、ひたすら浄化したの。だって、どんどん狂化した魔物が押し寄せて私たちなんて相手にもならなかった。怪我をするみんなに、回復魔法を撃ちまくったわ。体が壊れそうでも、吐血しても、なんとかしようとした。でも無理だったの」

「……」
「それなのに、彼は最後に言ったの。“助けてくれ、聖女だろ”って――泣きながら縋ってきた」

わたしは言葉を失った。

「魔王ですらこの状況を止められないのに……どうして、私にできると思ったのかしらね」

ウンディーネは、少しだけ笑った。痛みの混じる、乾いた笑みだった。

「そこに、トミーさんがいたの。まだ小さくて、何も知らなくて……そんな子に、マクライアは剣を振り上げたのよ。“魔物”って! 誰であれ、子供を一番に狙うような人じゃなかったはずなのに――」

「……!」

「トミーさんを庇って、お母さんが前に出た。そこを、今度は盾役のキリルが殴り殺した。その時のトミーさんの顔が記憶から離れなくて、私は……思わず、全ての回復魔法をそのお母さんに放ったの。でも、間に合わなかった」

ウンディーネは、そっと胸に手を当てた。

「そこで、私の人間としての時間は終わったの」
「……」
「それからは、何もかも壊れたみたいで、何がなんだかわからなくて。でも――魔王様が、私の指輪を外してくれたの。“きれいな心を思い出して”って」

ウンディーネは、ふっと微笑んだ。

「それで、ようやく思い出したの。助けたかったんだって。
魔族とか人間関係なく。わたしはただ、それだけだったのにね」

ウンディーネは机に置かれた指輪の周辺をくるくる回る。
指輪には、マクライアと……アルデリアと彫られている。

「ウンディーネは精霊の名前。ほんとはアルデリアっていうのよ」

ふふっと微笑んだ。

「浄化されて、自分のそばに戻ってきたら……なんか、久しぶりに会いたくなっちゃった。変よね。あんなに憎んだ人なのに」

指輪が、きらりと光る。

「愛されたかったの。みんなに搾取されてたから、聖女じゃなくて私を大切に思ってくれる人が欲しかったの。
でも、スネクの教育を見て、あなたたちを見て、わかったわ。
私が選べばよかった。“そんなこと言うやつお断りだ”って、“浄化してほしかったら跪け”って、言ってやればよかった」

ウンディーネは泣いた。

「そして、あなたたちみたいに――一緒にいれば、それだけで幸せなんだって。役に立つとか、立たないとか、関係ないんだって……気づければよかった」

ウンディーネは、わたしを見つめた。

「わたし、マクライアに会いに行こうと思う。自分がここに戻れるのか、会ったら狂化するのかすらわからない。
だから……リンちゃんが求めるなら、私が知ってる知識をすべて、あなたに渡す」

わたしは、いかないでと言いたくなった。
でも、それを言ってしまったら、ウンディーネさんは先に進めない。
過去にとらわれずに、今進もうとしているのだから。

でも、狂化する可能性があるならここにいてはダメなの?

「いかないといけないのですか?」

ウンディーネは頷いた。

「ちゃんと終わりにしないとね。だから、私みたいにならないように、リンちゃんは覚えていて!意識的に、もしくは無理やり私みたいに使い続けたら、あなたは命を削ってしまうわ」

リンにとっては衝撃だった。
でも、私にしかできないといわれたら、ウンディーネさんと同じ道を辿りそうだった。
魔王さまに何かあったら、きっと全力で助けたいと思うはず。

だけど、

「聖女の技術、引き継ぎます。大丈夫! だって私が世界基準だから!!ちゃんと私が私の意思で使います」

わたしは笑って答えた
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

虐げられ続けてきたお嬢様、全てを踏み台に幸せになることにしました。

ラディ
恋愛
 一つ違いの姉と比べられる為に、愚かであることを強制され矯正されて育った妹。  家族からだけではなく、侍女や使用人からも虐げられ弄ばれ続けてきた。  劣悪こそが彼女と標準となっていたある日。  一人の男が現れる。  彼女の人生は彼の登場により一変する。  この機を逃さぬよう、彼女は。  幸せになることに、決めた。 ■完結しました! 現在はルビ振りを調整中です! ■第14回恋愛小説大賞99位でした! 応援ありがとうございました! ■感想や御要望などお気軽にどうぞ! ■エールやいいねも励みになります! ■こちらの他にいくつか話を書いてますのでよろしければ、登録コンテンツから是非に。 ※一部サブタイトルが文字化けで表示されているのは演出上の仕様です。お使いの端末、表示されているページは正常です。

モブが乙女ゲームの世界に生まれてどうするの?【完結】

いつき
恋愛
リアラは貧しい男爵家に生まれた容姿も普通の女の子だった。 陰険な意地悪をする義母と義妹が来てから家族仲も悪くなり実の父にも煙たがられる日々 だが、彼女は気にも止めず使用人扱いされても挫ける事は無い 何故なら彼女は前世の記憶が有るからだ

ざまぁに失敗したけど辺境伯に溺愛されています

木漏れ日
恋愛
天才魔術師セディが自分の番である『異界渡りの姫』を召喚したとき、16歳の少女奈緒はそれに巻き込まれて、壁外という身分を持たない人々が住む場所に落ちました。 少女は自分を異世界トリップに巻き込んだ『異界渡り姫』に復讐しようとして失敗。なぜかロビン辺境伯は少女も『異界渡りの姫』だと言って溺愛するのですが…… 陰陽の姫シリーズ『図書館の幽霊って私のことですか?』と連動しています。 どちらからお読み頂いても話は通じます。

