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48 いったい誰が?
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マクライアさんが......ギルド長が殺された?
わたしは思わず耳を疑った。
空気が、凍りつく。
誰も、言葉を出せなかった。
「それで……ウンディーネさんには?」
「伝えた。でも……指輪の魔石の中に閉じこもってる。マクライアの家の机の上に指輪とケースが置かれてたから、伝書鳥と一緒に持ち帰った」
魔王さまはそっと、小さな指輪ケースを差し出した。
青いビロード。白くてふかふかのクッション。
その上に、静かに指輪が置かれている。
この中に、ウンディーネがいる。
「……こんなケース、あったっけ?」
エアリアが首を傾げる。魔王城では、台所にははめ込む金具がついているし、机の上には大理石の台座がありその上になくならないように嵌め込んでいる。
こんな指輪ケースは見たことがない。
「なかったと思います。あっちの世界でも、ウンディーネさんは、マクライアさんに“鍋敷きで出された”って怒ってましたし」
あ!そうだ。
「そうだ!次に会った時は、ちゃんとした座布団、用意するって言ってたって。だからマクライアさん、すぐ準備したんだ。次に会うために」
それを聞いた魔王はきゅっと苦しげに眉間に皺をよせた。
「今は、そっとしておこう」
魔王は指輪ケースを金庫にしまった。
誰にも邪魔されない静かな場所。
「ウンディーネが出てきたくなったら、自分で出てこればいい。」
「……でも、誰が?」
エアリアが思わず呟く。
魔王が金庫の鍵を閉めた音が、「ガチャッ」とやけに響く。
強盗?
金目当て?
――でも、それなら指輪が真っ先に盗られてるはずだ。
「……もし過去が関係してるなら、一つだけ気になる」
魔王が低く呟く。
「“魔界の門”の事件で生き残ってるのは、これで、ガブリエルだけになった」
神父の――ガブリエル。
空気がまた、凍る。
わたしも、ここ数年のことを思い出していた。
「確かにここ数年、特に教会はおかしいんです。水晶が機能しなくて聖女が大量発生するし、まったく寄付が集まらなくなって孤児院の食事も質素になってお腹を空かせた子がたくさん増えています。
でも、ずっと教会にいたけど、マクライアさんを見たことは一度もなかったのに...」
エアリアも鋭い目を光らせる。
「ウンディーネと出会ったことで、何かガブリエルに物申したくなったとか。マクライアさんは、50年前のことを全て知っている人間だもの。
ガブリエルからしたら、邪魔だし、自分の立場を追いやりかねない存在よね」
魔王さまも黙ったまま、記憶をさぐるように、目を彷徨わせていた。
悔しいのだろう。
握りしめたこぶしが白い。
あんなにウンディーネさんが長い苦しみから解き放たれて、うれしそうに帰ってきただけにつらすぎる。
私は教会での生活を思い出してみる。
やはりマクライアさんとガブリエルとの接点は思い出されない。
教会の人間は、清貧という名の1日1個のパン。
寄付がないから、孤児院の運営が厳しいというので、孤児たちと一緒に、花やクッキーを売り歩いて……その花をマクライアさんは時々買ってくれる人だった。
一方で、ガブリエルの食事だけは豪華になるばかり。
作らされるのはいつも私だった。
その中から少しずつ抜き、子供たちに分けていたのは、今でもはっきり覚えてる。
「でも……トミーさんも、今いないわよ?」
エアリアの顔が、少し曇る。
「九尾の里に帰るって言ってた。けど……もしやるつもりなら、チャンスは何度もあった。今さら動く理由があるか?」
魔王はそう言い切った。でも――
わたしには、わからなかった。
この魔界で人間でしかも、マクライアさんからの紹介の私を受け入れてくれた。
仕事も作ってくれた。
魔王さまとの結婚も協力してくれた。
あんなに優しくしてくれたのに。
でも……
マクライアさんを、許せてたのかな……?
ウンディーネさんとまた再会することや許されることをどう思ってたんだろう.....?
エアリアがそっと目を閉じて思案する。
そして、彼女は目を開け、リンのほうへ顔を向けた。
「わたし、トミーさんの里を見てくる。何かあるかもしれない。魔王さま、リンちゃんをお願いね。彼女はガブリエルとも関わりがあるし、いまここにいる唯一の人間なんだから」
そう言って、エアリアは風と共に、ふっと姿を消した。
誰が、マクライアさんを――?
