聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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翌日。
魔界城の地下、氷より冷たい空気の中で――
スネク式・大反省会が開催されていた。

「リンさん?」

スネク先生の声はやけに静かで、それが逆に怖い。
なんか、なにもしてなくても「やりました」って自白する感じってこんな感じなのかな?

「昨日、魔王様から……なにか“お心”をいただけまして?」
「は、はいっ! “これからも一緒にオーガさんのおにぎりを食べよう”って言われました!」

これは間違いない。

しかも、スネク先生の旦那さん、オーガさんのおにぎりを一緒に食べよう!ですよ。
きっと、魔王さまのプロポーズは良いところをついてるはず!!

「………………ふむ」

スネク先生の肩がピクリと震えた。
お、クリアか!!

「で? あなたは、何と返事を?」
「はい!って答えて……! 私、世界基準に――」

バシィィィィッッ!!
ヘビ鞭、炸裂。

しまった!プロポーズの返事は「はい」じゃダメなの?
でも、それ以外なんて言えば?

「ぎゃあああっ!? あ、あのスネク先生?なんで私、鞭で打たれたんでしょうか?」

「あなたね! 勘違いしてるの!!」

スネク先生、静かにブチギレていた。
やばい!
これは、目が座っている

「“世界基準”とは! 自らが選ぶ者ッ!! 求められて嬉しい? 違うわ! 『跪かせて選ぶ』のよ、選ばれし者として!」

「え、えっと……わたし、魔王さまに“おにぎり食べよう”って言われて、それで嬉しくて……」

ええと、私も求めた場合は。
プロポーズ、つい喜んでしまったんですけど。
魔王さま、跪いてくださいってお願いしてくれたけど?
でも、どう選んでも答えは「はい」一択なんですけど...

「その時、あなたはこう返すの!!!」

へ?返し方?
ヘビ鞭が地面をえぐる。
ふぎゃん!!

「“おにぎりでわたくしが落ちると? せめて豚汁を添えなさい”ですわ!!!」

「えぇぇ!? オーガさんの負担が爆増しません!?」

「うちのオーガはなめこ汁でもモツ鍋でも一瞬で用意しますとも!! そのために日々鍛えておりますわ!」

バシバシバシバシッ!

妻がいうんだ。間違いない!
オーガさんにおにぎりだけで全力を出してもらおうなんて甘かった。
オーガさんは、汁物もセットじゃないとダメなんだ!

(オーガさぁぁぁん!! ごめんなさぁぁい!!)

「ちなみに……オーガさんからは、どんなプロポーズが??」

スネク先生、沈黙。

「ふっ。淑女に秘密はつきものでしてよ、リンさん」

「はい! それが世界基準です!」

私は元気に直立不動で答えた。







一方その頃。
ウンディーネの前には、あの“指輪”が戻ってきていた。

かつてマクライアから贈られた、婚約の証。
ゴミ山の奥に埋めていたはずが、昨晩の浄化騒ぎでピカピカに復活している。

「これ、私……どうしたらいいんだろう」

憎かった。忘れたかった。
でも今は……もう一度、マクライアに会いたい。
それだけが浮かんでくる。

(私は――何を求めてたんだろう)

魔王とリンの関係は恋愛というより家族のような温かさを求めあっていた。
なのに、そこにちゃんと“幸せ”があることは、痛いほど伝わってきた。

私が欲しかったものも、本当は……。

ウンディーネは、指輪を胸にそっと抱きしめた。







同じころ、ゴミ山の前にもう一人。
トミーがしゃがみ込んでいた。

彼の手には、小さな、焦げた布きれ。

かつて母が、自分を庇って死んだとき――血に染まった、自分の服。

魔界の門が開かれたあの日。
魔王を守るため、九尾一族は最前線に立たされた。

まだ子供だったトミーは、前線に立ち、ミスをした。
最初は勇者に尻尾を切り落とされそうになった。
その瞬間、母が飛び込んできて――

近くにいた盾役の男に殴り殺された。

さらに、トミーに火を放って迫った魔法使い。
その前に立ちはだかったのは――先ほど自分の尻尾を切ろうとしたはずの勇者マクライアだった。

なぜ、あの時、自分を庇った?

なぜ、殺さなかった?

助けたのは罪滅ぼし? それとも憐れみ?

そして

「……魔王さまは、なんで……あの勇者まで、助けたんだよ」

あの時の自分の叫び声が蘇る

苦しくて、憎くて、でも、何度も許そうと言い聞かせた日々

トミーは、小さな焦げた服を胸に抱きしめた。

「……リンさん、無自覚って、時に一番罪深いんですよ」

その目にあったのは、微かな悲しみと――静かな怒りだった。
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