聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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35 わたしは聖女

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部屋の呪われたいわく付きゴミ山は、きれいに片付いた。

「終わりって、あるんですね」

何も知らない私は、すっきりした元ゴミ山部屋を見回し、心も軽くなったように笑った。
長い間、ゴミ山で閉ざされていた窓を開けると、柔らかな日差しが差し込んでくる。

窓も何もないと思っていた部屋には、実は、窓はあったのだ。
だが置いてある物が物だけに、認識阻害で開けられないようになっていた。
もう、開けてもいいのだ。

私の髪を柔らかい風が吹き抜ける。
その横で、ウンディーネが静かに言った。

「リンちゃん、大事な話があるの」

ふわりと風が吹く。
姿は見えないけど、エアリアさんの気配かも。

「あなたは、聖女よ」
「……え?」

一瞬風で聞き間違いかな?と思う。
私は勇者じゃないのは確かだと思うけど...
聖女って、あの?聖女?

「今、人間界で量産されてる“なんちゃって聖女”を想像したでしょ。そうじゃなくて、本物の聖女なの」

「.....」

え?本物、本物って?

「本物って……あの、教会の石像とか、金ピカなあれですか?」

そもそも、聖女って何だっけ?
聖女認定試験やってたのに、本物の聖女という聖女は出てきたことがない。

本物っていえば、パーティで回復係しながら稼ぐやつ?
教会で神官見習いから昇格する役職名?
でも、神官見習いも、聖女もお給料なしは一緒っぽいし。

正直、聖女は大量発生してるし、水晶の誤作動の一環ってことで流しても良さそう。

「本物の聖女??ですか。それは、元勇者よりはなんかゴロがよさそうですけど」
「......」

ウンディーネさん、笑ってよ
なんかいつもと違う。
真面目に話してるのはわかるけど、少し怖い。

「リンちゃん、紫の煙、見えるでしょ」
「はい、ネズミイさんたちと掃除して、はたきで消えた紫の煙ですよね。あれ、瘴気ですよね?」
「そう。あれは魔物や魔族にしか見えないの。人間に見えるのは――聖女だけ」
「えっ……でも、みんな“瘴気ひどい”って……」

「魔族はみることはできるわよ。でも、浄化はできないの。ただみえるの。見えて、触れて、消せるのは……本物の聖女のあなただけ。人間では、ね」
「黒い煙も見えますけど。あれも瘴気ですか?」
「それは怨念よ。瘴気よりも強い、感情の残骸。あれが見えてる時点で……あなた普通じゃないのよ」

言われて思い出す。

私がはたいたところだけ、紫の煙がふっと消えて、ネズミイさんがぴかぴかにしてくれた。
私が触ったゴミ山は、汚れや怨念がぽろぽろ崩れて、きれいになる。

「ま、まさか……っ」

リンは真剣な顔で言った。

「これ、特殊能力ってことで……メイド募集の特技欄に書いていいですか?」

ウンディーネは目を見開き、唖然とした顔をする。
そして、ぷっと笑い始めた。

「あははははっ!リンちゃん……聖女、なりたくないの?」
「うーん? 前はなりたかったですけど、今は魔王さまのお役に立てる方が……」

リンは首を傾げた。

「リンちゃんは本当に変わらないわね。せっかく、本物の聖女誕生なのに。それって魔界でも人間界でもすごいことなのよ」

ウンディーネは目を細めた。

「でもね。あなたの力は、あなただけのもの。……ただ、そのすごい力を利用しようとする人はたくさんいるわ。魔王さまだって、例外じゃないかもしれない」

ウンディーネの声が少しだけ低くなる。

「この魔界で瘴気を“消せる”のは魔王さま。魔王さまは、自分の体に瘴気を溜め込むの。だから、消せるけど今回の魔王城みたいに、たくさん溢れ出ちゃうと、消すことができる量に限界があるのよね。でも、“浄化できる”のはあなただけ。根本から、綺麗にできる力を持っているのは……聖女だけなのよ」

「…………」

「だから、瘴気を浄化できるあなたはこれから利用される機会が増えてしまう。利用されることから、逃げられなくなったら……あなた、きっと死んじゃう」

その声には、かつて命を削って戦った者の、痛みと祈りが滲んでいた。

「わたし、どのくらい浄化させられるようになったら死にますか?このゴミ山、自分で片付けた記憶がなくて……」

リンは困ったように言った。

ウンディーネも悩む
無自覚聖女なんて聞いたこともない。
本物の聖女自体、私以外見たことないのに。

しかも、むしろ無自覚の時はどうもノーカウントっぽいのだ。
顔色も肌艶も、特に変わらない。

おそらくだけど、予想になってしまうけど…

ウンディーネは静かに口を開く。

「人間界にいた頃、あなた……栄養状態も悪くて、教会の仕事をたくさん無理やりやらされてたわよね。
私の時と同じなら、体が弱ってる時に無理をさせられると、負担が跳ね返ってくる。
あの痩せ方は……異常だったと思うの」

私は少し首をかしげながら、遠い目をした。
確かに、あの頃はとにかく毎日お腹が空いて、ずっと疲れてた気がする。
実際に与えられるご飯も少なかったからだと思っていた。

――でも、それって本当に「遠い昔」の話じゃない。

(まだ、あれから一年も経ってないんだよね)

それなのに今は、魔王城の朝があって、オーガさんのおにぎりがあって、ネズミイさんやスネク先生がいて、みんなと笑って掃除してる。

しかも、魔王さまと家族になれるかもしれない。

(……ずいぶん、遠くまで来た気がするなあ)

そう思った瞬間――
ふっと、部屋の空気があたたかくなった気がした。
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