聖女のはずが勇者(仮)に間違われて、魔王さまに溺愛されてます

小豆缶

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36 聖者の真実

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「……私ね、もともとは人間だったのよ」

ぽつりと、ウンディーネが呟いた。

「えっ? 精霊じゃないんですか?」
「それは、今の姿ね」

そう言って、ウンディーネはかすかに笑った。
けれど、その瞳は少し寂しそうだった。

「私は、聖女としての力が生まれつき強かったの。それでよく頼まれて、ダンジョンのパーティの一員として潜っていたわ。……そこで、ある男の人と出会ったの」
「男の人?」
「弱かったけど、まっすぐで一生懸命で……毎日、剣の練習をしていたの。よく怪我してね、私がいつも回復魔法で治してあげてた」
「回復魔法って、聖女の?」
「ええ。あなたも、きっと使えるようになるわよ。教えたくないけどね。利用されるから」

ウンディーネはそう言って、ウインクをしてみせた。

「私、回復だけじゃ足りなくて、ポーションも、解毒剤も、防御薬も……ぜんぶ自分で作ってた。それができる人がいないのに、困っている人はいる。そうするしかないと思っていたから。
でも彼は優しくて、私の魔力を心配して回復を断ってくれることもあったの。自分は怪我だらけなのにね。そんな彼に惹かれていったわ」
「……その人って、もしかして」
「そう、勇者に選ばれたの。あの水晶にね」
「勇者……ギルド長!?」
「ええ。名前はマクライア。今はどうか知らないけど、あの人が勇者なんて、ね」

ウンディーネは皮肉めいた笑みを浮かべた。

「パーティは、私が回復役で、偵察がリース。魔法使いはガブリエル。そして盾役が――キリルって男。キリルは、物資を運んだり、ダンジョンの前衛もやっていたわ」

「……キリルさんって、教会に出入りしてるの、何度か見たことあります...ってえっ!ガブリエルってあのガブリエル神父??」

急に身近な名前が出てきて、いや、身近におきたくなかった人たちの名前を聞いてわたしは驚く。

「ふふ……まだ繋がってるのね、あの二人」

ウンディーネの声が、ほんの少し震えた。

「魔界の門が開くと、魔王が復活する。それで私たちは魔王討伐に向かったの。……そのとき彼は言ったのよ。“これが終わったら結婚しよう”って――指輪をくれた」

一瞬、ウンディーネの瞳に光が宿った。
でも、それもすぐに翳る。

「でも、その日は来なかった」

彼女の声は、静かに沈んでいった。

「瘴気がすごくて……門の周りはわたしにはほとんど何も見えないほど濃い紫の視界。そこにどす黒い怨念がまとわりついてきた。
でも、私は見えるし、浄化もできる。だから、ひたすら浄化したの。だって、どんどん狂化した魔物が押し寄せて私たちなんて相手にもならなかった。怪我をするみんなに、回復魔法を撃ちまくったわ。体が壊れそうでも、吐血しても、なんとかしようとした。でも無理だったの」

「……」
「それなのに、彼は最後に言ったの。“助けてくれ、聖女だろ”って――泣きながら縋ってきた」

リンは言葉を失った。

「魔王ですらこの状況を止められないのに……どうして、私にできると思ったのかしらね」

ウンディーネは、少しだけ笑った。痛みの混じる、乾いた笑みだった。

「そこに、トミーさんがいたの。まだ小さくて、何も知らなくて……そんな子に、マクライアは剣を振り上げたのよ。“魔物”って! 誰であれ、子供を一番に狙うような人じゃなかったはずなのに――」

「……!」

「トミーさんを庇って、お母さんが前に出た。そこを、今度は盾役のキリルが殴り殺した。その時のトミーさんの顔が記憶から離れなくて、私は……思わず、全部の回復魔法をそのお母さんに放ったの。でも、間に合わなかった」

ウンディーネは、そっと胸に手を当てた。

「そこで、私の人間としての時間は終わったの」
「……」
「それからは、何もかも壊れたみたいで、何がなんだかわからなくて。でも――魔王様が、私の指輪を外してくれたの。“きれいな心を思い出して”って」

ウンディーネは、ふっと微笑んだ。

「それで、ようやく思い出したの。助けたかったんだって。
魔族とか人間関係なく。わたしはただ、それだけだったのにね」

ウンディーネは机に置かれた指輪の周辺をくるくる回る
指輪には、マクライアと……アルデリアと彫られている。

「ウンディーネは精霊の名前。ほんとはアルデリアっていうのよ」

ふふっと微笑んだ。

「浄化されて、自分のそばに戻ってきたら……なんか、久しぶりに会いたくなっちゃった。変よね。あんなに憎んだ人なのに」

指輪が、きらりと光る。

「愛されたかったの。みんなに搾取されてたから、聖女じゃなくて私を大切に思ってくれる人が欲しかったの。
でも、スネクの教育を見て、あなたたちを見て、わかったわ。
私が選べばよかった。“そんなこと言うやつお断りだ”って、“浄化してほしかったら跪け”って、言ってやればよかった」

ウンディーネは泣いた。

「そして、あなたたちみたいに――一緒にいれば、それだけで幸せなんだって。役に立つとか、立たないとか、関係ないんだって……気づければよかった」

ウンディーネは、リンを見つめた。

「わたし、マクライアに会いに行こうと思う。自分がここに戻れるのか、会ったら狂化するのかすらわからない。
だから……リンちゃんが求めるなら、私が知ってる知識をすべて、あなたに渡す」

わたしは、いかないでと言いたくなった。
でも、それを言ってしまったら、ウンディーネさんは先に進めない。
過去にとらわれずに、今進もうとしているのだから。

でも、狂化する可能性があるならここにいてはダメなの?

「いかないといけないのですか?」

ウンディーネは頷いた。

「ちゃんと終わりにしないとね。だから、私みたいにならないように、リンちゃんは覚えていて!意識的に、もしくは無理やり私みたいに使い続けたら、あなたは命を削ってしまうわ」

リンにとっては衝撃だった。
でも、私にしかできないといわれたら、ウンディーネさんと同じ道を辿りそうだった。
魔王さまに何かあったら、きっと全力で助けたいと思うはず。

だけど、

「聖女の技術、引き継ぎます。大丈夫! だって私が世界基準だから!!ちゃんと私が私の意思で使います」

リンは笑って言った。
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