どうか、どうか……
トミーさんが、関係ありませんように。
わたしは、祈るしかなかった。
わたしは思わず耳を疑った。
空気が、凍りつく。
誰も、言葉を出せなかった。
「それで……ウンディーネさんには?」
「伝えた。でも……指輪の魔石の中に閉じこもってる。マクライアの家の机の上に指輪とケースが置かれてたから、伝書鳥と一緒に持ち帰った」
魔王さまはそっと、小さな指輪ケースを差し出した。
青いビロード。白くてふかふかのクッション。
その上に、静かに指輪が置かれている。
この中に、ウンディーネがいる。
「……こんなケース、あったっけ?」
エアリアが首を傾げる。魔王城では、台所にははめ込む金具がついているし、机の上には大理石の台座がありその上になくならないように嵌め込んでいる。
こんな指輪ケースは見たことがない。
「なかったと思います。あっちの世界でも、ウンディーネさんは、マクライアさんに“鍋敷きで出された”って怒ってましたし」
あ!そうだ。
「そうだ!次に会った時は、ちゃんとした座布団、用意するって言ってたって。だからマクライアさん、すぐ準備したんだ。次に会うために」
それを聞いた魔王はきゅっと苦しげに眉間に皺をよせた。
「今は、そっとしておこう」
魔王は指輪ケースを金庫にしまった。
誰にも邪魔されない静かな場所。
「ウンディーネが出てきたくなったら、自分で出てこればいい。」
「……でも、誰が?」
エアリアが思わず呟く。
魔王が金庫の鍵を閉めた音が、「ガチャッ」とやけに響く。
強盗?
金目当て?
――でも、それなら指輪が真っ先に盗られてるはずだ。
「……もし過去が関係してるなら、一つだけ気になる」
魔王が低く呟く。
「“魔界の門”の事件で生き残ってるのは、これで、ガブリエルだけになった」
神父の――ガブリエル。
空気がまた、凍る。
わたしも、ここ数年のことを思い出していた。
「確かにここ数年、特に教会はおかしいんです。水晶が機能しなくて聖女が大量発生するし、まったく寄付が集まらなくなって孤児院の食事も質素になってお腹を空かせた子がたくさん増えています。
でも、ずっと教会にいたけど、マクライアさんを見たことは一度もなかったのに...」
エアリアも鋭い目を光らせる。
「ウンディーネと出会ったことで、何かガブリエルに物申したくなったとか。マクライアさんは、50年前のことを全て知っている人間だもの。
ガブリエルからしたら、邪魔だし、自分の立場を追いやりかねない存在よね」
魔王さまも黙ったまま、記憶をさぐるように、目を彷徨わせていた。
悔しいのだろう。
握りしめたこぶしが白い。
あんなにウンディーネさんが長い苦しみから解き放たれて、うれしそうに帰ってきただけにつらすぎる。
私は教会での生活を思い出してみる。
やはりマクライアさんとガブリエルとの接点は思い出されない。
教会の人間は、清貧という名の1日1個のパン。
寄付がないから、孤児院の運営が厳しいというので、孤児たちと一緒に、花やクッキーを売り歩いて……その花をマクライアさんは時々買ってくれる人だった。
一方で、ガブリエルの食事だけは豪華になるばかり。
作らされるのはいつも私だった。
その中から少しずつ抜き、子供たちに分けていたのは、今でもはっきり覚えてる。
「でも……トミーさんも、今いないわよ?」
エアリアの顔が、少し曇る。
「九尾の里に帰るって言ってた。けど……もしやるつもりなら、チャンスは何度もあった。今さら動く理由があるか?」
魔王はそう言い切った。でも――
わたしには、わからなかった。
この魔界で人間でしかも、マクライアさんからの紹介の私を受け入れてくれた。
仕事も作ってくれた。
魔王さまとの結婚も協力してくれた。
あんなに優しくしてくれたのに。
でも……
マクライアさんを、許せてたのかな……?
ウンディーネさんとまた再会することや許されることをどう思ってたんだろう.....?
エアリアがそっと目を閉じて思案する。
そして、彼女は目を開け、リンのほうへ顔を向けた。
「わたし、トミーさんの里を見てくる。何かあるかもしれない。魔王さま、リンちゃんをお願いね。彼女はガブリエルとも関わりがあるし、いまここにいる唯一の人間なんだから」
そう言って、エアリアは風と共に、ふっと姿を消した。
誰が、マクライアさんを――?
どうか、どうか……
トミーさんが、関係ありませんように。
わたしは、祈るしかなかった。
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