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65 黒蛇姫と白蛇姫
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エアリアさんは、わたしの顔をじっと見つめたあと、ふっと優しく笑った。
「……覚悟、決めたのね」
「はい」
わたしはコクンと頷く。
言ったあとで、自分の声が少し震えてるのに気づいた。
でも、エアリアさんは嬉しそうにうなずいた。
「じゃあ、どこから話そうかしら。子どものころの話からにしようかな」
ふわりと目を細め、彼女は昔を思い出すように語り始めた。
「私は、蛇一族――ヒュドラオン家の次女として生まれたの。うちの一族はね、基本的に黒か緑か茶色の蛇模様なの。でも、私は真っ白な鱗だったの。白蛇――突然変異だったわ」
「白蛇……」
私は思わずつぶやく。
「うん。白蛇は“幸運を呼ぶ”って言われてて、一族の中では歓迎されるの。でもね、何百年に一度しか生まれないうえに、みんな短命なのよ。私も例外じゃなくて……体が弱くて、ほとんどを布団の中で過ごしてたわ」
エアリアはどこか寂しげに笑った。
「じゃあ、スネク先生は……?」
「ふふ、そうね。スネク姉さんは長女で、黒蛇。とっても賢くて、家の期待も大きくて、厳しく育てられてたの。でも、ほんとは泣き虫だったのよ。誰にも逆らえない、おとなしくて優しい子だった」
「……うそっ」
私は思わず言葉が飛び出る。
あのスネク先生が、泣き虫? 誰にも逆らわない?
想像できるはずがない。
「信じられないでしょ? でもね、怒られるたびに私の布団に潜り込んできて、一緒に泣いてたの。私も外に出られなかったから、姉さんが習ったことを寝床で聞いたり、一緒にお菓子を食べたり。寒い時は、文字通り二人で冬眠してたのよ」
目の前のエアリアが、懐かしそうに笑う。
その微笑みが、ちょっとだけ切なかった。
「そうやって一緒に過ごして成長していったある日……魔王家から縁談の話が来たの」
「……え、魔王さま? 今のじゃなくて……」
「そう、あの頃の魔王――つまり、リンちゃんの“お義父さん”にあたる方ね」
「お義っ……!?」
「ふふ。びっくりした? でもね、魔界の王族の結婚って、血筋や一族の力を重視するの。恋愛結婚なんてむしろ珍しいのよ。血を混ぜるのが目的だから。そして、嫁にいった娘がどんな未来を歩むかは、二の次」
「それって……魔王さまが“狂化”するから……」
リンの声が自然と低くなった。
「その話は、魔王さまから聞いたのね?そうよ。そして、産んだ子どもが魔王を討つ。それが“伝統”だなんて――おかしいわよね。誰かを愛して、子どもを産んで、その子に殺されるのが定めなんて」
エアリアはそっと目を伏せた。
「しかもね、その頃スネク姉さんには、好きな人がいたの。今の厨房長のオーガ。とても優しい人だったけど、ただの料理人の彼とヒュドラオン家の長女の結婚なんて身分違いだと認められることはなかった。……しかも、縁談は決定事項。姉さんは毎晩のように泣いて……そして、ある日、オーガと――駆け落ちしたの」
「えっっっっっ!?!?」
リンは思わず叫んだ。今、ものすごくありえない単語が出てこなかった!?
「スネク先生が、恋に走って……駆け落ち!?」
「あははっ。その反応、100点満点ね。はい、これで“知ってしまったけど知らないふりモード”に突入~」
うわああああ!これは覚悟いるわ!