偽聖女として私を処刑したこの世界を救おうと思うはずがなくて

奏千歌
恋愛
【とある大陸の話①:月と星の大陸】 ※ヒロインがアンハッピーエンドです。  痛めつけられた足がもつれて、前には進まない。  爪を剥がされた足に、力など入るはずもなく、その足取りは重い。  執行官は、苛立たしげに私の首に繋がれた縄を引いた。  だから前のめりに倒れても、後ろ手に拘束されているから、手で庇うこともできずに、処刑台の床板に顔を打ち付けるだけだ。  ドッと、群衆が笑い声を上げ、それが地鳴りのように響いていた。  広場を埋め尽くす、人。  ギラギラとした視線をこちらに向けて、惨たらしく殺される私を待ち望んでいる。  この中には、誰も、私の死を嘆く者はいない。  そして、高みの見物を決め込むかのような、貴族達。  わずかに視線を上に向けると、城のテラスから私を見下ろす王太子。  国王夫妻もいるけど、王太子の隣には、王太子妃となったあの人はいない。  今日は、二人の婚姻の日だったはず。  婚姻の禍を祓う為に、私の処刑が今日になったと聞かされた。  王太子と彼女の最も幸せな日が、私が死ぬ日であり、この大陸に破滅が決定づけられる日だ。 『ごめんなさい』  歓声をあげたはずの群衆の声が掻き消え、誰かの声が聞こえた気がした。  無機質で無感情な斧が無慈悲に振り下ろされ、私の首が落とされた時、大きく地面が揺れた。

冷酷騎士団長に『出来損ない』と捨てられましたが、どうやら私の力が覚醒したらしく、ヤンデレ化した彼に執着されています

放浪人
恋愛
平凡な毎日を送っていたはずの私、橘 莉奈(たちばな りな)は、突然、眩い光に包まれ異世界『エルドラ』に召喚されてしまう。 伝説の『聖女』として迎えられたのも束の間、魔力測定で「魔力ゼロ」と判定され、『出来損ない』の烙印を押されてしまった。 希望を失った私を引き取ったのは、氷のように冷たい瞳を持つ、この国の騎士団長カイン・アシュフォード。 「お前はここで、俺の命令だけを聞いていればいい」 物置のような部屋に押し込められ、彼から向けられるのは侮蔑の視線と冷たい言葉だけ。 元の世界に帰ることもできず、絶望的な日々が続くと思っていた。 ──しかし、ある出来事をきっかけに、私の中に眠っていた〝本当の力〟が目覚め始める。 その瞬間から、私を見るカインの目が変わり始めた。 「リリア、お前は俺だけのものだ」 「どこへも行かせない。永遠に、俺のそばにいろ」 かつての冷酷さはどこへやら、彼は私に異常なまでの執着を見せ、甘く、そして狂気的な愛情で私を束縛しようとしてくる。 これは本当に愛情なの? それともただの執着? 優しい第二王子エリアスは私に手を差し伸べてくれるけれど、カインの嫉妬の炎は燃え盛るばかり。 逃げ場のない城の中、歪んだ愛の檻に、私は囚われていく──。

《完結》戦利品にされた公爵令嬢

ヴァンドール
恋愛
戦いの《戦利品》として公爵邸に連れて行かれた公爵令嬢の運命は?

居候と婚約者が手を組んでいた!

すみ 小桜(sumitan)
恋愛
 グリンマトル伯爵家の一人娘のレネットは、前世の記憶を持っていた。前世は体が弱く入院しそのまま亡くなった。その為、病気に苦しむ人を助けたいと思い薬師になる事に。幸いの事に、家業は薬師だったので、いざ学校へ。本来は17歳から通う学校へ7歳から行く事に。ほらそこは、転生者だから!  って、王都の学校だったので寮生活で、数年後に帰ってみると居候がいるではないですか!  父親の妹家族のウルミーシュ子爵家だった。同じ年の従姉妹アンナがこれまたわがまま。  アンアの母親で父親の妹のエルダがこれまたくせ者で。  最悪な事態が起き、レネットの思い描いていた未来は消え去った。家族と末永く幸せと願った未来が――。

酒飲み聖女は気だるげな騎士団長に秘密を握られています〜完璧じゃなくても愛してるって正気ですか!?〜

鳥花風星
恋愛
太陽の光に当たって透けるような銀髪、紫水晶のような美しい瞳、均整の取れた体つき、女性なら誰もが羨むような見た目でうっとりするほどの完璧な聖女。この国の聖女は、清楚で見た目も中身も美しく、誰もが羨む存在でなければいけない。聖女リリアは、ずっとみんなの理想の「聖女様」でいることに専念してきた。 そんな完璧な聖女であるリリアには誰にも知られてはいけない秘密があった。その秘密は完璧に隠し通され、絶対に誰にも知られないはずだった。だが、そんなある日、騎士団長のセルにその秘密を知られてしまう。 秘密がばれてしまったら、完璧な聖女としての立場が危うく、国民もがっかりさせてしまう。秘密をばらさないようにとセルに懇願するリリアだが、セルは秘密をばらされたくなければ婚約してほしいと言ってきた。 一途な騎士団長といつの間にか逃げられなくなっていた聖女のラブストーリー。 ◇氷雨そら様主催「愛が重いヒーロー企画」参加作品です。

処理中です...