丘の上の王様とお妃様

よしき

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丘の上の王様とお妃様 6

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  深い深い夢の中。
  そこは一面、薔薇のお庭で。少し離れた所にイギリス様式の素敵な洋館が建っている。
  私は、自分よりも年上の男の子と手を繋いでいて。その手の温もりが大好きだった。
  男の子の顔は、逆光を浴びてハッキリとは分からない。でも、深い海の色の瞳と男の子の声...綺麗なボーイソプラノは、まるで天使の歌声の様に優しくて。日の光が金色の柔らかな髪を照らすと、本物の天使様の様に見える。そして、咲き誇る薔薇は、男の子のために咲き誇っているよう。そう、ここは「天使様の花園」で。私は、天使様に逢いたくって、両親には内緒で毎日塀の小さな穴を潜り抜けて、やって来きていた。
  私だけの大好きな天使様...
  
「⚪⚪君、タマ子をお嫁さんにしてくれる?」
幼い私は、深い意味もなく無邪気な笑顔で男の子の手を握ぎりしめた。
  男の子は、少し考えこんでから、
「タマちゃんが望なら、僕はタマちゃんを嫁さんにするよ。」
金色の柔らかな髪と、深い海の瞳が印象的だった男の子は、私の小さな手の甲に優しく口づけをした。
  私は、嬉しさのあまり、男の子に抱き付いた。
「約束よ。私が大人になっても必ず見つけて。」
  男の子は、それを誓う様に私の頬に優しくキスをする。
  甘い薔薇の咲き誇る庭園の中、幼くて、淡い初恋の約束...
  
   
「⚪⚪君!」
私は、誰かの名前を叫びながら目を覚ました。目からは涙がホロホロと流れたが、目の前の自分の部屋の風景を見たとたん、すぐに私は、現実へと引き戻された。
「薔薇の天使様 ...」
  私は、ゆっくりとベッドから起きあがる。
「このところ見ていなかったのにな...」
私は、溜め息をついた。
  そして、左の薬指を見る。そこには、王さんが贈ってくれた婚約指輪がキラキラと輝いていた。
「やっぱり、昨日の事があったからかな...」
  私は、小さく笑った。

 しばらく、色んな事を考えていたが、気付けばすでに昼近くになっていた。
「お店はとりあえず休みにしたけど、流石に着替えはしないと。」
そう言うと私は、着替えを持って風呂場へと向かった。
  全身にシャワーを浴び、サッパリとして、髪の毛を乾かしたり服を着たりしているうちに、時計が12時を告げた。丁度、お腹もすいていたし、何を食べようか...と、冷蔵庫の前に来たとき。玄関のチャイムが、まるで図ったかの様に鳴った。
「回覧んかな?」
  私は、急いで玄関歩と向かった。玄関は、表のお店とは別で、店の奥の住居スペース側にあり、ご近所さんでもよほどの事がないと使わない。まあ、店を閉めているから仕方ないけれど。
「とにかく、風邪を引いたとか言って早く帰ってもらおう。」
  私は、ロックを解除してから、ご近所のおば様を想像しながら、ゆっくりと玄関を開けた。
  しかし、私の期待は裏切られ、そして玄関を開けたことをひたすら後悔するしかなかった。玄関を開けたそこには、店をお休みにすることになった『元凶』が立っていたからだった。
  私は、条件反射で戸を閉めようとしたが、相手は男性である。それは叶うはずもなく、改めてしっかりと玄関は全開にされてしまった。
  「タマちゃん、体調が優れないのか?」
  店を閉める事となった元凶である人...王さんは、まるで昨日の事など無かったかの様に、いつものように低い声が甘く聞こえ過ぎて。つい、耳が反応してしまう。私は、うつむいたが、耳まで顔が一気に火照っているのがはずかしかった。
  「いえ、たまには、お休みしようかと...」
  私は、自分の動悸が王さんに聞こえないかと、心配になった。
  挙動不審な私に対して、王さんは動じる事もなく、
「それならよかった。」
ホッとした様に優しくつぶやく、王さんの低くていたわる様な声が心地いい...そして、もう一つ。深い黒色の様な藍色の瞳。私は、その瞳に引き付けられる...左の薬指にはめられたダイヤの指輪が、改めて『婚約者』なのだと実感させてくれる。
  しかし、私の中のもう一つの感情が『流されてはダメよ珠子』と叫ぶ。そう、目の前にいるのは、恐れ多くも、今は日本の経済を支えている帝国財閥の、ブレインなのだ。それに指輪だって。父との約束が無かったら、王さんの様な素敵な人が私に近づいて来ることなんてあるはずがない。
  私は、揺れる心を必死に隠すことにした...したはずなのに!
  王さんは、優しく笑いながら
「タマちゃんの百面相している顔は、分かりやすくって面白いね」
と、私の胸のうちが手に取るように分かるらしく、笑いをこらえていた。それに気付いた私は、また顔かおから火が出そうなほど顔を赤らめてしまった。
「病気でなくって、安心したよ。なら、これから俺とデートしない?」
  「えっ?」
デート?! 私は、突然の申し出に頭が真っ白くなり、パニック状態になった。慌てふためく私の姿を、また楽しむかのように、王さんは優しく笑う。
 結局、あれだけ考えていた私だったが、流石帝都財閥のトップである。私は、何も王さんに話をすることができないまま、彼の車に乗ることとなってしまったのである。
  




  
   
  



  

  
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