エアリアはおかしそうに笑っていたけど、その目の奥には、ほんの少し影が差していた。
「でもね、スネクがいなくなったからって、縁談が消えるわけじゃなかった。ヒュドラオン家は困ったの。そんなとき、“白蛇は幸運を呼ぶ”からって……私に白羽の矢が立ったの」
「……え」
「家としては、“どうせ短命だから”って考えだったんでしょうね。子どもさえ産めればいいって。私は――前の魔王さまの、妻候補にされたの」
え、ちょっと待って。それってつまり――
「じゃあ、じゃあ……!」
私は焦ってエアリアを見つめる。
「そう。私は、今の魔王さまの母親よ」
エアリアはニコッと微笑んだ。
「……覚悟、決めたのね」
「はい」
わたしはコクンと頷く。
言ったあとで、自分の声が少し震えてるのに気づいた。
でも、エアリアさんは嬉しそうにうなずいた。
「じゃあ、どこから話そうかしら。子どものころの話からにしようかな」
ふわりと目を細め、彼女は昔を思い出すように語り始めた。
「私は、蛇一族――ヒュドラオン家の次女として生まれたの。うちの一族はね、基本的に黒か緑か茶色の蛇模様なの。でも、私は真っ白な鱗だったの。白蛇――突然変異だったわ」
「白蛇……」
私は思わずつぶやく。
「うん。白蛇は“幸運を呼ぶ”って言われてて、一族の中では歓迎されるの。でもね、何百年に一度しか生まれないうえに、みんな短命なのよ。私も例外じゃなくて……体が弱くて、ほとんどを布団の中で過ごしてたわ」
エアリアはどこか寂しげに笑った。
「じゃあ、スネク先生は……?」
「ふふ、そうね。スネク姉さんは長女で、黒蛇。とっても賢くて、家の期待も大きくて、厳しく育てられてたの。でも、ほんとは泣き虫だったのよ。誰にも逆らえない、おとなしくて優しい子だった」
「……うそっ」
私は思わず言葉が飛び出る。
あのスネク先生が、泣き虫? 誰にも逆らわない?
想像できるはずがない。
「信じられないでしょ? でもね、怒られるたびに私の布団に潜り込んできて、一緒に泣いてたの。私も外に出られなかったから、姉さんが習ったことを寝床で聞いたり、一緒にお菓子を食べたり。寒い時は、文字通り二人で冬眠してたのよ」
目の前のエアリアが、懐かしそうに笑う。
その微笑みが、ちょっとだけ切なかった。
「そうやって一緒に過ごして成長していったある日……魔王家から縁談の話が来たの」
「……え、魔王さま? 今のじゃなくて……」
「そう、あの頃の魔王――つまり、リンちゃんの“お義父さん”にあたる方ね」
「お義っ……!?」
「ふふ。びっくりした? でもね、魔界の王族の結婚って、血筋や一族の力を重視するの。恋愛結婚なんてむしろ珍しいのよ。血を混ぜるのが目的だから。そして、嫁にいった娘がどんな未来を歩むかは、二の次」
「それって……魔王さまが“狂化”するから……」
リンの声が自然と低くなった。
「その話は、魔王さまから聞いたのね?そうよ。そして、産んだ子どもが魔王を討つ。それが“伝統”だなんて――おかしいわよね。誰かを愛して、子どもを産んで、その子に殺されるのが定めなんて」
エアリアはそっと目を伏せた。
「しかもね、その頃スネク姉さんには、好きな人がいたの。今の厨房長のオーガ。とても優しい人だったけど、ただの料理人の彼とヒュドラオン家の長女の結婚なんて身分違いだと認められることはなかった。……しかも、縁談は決定事項。姉さんは毎晩のように泣いて……そして、ある日、オーガと――駆け落ちしたの」
「えっっっっっ!?!?」
リンは思わず叫んだ。今、ものすごくありえない単語が出てこなかった!?
「スネク先生が、恋に走って……駆け落ち!?」
「あははっ。その反応、100点満点ね。はい、これで“知ってしまったけど知らないふりモード”に突入~」
うわああああ!これは覚悟いるわ!
エアリアはおかしそうに笑っていたけど、その目の奥には、ほんの少し影が差していた。
「でもね、スネクがいなくなったからって、縁談が消えるわけじゃなかった。ヒュドラオン家は困ったの。そんなとき、“白蛇は幸運を呼ぶ”からって……私に白羽の矢が立ったの」
「……え」
「家としては、“どうせ短命だから”って考えだったんでしょうね。子どもさえ産めればいいって。私は――前の魔王さまの、妻候補にされたの」
え、ちょっと待って。それってつまり――
「じゃあ、じゃあ……!」
私は焦ってエアリアを見つめる。
「そう。私は、今の魔王さまの母親よ」
エアリアはニコッと微笑んだ。
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